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述べられていることに普遍性があるから「ベストセラー」になったのだと思わされた。

プロがすすめるベストセラー経営書9.JPGプロがすすめるベストセラー経営書.jpg  マネジメントの名著を読む.jpg リーダーシップの名著を読む.jpg 企業変革の名著を読む.jpg
プロがすすめるベストセラー経営書 (日経文庫)』 『マネジメントの名著を読む』『リーダーシップの名著を読む』『企業変革の名著を読む

プロがすすめるベストセラー経営書10.JPG 本書は経営書を紹介したものであり、読む前は、同じ日経文庫の『マネジメントの名著を読む』('15年)、『リーダーシップの名著を読む』('15年)など「名著を読む」シリーズと"同系統"かと思いましたが、一方で、タイトルの付け方やカバーデザインが少し違っているので"別系統"かなとも思ったりしました。

 実際のところ、手にしてみれば、『マネジメントの名著を読む』や『リーダーシップの名著を読む』、同じく「名著を読む」シリーズの一冊である『企業変革の名著を読む』('16年)と同様に、オリジナルは日経電子版の「日経Bizアカデミー」及び「NIKKEI STYLE出世ナビ」に2011年から連載の「経営書を読む」であり、経営学者やコンサルタントがマネジメントやリーダーシップに関する本を選んで解説したネットの連載に加筆したものでした。

 今回の特徴は、"ベストセラー"という選び方をしている点ですが、取り上げられている本のうち、『ワーク・シフト』『採用基準』が'12年刊行、『HARD THINGS』が'15年刊行と比較的最近のベストセラーであるものの、中にはベストセラーと言われてもピンとこないものもあるかも。因みに『イノベーションと企業家精神』は'15年刊行の「エッセンシャル版」を底本としています。

『サーバントリーダーシップ』三省堂 3.jpg ロバート・K・グリーンリーフの『サーバントリーダーシップ』なども'08年の翻訳刊行で、当時はベストセラーだったかもしれませんが、今は"定番""ロングセラー"と言った方がいいかもしれません。ただし、この本、リーダーシップの"定番"でありながら、『リーダーシップの名著を読む』では取り上げれていなかったので、ここで取り上げてもらえるのは有難いです(元本は571ページの大著で、読み手側からすれば、何らかの参考となる切り口が欲しいということもある)。

 これまでの「名著を読む」シリーズと同じく、本ごとに複数のケーススタディを示して解説していますが、今回は紹介している本が全8冊とやや少ないものの、1冊当たりの解説は充実してたように思います。述べられていることに一定の普遍性があるから「ベストセラー」になったのだろうなあと思わせるものがありました。

 国内・国外の「ベストセラー」が混ざっていますが、「ベストセラー」を近年の新刊に限定せず"広義"に解したのは正解だったでしょう。むしろ、連載時点で選者らが、単にベストセラーであるということより、「名著」乃至は「名著となりそうなもの」を選んでいるということなのでしょう。

【読書MEMO】
●取り上げている本
プロがすすめるベストセラー経営書00_.jpgFlag_of_日本.png『戦略プロフェッショナル』三枝匡著(日経ビジネス人文庫、2002年)―原理原則と熱い心がリーダーを作る(清水勝彦(慶應義塾大学ビジネススクール))
ワーク・シフト ―00_.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngワーク・シフト』リンダ・グラットン著(邦訳・プレジデント社、2012年)―明るい未来を切り開くためのシフトチェンジ(岸田雅裕(A・T・カーニー))
採用基準 伊賀泰代.jpgFlag_of_日本.png採用基準』伊賀泰代著(ダイヤモンド社、2012年)―リーダーシップが自分の人生を切り開く(大海太郎(ウイリス・タワーズワトソン・グループタワーズワトソン))
Flag_of_日本.png『ストーリーとしての競争戦略』楠木建著(東洋経済新報社、2010年)―3枚の札でビジネスに勝つ(小川進(神戸大学、マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院))
『サーバントリーダーシップ』 -2.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngサーバントリーダーシップ』ロバート・K・グリーンリーフ著(邦訳・英治出版、2008年)―「良心」が会社を動かす(森洋之進(アーサー・D・リトル))
HARD THINGS.jpgFlag_of_アメリカ合衆国png.pngHARD THINGS(ハード・シングス)』ベン・ホロウィッツ著(邦訳・日経BP社、2015年)―人、製品、利益、の順番で大事にする(佐々木靖(ボストンコンサルティンググループ))
Flag_of_アメリカ合衆国png.png『イノベーションと企業家精神』ピーター・ドラッカー著(邦訳・ダイヤモンド社"エッセンシャル版"、2015年)―一つの目標に資源を集中させよ(森下幸典(PwCコンサルティング))
Flag_of_日本.png『経営戦略の思考法』沼上幹著(2009年、日本経済新聞出版社)―考え続けることが英断を生む(平井孝志(筑波大学大学院ビジネスサイエンス系))

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従来型のリーダーシップ論とは異なるアプローチ。リーダー個人の動機や視点に注目。

静かなリーダーシップ.jpg静かなリーダーシップ5.JPG 企業変革の名著を読む.jpg
静かなリーダーシップ (Harvard Business School Press)』['02年]『企業変革の名著を読む (日経文庫)』['16年]

 本書(原題:Leading Quietly: An Unorthodox Guide to Doing the Right Thing,2002)では、特殊な能力を持つリーダーが組織の目的を達成するために力を発揮する従来の「ヒーロー型リーダーシップ」に対して、日常生活やビジネスの意思決定を正しく行い、地道な努力と絶妙な妥協によって目的を達成する能力を「静かなリーダーシップ」とし、目を引くヒーロー型リーダーよりも、静かなリーダーが社会で果たす役割の方が大きいと主張しています。そのうえで、第1章から第8章にかけて、静かなリーダーの8つの特徴的な考え方や行動特性について述べています。

 第1章では、静かなリーダーは「現実を直視する」としています。静かなリーダーは、現実的であるとともに自分の理解を過大評価せず、計画を立てるが予想外の事態にも備え、組織内のインサイダー(事情通)に目を光らせ、人を信頼しすぎないことがないのと同じく、人を信頼しすぎることもなく、信頼してもどこかで切り札を残しておくとしています。

 第2章では、静かなリーダーの「行動はさまざまな動機に基づく」としています。複雑でさまざまな動機が静かなリーダーの成功のカギとなり、また、リーダーであり続けるためには、自分の地位を守って交渉の場にとどまり続けなければならず、そのため健全な利己主義の感覚が必要であるとしています。

 第3章では、静かなリーダーは「時間を稼ぐ」としています。静かなリーダーは、難問に直面しても、問題に突進するのではなく、何とかして時間を稼ぐ方法を考えるとのことです。なぜならば、常に変化する予想不可能な世界では、流動的で多面的な問題に対して、即座に対策を考えるのは無理であるからだとしています。

 第4章では、静かなリーダーは「賢く影響力を活用する」としています。ここでいう影響力とは、主に人の評判と仕事上の人間関係で構成され、静かなリーダーは現実主義者であるため、自分の影響力を危険さらす前に、リスクと報酬(見返り)を考えるとしています。

 第5章では、静かなリーダーは「具体的に考える」としています。つまり、複雑な問題に直面した場合、忍耐強さと粘り強さをもって、自分が何を知っているのか、何を学ぶ必要があるのか、だれからの支援が必要なのかを理解しようとするとしています。

 第6章では、静かなリーダーは「規則を曲げる」としています。静かなリーダーは、規則について真剣に考え、創造性と想像力を駆使して規則を曲げながら、規則の目的を果たす方法を探すとしています。規則をないがしろにするのではなく、規則の解釈の余地を探すということです。

 第7章では、静かなリーダーは「少しずつ徐々に行動範囲を広げる」としています。今後の展開が不明な状況下で、リーダーシップが成功するかどうかは、事態を把握できるかどうかにかかっていて、そのためには、些細なステップを適切に実行する必要があり、静かなリーダーは探りを入れながら、物事の流れ、避けるべき危険、活用できるチャンスを徐々に理解するとしています。

 第8章では、静かなリーダーは「妥協策を考える」としています。静かなリーダーにとって妥協をを考えるということは、実践的な知識を習得して実行に移すことであり、多くの場合、妥協を考えることが、目的を達成する最善の方法であるとしています。

 第9章では、これまでの振り返りとして、静かなリーダーには「三つの静かな特徴」があり、それは、自制、謙遜、粘り強さであって、ほぼだれでも静かなリーダーシップ特徴を実践できるとして、これまで述べてきたことを振り返りつつ、この三つの特徴について解説しています。

 第1章から第8章にかけて各章ごとに、「静かなリーダー」のケーススタディとなる人物が1人または2人登場し、読みやすいものとなっています。一方で、あまり体系的に本書を理解しようとすると、却って読みずらいかも。著者自身、本書の"付録"で、「本書はエッセイである。理論構築、仮設の検証、結論の証明を行っているのではない」とし、「本書はガイドラインの形で、実践的なアドバイスも提供している」としています。

 従来型のリーダーシップ論とは異なるアプローチで、リーダーシップ論に新たな視点を与えているとともに、リーダー個人の動機や視点に注目し、そこからリーダーシップ論を展開しているという点でもユニークです。従来の「ヒーロー型リーダーシップ」が組織目標の達成というトップダウンの組織に動かし方であるのに対して、静かなリーダーシップはボトムアップ型の個人の目的達成を中心とした組織の動かし方であり、解説の渡邊有貴氏も書いているように、個人を視点としたリーダーシップ指向は強まると思われます。内部昇進でミドルがトップになっていく日本には理解しやすい内容であると思います。ミドルマネジメントにお薦めですが、もちろん人事パーソンが読んでも良いと思います。

 因みに本書は、『企業変革の名著を読む』('16年/日経文庫)において紹介されていて、こちらはコンサルタントやビジネススクールの人気教員たちが企業や組織の変革をテーマにした本をそれぞれ選んで解説したものですが(オリジナルは日経電子版の「日経Bizアカデミー」及び「NIKKEI STYLE出世ナビ」に2011年から連載の「経営書を読む」のうち2014年から2016年にかけて掲載のもの)、その11人12選のラインアップのうちの1冊となっています。いずれの紹介者たちも、本の内容を紹介するにあたって、コンサルなどで経験した本の内容に呼応するような事例を複数、ケーススタディとして交えながら解説するスタイルになっていて、『静かなるリーダーシップ』の紹介者はPwCコンサルティングの森下幸典氏ですが、分かりやすい解説でした(事例に関しては、元本の『静かなるリーダーシップ』自体が事例構成になっているので、元本を読んだ方が早い?)。

 『静かなるリーダーシップ』というタイトルでもあり、個人的にはリーダーシップの本として手にしましたが、ミドルマネジメント向けに書かれていて、個人の動機などに着眼していることが特徴として挙げられながらも、最終的には組織変革が目的となっているため、「企業変革」をテーマにした本と言えなくもないです。『企業変革の名著を読む』は、日経文庫の「名著を読む」シリーズの1冊でもありますが、テーマが「企業変革」とあるのにあまり「企業変革」らしくない内容の本も納められていて、そうした中で本書は、比較的オーソドックスな選本ということになるのかもしれません。

《読書MEMO》
● 『企業変革の名著を読む』で取り上げている本
企業変革の名著を読む9_1.jpg1 ジョン・P・コッター『企業変革力』
2 ロバート・バーゲルマン『インテルの戦略』
3 ピーター・センゲほか『出現する未来』
4 サリム・イスマイルほか『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法』
5 松下幸之助述『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』
静かなリーダーシップ.jpg6 ジョセフ・L・バダラッコ『静かなリーダーシップ』
7 C・K・プラハラード『ネクスト・マーケット』
8 シーナ・アイエンガー『選択の科学』
9 ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン』
倫理の死角2.jpg10 マックス・ベイザーマンほか『倫理の死角
11 若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』
12 アレックス・ファーガソン『アレックス・ファーガソン自伝』

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パワハラについて分かりやすくまとまっている。職場の上司には読み(読ませ)やすい本。

パワーハラスメント 〈第2版〉.jpg岡田 康子.jpg 岡田 康子 氏 パワーハラスメント イメージ.jpg image
パワーハラスメント〈第2版〉 (日経文庫)

 本書は、コンサルティング会社の代表で、「パワーハラスメント」という言葉を生み出し、厚生労働省・パワハラ防止対策検討会の委員も務めた著者によるもので、2011年に刊行された第1版を、厚生労働省の報告書や最近の裁判例など、直近の状況を踏まえて全体的に見直し改定した第2版です。

 第1章では、近年パワハラ相談は急増し、労災認定されて会社の責任が認められるケースも多くなっていることをデータで示しています。背景には、パワハラという言葉が普及したことで、何でもパワハラにする部下もでてきたりしたこともあり、一方で裁判例を見ると、加害者だけでなく企業にも責任が問われるケースも増えており、パワハラは今や社会問題化しているとしています。

 第2章では。パワハラとはそもそも何か、厚生労働省・パワハラ防止対策検討会の討議などを経て定められた定義を改めて詳しく説明するとともに、実際に職場でのどのような言動がパワハラとされているのか、自社の調査結果をもとに分析しています。著者は、パワハラは、特別の人が起こす特別な問題ではなく、仕事熱心な上司が結果的にパワハラをしてしまうことが多いとして、指導がパワハラへとエスカレートするステップを示すとともに、パワハラが起きる心理的メカニズムから、そうした行動を変えるヒントを探っています。また、パワハラが起きやすい職場として、閉鎖的な職場、忙しすぎる(暇すぎる)職場、マネジメントが徹底されていない職場を挙げています。

 第3章では、セクシュアルハラスメント、モラルハラスメント、マタニティハラスメント、ジェンダーハラスメントなど、職場で起きるさまざまなハラスメントを整理しています。そして、これらのうち、モラルハラスメントはパワハラと同じ意味であるとしています。また、これらの職場で起きるハラスメントに見られる共通点として、①NOと言えない力関係がある、②侮辱された感覚をともなう、③だれもが被害者にも加害者にもなる、④エスカレートする、⑤言語と非言語で行われる、といった特徴があるとしています。

 第4章では、パワハラと指導の違いはどこにあるのかを、判例をもとに創作したケースや新聞報道などから、11のケースについて考察しています。著者は、各ケースに共通する部分を見ていくと、裁判においてパワハラかどうかを判断する決め手としては、「加害者の行動が、客観的に見て指導の範囲を逸脱しているかどうか」が最も重視されているとしています。

 第5章では、パワハラ問題への対象法を考察しています。まず、必ず対処すべきレベルのパワハラ問題(レベル1:犯罪行為にあたる、レベル2:労働法にからむ問題がある、レベル3:社員がメンタル不全になる)と、会社や部門によって対応が異なるレベル(レベル4:排除―嫌悪や怒りを部下にぶつけてしまう、レベル5:過大要求、レベル6:誘発―部下側の問題から誘発されるパワハラ)に分け、それぞれについての対処法を示すとともに、常識のない部下をどう指導するかを説いています。

 最終章である第6章では、パワハラにならないコミュニケーション術について考察しています。ここでは、効果的なコミュニケーション法について書かれていて、メールやLINEなどで叱責を伴う指導をしないこと、部下への指示が「業務上必要なのか」を常に問うことを説き、どのような言葉で伝えたらいいのかを解説しています。さらに、言葉以外のメッセージも重要であることなどを説いています。

 「やってはいけない行為を列挙するようなパワハラ防止対策」には限界があるとし、また、上司と部下の関係もが変わってきており、「叱る」ということが有効かどうかも検討してみる必要があるとしているのが、個人的には印象に残りました。

職場のハラスメント 中公新書.jpg 以前に『職場のハラスメント』(2018/02 中公新書)を読みましたが、そこでは「パワハラ」という言葉の問題点(コンサルタンタントの造語が普及し、厚生労働省がそれに便乗するような形で意味づけしたため、世界基準である「ハラスメント」とは別の日本独自の概念になってしまっているということ)を指摘し、「ハラスメント」という包括的な概念を用いることを提案していました。その「パワハラ」という言葉を生み出したのが本書の著者である岡田康子氏です。

 ただし、本書においては、第3章の「モラルハラスメント」の説明の所で、著者らは、モラルハラスメントという概念を提唱したフランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌと2004年に会談し、パワハラとモラハラは、職場に限定して考えると、ほとんど同じことを言っていると合意したとのこと。この辺りは、学者と実務者の違いもあるかもしれません。

 『職場のハラスメント』も本書も啓発書としてはオーソドックスであり、またハラスメントの事例も豊富で、類型整理などもよくまとまっている点では同じですが、『職場のハラスメント』の方が"教養系"の色合いがやや濃いように思われたのに対し、こちらはより実践的で、かつ分かり易く書かれていて、職場の上司である人が手に取って読み易いものとなっています。もちろん人事パーソンも一読しておいて損はないかと思います。

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幾つかの気づきを与えてくれる一方、ややもの足りなさを感じる面も。

モチベーションの新法則5.JPGモチベーションの新法則.jpg
モチベーションの新法則 (日経文庫)』['15年]

 部下や職場全体のモチベーションをどうすれば高められるのかを、経営心理学の立場から、クイズなどを交えて分かりやすく解説した入門書です。著者によれば、個人の成功体験の紹介ではなく、誰にでも役立てられること、②心理学の最新の研究に基づいていること、③日本人に特徴的な心情や文化的背景を前提に解説していることが、本書の特色であるとのことです。

 第1章では、多くの若者が「成長したい」という時代に、成長欲求をモチベーションにつなげるにはどうしたらよいかを考察しています。第2章では、ほめて育てるというのが流行っているが、それには落とし穴があるとし、ほめる際の注意点を示しています。第3章では、モチベーションは気分に大きく左右されるという視点から、上司のちょっとした声掛けの効果について考え、そのコツが紹介されています。
 
 第4章では、内発的動機づけと外発的動機づけをどのように使ったらよいかを解説しています。第5章では、ポジティブなものの見方のコツについて述べるとともに、ネガティブだからうまくいっている人もいて、そうした人にはどう対応すればよいかを説いています。第6章では、分かっていてもできない理由について考察しています。

 第7章では、無意識の威力に焦点を当てて、日常生活の中でモチベーションを高めるコツを紹介しています。第8章では、MBO(目標管理)の問題点を指摘しつつ、業績目標と学習目標という視点から、モチベーションを維持するのに有効な目標の立て方について検討しています。第9章では、関係性(人間関係)に重きを置くのが日本人の特徴であることを念頭に置き、アメリカのモチベーション論では見落とされがちな日本人独自のモチベーション法則について考察しています。

 日経文庫ということもあってか、テキストとしてコンパクトに纏まっており、モチベーション理論について、マズロー、マグレガ―、ハーズバーグなど1960年代の理論あたりまでは学習したが、それ以降どのような理論が展開されてきたかを今一度俯瞰しておきたいという人には手ごろな入門書であると思います。

 個人的には、目標管理において、業績目標と学習目標のどちらを持つかによってモチベーションが異なってくるといった点や、日本人は仕事よりも職場を重視する傾向があるため、関係性を整えるだけでモチベーションが上がるといった指摘が腑に落ちるものでした。

 人事パーソンの視点から見て、幾つかの気づきを与えてくれる本であるとは思いますが、クイズが意外と歯ごたえがないのと同様、読む人によっては、それほど目新しさが感じられる指摘でもなかったりするかも。また、こうした心理学系の人が書いた本にありがちですが、実践に活かさなければならない立場の人が読んだ際には、ややもの足りなさを感じる面があるかもしれません。

 著者には専門書に近い内容の本から自己啓発書まで数多くの著書がありますが、本書はその中間的位置づけでしょうか。より専門書寄りのものとして『モチベーション・マネジメント』('15年/産業能率大学出版部)があり、自己啓発よりも知識としての理解に重点を置くならば、体系的にはそちらの方がスッキリしているように思いますが、これは読者の好みの問題でしょう(個人的には著者の前著『お子様上司の時代』('13年/日経プレミアシリーズ)よりは今回の方がやや良かたったか)。

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多彩な11冊を、実際にビジネスシーンでありそうなケーススタディで解説。

リーダーシップの名著を読む1.jpgリーダーシップの名著を読む2.JPG             マネジメントの名著を読む.jpg
企業変革の名著を読む (日経文庫)』['15年]  『マネジメントの名著を読む』['15年]

 実務経験豊富な5人の経営コンサルタントらが、リーダーシップについての不朽の名著と言われる11冊を選び、その内容を紹介するとともに、現代における意義を解説したもので、ウェブサイト「日経Bizアカデミー」で2011年10月から連載されている「日経キャリアアップ面連動企画」(経営書を読む)の内容を抜粋、加筆・修正し、再構成したものであり、先に刊行された『マネジメントの名著を読む』('15年1月/日経文庫)の姉妹編にあたります。

 取り上げられているのは、ジョン・コッタ―の『第2版 リーダーシップ論』に始まり、デール・カーネギーの『人を動かす』、スティーブン・コヴィーの『7つの習慣』、ダニエル・ゴールマンの『EQ こころの知能指数』などの"有名どころ"から、エドガー・シャインの『組織文化とリーダーシップ』やトム・ピーターズらの『エクセレント・カンパニー』、更には、米国海軍の士官候補生向けに書かれた『リーダーシップ アメリカ海軍士官候補生読本』(個人的には"初モノ"だった)、2000年に邦訳が出たビジネス寓話『チーズはどこへ消えた?』、MLB弱小チームの再生を描き、映画化もされた『マネー・ボール』まで多彩です。

 そのラインナップと内容から、「体系」よりも「実践」を重視している印象を受けました。実際、9人のコンサルタントや大学教授が12冊の"座右の書"を紹介した『マネジメントの名著を読む』と同じく、単なる内容紹介にとどまらず、本の内容に関連して、実際にビジネスシーンでありそうなケーススタディを1冊につき4つ設定し、ケーススタディを通して本の内容を解説するというスタイルになっています。

 従って、11冊の中には、「天は自ら助くる者を助く」という序文で知られるサミュエル・スマイルズの『自助論』といった古典も含まれていますが、現代的なケーススタディに当てはめて解説されているため、19世紀半ばに英国で著され、明治時代に日本でベストセラーとなった古典でありながらも、その言わんとするところを身近に感じることができます。

 また、古典ばかりではなく、1990年に刊行され全世界で2000万部が売れたという『7つの習慣』についても、会社の上司と部下の関係をケースに引きながら、「真の成功とは、優れた人格を持つこと」という『7つの習慣』の根底に流れる考え方を提示していくスタイルをとっており、このように、本書自体がリーダーシップの"ケースブック"として読める点が、その特長と言えるかと思います。

 一方で、前著『マネジメントの名著を読む』よりも更に執筆陣の思い入れが強く感じられ(古今数多くあるリーダーシップに関する本の中から僅か11冊をまさに"厳選"しているわけだから、思い入れが無い方がむしろおかしいが)、切り口にも執筆者の経験や考え方が少なからず反映されているように思われました。

 その意味では、この1冊でリーダーシップに関するヒントを手っ取り早く頭に入れるのもいいですが、関心を持たれたもので原著を読んでいないものがあれば、そちらに当たるのもいいのではないでしょうか。そこでまた、執筆者とは違った見方が生じることも大いにあり得るのではないかと思います。

 同じ名著と呼ばれるものでも、「リーダーシップ系」のものは「マネジメント系」のものに比べて、読む人によって相性が良かったりそうでなかったりする傾向がより著しいように思います。「リーダーシップ」に関する本を読むということは、書かれていることを鵜呑みにするのではなく、また、書かれていることの全てに納得する必要もなく、自分にフィットしたものを探す「旅」のようなものではないかと思います。

《読書MEMO》
●取り上げている本
リーダーシップの名著を読む9_1.jpg第2版 リーダーシップ論 帯付 2.jpg1『第2版 リーダーシップ論ジョン・コッター ---- 変革を担うのがリーダーの使命・永田稔(タワーズワトソン)
2『人を動かす』デール・カーネギー ---- 誤りを指摘しても人は変われない・森下幸典(プライスウォーターハウスクーパース)
3『自助論』サミュエル・スマイルズ ---- 「道なくば道を造る」意志と活力・奥野慎太郎(ベイン・アンド・カンパニー・ジャパン)
4『7つの習慣』スティーブン・コヴィー ---- 人格の成長を土台に相互依存関係を築く・奥野慎太郎
5『EQ こころの知能指数』ダニエル・ゴールマン ---- 自制心と共感力で能力を発揮・永田稔
6『リーダーシップ アメリカ海軍士官候補生読本』アメリカ海軍協会 ---- 米国式リーダーシップの源流・高野研一(ヘイグループ)
7『組織文化とリーダーシップ』エドガー・シャイン ---- 変革はまず組織文化から・永田稔
エクセレント・カンパニー_.jpg8『エクセレント・カンパニートム・ピーターズ他 ---- 優れたリーダーの影響力は価値観にまで及ぶ・高野研一
9『なぜ、わかっていても実行できないのか』ジェフリー・フェファー他 ---- 成果ではなく行動したことを評価・森下幸典
10『チーズはどこへ消えた?』スペンサー・ジョンソン ---- 変化を受け入れ、いち早く動く・森健太郎(ボストンコンサルティンググループ)
11『マネー・ボール』マイケル・ルイス ---- チーム編成のイノベーション・森健太郎
 
 

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内容紹介とケーススタディがコンパクトに纏まっている。名著へ読み進む契機に。

マネジメントの名著を読む 3.jpgマネジメントの名著を読む1.JPG             リーダーシップの名著を読む.jpg
マネジメントの名著を読む (日経文庫)』['15年] 『リーダーシップの名著を読む』['15年]

 本書は、日本の第一線で活躍する経営コンサルタント、経営学者たちが、自身の推薦する経営論・戦略論の名著を、事例分析を交えながら紹介したものです。ウェブサイト「日経Bizアカデミー」で2011年10月から連載されている「日経キャリアアップ面連動企画」(経営書を読む)の内容を抜粋、加筆・修正し、再構成したもので、ピーター・ドラッカー『マネジメント』、マイケル・ポーター『競争の戦略』といった古典から、ジャック・ウェルチ『ウィニング勝利の経営』、ルイス・ガースナー『巨象も踊る』のような敏腕経営者による経営論まで12冊が取り上げられています。

 本書の特長として、まえがきで、「ビジネスの知の検索」の有効な第一歩と成り得ること、各名著のポイントが簡潔に紹介されていて「名著のつまみ食い」ができること、専門家が名著をどのように読むのかその「読み方」を知ることができること、の3つが挙げられていますが、その3点については個人的にも異存ありません。各名著の紹介のページ数はそう多くはないですが、内容紹介とケーススタディがコンパクトにまとまっていて、密度はかなり濃いように思いました。

 12冊の本を9人の専門家が紹介するかたちとなっていますが、執筆者それぞれの思い入れが込められているのが興味深く、また、各名著の内容にリンクしたケーススタディの取り上げ方、そうしたケーススタディを通しての各名著の読み込み方、切り口、ポイントの捉え方等にそれぞれ特徴があるため、これまでに自分が読んだ本があれば、自分自身の読み方と比較しつつ、名著の内容を改めて想起するなり読み返すなりして、その本への理解をいっそう深める手だてとするのもよいのではないでしょうか。

 また、本書で紹介されている名著の中で、未読のもので興味をひかれたものがあれば、是非これを機会に、それらに読み進まれることをお勧めします。12冊の中には、「マネジメント」という大きな括(くく)りの中で、ポーターやクリステンセンの代表作のように、マーケティングやイノベーション寄りのテーマの本もありますが、ジェームズ・コリンズ『ビジョナリー・カンパニー』、ピーター・センゲ『最強組織の法則』など、「人事マネジメント」というジャンルにおいても名著とされているものもあります。また、『戦略サファリ』が取り上げられているヘンリー・ミンツバーグのように、戦略論がよく知られているものの、それだけでなく、人と組織に関しても多くの名著を著している経営思想家もいます(もとろんドラッカー然りです)。

 紹介されている本の中には大著もあり、忙しい人事パーソンにとってはなかなか手にする機会も読む時間も無かったりするかもしれません。しかしながら、人事パーソンの役割の1つとして、経営のパートナーであることが挙げられるかと思われ、そうした意識がしっかりあれば、必ずしも「人事マネジメント」に限定しなくとも、こうした「マネジメント」の名著とされている本(や著者)に何らかの関心を持たれ、実際に手にし、読んでみるということは自然な流れではないかと思います。

 繰り返しになりますが、個人的には、本書そのものもさることながら、本書を契機に、ここで紹介されている名著に読み進まれることを一番お勧めしたいと思います(姉妹編『リーダーシップの名著を読む』(2015/05 日経文庫)もお薦め)。

《読書MEMO》
●取り上げられている12冊と紹介者
マネジメントの名著を読む52.jpg1.『戦略サファリ』ヘンリー・ミンツバーグ他著―後づけでない成功の真因を探る(入山章栄(早稲田大学))
2.『競争の戦略』マイケル・ポーター著―「5つの力」と「3つの基本戦略」(岸本義之(ブーズ・アンド・カンパニー(執筆当時)))
3.『コア・コンピタンス経営』ゲイリー・ハメル他著―主導権を創造する(平井孝志(ローランド・ベルガー))
4.『キャズム』ジェフリー・ムーア著―普及過程ごとに攻め方は変わる(根来龍之(早稲田大学))
5.『ブルー・オーシャン戦略』W・チャン・キム他著―競争のない世界を創る戦略(清水勝彦(慶應義塾大学))
6.『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン著―リーダー企業凋落は宿命か(根来龍之(早稲田大学))
ドラッカーマネジメント.jpg7.『マネジメントピーター・ドラッカー著―変化を作り出すのがトップの仕事(森健太郎(ボストンコンサルティンググループ))
ビジョナリー・カンパニー1.jpg8.『ビジョナリー・カンパニー』ジェームズ・コリンズ他著―基本理念で束ね、輝き続ける(森健太郎(ボストンコンサルティンググループ))
最強組織の法則 - 原著1990.jpg9.『最強組織の法則ピーター・センゲ著―学習するチームをつくり全員の意欲と能力を引き出す(森下幸典(プライスウォーターハウスクーパース))
プロフェッショナルマネジャー ハロルド ジェニーン.jpg10.『プロフェッショナルマネジャーハロルド・ジェニーン他著―自分を犠牲にする覚悟が経営者にあるか(楠木建(一橋大学))
巨象も踊る.jpg11.『巨象も踊るルイス・ガースナー著―リスクテイクと闘争心による巨大企業再生(高野研一(ヘイグループ))
ウィニング勝利の経営.jpg12.『ウィニング 勝利の経営ジャック・ウェルチ他著―部下の成長を導く八つのルール(清水勝彦(慶應義塾大学))

 
  

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『Q&A 管理職のための労働法の使い方』の改題・改定版。人事パーソンにもお薦め。

IMG_2724.JPGQ&A 部下をもつ人のための労働法改正.jpg
Q&A部下をもつ人のための労働法改正 (日経文庫)』['15年]

 同著者による『Q&A 管理職のための労働法の使い方』('13年/日経文庫)の2年ぶりの改訂版で、職場で起きる労務問題について、管理職としてどう対応したらよいかを、Q&A形式で具体的にまとめたものです。「労働時間・残業を管理する」「セクハラ・パワハラを防ぐ」「派遣労働者を管理する」など現実に起きうる問題を全10章に類型化し、合計55問のケースを掲載、労働法の知識を頭から順番に教科書的に解説するのではなく、現実に起こり得る問題を具体的に想定して、どのタイミングで何をすればいいのかを、実践的な観点から解説しています。

 法律の解説部分は、人事パーソンにとっては"おさらい"的なレベルでしょう。しかしながら、職場の管理職が人事部とどう連携するかという視点から解説されているため、職場の管理職が単独であるいは人事部と連携して対応していくそのやり方が分かるだけでなく、それを引き取った人事部が、引き続き職場の管理職と連携してどのような形で問題への対応に当たるのが望ましいのかを知る上でも、多くの示唆が含まれているように思いました。

 例えば、「労働時間・残業の管理」について解説した第1章には、朝、勝手に早い時間に出社し、早出残業をつけている社員がいて、そのやめさせ方をどうすればよいかという問いに対し、「始業時間までは勤務に入らず、始業時刻になったらただちに勤務=仕事に取りかかれるように、それ以上はしないように、と指示すればよい」としていますが、こうした問題などはまさに、法律問題というより、その職場に合ったルールづくりの在り方の問題なのでしょう。

 「さぼる社員、言うことを聞かない社員をどうただすか」を解説した第3章では、社外の人への態度が悪く、評判の悪い社員に対して、その態度を改めさせるためにどうすればよいかという問いに対し、業務指示として将来の行動規範を具体的に示すことで、改善指導の対象・目的を明確にするのがよいとし、更に、「なぜ、私だけにそういう指示をするのか」といった社員の反撃に対する対処の仕方も具体的に書かれています。

 無断欠勤が続いている社員を解雇せざるを得ない場合、長期無断欠勤が自然退職事由になっておらず普通解雇事由になっている場合は、解雇の意思表示が本人に到達しなければなりませんが、配達証明付内容証明郵便で解雇通知を発送して本人が受け取り拒否した場合は"未到達"になるため、解雇の効力が発生せず、このような場合においては、内容証明郵便ではなく普通郵便で発送するようにする―といった具体的な方法論についても触れられており、この辺りはむしろ人事部マターとしての基礎知識と言えるかと思います。

 以下、病気の社員、問題行動のある社員への対応、セクハラ・パワハラの防止、有期労働者の管理、派遣労働者の管理、請負労働者の管理、トラブル発生への予防と対応、外部の労働組合への対応など幅広い問題について、ともすると職場の管理者だけでなく人事パーソンでさえ判断を誤りがちなケースを設問形式で取り上げ、予防や事後のフォローなども含め丁寧に解説しています。

 改訂版ということで、『Q&A 管理職のための労働法の使い方』から章立て等は変わってはいませんが、最新の改正法を踏まえた内容になっており、ストレスチェック制度については、第1章の「労働時間・残業を管理する」の中で解説されており、改正派遣法については第8章の「派遣労働者を管理する」の中で解説されています。

 日経文庫という地味め(?)のレーベルで、「部下をもつ人のための」とタイトルにあるため、職場の管理職のための本であると取られて人事パーソンはついスルーしてしまいがちかもしれませんが、人事パーソン自身が職場の管理者とともに労務問題への対処の在り方を考えていくうえで、改めて気づかされる点、考えさせる点が少なからずある本です。お薦めです。

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採用活動の後ろ倒しへの対応も含め、入門書としてはオーソドックス。

新卒採用の実務.jpg 

新卒採用の実務 (日経文庫)』  岡崎 仁美.jpg 岡崎 仁美 就職みらい研究所所長

 著者はリクルート社で『リクナビ』編集長などをを歴任し、現在は同社の「就職みらい研究所」所長ありで、本書は新卒採用に関する基本書と言ってよく、2016年卒業生から採用活動の後ろ倒しが決まったことにより採用戦略次第で獲得できる人材に大きく差が付くことになる可能性があるのを受け、自社をアピールし有能人材をいかに引きつけるか、募集・採用、トラブル対応など採用担当者が知っておくべき基本的常識を解説しています。

 基本書であるがゆえに、企業内でも新卒採用に初めて携わる担当者や、中小・中堅企業でこれから新たに新卒採用を実施していこうという経営者・人事部長などのは特にお薦めできるかと思われます。

 コンパクトながら、最近の新卒採用のトレンドもよく捉えていて、例えば募集に関しては、最近学生の利用率が高まっている「WEB説明会」などについて解説されているほか、最終章では、そうしたトレンドに沿った手法として、「インターンシップ」のやり方や「試職」といった方法、更には「SNS」などのツールの活用法も解説されています。

 リクルート系でありながらやや地味な印象を受けるのは、「日経文庫」における"入門書"的な役割の部分を担っているためでしょうか。徒らに煽っている印象が無い分、信頼感が持てます。コンパクトにまとめた分、テーマごとの掘り下げは若干浅い面はありますが、入門書としてはオーソドックスであるように思います。

こう変わる! 新卒採用の実務- 新卒採用の実務 -2.JPG 「2016年問題」(採用活動の後ろ倒し)への対応により特化した情報を収集したいのであれば、労務行政研究所編『こう変わる! 新卒採用の実務 (労政時報選書)』('14年12月)などへ読み進まれることをお勧めします。

《読書MEMO》
●目次
第1章 新卒採用マーケットを理解する
第2章 採用活動1―事前準備
第3章 採用活動2―学生を集める
第4章 採用活動3―選考
第5章 内定から入社後のフォロー
第6章 採用活動に関する法律を理解する
第7章 トレンドをつかみ、新しいツールを活用する

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やらないことには始まらないし、やっている人はすでにやっているといった感じも。

マネジャーのための人材育成スキル.jpgマネジャーのための人材育成スキル2.jpgマネジャーのための人材育成スキル (日経文庫)

 企業の管理職やグループリーダーが、部下の人材育成にどのように取り組めばよいかを説いた入門書です。著者はこれまでも、書籍やネットなどで同様のテーマについて多くの発信をしており、まあ、こなれていると言えばこなれているし、お手の物と言えばお手の物という感じでしょうか。

 第1章で「人を育てられるマネジャーになるということ」とはどういうことを解説し、以降、人材育成のスキルについて、第2章では「新人」を預かった場合、第3章では「若手」を鍛える場合、第4章では「中堅」を伸ばす場合についてそれぞれ解説しています。

 更に第5章では多様な人材をどうマネジメントするかを、部下の種類別に、有期社員の部下、女性社員の部下、同期や年上の部下、外国人社員の部下について解説しています。

 最後の第6章では、もう一度、人材育成とは何かを、「育てる人」と「育てられる人」の関係について焦点を当てて解説しています。

 全体で180ページ余りとコンパクトに纏まっていて手頃です。解説も、「入門書」という趣旨に沿ってオーソドックスなものではないでしょうか。「組織に馴染ませる」「褒める」「叱る」「チャレンジさせる」「「目標を設定させる」「支援する」「見守る」など、適切なコミュニケーション手法を具体的に説明しています。

 一方で、このページ数にこれだけ詰め込んでいるため、「スキル」という観点から見ると基本的なものばかりで(入門書であるからそれでいいのかもしれないが)、まあ、書かれていることは、やらないことには始まらないし、やっている人はすでにやっているといった感じでしょうか(第6章の「早い返信」とか「ラポール」とか...。自己啓発書を読んだ読後感に近い?)。

 そういった意味で、管理職自身よりも、人事部員やその中の研修担当者が、管理職やリーダーに対して部下育成研修を行う際の、切り口や内容のチェック、漏れが無いかの確認という意味で読むのにはいいのではないかという気がしました(この著者の書く本はもともと大体が人事部インナー向けの性格を帯びたものが多いのではないか)。

 個人的には、第1章で、物語論という学問分野から、ウラジミール・プロップの、成長物語の共通構造として、①敵対者、②贈与者、③補助者、④王女(とその父)、⑤派遣者、⑥主人公、⑦ニセ主人公の7種類の登場人物が出てくるという説を引いているのが興味深かったですが、これはまあ余談の部類でしょうか。

 最近よく、ビジネスパーソンに向けて「プロフェッショナルを目指せ」などということが言われますが、第4章(中堅社員を伸ばす)でプロとして活躍する姿をイメージさせることが大事としつつ、単に言い放しにせず、プロフェッショナルのタイプをT型(ビジネスリーダー型)、H型(プロデューサー型)、V型(エキスパート型)に分けて解説しているのは良かったです。
 このT型、H型、V型というのは「私」による分類としていますが、例えば第5章(多様な人材のマネジメント)では、リーダーシップの幅を広げることの大切さを説くなかで、状況対応型リーダーシップなど著名な理論も紹介しています。

 しかし、こうした解説もそれぞれ一表一図で済ませるだけで、やや浅いレベルで終わっているかなという印象も。「スキル」がテーマだから「理論」をあまり詳しく解説しても...というのがあるのかもしれません。Amazon.comのレビューでは好評のようですが、個人的には、さらっと読めて入門書としてスタンダードだとは思うけれども、「理論」についても「スキル」についても網羅的になった分、深さと目新しさがあまり感じられなかったかなあという印象です。

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入門書(実務書・啓発書)としては分かりやすくオーソドックス。

職場のメンタルヘルス入門2.jpg    現場対応型 メンタルヘルス不調者 復職支援マニュアル.jpg
職場のメンタルヘルス入門 (日経文庫)』 難波克行/向井蘭 『現場対応型 メンタルヘルス不調者 復職支援マニュアル

 職場のメンタルヘルス問題に関心のある従業員、管理職、人事担当者を対象に、職場のメンタルヘルス不調の問題や対処・予防法について分かり易く解説した入門書です。

 全5章構成の第1章「職場のメンタルヘルス不調」では、さまざまなメンタルヘルス不調について、その症状や治療、職場での対応が簡単に解説されていて、うつ病やうつ状態だけでなく、不眠症、自律神経失調症、パニック障害、適応障害、双極性障害、アルコール依存症、さらには「いわゆる新型うつ病」や「発達障害」など、メンタルヘルス不調全般を幅広く取り上げています。

 第2章「メンタルヘルス不調を防ぐストレス対策」では、自分でできるストレスの緩和策として、ネガティブな「つぶやき」に気づいて対処する認知再構成の技法、漸進的筋弛緩法や呼吸法などのリラクゼーション技法、人間関係のストレスを見つめ直す対人関係療法的な技法や、自分の気持ちや考えを素直に表現するアサーティブネスの技法などを紹介しています。

 第3章「職場で取り組むメンタルヘルス対策」以下、第4章「メンタルヘルス不調者の早期発見・早期対応」、第5章「ンタルヘルス不調者への対応と復職支援」は、管理職や人事担当者にとっての読みどころになるかと思われます。

 第3章では、職場と組織を「元気にする」ことでメンタルヘルス不調を予防しようという「ポジティブなメンタルヘルス対策」について解説されています。特に、職場のメンタルヘルスを左右するのは上司の行動であり、職場のストレスを減らすためのマネジメント・コンピテンシーが管理職にも求められるとして、そうしたマネジメント行動を促すための「コーチング」「行動科学マネジメント」「コンフリクト・マネジメント」について紹介されています。さらに、いきいきとした職場作りに従業員全員で取り組むための「職場環境改善活動」や「組織活性化」の取り組みや、こうした「職場の活性化」「個人の活性化」対策を、どのように企業の経営課題に組み込むべきか、関連部門がどのように連携すべきか、その実施のためのヒントが示されています。

 第4章では、メンタルヘルス不調者の早期発見・早期対応のためには管理職はどういったことに留意すべきか、部下の不調に気づいたときにはどのように対処すればよいか、場面ごとに事例を挙げて解説しています。また、社内の健康管理窓口とどう連携していくか、従業員のプライバシーをどのように守ればよいかについても述べています。

 第5章ではさらに、メンタルヘルス不調で休業している社員への対応や、復職支援の進め方を、休業開始から復職判定、復職プランの準備、復職後のフォローアップまで、場面ごとに解説しています。

 実務書と啓発書を兼ねた入門書と言え、メンタルヘルス研修を行う際のチェックポイントを確認するうえでも比較的オーソドックスな参考書になるかと思いますが、新書版にして相当の内容を盛り込んでいるため、(項目主義に陥らないよう配慮はされているものの)例えば、復職支援などの解説についてはややもの足りないかもしれません。

 復職支援について書かれた最近の書籍では、同著者による『現場対応型 メンタルヘルス不調者 復職支援マニュアル』(2013年/レクシスネクシス・ジャパン、弁護士・向井蘭氏との共著)があります。また、亀田高志 著 『人事担当者のためのメンタルヘルス復職支援』(2012年/労政時報選書)などもあり、実務対応についての知識を深耕したい人事パーソンは、これらに読み進まれることをお勧めします。

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前著『労働契約法入門』の改定だが、タイトル通りの入門書としてスッキリした。

労働法の基本36.JPG労働法の基本 (日経文庫)』〔'13年〕労働契約法入門 山川隆一.jpg労働契約法入門 (日経文庫)

 '08(平成20)年3月に労働契約法施行された際に、日経文庫で、大学教授(昨年['13年]、慶應大学から東大に移った)の山川隆一氏の『労働契約法入門』と弁護士の浅井隆氏の『労働契約の実務』がほぼ同時に刊行されましたが、今度は、その労働契約法の'12(平成24)年の改正に伴って、同じ日経文庫で浅井氏の『Q&A 管理職のための労働法の使い方』が'13年3月に刊行され、それに続くかのように山川氏による本書『労働法の基本』が刊行されました。

 日経文庫編集部は、法制定及び改正のごとに弁護士と大学教授でセットにして書かせているのか? ('12年の法改正については、同じく日経文庫で、安西愈弁護士による『雇用法改正―人事・労務はこう変わる』が今年['13年]2月に刊行されている)。日経文庫編集部は、法制定及び改正のごとに弁護士と大学教授でセットにして書かせているのか?(悪くない試みだと思うが)

 今回の浅井氏と山川氏の著書を比べると、浅井氏の本は「職場の管理職」向けで、山川氏の方は「初学者」向け(人事部の初任者なども含まれるか)と、多少読者層を変えてきているようです。

 山川氏の前著『労働契約法入門』は、「労働契約法」に的を絞ったものと言うより労働法全般の入門書として読めるもので、その分、はっきり言ってややタイトルずれの感もありましたが(労働契約法だけだと、規定を置いた事項が限られている上に判例は未だ無い状況だったので、労働基準法などについても取り上げ、個別的労働関係法全般を概観するものとした―と本書まえがきにもある『労働法の基本』.JPGが)、本書『労働法の基本』は前著『労働契約法入門』を改定し、平成24年の労働契約法の改正など最近の法改正の状況を織り込みつつ、個別的労働関係法の解説を充実させるとともに、労働組合法など集団的労働関係法における法的ルールについてもとり上げたとのことです。

 その分、網羅的であるとともに、タイトルずれが無くなって、入門書としてスッキリしたという感じでしょうか。労働法とは何かということから始まって、労働契約の基礎と労働条件の決定・変更、人事をめぐる法的ルール、労働契約の終了と続き、労働条件(賃金・労働時間・労災補償)、更に、雇用平等・ワークライフバランス、様々な雇用形態といった今日的テーマを取り上げ、最後に、労働組合と労使関係についての解説がきています。

 工夫されていると思ったのは、本文の各所にQ&A形式の「チェックポイント」が設けられていて、自学自習ででも理解度を確認することできるようになっていることです(質問の解答は巻末に纏められている)。

 例えば第1章の章末には次の4つの問いがあります。
 Q1 労働基準法の定める基準を下回る労働条件も、労働者が自由な意思で合意した場合には有効となる。
 Q2 使用者が労働契約法の規定に従わない場合、労働基準監督官が是正勧告をすることがある。
 Q3 労働審判制度は、労働組合が使用者に対する権利を実現するためにも利用できる。
 Q4 都道府県労働局における個別労働紛争解決制度では、当事者に対して法に従った紛争解決を強制することはできない。
 解答は、
 Q1 × 労働基準法13条により無効となる。
 Q2 × 労働契約法は労働基準監督制度による実現は予定されていない。
 Q3 × 労働審判制度の対象は労働者個人が当事者となる個別紛争のみである。
 Q4 ○ 個別労働紛争解決促進制度のもとでの助言・指導もあっせんも、自主的な紛争解決を促進するための制度である。

 知ってる人は知ってるけれど、知らない人は知らないといった感じの問題が多いかな。設問文自体が本文テキストの延長及び要約としてあるようにもとれる良問が揃っているように思います。
 ベテランの人事パーソンは、部下である人事部の初任者に本書を読ませる前に、取り敢えず自身でこれらの設問に解答してみましょうね。

《読書MEMO》
●章立て
第1章 労働法とは何か
第2章 労働契約の基礎と労働条件の決定・変更
第3章 人事をめぐる法的ルール
第4章 労働契約の終了
第5章 労働条件--賃金・労働時間・労災補償
第6章 雇用平等・ワークライフバランス
第7章 様々な雇用形態
第8章 労働組合と労使関係

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地味め(?)だが意外と"優れもの"。職場管理者だけでなく人事パーソンも一読を。

Q&A 管理職のための労働法の使い方2.jpgQ&A 管理職のための労働法の使い方.jpg
Q&A 管理職のための労働法の使い方(日経文庫)』(2013/03 日経文庫)

 職場で起きる労務問題について、管理職としてどう対応したらよいかを、Q&A形式で具体的にまとめたものです。労働時間・残業管理、休暇の管理等について、労働法の知識を頭から順番に教科書的に解説するのではなく、現実に起こり得る問題を具体的に想定して、どのタイミングで何をすればいいのかを、実践的な観点から解説しています。

 法律の解説部分は、人事パーソンにとっては"おさらい"的なレベルでしょう。しかしながら、人事部とどう連携するかという視点から解説されているため、職場の管理職が単独であるいは人事部と連携して対応していくそのやり方が分かるだけでなく、それを引き取った人事部が、引き続き職場の管理職と連携して、どのような形で問題への対応に当たるのが望ましいのかを知る上でも、多くの示唆が含まれているように思いました。

 例えば、「労働時間・残業の管理」について解説した第1章には、朝、勝手に早い時間に出社し、早出残業をつけている社員がいて、そのやめさせ方をどうすればよいかという問いに対し、「始業時間までは勤務に入らず、始業時刻になったらただちに勤務=仕事に取りかかれるように、それ以上はしないように、と指示すればよい」としていますが、こうした問題などはまさに、法律問題というより、その職場に合ったルールづくりの在り方の問題なのでしょう。

 「さぼる社員、言うことを聞かない社員をどうただすか」を解説した第3章では、社外の人への態度が悪く、評判の悪い社員に対して、その態度を改めさせるためにどうすればよいかという問いに対し、業務指示として将来の行動規範を具体的に示すことで、改善指導の対象・目的を明確にするのがよいとし、更に、「なぜ、私だけにそういう指示をするのか」といった社員の反撃に対する対処の仕方も具体的に書かれています。

 無断欠勤が続いている社員を解雇せざるを得ない場合、長期無断欠勤が自然退職事由になっておらず普通解雇事由になっている場合は、解雇の意思表示が本人に到達しなければなりませんが、配達証明付内容証明郵便で解雇通知を発送して本人が受け取り拒否した場合は"未到達"になるため、解雇の効力が発生せず、このような場合においては、内容証明郵便ではなく普通郵便で発送するようにする―といった具体的な方法論についても触れられており、この辺りはむしろ人事部マターとしての基礎知識と言えるかと思います。

 以下、病気の社員、問題行動のある社員への対応、セクハラ・パワハラの防止、有期労働者の管理、派遣労働者の管理、請負労働者の管理、トラブル発生への予防と対応、外部の労働組合への対応など幅広い問題について、ともすると職場の管理者だけでなく人事パーソンでさえ判断を誤りがちなケースを設問形式で取り上げ、最新の改正法を踏まえつつ、予防や事後のフォローなども含め丁寧に解説しています。

 日経文庫という地味め(?)のレーベルの一冊である上に、タイトルに「管理職のための」とあるため、人事パーソンはついスルーしてしまいがちな本かもしれませんが、(職場管理者を啓発していく上では勿論のこと)人事パーソン自身が職場の管理者とともに労務問題への対処の在り方を考えていくうえで、改めて気づかされる点、考えさせる点が少なからずある本でした。

 ということで、意外と"優れもの"だったという印象。新書版という手軽さ、労働法の関係する実務に直接は携わっていない現場の管理者向けに平易に書かれているということもあり、ふだん労働法関連の本をあまり読まない人は(人事パーソンの中にもいるかもしれないけれど)一読されることをお勧めします(設問に対して、自分だったらこう対処する―とまず回答を想定してから、その後に解説に読み進むといい)。

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実務に役立てながら、法改正の意義と問題点をも知ることができる入門書。「無期転換」関連は読み処多し。

1雇用法改正.png雇用法改正 安西.jpg雇用法改正 人事・労務はこう変わる (日経文庫)

 平成24年に改正された、人事・労務に大きな影響を及ぼす3つの労働関係の法律について、それらの改正によって企業の人事労務はどう変わるのか、人材活用や雇用のリスク管理はどうすべきであるかという観点から、それぞれの法改正の背景やその具体的内容、実務対応の在り方を解説した本です。

 第一は、労働契約法の改正であり、有機労働契約を5年を超えて継続更新した場合における、無期雇用転換申込制度を定めました。第2は、労働者派遣法の改正であり、日雇い派遣の禁止、派遣先の1年以内の離職労働者の派遣禁止などが定められました。第3は、高年齢者雇用安定法の改正で、老齢厚生年金の支給年齢の引き上げに伴い、「65歳までの高年齢者雇用確保措置」が義務化され、継続雇用の対象者を労使協定による基準で定める制度が廃止されました。

 同じ日経新書に『人事の法律常識』(2013年、第9版)などの著書もある、第一人者の弁護士による解説書ですが、新書でありながらも詳しい解説がされていて、とりわけ改正労働契約法については、無期雇用転換のほかに、有期労働雇止め法理、期間労働者への不合理な労働条件の禁止のそれぞれについても単独で1章を割き、丁寧な解説がされています。

例えば、「無期転換申込みの手続」について、「無期転換申込みは契約期間満了前1ヵ月前までに行わなければならな い」といった手続の制限を設けることは、使用者が雇止めする場合の予告期間として定められている「少なくとも30日前」とのパラレルな関係からみて、「合理的であろうと解します」と書かれています。

 また、「更新5年の期間満了をもって、雇用契約は終了する」との定めが有効であるかについては、労働契約は使用者と労働者の合意によって成立するものであるから、このような労働契約は有効であるとし、ただし、当初からこの契約の趣旨に従い、例えば契約期間が1年毎であるなら、その都度更新について労働者と労使間で協議して、きちんと有期労働契約を締結し、「更新5年まで」ということを明白にしておく必要があるとのこと。労働者に対し、最長更新の限度を超える合理的期待を発生させるような言動をしたり、さらに5年を超えて更新したりすると、「5年の期間限定」の効力は全くなくなるとしています。

 それでは、現在の有期雇用者に「5年まで」の更新制限をつけられるか―この問題については、「更新日から5年を超える期間の更新は行わず、最終更新日の満了を以って終了する」旨の新たな契約条項に合意した場合は。この契約は有効となり、合意しなかった場合は、使用者としては、雇用の終了(雇止め)という方法をとるか、法的リスクを避けるため、一応は更新して、今後5年間の間に本人と協議を続け、最終更新日までに合意を得るという方法もあるとしています。

 以下、有期労働雇い止め法理がどのような場合に適用されるかといったことから、期間労働者への不合理な労働条件の禁止における「不合理な労働条件」とは何か、さらに、労働者派遣法の改正によって派遣先で必要となる対応や、高年齢者雇用安定法の改正に対する対応まで、実務に沿ってかなり突っ込んだ解説がされています。

 今回の労働契約法の改正は「雇用体系を混乱させる法改正」であるとし、期間労働者への不合理な労働条件の禁止における「不合理と認められるものであってはならない」という規定について、この規定の効力が争われた場合、いったい裁判所はどんな判決を下すべきか全く不明であるとするなど、著者らしい批判精神が織り込まれている点でも、入門書の枠を超えています。

 それでも形態上は新書であるため、手元に置いて実務の参考にするのに便利であり、実務に役立てながら、法改正の意義と問題点をも知ることができる本―といったところでしょうか。

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社員全般の問題として働き方改革を提起していて、WLB入門書として今日的スタンダード。

1職場のワーク・ライフ・バランス.png職場のワーク・ライフ・バランス 日経文庫.jpg    男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット.jpg  人を活かす企業が伸びる 帯付き.jpg
職場のワーク・ライフ・バランス (日経文庫)』['10年]/『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット (中公新書)』['04年]/『人を活かす企業が伸びる―人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』['08年]

 働き方を見直し、仕事と仕事以外の生活のどちらも充実させるワーク・ライフ・バランス(WLB)支援が、人材マネジメントにおける今日的かつ重要な課題であるという認識は、企業間に急速に浸透しつつあると思われます。また学究的立場からも、多くの研究者がこの領域に"参入"しつつあるように思います。

 本書は職場の管理職層を主な読者層として書かれた入門書ですが、研究者である著者らには、『男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット』(2004年3月中公新書)、『人を活かす企業が伸びる―人事戦略としてのワーク・ライフ・バランス』(2008年11月 勁草書房)などの前著があり、早期からこの課題に取り組んできた執筆者であると言えます。
 
 第1章から第2章にかけて、なぜワーク・ライフ・バランスが必要なのかを再整理し、今日においては「時間制約」のある社員が増えているにもかかわらず、職場の時間管理は、いまだに「時間制約」のない"ワーク・ワーク社員"を想定している場合が多く、今後は"ワーク・ライフ社員"も意欲的に仕事に取り組め仕事が継続できるような、働き方の改革が必要であるとして、その在り方、改革の進め方を提唱しています。

 第3章では、その際の重要ポイントとして、組織のコミュニケーションの円滑化を掲げ、何がコミュニケーションを阻害し、それを取り除いて組織コミュニケーションを円滑化するにはどうすればよいかを、具体的事例なども織り込みながら解説しています。

 後半の第4章では、育児・介護休業や短時間勤務制度を利用しやすくするにはどうしたらいいかを、例えば、制度利用を人事処遇にどう反映させるか(休業制度利用者の期間中の評価をどうするか)といったことにまで踏み込んで解説し、第5章では、女性の活躍の場を拡大することの必要を説いています。
 WLB支援と均等施策を"車の両輪"として推進すべきであるとの考え方は著者らが以前から提唱していることですが、ポジティブアクションという施策的観点から再整理されているのが本章の特徴です。

 第6章では、男性の両立問題を考察し、男性の両立を支援することが女性の活躍の場を広げることにもつながるとし、最終章の第7章では、キャリアプラン、或いは更に推し広げて、ライフデザインという観点から働き方を見直すことを提唱しています。

 以上の流れからみてわかる通り、従来のこの分野の入門書が、育児や介護と仕事との両立支援の問題から説き起こし、実はこれはそうした特定の社員の問題ではなく、働く人全般に関わる問題であるとして、働き方の改革を進めなければならないという論旨になる傾向があったのに対し、本書では、前半部分で社員全般の問題として働き方改革の問題を提起しており、ワーク・ライフ・バランス(WLB)の入門書としては、今日的なスタンダードではないかという印象を持ちました。

 旧著『男性の育児休業』は、人材マネジメントというより労働社会学的観点から書かれた本ですが、北欧諸国における男性の育児休業取得率が高い要因として、法律で一定の強制力を持たせていることなどが紹介されていて、これを読むと、日本での法改正が緩慢であると思わざるを得ず、今読んでも日本がまだまだ遅れていることにインパクトを受ける本です。

 一方、前著『人を活かす企業が伸びる』は、ワーク・ライフ・バランス支援が企業にとってどのようなメリットがあるかを、データ分析により実証的に明らかにしようとしたもので(そのことを通して、両立支援策と均等施策の双方を実施することが重要であるという結論への落とし込みもなされている)、こうした検証が日本は欧米に比べて10年以上も遅れていることからみても、意義のある研究であるとは思いましたが、学術書の体裁であるため具体的な提案はそれほどなされておらず、むしろ、入門書である本書の方が具体的な提案要素は多いように思いました。

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退職給付会計に関する知識をブラッシュアップする上で、実務に沿った解説がなされている良書。

1退職給付会計の知識 〈第2版〉.png退職給付会計の知識1.jpg 『退職給付会計の知識〈第2版〉(日経文庫)

 日経文庫は、そのラインアップに、ビジネス関係の入門書を多く揃えていることで定評がありますが、それらのタイトルの付け方は、「入門」「知識」「実際」といった具合に、そのレベルや内容によってわかれています。

 本書は、「初めて退職給付会計を学ぶ人を対象に、ケーススタディを多用してわかりやすく解説した入門書」とのですが、コンパクトな新書でありながらも、社会人・企業人向けに単行本として売られている退職給付会計の一般入門書よりは、かなり詳しく解説されています。

 入門書としての要件も満たしていますが、初学者で、本書を読んだだけで退職給付会計の概要を理解し得た読者がいるとすれば、もともと相当の財務的知識なりセンスなりの持ち主であったということではないでしょうか。

 むしろ、ある程度、退職給付会計を学習したり、実務で関わったりしたことのあるビジネスパーソンが、自分の知識を深める(ブラッシュアップする)ために読むのにふさわしい内容でありレベルではないかと思います(だから「入門」ではなく「知識」というタイトルになっているのだともいえる)。

 本書は、2006年に刊行された第1版の改訂版で、それ以降の数年間で退職給付会計に関する幾つかの改正が行われ、また、年金資産の運用環境や、経済環境、企業の経営環境も、金融ビッグバンと言われた2000年代初頭からこの10年間で変化していることから、法改正部分だけでなく、統計や事例も最新情報に改められています。

 退職給付会計の基礎計算は、人事パーソンも知っておいて損はないし、知っておくべきであると思いますが、その他にも、退職給付制度の終了時の扱いや確定拠出年金への移行、総合型年金基金から脱退する際の会計処理、事業再編時の対応など、実務上で発生するケースを想定しての解説がなされています。

 さらには、昇給率、退職率などの基礎率が大きく変動した場合や、超過積立、大量退職などの例外的な局面での対応についても解説されていて、こうした人事マネジメントの問題が絡むケースになると、会計の専門家でもどこまで明確な説明が期待できるか。むしろ、自分で勉強した方が早いというのもありますし、退職給付制度の見直し等において、金融機関と対等に意見交換ができるようになるという強みにも繋がるかと思います。

 退職給付会計は、人事マネジメントの問題と併せて金融ディスクロージャーの問題を内包しているわけですが、国際財務報告基準(IFRS)については、(導入が正式決定されていないためか)本書ではほとんど触れられていません。

 IFRSについては、最近になって入門書が多く刊行されており(「日経文庫ビジュアル」にも『IFRS(国際会計基準)の基本』('10年4月)というのがある)、そちらを読めばいいということなのかもしれませんが、経理・財務的な視点に重きをおいて書かれたものがほとんどであり、人事パーソンにとってはあまり効率のよい参考書がないのが痛いところです。

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人事担当者や一通り労働法を学習した人が復習用に読むにはいいか。

労働契約の実務1.JPG労働契約の実務. 浅井隆.jpg                労働契約法入門 山川隆一.jpg
浅井 隆 『労働契約の実務 (日経文庫)』 〔'08年〕/山川隆一『労働契約法入門 (日経文庫)』 〔'08年〕

 労働契約に関する入門書で、労働契約の開始から終了までの展開について実務に沿って解説されており、内容もきめ細かいです。但し、あくまでも新書レベルなので、1つ1つの項目の解説がややあっさりし過ぎていて、全体としてこの文庫にありがちな項目主義に陥っている感じもします。

 著者は法律事務所に所属する弁護士で、労務行政の『労働法実務相談シリーズ』で「労使協定・就業規則・労務管理Q&A」の巻を担当執筆していますが、人事専門誌のQ&Aコーナーにもよく書いている人で、さすがに纏め方そのものは解り易く、人事担当者や一通り労働法を学習した人が復習用に通勤・通学の電車の行き帰りで読むのにちょうどいいかなという感じですが、それでも初学者が入門書として読むとなると、この詰め込み過ぎはちょっとキツイかも。

 本書は'08年3月に施行された労働契約法にも対応しているとのことですが、対応しているというだけであって労働契約法について詳しく述べられているわけではなく、同時期に刊行された大学教授による『労働契約法入門』('08年/日経文庫)がどういうわけかこちらも(タイトルに反して)労働契約法自体の解説はあっさりしていて後は労働法全般の解説になっており本書と内容的に大いに重なっているため、これは「弁護士」と「大学の先生」という立場の違う著者に敢えて似たようなテーマで書いて貰って、読者に両方買わせようという魂胆なのかなと勘繰りたくなってしまいます(だとしたら、自分はその魂胆にハマってしまったのだが)。

 帯に「人事担当者必携!」とあるように、「実務」と謳っている分、内容的には『労働契約法入門』よりは実務向きと言えるかも知れません。

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労働法全般の入門書として読めるが、「労働契約法」にもっと的を絞って欲しかった。

労働契約法入門2.JPG労働契約法入門 山川隆一.jpg労働契約法入門 (日経文庫)』 〔'08年〕

 法科大学院の教授による労働契約法についての解説書ということで、パート労働法や男女雇用機会均等法など関連する法令や最新の判例なども取り上げているとのことですが、要するに労働条件の決め方や労働契約の終了等、労働契約全般の解説書となっており、また賃金や労働時間についても労働基準法の基本部分を1つ1つ押さえているため、中身としては労働基準法を中心とした労働法全般の解説書といった感じでしょうか。

 大学の先生らしく、労働契約法成立の背景から最近の人事の動向までも踏まえるなど視野的には広く、且つ解り易い言葉で書かれており、その上で実務にも沿った形にはなってはいますが、網羅的である分、労働基準法等の細部の解説においては物足りなさも感じられました。

 結果として、同時期に刊行された『労働契約の実務』('08年/日経文庫)とかなり内容が重なっているような感じで、'08年3月に施行された労働契約法について書かれたものの中では比較的早く刊行された解説書であるため期待したのですが、その部分では期待はずれでした。

 第3章の「労働契約の基本理念と労働条件の決定・変更」が最も労働契約法に直接的に関わる部分かと思われますが、全8章のうちの1つに収められていて、「合意原則」と「合理性」の関係においてやや複雑な就業規則の不利益変更問題や、就業規則で定める基準に達しない労働契約の扱いなどについては、本当にさらっと触れているだけという感じ。

 ただ、労働法の基本部分を押さえるための入門書として見れば、コンパクトにきっちり纏まっている本で、『労働契約の実務』の方が本書以上に詰め込み過ぎのような感じもあるので、実務面での入門書として併読し、法の前提となる部分に関する知識や理解の至らないところを補完し合えばいいのかなと。
 そうであるにしても、このタイトルであるならば「労働契約法」にもっと的を絞って欲しかった気がします。

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「ストレスの認識→コントロール→より良いキャリア発達」というトータルな解説。

ストレスマネジメント入門.jpg 『ストレスマネジメント入門 (日経文庫)』 メンタルヘルス入門.jpg 『メンタルヘルス入門』('07/04 日経文庫)

2579464422.jpg 同著者の、同じ日経文庫の『メンタルヘルス入門』と同時刊行で、『メンタルヘルス入門』では、マネジャーや人事労務担当者による"組織で取り組むストレスマネジメント"を扱っていますが、本書では、勤労者に向けて、個人が"自らのストレスをマネジメントできるようにするにはどうすればよいか"という観点で書かれていて、産業カウンセラーとの共同執筆になっています。

 本書ではまずストレスとは何かを解説し、とりわけストレスとの関係が深いとされる「うつ病」について重点的に述べていて、うつ病の場合、睡眠など生活リズムの変調が徴候として表れることが多いわけですが、生活リズムを整えることでストレスマネジメントに取り組む基盤ができ、タイムマネジメント(時間使い上手)でストレスは減らせるとしています。

 さらに、物事の捉え方が変わればストレスも変わるという「認知的ストレス対処法」や、アサーション(上手な自己表現)、アンガーコントロール(怒りやイライラを処理する方法)などが紹介されていて、このあたりは、セルフカウンセリングの手法といった感じで、その他にも筋弛緩法や自立訓練法などのリラクセーションの手法が紹介されています。

 更には、キャリアカウンセリングの視点から、キャリアデザイン、キャリア・アンカーなどのキャリア理論の概念が解説されていて、最後に事例をあげてそれまで述べてきたことを応用した具体的な対処法を示しています。

 全体としては、ストレスの認識→ストレス・コントロール→より良いキャリア発達、という流れになっていて、チャレンジングといった概念も組み込まれていて、目先のストレスからの脱却のみを目的としていないトータルな観点から捉えた構成になっている点が共感できました。

 結局、うつ状態などから回復して仕事をしていたとしても、キャリア発達などの点で充足感が無いとまた同じ状態に戻るかも知れず、これは、別にうつ病で入院した人に限らず、うつ的気分に陥りがちなビジネスパーソン全般に言えることかも。

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企業施策としてのメンタルヘルスケアを、医学・実務・法律の各観点からバランスよく解説。

メンタルヘルス入門.jpg 『メンタルヘルス入門』 (2007/04 日経文庫) 島悟さん.jpg 島 悟 氏 (東京経済大学教授・精神科医) NHK教育テレビ「福祉ネットワーク」 '05.06.14 放映 「ETVワイド-"うつに負けないで"」より

mental health.bmp '06年に安全衛生法が改正されて、過重労働者に対する面接指導が一部義務化されるなど、メンタルヘルスに関する施策が一段と強化されました。

 本書はそうしたことを踏まえ、職場のマネジャーや人事労務担当者を念頭に置いて書かれたもので、まず、昨今の職場においてメンタルヘルスがいかに厳しい状況にあるかを示し、その切り口として「ストレス」について解説するとともに、それによりどのような「心の病」が見られるか、さらに改正安全衛生法の「新メンタルヘルス指針」が企業に要請していることを解説し、マネジメント上乃至人事上、具体的に何をすればよいのかを示しています。

 「心の病」についてはうつ病、パニック障害(不安発作)、職場不適応の3種類が代表格で、その他の「心の病」も紹介されていますが、やはりこれらの中でもうつ病については、重点的に解説されています。

 本書を読むと、改正安衛法の新指針は、旧労働省の'00年の「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を踏まえたものであることがわかり、旧指針において"重要なケア"とされているものは、①セルフケア、②ラインによるケア、③産業保健スタッフ等によるケア、④事業場外資源(医療機関・相談期間等)によるケアの4つとなっていますが、この中でも、ラインマネジャーが部下の適切な労務管理、メンタルヘルスケアを行う「ラインによるケア」が大切であり、その具体的アクションとして「傾聴」を説いています。

 著者は精神科医であり、勤労者のメンタルヘルスが専門で、本書は、精神医学・心理療法面、企業内実務面、法律・行政指針面のそれぞれについてバランスのとれた内容で、新書版の物足りなさもありますが、入門書としては偏りがなくて最適、「心の病」で休職していた人の復職の進め方などは、個人的に 大いに参考になりました。

《読書MEMO》
●「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」('00年・旧労働省)における"重要なケア"(117p)
 ①セルフケア
 ②ラインによるケア
 ③産業保健スタッフ等によるケア
 ④事業場外資源(医療機関・相談期間等)によるケア
●安全衛生法改正に伴う「労働者の心の健康の保持促進のための指針」('06年)のメンタルヘルス対策の7つのポイント(122p)
 ①法律に基づく指針となったこと
 ②1次予防から3次予防までを含む包括的指針となったこと
 ③衛星委員会等の調査審議事項として取り上げたこと(メンタルヘルス対策に、形式対応ではなく実効性がお求められる)
 ④家族との連携への言及
 ⑤事業場内メンタルヘルス推進担当者が新設されたこと
 ⑥個人情報保護法への配慮
 ⑦ラインによるケアの補強(管理監督者は部下である社員の状況を日常的に把握でき、部下のストレスを察知し状況改善できる立場にあるという考え)
●「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」('04年)における"職場復帰支援プログラムの5つのステップ"(139p)
 第1ステップ:病気休業開始及び休業中のケア(診断書に職場復帰の準備を計画的に行えるよう、療養期間の見込について明記してもらう、等)
 第2ステップ:主治医による職場復帰可能性の判断(職場復帰可能の判断が記された診断書に、就業上の配慮に関する主治医の具体的な意見を含めてもらう、等)
 第3ステップ:職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
 第4ステップ:最終的な職場復帰の決定
 第5ステップ:職場復帰後のフォローアップ(通院状況や治療の自己中断等のチェック、現在の病状や今後の見通しについての主治医の意見を労働者から聞き、必要に応じて労働者の同意を得たうえで主治医と情報交換する)
 ※復職をめぐる主治医と産業医の判断が一致しない場合もある
  ・産業医の方が事業所の特性・職種・職位・業務内容を熟知、就業上の配慮についてより適切な判断が可能
  ・ただし、産業医はメンタルヘルスの専門医ではない場合、主治医の判断を追認しがち。
●現場のマネジャーが留意すべき点(145p)
 ①すべての業務上の配慮の根拠は医学的判断にある
 ②産業医・保健婦などの看護職、または主治医とコミュニケーションを十分にとる
 ③労務管理をきちんとする

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人事制度のグローバル化を感じた。1冊に詰め込み過ぎて項目主義的になったのが残念。

職務・役割主義の人事.jpg 『職務・役割主義の人事』 (2006/04 日経文庫)

 著者は外資系コンサルティング会社マーサー・ヒューマンリソース・コンサルティングのコンサルタントで、本書では職能主義に代わるものとして職務・役割主義の人事を提唱していますが、職務主義と役割主義の違いを、職務・役割の評価においてボトムアップの捉え方とトップダウンの捉え方というように区分し、基本的には役割主義をメインに提唱しています。

 人材マネジメントを人事制度と人材フローマネジメントという2つの構成要素に分け、例えば人事制度については、グレード制度(等級制度)、評価制度、報酬制度の3つのコンポーネントに分けて説明し、さらに、評価制度においては「プロセス・アウトプット」の考え方などが、報酬制度においては、報酬サーベイや「洗い替え方式とメリットインクリース方式」などが解説されていて、カタカナ用語は多いのですが、読んでみればそれほど違和感はなく、それだけ人事制度というものがグローバル化してきたということでしょうか。

 このほかに、役割主義の導入事例もあり、どうみても新書1冊にしては詰め込みすぎで、結果として項目主義になり、どうしてそうするのが良いのかという説明において紙数不足のような気がしました。
 書かれていることに異を唱えるようなものはありませんが、「入門書」であろうとするためか、「バランスドスコアカード」というテクニカルタームを使わずに同趣のことを解説していたりして、むしろもっと別の部分で気を使って欲しいという感じ。

10年後の人事.jpg 『10年後の人事』('05年) 実践Q&A戦略人材マネジメント.jpg 『実践Q&A戦略人材マネジメント』('00年)

 同社コンサルタントの舞田竜宣氏が『10年後の人事』('05年)という本で、等級制度において、職能等級と職務等級の混合型を提唱していたのが少し気になっていましたが、本書では、能力開発段階にある非管理職には「人基準」の考え方の適用も考えられるが、全体としては「仕事基準」(役割基準)の考え方を貫き通していて、ウィリアム・マーサー社という社名であった時代に刊行された『図解 戦略人材マネジメント』('99年)『実践Q&A戦略人材マネジメント』('00年)に書かれたことと内容は変わっておらず、むしろそれらの単行本を読んだ方が、内容の確実な理解が得られるのではないかと思います。

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「キャリア発達支援」というメンタリングの本筋を押さえた入門書。

メンタリング入門.jpg 『メンタリング入門』 日経文庫 〔'06年〕

mentor.bmp 「メンタリング」について書かれた本の中には、リーダーシップ論やコーチングの技法論とまったく同じになってしまっているものも散見し、「高成果型人材を育成する」といった、短期間でパフォーマンスの向上を求めることが直接目的であるかのような書かれ方をしているものもあります。

 本書は、キャリア・カウンセリング理論の第一人者による「メンタリング」の入門書ですが、 「メンタリング」の目的は、メンティ(メンタリングを受ける人)の「キャリア発達を援助する」ことであるとしています。

 企業内で良いメンター役になるにはどうすればよいかということについて、相手に関心を持ち、自分の価値観を押しつけず、自らも誠実かつ寛大であり、相手から学ぶ態度を持つなどといった、メンターがメンティに向き合う際の姿勢を重視し、またメンターが自身のキャリアの棚卸しをすることなどを通して自身の成長をも促すとしていて、そうした考え方のベースにカウンセリング理論があることが読み取れます。

 最終章では、企業内で「メンター制度」として導入し運用する際のポイントが述べられていて、その中で提唱している、メンティに希望するメンターを選ばせる「ドラフト会議方式」などは、メンターの本来の姿は自然発生的な私的なものであり、制度はその仕掛けであるという考え方からすれば、納得性の高いものと言えます。

 新書ゆえの簡潔さで、物足りなさを感じる部分もありますが、入門書ほど著者の「見方」が入るものはないかもしれず、個人的には著者の「見方」は「メンタリング」の本筋を押さえたものだと思います。
 メンターを志す方は、本書を足掛かりにカウンセリング心理学の本などに読み進むのもいいのではないでしょうか。
 
 ただし、1つ付け加えるならば、メンターとカウンセラーはまた少し異なるということも意識しておくべきでしょう(メンターはメンティを「組織」の目指す方向に向かわせるべきものでもある)。 
キャリアカウンセリング入門.jpg
 著者の渡辺氏も『キャリアカウンセリング入門-人と仕事の橋渡し』('01年/ナカニシヤ書店)の中で、コーチングやメンタリングとカウンセリングの違いを詳説していますし、日本の企業社会では、「上司はカウンセラーよりもメンターになることの方が現実的である」と思われる(同書111p)と書いています。

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ネーミングの実践的な手法解説と併せて、新たな発見が満載。

ネーミング発想法3.JPGネーミング発想法.jpg  『ネーミング発想法』 日経文庫 〔'02年〕

 コピーライターの書いたネーミングの本というのは職人芸を披露しているようなところがありますが、本書は日経文庫らしく(?)、ベーシックな入門書という感じです。
 
 「DoCoMo」「au」「BIGRLOBE」などのネーミング開発を手掛けた「ジザイズ」という会社(この会社名がネーミングの法則から外れて濁音を敢えて多用しているというのが面白い)の社長である著者は、ブランド戦略の第一歩としてネーミングを位置づけ、造語メカニズムを解き明かし、商標登録など権利問題にも触れています。
 ですから、本書で「方法」を知ることができても、「発想力」がつくかどうかは別の話だと思います。
 
 ただし、本書の中核を成す、「方式に則って造語する『言葉の発明』」、「辞書の中から見つけ出す『言葉の発見』」、「視点を変えたネーミング発想法」の各章は、たいへん面白かったです。
 実践的な手法の解説と併せて、「クルマの名前ってこんなにラテン系言語が多いのか」といった新たな発見が満載です。
 そう言えば、著者も大阪外大のイスパニア語学科出身でした。

《読書MEMO》
●ネガティブミーニング(カルピス、モスバーガー、クリープ...)(37p)
●混同されやすい3文字(UFJ (United Financial of japan) とUSJ)(72p)
●雑誌名...サライ(ペルシャ語で「宿」)、じゃらん(インドネシア語で「道」(77p)
●乗用車(98p)...
 ラテン語...アルデオ(輝く)、イプサム(本来の)、プリウス(より前に)
 スペイン語...セフィーロ(そよ風)、ドミンゴ(日曜日)、エクシード(盾)
 イタリア語...アルテッツァ(高貴)、ジータ(小旅行)、ピアッツァ(広場)

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ジェンダーハラスメントなど今日的テーマを多くとりあげている。

Q&A%20「社員の問題行動」対応の法律知識.jpg 『Q&A 「社員の問題行動」対応の法律知識』 (2003/08 日経文庫)

may I help you?.jpg 雇用リストラを行ったり成果主義の浸透する企業内では、窒息するかのようにトラブルや問題行動を起こす社員が増えている傾向を生じやすく、企業側としてはそれらへの対応を一歩誤ると、不当解雇とされて訴訟問題に発展したりする恐れもありますし、セクハラ問題などが表ざたになれば企業イメージや社員のモラールの低下にもつながりかねません。

 本書は、問題が起こる前に企業がとるべき予防策としてのコンプライアンス徹底と、問題が起きた場合の迅速な対応について、勤務時間、勤務態度、私生活上の問題、セクハラや人間関係、仕事能力や人事考課・賃金、情報漏えい、会社との対立、転勤・異動、退職といった広い範囲にわたり、それぞれに起こりうる具体的な問題例とその対応をQ&A形式でコンパクトにまとめてあります。

 女子社員のお茶くみの問題(ジェンダーハラスメント)や内部告発の問題(ホイッスルブロワー)など、今日的テーマや問題を多くとりあげているところに特徴があるかと思います。
 中には実際にそうした状況に遭遇してみなければ判断の難しい問題もありますが、企業側と社員の双方が、他人を尊重する人権意識と品格ある行動規範を持つことが大切であるという本書の主張を前提に置いて対処すべきなのでしょう。

《読書MEMO》
●会社の裁量で欠勤を有給休暇に振りかえることは可能(56p)
●架空領収書は、他人印章を使用したり、記載業者が実在のものであれば、「私文書偽造罪」(66p)
●業務上の人身事故は、車の所有者でなくとも、会社が責任を負う(「運行供用者責任」)(76p)
●女性社員の意に反しての不要なお茶汲みはジェンダー・ハラスメントの恐れ(106p)
●ホイッスルブロワー(内部告発者)(170p)
●社宅契約は、利用料が相場の数分の1だと賃貸借契約にあたらない(182p)
●退職願の撤回...通常、「合意解約」の申し込み。

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労働法の基本知識を実践に即して解説。入門書としても復習用としても。

人事の法律常識.jpg  『人事の法律常識 (日経文庫) 〔第6版〕』日経文庫 安西 愈(あんざい まさる).jpg 安西 愈(まさる)弁護士

 人事担当者が知っておくべき労働法の基本知識を、この分野の第一人者弁護士である著者が実践に即して解説した新書本で、新任の人事担当者などが通勤時間帯などで読むにはちょうど良い本かと思います。

 最初に3章を割いて、労働契約と就業規則の関係や、労働者が労働契約上負う義務、就業規則の制定・変更とその効力などについて説明したうえで、続く各論において、人事全般、賃金、勤務時間管理、休暇管理、退職・解雇・懲戒などの具体的な法律実務を解説しています。

 人事担当者に労働法の知識は不可欠ですが、本書序章にもあるように、労働法は法律、判例、社会通念、企業内規範などの上に立つものであり、法律だけでなく判例の動向などにも常々注意を払っておく必要があることがわかります。

 本書は『人事マンの法律常識』('81年/日経文庫)を法改正に沿って改訂した第5版('99年刊行)で、当時の均等法や育児・介護休業法の改正がひとつ焦点になっています(それで、タイトルも「マン」を削った)。

 '04年に「第6版」が刊行され、章立ては前版と同じですが、労働基準法の平成15年改正(有期労働契約、解雇、裁量労働制に関する改正)などが反映されたものになっています。

人事の法律常識 〈第7版〉.jpg 新任担当者向けと最初に書きましたが、労働慣行と就業規則の関係や、労働者の義務について触れられた部分は、普段あまり意識されないものの重要な事柄であり、就業規則の服務規律などを検討するうえで、ここに書かれていることを前提として理解しておくと役立つのではと思われました。
 全般に労働契約に関してのしっかりした見識を踏まえての解説がされているため、個人的にときどき復習的に読み直したりしています。(その後、第7版が刊行され、一部が、労働契約法、改正パート労働法などに対応した内容に改められている。)

改訂第7版                                                        
 【2004年改訂6版・2008年改訂7版・2010年改訂8版[日経文庫]】


安西 愈 (1938年香川県に生まれ)

1958年 香川県立高松商業高校卒、香川労働基準局採用(国家公務員初級)
1960年 国家公務員中級職合格
1962年 中央大学法学部法律学科卒業(通信課程)
1964年 労働基準監督官試験合格、労働省労働基準局へ
1965年 国家公務員試験上級職(甲種・法律)合格
1968年 司法試験第二次試験合格
1969年 労働省退職、司法修習生
1971年 弁護士登録
第一東京弁護士会副会長、司法研修所(民事弁護)教官、労働省科学顧問、日弁連研修委員長、日弁連常務理事、中央大学法科大学院客員教授などを経て現職。現在、弁護士(安西法律事務所)、東京地方最低賃金審議会会長、第一東京弁護士会労働法制委員長(2010年6月現在)
                                    
《読書MEMO》
●第2章「労働契約上の労働者の義務」の内容
労働義務とは/業務命令に従う義務/職場秩序を守る義務/職務専念義務/信頼関係を損なわない忠実義務/誠実な業務遂行義務/職場の人間関係配慮(セクハラ禁止)義務/業務の促進を図る義務/会社の名誉・信用を守る義務/いわゆる内部告発と名誉・信用毀損/兼業禁止義務/企業秘密を守る義務/協力義務/使用者の配慮義務

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論理的でありながら実務的。入手しやすく、読んで損しない。

年俸制の実際4.JPG宮本 眞成 『年俸制の実際』.jpg 19916538.jpg年俸制の実際』〔'97年〕

force_02.jpg 年俸制は、大企業の管理職層を中心に'90年代中盤から2000年にかけて一気に導入が進みましたが、年俸制にテーマを絞った実務者向けの書籍は意外に少ないのではないかと思います。

 それでも導入ブームの際に経済団体などから何冊か概論的なもの出版され、またその後も事例集などが出ましたが、値が張るものが多いのが難点です。それに対してより一般向けのものは、コンサルタントが独自の応用例をいきなり開示する技術論的なものであったりします。

 本書は、年俸制とは何かということから説き起こしつつ、制度の設計・導入や運用の実務(役割評価や目標管理、達成度評価など)のポイントがわかりやすくまとめられているのではないかと思います。

 導入のためにどういった環境整備が必要か(等級制度、評価制度、社内体制の整備など)に章を割くとともに、「将来展望」の章において、年俸制を体系的に分類し、分類にそった形で先行企業の事例を紹介するなど、理論的でありながら実務的であるのが本書の特徴でしょうか。

 著者は、日本IBMの人事管理部長(執筆時)ですが、日経連(現・日本経団連)の職務分析センター(現・人事賃金センター)の「年俸制研究部会」の座長を務めていたこともある人です。ですから、著者は外資系企業の人事部長ですが、この本の提案部分において示されているのは「日本型年俸制」です。

 '97年の出版ですが、新書版で購入できる「年俸制」に的を絞った本は、本書以外にはほとんど無い状態で、その点本書は実務者が概念整理や導入検討をする際には手にしやすい本であり、また読んでおいて損は無い本だと思います。

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