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〔01〕 「能力主義」-"ぬるま湯的"人事制度からの脱却が求められている


● 「能力主義」の人事制度=「職能資格制度」の "制度疲労"

070508.jpg 労働人口の高年齢化が昨今言われますが、これは今に始まった問題ではなく、昭和50年代ごろから企業にとっての問題となっていました。
 加えて定年延長という課題もあり、企業は年功的な賃金体系の是正に取り組むことを余儀なくされたわけです。そこで多くの企業が導入したのが、「能力主義」の人事・賃金制度、つまり職能資格制度、職能給制度であったのです。

 しかし今、その職能資格制度、職能給制度に"制度疲労"が生じて、年功的賃金制度と変わらないものになってしまっているというのが、多くの企業で起きていることです。

 従来の職能資格制度などに基づく「能力主義」人事制度の問題点は、年功的要素を含む"保有能力"を過大に評価してきた点にあります。
 その結果、「同じ釜の飯を食う」とういう長期雇用を前提にした「仲間主義」になってしまい、本当の意味での「評価」は避けられてきました。

 経営環境が大きく変化した今においても、そうした保有能力が本当に"発揮能力"に転ずるのか、その能力の価値は陳腐化してはいないかなどの充分な検証もないまま、毎年ごと年功的に基本給や職能給を引き上げていくということが、多くの企業で行われてきたわけです。

 右肩上がりの高度成長期にはそうした考えでもまだ持ちこたえることができたのですが、バブル経済崩壊後の低成長の時代に入ると、こうしたシステムの弱点が顕著になりました。
 つまり、
 ①中高年齢層の人員肥大化による高コスト体質
 ②資格等級と担当する職務のレベルとの間のズレ
 ③資格等級と生み出す成果とのギャップ

などの問題を生じせしめたことです。

 同様の問題が自社においても起きていないか、そのことが厳しい経営環境にも関わらず"ぬるま湯的"、悪い意味での"情緒的"な体質を醸成することにつながっていないか、一方で本当にやる気のある社員の意欲を削ぐことになっていないか、今一度チェックしてみることが必要です。


● 「能力主義」が年功的運用に陥っているならば見直し・脱却を

 職能資格制度には、昇格と昇進を分離させることで能力開発への動機づけを促し、同時に柔軟な人材活用を図ることが可能であるというメリットがありました。
 ですから全面的に否定されるものではありません。育成期・成長期にある社員に対しては、能力の伸長を促すうえで一定の成果があると思われます。

 しかし、20歳から60歳までの社員をすべて職能資格制度のみで格付けすることの意義は薄いと思われます。
 20代の社員の能力が1年間でどれだけ伸びたかを見ることは意味があるかもしれませんが、50代の社員については同様の見方は成り立ちにくいのではないでしょうか。

 「能力主義」が年功的な運用に陥っている企業においては、むしろ発想を転換し、曖昧な「能力主義」による人事制度からの脱却を図ることが求められていると言えます。
 また、これから等級制度を導入しようという企業においても、誤った「能力主義」に陥らない注意が必要です。


次項⇒〔02〕 「成果主義」-「成果主義」導入の際に気をつけるべき落とし穴

〔02〕 「成果主義」-「成果主義」導入の際に気をつけるべき落とし穴  


● "制度の目的化"が「結果主義」や自主性の伸長阻害につながっている

 「成果主義」は避けて通れない時代の趨勢だと言われています。
 しかし一方で、「成果主義」のさまざまな問題点の指摘がなされています。

 問題の源は、制度の策定・運用に際して本来の「成果主義」と異なる扱いをしたことにあると考えます。 それは、
 ① 自己責任の原則なのに、会社が職務を一方的に決定している、
 ② 成果の特定が困難で評価者の認識も不十分なままスタートした、
 ③ 目標設定において中長期的テーマ・課題がないがしろにされている、
 ④ 人件費削減を主目的に成果主義を導入した、

などなどです。
 これでは、企業が目指すべき(本来の成果主義の目的である)「活力ある革新的な人材・組織の実現」には結びつきません。

 その結果、
 ★ 目標達成度を意識しすぎてプロセスを軽視しがちになる(単なる「結果主義」に陥る)、
 ★ 成果を生み出すために必要な社員の自主性・自立性の伸長を阻害する、
などの問題が生じているのです。
 企業としての本来の目的を見失い、制度を入れることが目的化してしまうことこそ、「成果主義」導入の際の落とし穴と言えるのではないかと思います。


● 自社にとっての「成果主義」の定義・目的を明確にしておく

 成果主義一辺倒からの揺り戻し、というのが、先行して成果主義を導入した企業に昨今見られます。しかしこうしたニュースや情報に過度に左右されるのはどうかと思います。

 「成果主義」というのは、"イデオロギー"の如く言われていますが、処遇制度の1つの方向性を指すにすぎないと考えます。
 で、実際に各企業で最近導入したという「成果主義」賃金制度の具体的内容を見てみると、導入企業ごとにかなり多様で程度差が大きいのです。
 どれも自社の従来の制度に比べ相対的に「成果主義」へシフトしたということであって、「成果主義」は定義こそあれ、「成果主義」の共通基準があってそこに到達した、と言い切れるものではないからです。

 成果主義賃金制度は、簡潔に言えば「成果応分」ということであり、何も新しいことを言っているのではありません。
 賃金制度は社員に対するメッセージを込める手段であり、"容れ物"です。 
 そこにどのようなメッセージを込めるのかという中身が必要です。

 制度の改定(成果主義の導入)が新たな弊害を生むのは、自社にとっての成果主義のあり方の事前検討が不充分だったためと考えられます。

 また、制度の作り方がまずいと、伝えたいメッセージもうまく伝わりません。
 「まずい」というのは、「精緻でない」ということではなく「自社適合でない」ということです。
 行き過ぎであったり、期待外れであったりすることになります。自社にとっての成果主義(賃金制度)のあり方は、その目指すところを明確にし、「自社適合」念頭において構築すべき であると考えます。


● 人材の可能性・自立性を引き出す概念-「役割」

 そうした中で、単なる「結果主義」に陥らず人材の可能性・自立性を引き出す概念として、これから成果主義へ移行しようという企業に注目されているのが、 「役割」という概念です。


次項⇒〔03〕 「役割・成果主義」-「役割」をベースに成果主義の処遇制度を実現する

〔03〕 「役割・成果主義」-「役割」をベースに成果主義の処遇制度を実現する


● 「役割」とは何か

 「役割」というのは、職位・職務上の責任・権限である職責に、業務の拡大・革新等のチャレンジ度を付加したもの、つまり「職責+チャレンジ度」と考えてよいかと思います。

 「役割」は企業・組織が職位等に応じて社員に求める基本的重要事項であり、時代の変化に対応し、企業・組織・社員のレベルアップのため、社員自らが高次の目標を設定し、拡大することが期待される重要事項です。
 今後は、自らの「役割」を主体的にとらえ創造性を発揮する自律型人材が企業競争力の決め手となると考えられます。

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● 「職務」と「役割」の違い

 よく「職務・役割主義の人事制度」とか「職務給賃金制度」とか言われますが、 「職務」「役割」はどこが違うのでしょうか。

 両者とも「能力」のような「人」基準ではなく「仕事」基準であるという点では同じです。ただし次の点で異なります。

 ★ 「職務」...業務活動項目のまとまりを指し、細分化された定型業務のこと。
 ★ 「役割」...職務を簡素化し大括り(ブロードバンディング)したもので非定型業務を含む。

 「職務」が"業務"の視点に立っているとするならば、「役割」は"機能"の視点に立っているとも言えます。(例えばお医者さんの「職務」が診断する、手術をする、投薬の指示をする、カウンセリングをするなどなどであるとすれば、お医者さんの「役割」は患者さんの病気を治すということになるかと思います。)

 「職務」という用語が「職務グレード」、「ジョブバンド」、「日本型職務給」という言葉の中で使われる場合は、ここでいう「役割」と同じ意味で用いられている場合が多いようです。


● 「役割・成果主義」-「役割」をベースとした成果主義の処遇制度を

 従来型の「職務等級制度」では、すべての課業を洗い出して個別に分析や点数化をし、組織改組や環境の変化に合わせてその都度メンテナンスをかけ......と大変な労力を注いだのに、制度が短期間のうちに硬直化し運用がままならなくなるといったことがよく起こります。

 その点、「役割」(役割基準)をベースとした人事制度である「役割等級制度」は、こうした「手段の目的化」というジレンマに陥る危険性も小さく、社内での「役割」の重要度をベースにした「仕事」基準の処遇の効率的な実現を可能にします。

 成果主義賃金制度の導入に際して、その「役割」のレベルに対して支払う報酬の基準を定め、また成果の反映度を調整すれば、"行き過ぎた成果主義"というものに陥る可能性も少ないと考えられますし、反対に処遇に一定の格差があったとしても、それはその「役割」のレベルにある社員が負うべきリスクでありリターンであるという合理的な説明が可能です。

 会社が社員に対して、「その役割において、社員自らが高次の目標を設定し、拡大すること期待する」というメッセージを、処遇と連動させて伝えることにより、 「活力のある革新的な人材・組織の実現」という、成果主義の本来の目的に近づくことが可能になると考えます。


次項⇒〔04〕 役割等級制度-「大括り(ブロードバンド)」を原則とする

〔04〕 役割等級制度-「大括り(ブロードバンド)」を原則とする


● 「役割等級制度」における「期待役割」の2種類の捉え方

 「役割」とは、つまり「職責+チャレンジ度」だと述べましたが、「役割等級制度」として実際に運用する際には、ここで言う「チャレンジ度」、言わば「期待役割」の捉え方に2種類あります。

 1つは、 「その役割につく者すべてに期待される役割」という意味で、この場合、「人」基準ではなく「仕事」基準・属職主義の考え方であり、「役割等級制度」のスタンダードな考え方です。

 もう1つは、 「その役割についた特定のある個人に期待される役割」という考え方で、この場合は属人基準なので、その役割についた「人」次第で役割基準が変動することになります。

 一般的には、前者のスタンダードな捉え方で運用すべきと考えます。
 後者の場合、組織改組などが行われなくても、人事異動さえあれば、その都度、等級基準を見直さなければならなくなる可能性があり、「結局のところすべて人基準ではないか」ということにもなりかねないからです。

 何れの捉え方をするにしても、現状で職務価値に顕著な差が見出せない場合は、無理に等級を細分化するのではなく、役割等級数を少なくし大括り(ブロードバンディング)するのが望ましいと考えられます。

 ただし、ブロードバンディングされた大きな等級の中で、キャリアや業績の違いによって区分を設ける方法も考えられます(後述の「多段階洗い替え役割給」などはそれに近い考え方です)ので、後者の捉え方が全面的に否定されるものではありません。


● 「役割等級制度」に付随する問題とその解決

 ① 誰にも納得がいく職務の序列付けが困難
 ② 異動が上位方向に限定され、柔軟な異動が困難
 ③ 上位に空きポストがないと給与が上げ止まり、モラール維持が困難

 以上の3つが、「役割等級制度」に付随する"困難"として考えられますが、
 ①については等級の細分化が要因であることが多く、その場合は、ブロードバンディングすることで解決します。

 ②についても同様ですが、それでもやはり、配置転換になったことで役割等級が下がる、という事態は起こりえます。
 賃金面では激変緩和措置を講じるにしても、人事異動は経営事項であり、低い職位への異動も起こり得る、という割り切りを社内に定着させることも必要だと思います。

 ③については、後述する「範囲給」のレンジ幅、等級ごとのレンジの重なり具合の調整で、下位等級者でも評価次第で上位等級者の賃金水準に達するように設計する、または賞与に業績反映度を大きくする、など方法により、一定のモチベーション維持は可能になると思います。


● 「役割等級」設定の考え方

 役割等級の設定は、役割内容の重要度、仕事の範囲や職責の大きさ、職務難易度、期待される成果などから決定し、現実に課せられている組織的な役割・機能のレベルに対応します。
 従って現行の職位(役職)制度と切り分けがほぼ一致するケースも当然でてきます。

 等級区分は、全職群共通で定義する方法と、マネジメント職群・プロフェッショナル職群(スペシャリスト職群)・エキスパート職群・スタッフ職群などの職群別に定義する方法があります。

 何れも「大括り(ブロードバンド)」を原則とし、等級の階層数は一般に4〜8程度になります。


次項⇒〔05〕 役割等級の設定①-「自社適合イメージ」を持って等級区分・職群区分をする

〔05〕 役割等級の設定①-「自社適合イメージ」を持って等級区分・職群区分をする


● 「役割等級」の設定例

 役割等級の設定例を見てみます。事例は共に社員数100人前後の中小企業です。

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①はコース別採用を実施しているサービス業の会社の等級区分例です。
 この会社では「接客サービス」が業務の重要な部分を占め、それいついての知識・スキルレベルは、保有資格などで明確に区分できるため、一般職群の中でも該当する職群の等級区分は細分化されています。

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②は、ソフトウエアの販売・開発会社の例です。
 「専任職制度」(エキスパート職)を設けていますが、それとは別に、企業力の重要な支えとなるSE(システムエンジニア)を「スペシャリスト職群」と位置づけています。
更にの通り、社員数に占める比率も高いこれらSEの、役割レベルごとの概要と役割等級の対応関係を定めています。

 このように、会社の業務・業態によってあるべき役割等級設定は異なってくるので、 自社に最も適合した等級区分のイメージをしっかり持つことが、等級設定のポイントになります。

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次項⇒〔06〕 役割等級の設定②-「役割等級基準」を作成する

〔06〕 役割等級の設定②-「役割等級基準」を作成する


● 役割等級基準の設定(「役割基準書」の作成)

 役割等級区分の拠り所となる「役割基準書」の作成においては、"職務"より"役割"、"業務"より"機能"、"職制"より"職責"を念頭に置くことがコツです。

 要素を一括して定義する方法や、役割の概要と職責などに区分して定義する方法があります。
 また、等級ごとに、該当する職位クラスを示す場合もあります。
 ここでは、全職掌共通の役割等級基準の例を2つ紹介します。


● 役割等級基準例1 (6等級)

 M1(部長クラス)...経営首脳の意思決す定を補佐しながら、経営方針・事業計画を立案すると共に、部の効率的な運営・管理を行う
 M2(課長クラス)...課の責任者として、上司を補佐しながら、課の効率的な運営・管理を行う
 M3(係長クラス)...上司を補佐しながら、自己およびチームの任務を遂行し、また部下への指導・監督を行う
 S1(主任クラス)...計画的・応用的な業務を遂行し、自らの経験・裁量・創意工夫により効率的に成果を出す
 S2...応用を伴う比較的定常的な業務を、上司の一般的な指示を受けて効率的に遂行する
 S3...比較的短時間に習得できる定常業務を、上司や先輩からの具体的な指示を受けて効率的に遂行する


● 役割等級基準例2-役割等級の概要と職責に区分して定義した例(7等級)

 GM...〔概要〕①本部・事業部門の統括責任者(本部長・事業部長級) ②経営トップの補佐 
     〔職責〕①本部・事業部門の予算管理責任・業績責任 ②経営トップの特命遂行責任
 M1...〔概要〕①本部・事業部門内の部門管理者(部長級) ②本部長・事業部長の補佐 
     〔職責〕①本部・事業部門の業績連座責任 ②部門の予算管理責任・業績責任
 M2...〔概要〕①部署管理者(課長級) ②部長の補佐
     〔職責〕①部門の業績連座責任 ②部署の予算管理責任・業績責任
 M3...〔概要〕①グループの指導・監督者(係長級) ②部署長の補佐
     〔職責〕①所管グループの業務遂行責任 ②所管グループの業績責任
 S1...〔概要〕①自己完結型業務の推進者・主担当者 ②係長・グループリーダーの補佐
     〔職責〕①担当業務の遂行責任 ②担当目標の達成責任
 S2...〔概要〕一般業務の副担当者・作業担当者 〔職責〕担当業務の遂行責任
 S3...〔概要〕作業担当者の補助  〔職責〕担当業務の実施責任

等級への社員個々の格付けは、担当している仕事の内容、職務範囲、責任の重さや難易度により決めます。会社の職制上は同じ職位であっても、これらを勘案し、または業務の拡大・革新等のチャレンジ度、期待度を付加して吟味した結果、役割等級に違いが出るということはあり得ます。「役割等級制度」であって「職位等級制度」ではないからです。


次項⇒〔07〕 賃金制度改革の目的と検討項目-目的を明確に。職能給か、職務給か、役割給か

〔07〕 賃金制度改革の目的と検討項目-目的を明確に。職能給か、職務給か、役割給か


● 目的を明確にすることからスタート

 賃金制度改革に当たっては、当然のことですが先ずその目的を明確にすることからスタートします。成果主義を入れるのであれば、そのことを念頭に置きつつ、現状の問題をどういう方向で解決したいのか再確認します。

 会社経営が安定するように柔軟な人件費コントロールがしたいのか、役割に見合った賃金となるように人件費の再配分を行いたいのか、業績によって相当の処遇格差が出るようにしたいのか、若年層社員の流出阻止を図りたいのか、優秀な外部人材を獲得できるようにしたいのか、よく整理し基本的なコンセプトを固めておきます。
 検討委員会や改革プロジェクトがあれば、メンバー内でそのコンセプトを共通認識事項にしておきます。その上で、「何のために変えるのか」が社員に明確に伝わる賃金制度にすることが大切です。

 賃金制度改革の検討項目としては、次の3項目があります。

 ① 賃金体系 ... 基本給の構成要素(職能給か、職務給か、役割給か)
 ② 賃金水準 ... 業界・職種に照らして妥当か
 ③ 賃金形態 ... 計算期間・支払形態(年俸制か、月給制か、日給月給制か)

 この中で特に重要なのが ①賃金体系、つまり基本給の構成要素です。


● 基本給の構成要素

  職能給とは、「社員の職務遂行能力」を基準として決める賃金です。 
 社員が保有する職務遂行能力に着目し、その能力が高まれば職能給も上げるというかたちになります。
 通常は職能資格制度がベースとなり、運用に際しては職務遂行能力の基準としての「職能資格要件書」が用いられます。資格降格がない限り降給することがないため、安定的な給与である反面、能力-仕事-賃金の間にギャップが生じやすいため、人件費の配分にムダが生じやすいという欠点があります。

 職務給とは、「社員が担当する職務の難易度・責任度」を基準に決める賃金です。
 通常は職務等級制度がベースとなり、運用に際しては個々の職務の内容・特徴・難易度をまとめた「職務記述書(ジョブディスクリプション)」が用いられます。
 しかし従来型の職務給制度には、その前提である職務等級の内容や区分が細かくなりすぎる傾向にあり、せっかく作成した職務記述書も仕事の変化に追いつけず柔軟性に欠けるなどの欠点があります。また、中途採用者の給与決定、配置異動への対応、人材育成への動機付けなどの面でも難点があります。

 役割給とは、「社員の職位・職務上の責任・権限である職責」を基準に決める賃金です。 
 これに「業務の拡大・革新等のチャレンジ度」を付加したもの、つまり「職責+チャレンジ度」を基準にする場合もあります。
 "仕事の内容"より"仕事の価値"に準拠した給与とも言えます。
 役割等級制度がベースとなりますが、職務等級制度に比べて 等級を大括り(ブロードバンド)で区切るため柔軟な運用が可能となります。
 一方で、新たに定める「役割基準」が、社内での仕事の"価値"のレベルに対応するものでなければ、社員の納得性は得られにくくなります。


次項⇒〔08〕 賃金制度設計のポイント①-中間監督職以上は「役割給」を中心とした賃金体系に

〔08〕 賃金制度設計のポイント①-中間監督職以上は「役割給」を中心とした賃金体系に


● 成果主義にマッチする「役割給」

 成果主義の考えに沿った賃金制度を導入したいと考えるのであれば、基本給は「職能給」ではなく「職務給」「役割給」という選択になると思いますが、運用のしやすさや社員の自立性・自主性を尊重するという観点から、「役割給」が最も成果主義にマッチした体系であると思われます。

 またそれに加えて、当該役割における業績を純粋に反映させる部分として、「業績給」を入れるというやり方もあります。

 成果主義の適用範囲を管理職に限定した場合や成長過程にあるスタッフ職の比率が高い場合、既存の職能資格制度を存続させた場合などには、職能給を残すということも考えられます。


●基本給構成の10のパターン

 旧来型も含めて、考えられる主要な基本給構成を10パターン列挙してみます。

 ■職能給中心
  ① 年齢給 + 職能給
  ② 職能給のみ
  ③ 職能給 + 役割給〔固定型〕
  ④ 職能給 + 役割給〔変動型〕
  ⑤ 職能給 + 業績給〔変動型〕

 ■役割給中心
  ⑥ 役割給のみ
  ⑦ 役割給〔固定型〕+ 業績給〔変動型〕
  ⑧ 役割給〔変動型〕+ 業績給〔変動型〕

 ■混合型
  ⑨ 混合型(一般職クラス)............ 職能給のみ
          (中間監督職クラス)...... 職能給 + 業績給
         (管理職クラス)............ 役割給 + 業績給
  ⑩ 混合型 (一般職クラス)............ 職能給 + 業績給
          (中間監督職クラス)...... 役割給 + 業績給
          (管理職クラス)............ 年俸制

 今後は、中小企業も含め、少なくとも中間監督職クラス以上は「役割給」を中心とした賃金体系が中心になるかと思います。
 役割等級制度、役割基準をベースにした成果主義賃金ということです。

 ただし育成段階にある一般職について、職能資格制度を採用しないながらも賃金制度は同様の趣旨で運用したいというような場合には、与えられた役割においてキャリアをどれぐらい積んだかという観点に立ち、職能給ではなく「役割キャリア給」という賃金項目で入れるというやり方もあります。

 等級制度においても、職能資格制度と役割等級制度の2本建て(ダブルラダー)で制度を複雑化するよりは、役割等級制度に一本化した方がシンプルになります。


次項⇒〔09〕 賃金制度設計のポイント②-諸手当を思い切って"リストラ"する

〔09〕 賃金制度設計のポイント②-諸手当を思い切って"リストラ"する


● なぜ諸手当は少ない方が良いのか

 もうひとつのポイントは、諸手当を"リストラ"する、つまり諸手当を整理することです。

 家族手当、住宅手当、食事手当、物価手当、地域手当、別居手当、役付手当、資格手当、職種手当、特殊作業手当、営業手当、皆勤手当...。
 現在支給されているこれらの手当が本当に必要なものなのか検討し、廃止可能なものは基本的給与に吸収するなり、一時金で代替するなどの措置をとります。

 残すことに合理的な理由がある手当もあるかと思いますが、全体としては諸手当を思い切って"リストラ"する方向へ持っていく方が、成果主義の考えに適っています。

 諸手当の項目が多いということは、それだけ諸手当の給与総額に占める比率が高いということであり、その分、業績や成果を反映させることができる部分が小さくなるということです。

 諸手当の給与総額に占める比率が高いほど、「賃金は付加価値貢献の対価」であるというメッセージが薄れてしまうことになります。

 それまでの諸手当の支給状況によっては、諸手当を基本給に含めることにより、時間外労働に対する割増賃金の算定基礎額が若干高くなるケースもありますが、成果主義を徹底させる上では、合理性の希薄な手当を慣習的に存続させることの弊害の方が大きいと思われます。


●諸手当廃止の個別検討

■生活関連の手当

 家族手当(扶養手当)、住宅手当は多くの企業に見られる手当ですが、成果主義の観点からすれば廃止または縮小するのが望ましいと考えます。
 小企業などでは家族手当に込められた会社のメッセージがあるかもしれませんが、ならば代わりに祝い金の金額を増額するなどしてはどうでしょうか。

 食事手当、物価手当も廃止すべきです。
 地域手当、別居手当(単身赴任手当)については、支給に一定の合理性が認められるケースが多いようです。
 住宅手当や物価手当が実質的に地域手当の意味合いで支給されている場合も、残さざるを得ないケースがあるかと思います。合理性が認められなければ廃止すべきでしょう。

■職務関連の手当

 役付手当(役職手当)はほとんどの企業に見られる手当ですが、金額があまり大きくなりすぎると役職の任免に柔軟さを欠くことになるので注意が必要です。
 役割給制度や業績給制度を入れる場合には、その意味合いが重複することもあるため、場合によっては廃止も検討してよいかと思います。

 資格手当(特殊技能手当)、職種手当、特殊作業手当については、企業の事情にもよりますが、一時金に代替可能なものは廃止してもよいかと思います。

 営業手当(外勤手当)については、事業場外みなし労働時間制における超勤相当額として支給されている場合は存続対象となりますが、靴代・背広代という意味合いならば廃止すべきでしょう。

 皆勤手当(精勤手当)も、皆勤を奨励する特段の事情がない限りは廃止するのが望ましいと考えます。


次項⇒〔10〕 役割給「基本モデル」の設計①-役割等級へ仮格付けし、仮役割給を分析する

〔10〕 役割給「基本モデル」の設計①-役割等級へ仮格付けし、仮役割給を分析する


● その役割に対して会社が支払う賃金の基準額を決める 

 役割給の「基本モデル」を設計するということは、その役割に対して会社が支払う賃金の基準額を決めるということです。そのステップとしては、次の3段階があります。


● Step1.役割等級へ仮格付け

 個々の社員を役割等級へ仮格付けします。
 その方法には次の3タイプがあります。

 ・Type1.新基本給でスライドする

 ・Type2.役割基準書に照らし新等級に格付けする

 ・Type3.役職、年齢等の組み合わせで格付けする
   (例) M1...部長クラス   
       M2...課長クラス
       M3...主任クラス
       S1...46歳以上の熟練職
       S2...34歳‐45歳の専門職 
       J1...26歳‐33歳の一般職
       J2...大卒3年未満の一般職
       J3...短大卒5年未満の一般職

 現実には、1つのタイプのみで納得のいく格付けがなされることは少なく、Type1〜Type3のうち2つ以上を組み合わせてシミュレーションするかたちになります。


● Step2.役割等級ごとの仮役割給の分析

 続いて、役割等級ごとの対象者の仮役割給の分布状況を分析します。
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次項⇒〔11〕 役割給「基本モデル」の設計②-その役割に対して支払う賃金の基準額を決める

〔11〕 役割給「基本モデル」の設計②-その役割に対して支払う賃金の基準額を決める


● Step3.新役割給の基本モデルの設定

 Step2の分析結果をもとに、役割等級ごとの役割給の基準額を決定します。

 繰り返しになりますが、役割給の「基本モデル」を設計するということは、その役割に対して会社が支払う賃金の基準額を決めるということです。 
 ですから、ただ単に実在者の分布に沿って決めるのではなく、理論モデル(あるべきモデル)と実在者モデルの相互関係において決定することになります。


●役職についていないベテラン社員の位置づけをどうするか

 この作業を行う際に多くの企業で問題になるのが、役職についていないベテラン社員の現在の給与が相対的に高めで、役職について間もない若年・中堅社員との間で逆転現象が生じているということです。

 管理職層と一般職層(スタッフ職層)という区分において職層間にそれなりの基本給格差があるという一般的な理論モデルを想定していた場合に、このグループをどう位置づけるのかが課題となります。
 このことは単に賃金モデルをつくる上での技術的問題ではなく、人事戦略の一環としての問題ですので、目先の"当て込み易さ"に流されず将来を見据えた検討が必要です。

 このような役職についていないベテラン社員の位置づけとしては、次の3通りがあります。

  ① あくまでもスタッフ職のなかでの上位者であり、スタッフとして遇する
  ② スタッフ職の中でも高い専門性を持ったエキスパート(専門職)として遇する
  ③ マネージャー(管理職)に準じるプロフェッショナル(専任職)
  ④ ライン管理職であるマネージャーと常時入れ替え可能なジョブマネージャーとして遇する

   (専門職や専任職を設ける場合は、それぞれの職群の定義・登用基準が必要となります。)

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次項⇒〔12〕 役割給「賃金テーブル」の設計①-範囲給に社員へのメッセージを込める

〔12〕 役割給「賃金テーブル」の設計①-範囲給に社員へのメッセージを込める


● 単一給と範囲給

55-12-1grf400.gif  役割給の「賃金テーブル」には単一給範囲給の2種類があります。
 
 「単一給」は、等級別に金額が決まっている固定型(シングルレート)の給与です。
 この考え方を採り入れ、昇進のごとに給与をリセットするやり方をしている企業もあります。

 たとえば、2人の社員が係長でいる間は給与に差があったとしても、同時に課長に昇進した場合いったん同じ給与になる、といったやり方です。

 この例からも察せられるように、「単一給」のみでの運用は成り立ちにくく(単一給のみの運用だと係長でいる間も給与差もつかないことになります)、習熟給(職能給)、期待給、業績給といった変動型の賃金項目との併用が一般的です。

 「範囲給」(レンジ給)は、等級別に基準額を中心に上下限の幅を持つ変動型の給与で、管理職、非管理職を問わず導入が可能なうえに、等級が決まれば給与のレンジ(範囲)も決まるので、社員はその範囲の中での給与額を期待することができるという特長があります。

 現制度からの移行および運用のしやすさなどからみると、「範囲給」が一般的な選択になるかと思います。

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● 等級間のレンジ設定によって社員に伝えるメッセージ

 「範囲給」のポイントは、等級間のレンジ(給与の範囲)の設定によって社員にどのようなメッセージを伝えるかということにあります。
 レンジ幅の重なりが小さければ、役割等級が上がらない限り(昇進しない限り)給与はいずれ頭打ちになりますよ、というメッセージになり、レンジ幅の重なりが大きければ、等級が下位であっても業績次第では給与が逆転できますよ、というメッセージになります。


次項⇒〔13〕 役割給「賃金テーブル」の設計②-一般職のレンジ設定は習熟を反映させやすくする

〔13〕 役割給「賃金テーブル」の設計②-一般職のレンジ設定は習熟を反映させやすくする


●一般職(若年層)は習熟・職務領域拡大を反映させやすくする(役割キャリア給)

55-13-1grf400.gif  一般職(スタッフ職)は成長過程にある社員が主なので、習熟や職務領域の拡大を給与に反映させやすくする必要があります。

 ですから、役割給であっても、従来の職能給制度に近い定昇的な運用をするのが現実的です(例えば「役割キャリア給」と言ってもよいかと思います)。

 等級ごとのレンジ設定をする際には、モデル昇給ラインをシミュレーションし、標準的な昇給をしているのに役割等級の昇級(昇格)前に上限額に達してしまうことのないようにします。

 一方、等級内で一定水準の額に達してもまだ上位等級に昇級しない場合は、昇給ピッチを半分にし、やはりすぐには上限に到達しないようにするやり方があります(「屈折点」を設ける)。
 
 

 


 

●レンジ設定は初任給をベースに下位資格からシュミレーションして上下限を決定

 一般職のレンジ設定は、例えば、新卒社員が初任給から標準的に昇給した場合、標準滞留年数経過後いくらになっているかを求め、それを直近上位等級の下限額とし、標準的に昇給したが上位等級に行かなかった場合、昇給を続ける限度での最大滞留経過後にいくらになっているかを求め、それを現在いる等級の上限額にする、といった決め方をしていきます。
図7.gif

 一方、一般職でいる間はそれほど給与格差が生じないので、中小企業などで対象人数が少ない場合は、レンジの上限・下限を厳密には設けず、対象者全員をプロットした 「学卒年齢別の役割キャリア給分布図」などを作成し、個々の給与水準の把握・管理をするやり方もあります。


次項⇒〔14〕 役割給「賃金テーブル」の設計③-レンジの上限超過者の調整給は段階を経て無くす

〔14〕 役割給「賃金テーブル」の設計③-レンジの上限超過者の調整給は段階を経て無くす


● レンジの上限超過者は、調整給を支給し一定期間内で償却する
図8.gif
 ベテランの一般職(スタッフ職)などで、新たに役割等級に格付けした際に、長年の年功的な処遇のため、当該等級の上限を超過する社員が出てくることがあります。

 その場合、超過分は調整給として支給します。調整給は、毎年あるいは半期ごとに減額させ(償却し)、最終的には無くします。 

 一方、当該等級の下限に達していない社員は、制度移行時に下限額まで引き上げます。この場合は猶予期間を設けません。


● 役割給導入による給与減額者に対する考え方

 新制度導入による減額者の発生は、該当者からの反発が予想されますが、役割等級への格付けに合理性があれば、会社側の裁量権の範囲内の措置であると考えます。
 ただし、激変緩和措置としての調整給を設け、"一気に"ではなく"段階的に"減額を行う配慮をするのです。

 調整給はあくまでも制度移行時の一時的措置です。
 仮に定年まで減額しないでいた場合でも役割給制度としては成立しますが「人件費の適正な再配分」という狙いは果たせなくなります。

 また、そうした社員も、上位等級に上がれば、昇級後の等級のレンジ内のどこかに位置づけられ、さらに役割給が上がる可能性があり、将来まったく昇給しないというのではありません。

 だだし、会社が対象者に対して将来の見通しを含めて"戦力外"であるというメッセージを伝えようとしているならば、これを機に退職勧奨を行うなど、明確な姿勢を示すべきだと思います。
 
 契約社員(または正社員の身分のまま給与を契約給)への移行提示を含め、「新制度の適用」「勧奨退職」「退職し契約社員として再雇用」の中から選んでもらうというやり方もあります。


次項⇒〔15〕 役割給「改定(昇給)テーブル」の作成①-改定(昇給)方法は3種類×2=6パターン

〔15〕 役割給「改定(昇給)テーブル」の作成①-改定(昇給)方法は3種類×2=6パターン


● 役割給の改定方法

 ここで言う役割給の「改定」とは、一般に言う「昇給」のことですが、運用上「据え置き」または「減額」もあり得るため、そうした表現をしています。

 この場合、就業規則や賃金規程も、「役割給の改定は年1回、原則として○月にこれを行う。ただし役割給は必ずしも増額するとは限らず、据え置きまたは減額することもあり得るものとする」といった表記になります。

 役割給改定の方法としては、大きく3種類に分かれます。

  A.前年度の給与をベースに、「定昇累積方式」で、昇給または、据え置き、減給する
  B.前年度の給与をベースに、「パーセント方式」で、評価係数を掛けて決定する
  C.前年度の給与に依らず「洗い替え方式」で決定する

 Aの「定昇累積方式」(ここで言う"定昇"とは評価昇給のことであり、自動昇給のことではありません)は更に、同一等級の役割給のレンジ内に屈折点を設けて(屈折点方式)や、あるいは同様の趣旨ですが、いくつかの段階(エキストラゾーン・スタンダードゾーン・ライジングゾーンなど)に分けて昇給ピッチを変えるなどして定昇調整を行うバリエーションがあります。

 Bの「パーセント方式」は、前年度の給与をベースに新給与を決めるという点ではAの「定昇累積方式」と同じです。ただし、「額」ではなくて「率」によって新給与の算定を行うということです。
 この方式も、同一等級の役割給のレンジ内をいくつかの段階(ゾーン)に分けて昇給"率"を変える(ゾーンマトリックス)などのバリエーションがあります。

 Cの「洗い替え方式」は、前年度の役割給の額に関わらず、同一等級の役割給のレンジ内で評価別に定めた絶対額を適用するものです。
 この場合、定昇的な要素はまったく無くなり、同一等級で前年度と同じ評価であれば(賃金テーブルの塗り替え改定が無い限り)据え置き、評価が下がれば役割給もダウンします。
 この方式にも、同一等級の役割給のレンジ内を更にいくつかの段階(ゾーン)に分けて、評価の累積によってゾーンを移動し、そのゾーン内で洗い替えをする方式があります。
 通常タイプを洗い替え方式」(単段階)とすれば、このタイプは「多段階洗い替え方式」ということになります。

 代表的な組み合わせを抽出すると次の6方式になります。
  ① 絶対額による定昇累積方式(=前年度役割給±評価増減)
  ② 絶対額による定昇累積方式(=前年度役割給±評価増減) かつ 屈折点を設ける方式
  ③ パーセント方式(=前年度役割給×評価係数) 
  ④ パーセント方式(=前年度役割給×評価係数)かつ ゾーンマトリックス
  ⑤ 洗い替え方式(単段) 
  ⑥ 多段階洗い替え方式


次項⇒〔16〕 役割給「改定(昇給)テーブル」の作成②-A.「定昇累積方式」と屈折点、ポイント式

〔16〕 役割給「改定(昇給)テーブル」の作成②-A.「定昇累積方式」と屈折点、ポイント式


● 定昇累積方式

 前節①の「絶対額による定昇累積方式」は、最も一般的なものです。

 等級・評価別に改定額を決めますが、通常、上位等級ほど評価間の昇給額格差を大きく設定します。
 また、例えばS評価である場合、上位等級にある者は、同じS評価の下位等級よりも昇給額を大きくします。ただし、上位等級者が最低評価ランクやそれに近い評価の場合は、減額となります。
 反対に低い評価(例えばD評価)であれば、一般職は評価が低くても、若干の減額またはアップにとどめるのに対し、管理職は相当の減額をするというように作るということです。

 ②の「屈折点を設ける方式」は、その等級の役割給レンジの一定ライン以上のゾーン達したら、例えばある評価で6千円昇給するところが3千円しか昇給しない、ということです。
 役割給レンジの上限に達するのを遅くすることで、ローパフォーマーに対するモチベーション対策となります。(レンジの上限に達したら、上位等級に上がらないともうそれ以上は昇給しません。)


● 昇給額をポイント方式で定めるやり方もある

 「絶対額による定昇累積方式」では、「改定テーブル」は年度ごとに作成しますが、予め等j級・評価ごとの昇給額ポイントを定めておき、改定原資に応じて単価を変動させる方法もあります。
図9.gif


次項⇒〔17〕 役割給「改定(昇給)テーブル」の作成③-B.「パーセント方式」とゾーンマトリックス

〔17〕 役割給「改定(昇給)テーブル」の作成③-B.「パーセント方式」とゾーンマトリックス


● パーセント方式

 ③の「パーセント方式」とは、前年度の役割給に対し、役割等級・評価ごとに定めた増減率を掛けて新しい役割給を決定するものです。

 従来の職能給制度では「絶対額による定昇累積方式」がほとんどです。
 これは、昇給額がわかりやすく、昇給原資も把握しやすいというメリットがあります。
 しかし一方で、等級別・評価別の増減額の設定が細かくなりがちです。

 よりドラスティックに評価を賃金に反映させたいのであれば、「パーセント方式」の方が良いと思います。 
 評価と金額の間に「%」というクッションが入ることで、役割給の増減がし易くなります。
 ただし、「パーセント方式」は、現在の賃金が高い人の方が有利となる傾向があり、また、レンジの上限下限幅を大きめにとらないと、数回の査定ですぐに上限到達者が多発する、という事態も起こり得ます。


55-17-1grf400.gif ● ゾーンマトリックス 

 前項の問題をクリアするために、「パーセント方式」に④の「ゾーンマトリックス」の手法を用いるやり方があります。

 各等級の役割給のレンジを、さらにいくつかのゾーンに分けて、同じ評価であっても、現在どのゾーンに位置しているかで改定率(昇給率)を変えるやり方です。

 一般的な設定方法のほかに、ゼロベース査定の考えに基づき、一定評価以上のみ昇給対象とし、他は据え置きまたは減額という考え方もあります。
 大変シビアですが、原資が限られているときでも評価の高い社員には相応に報いたい、という経営者のメッセージとなります。
 


図10.gif

次項⇒〔18〕 役割給「改定(昇給)テーブル」の作成④-C.「洗い替え方式」と多段階洗い替え方式

〔18〕 役割給「改定(昇給)テーブル」の作成④-C.「洗い替え方式」と多段階洗い替え方式


● 洗い替え方式 

 ⑤の「洗い替え方式」(単段)は、同一役割等級内で評価ランクごとに役割給を絶対額で定める方法です。(下表の専門職E1、E2がそれに該当します)。

 この方式では、役割等級が変わらない限り、評価変動によってレンジ内の該当金額を"行き来する"だけで、たとえA評価であっても、前年度がS評価であれば役割給はダウンします。ですから、運用において同一等級に留まっている間のモチベーションをどう保つかが課題となります。


● 多段階洗い替え方式 

 ⑥の「多段階洗い替え方式」は、同一役割等級内の役割給レンジを複数の段階(ゾーン)に分け、評価ランクごとに役割給を絶対額で定める方法です。(下表の管理職M1、M2、M3がそれに該当します)。
 ゾーン間の移動は、例えば「過去3年間の評価累積」などにより行います。(その場合、ゾーンへの位置づけには「属人的要素」が入る、ということになります。)

 この方式では、単段階に比べ、同一等級内でも"ゾーン"が上がれば上限額が高くなるので、「単段階」よりは、同一等級にいる間のモチベーションを維持する効果はあります。
 ただし、「ゾーン変更の管理」という作業が1つ増える分、運用が煩雑化します。


● 洗い替え方式のメリット・デメリット  

 洗い替え方式は、定期昇給の考え方を完全排除しているので、人件費の管理(抑制)上は最適です。
 しかし、一定の水準以上の支給額でなければ適用は難しいと思います。(導入時に対象者全員の給与がリセットされるので、ほぼ全員に調整給が発生するという問題もあります。)
 ただし、職能給との組み合わせなどでの「業績給」的な運用は充分に考えられます。

図11.gif


次項⇒〔19〕 「変動型給与」の検討-これからの賃金カーブと「変動型給与」への賃金体系見直し

〔19〕 「変動型給与」の検討-これからの賃金カーブと「変動型給与」への賃金体系見直し


● 「定期昇給」から「業績・成果昇給」へのシフト

 経済情勢の変化に伴い産業のソフト化、サービス化が進むなかで、ホワイトカラーの生産性をいかに向上させるかが企業の重要課題となってきました。
 このことは、仕事の質や成果を厳しく評価し、賃金や処遇に反映させようという動きにつながっています。一方で、かつては考えられなかった"右肩下がり"の時代に入り、企業には総額人件費の厳格な管理が求められています。

 こうしたなか、定期昇給の見直し・廃止、それに伴う賃金体系の見直しをする企業が増えています。
 それらの内容は、「定期昇給」から「業績・成果昇給」への移行、ということかと思います。


55-19-1grf400.gif● これからの賃金カーブのイメージ

 これからの企業における社員の賃金カーブは、図のようなイメージに近づいていくのではないかと思います。
 従来型の賃金カーブは、若いときに安かった分を中高年になって取りかえすという、よく言われる「長期帳尻合わせ」型でした。

 「定昇」の廃止等が広まれば、これからは、そうした長期雇用の中で精算するスタイルから「単年度決算型」に移行していくと考えられます。
 少なくとも管理職クラスにおいては、そうした動きは既に始まっていると言えます。

 


● 「変動型給与」への流れと給与体系の見直し
 
 企業は従来、業績反映を主に賞与で行ってきました。
 しかし給与制度は変えずに賞与のみでメリハリをつけようとしても、賞与の変動原資には限界があります。 
 先行企業では、小手先の制度修正ではなく、既存の給与体系(年齢給+職能給)自体の抜本見直し検討 ⇒ 「定昇」という下方硬直性の撤廃 ⇒ 月例給の変動費化、という流れがさかんになっています。

 それでは給与体系をどう見直すのか、4つのタイプを挙げてみます。

  ① 職能給 + 役割給 ... 「職能資格制度」と「役割等級制度」のダブルラダーを前提
  ② 職能給 + 業績給 ... 「職能資格制度」を前提 
  ③ 役割給のみ ............ 「役割等級制度」を前提 
  ④ 役割給 + 業績給 ... 「役割等級制度」を前提 


次項⇒〔20〕 「業績給」の検討-洗い替え方式の「業績給」を職能給・役割給と組み合わせて使う

〔20〕 「業績給」の検討-洗い替え方式の「業績給」を職能給・役割給と組み合わせて使う
 

● 「職能給(役割キャリア給)」「役割給」などに「業績給」を組み合わせて使う

55-20-1grf400.gif 前節で、変動型給与の導入に向けての給与体系の見直し方法として、次の4つをあげました。

 ① 職能給 + 役割給 
 ② 職能給 + 業績給  
 ③ 役割給のみ 
 ④ 役割給 + 業績給
 

 ③の「役割給のみ」で変動型給与を実現するというのは、役割給を 「洗い替え方式」にするということです。

 「洗い替え方式」というのは毎年給与をリセットする仕組みで、同じ等級にいる限り、毎年その等級のレンジ内で評価によって給与が上がったり下がったりする仕組みです。

 ある意味「空極の成果主義」ですが、移行に際して全員の給与をリセットしなければならないのと、運用において同一等級に留まっている間のモチベーションをどう保つかが課題となります。

 そこでのような「職能給+役割給」方式が浮上しますが、この場合は1人の社員に2つの等級制度が関係する、いわゆる「同一者2本建て(ダブルラダー)」になる煩雑さがあります。

 そうするとのように洗い替え方式の「業績給」を入れ一般職は「職能給(または役割キャリア給)+業績給」、管理職は「役割給+業績給」 といった組み合わせが、変動型給与を実現する現実的手法ということになります(業績給の特長の1つは、「職能給」とも「役割給」とも組み合わせ可能であるということです。下図に「職能給」と組み合わせたモデルを掲げます)。

図13.gif


次項⇒〔21〕 「業績給」の適用対象と運用-「役割給+業績給」が一般的。ポイント制での運用も

〔21〕 「業績給」の適用対象と運用-「役割給+業績給」が一般的。ポイント制での運用も


● 管理職の「役割給」に「業績給」を組み合わせて使うのが一般的

 前節で、「変動型給与」を実現するにあたって、洗い替え方式の「業績給」を入れ、「職能給」と組み合わせて運用する方法を紹介しました。
 管理職・一般職を通して職能資格制度を維持・継続し、なおかつ業績反映度は高めたい、という要請であるならば1つの方法かと思います。

 しかし、「業績給」はどちらかと言うと、業績責任の明確な職層に向く賃金の構成要素であるため、 導入するならば、管理職に対する「役割給+業績給」という形態が一般的ではないかと考えます。
 移行時に原資として、従来の役職手当を充てることが考えられますし、新たに管理職になった社員については、残業手当が移行原資になるため、移行し易いという利点もあります。


● 「業績給」テーブルを金額ではなくポイントで設定しておく方法―ポイント制

 「業績給」の運用は、支給額テーブルを固定する方法と、会社業績により毎年見直す方法があります。
 本来はテーブルに会社業績が反映されるべきであり、毎年見直すべきですが、作業的には煩雑になり、年度ごとの一貫性が無くなる恐れもあります。
 その煩雑さを緩和するためにテーブルを金額ではなくポイントで設定しておく(ポイント制)のも、有効な手法だと思われます。

 「ポイント制」業績給の概要は次の通りです。
 ① 業績給をポイント管理し、役割等級・業績評価別の固定ポイントとする 
     ・社員Aさんの業績給 = 業績ポイント単価 × 社員Aさんの業績ポイント 
     ・業績ポイント単価 = 業績給の総原資 ÷ 全員の業績ポイントの総和
 ② 業績給の原資および業績ポイント単価は、会社業績との相関で調整・決定する
 ③ 洗い替えの時期とサイクルは、年1回の給与改定時
(または年2回の半期業績評価後)

  55-21-1grf400.gif

 ※ 会社業績に連動させて「業績給」の総額原資を決めると、原資が同じでも、その年度の適用者の数(管理職層の人員数)によってポイント単価が変わってしまうので、会社業績に沿った"原資調整"の観点で"ポイント単価"を決定する、という考え方をします。(ポイント単価は評価分布の影響も受けます)


次項⇒〔22〕 「業績給」の適用対象と運用②-役割給・業績給・役割キャリア給の組み合わせ

〔22〕 「業績給」の適用対象と運用②-役割給・業績給・役割キャリア給の組み合わせ


● 管理職→「役割給」+「業績給」、一般職→「役割キャリア給」のイメージ図

図14.gif 役割給・業績給・役割キャリア給(または職能給)を組み合わせたスタイルをイメージ図にしました。

 この場合の役割給は、一般職の役割キャリア給(職能給)と同じく、前年度の金額をベースにした「定昇累積方式」になります。(または前年度金額×増減率の「パーセント方式」)
  
  
  
  
  
  
 
  
  
  

● 「役割給」と「業績給」を組み合わせて使うメリット

 基本給が「洗い替え方式」の役割給一本の場合、定昇を排除した100%"時価評価"の賃金体系になります。同じ等級にいて、去年S評価で今年がB評価だった人と、去年D評価で今年がB評価だった人とは、現時点での基本給は同額ということになります。

このような仕組みは短期には強いインセンティブが働きますが、社員にしてみれば、長期的な見通しという面では不安です。また、A評価をとっても、前年がS評価であれば減給となる(原則として評価間格差の分がまるまる減給となる)ため、長期にわたってのインセンティブ維持が困難となる恐れがあります。

そこで、「定昇累積方式」の役割給に「洗い替え方式」の業績給を組み合わせることで、業績による給与変動はあるものの、給与の"基底部分"は、一定の評価の累積によって少しずつ昇給していく、という長期の展望が見えるようにしたものです。
 言わば、"時価主義"と"定昇累積"の考え方をミックスしたものとなります。(ただし、役割給自体も、「定昇累積方式」であるとはいえ、役割等級ごとに上限額があるため、原資抑制機能が働いています。)


次項⇒〔23〕 成果主義賃金制度の定着のために-賃金制度の "自社適合" を図る

〔23〕 成果主義賃金制度の定着のために-賃金制度の "自社適合" を図る


● 「役割給」+「業績給」は"ハイブリッド方式" 
図15.gif
 「役割給」と「業績給」を組み合わせて使うメリットを前節で述べましたが、この場合の「役割給」は「定昇累積方式」であることを前提にしており、言わば"ハイブリッド方式"なのです(表参照)。
 仮に「役割給」も「業績給」も「完全洗い替え方式」にしてしまうと、やはり不安定な賃金体系となることは否めません。
 
 
 
 
 

● 「役割給」のみでも充分に運用可能

 「業績給」を入れるかどうかは、「役割給」の運用方法、自社が考える「成果主義賃金」などとの関連で決めます。
 「役割給」を「定昇累積方式」にしたとしても、等級別の「範囲給」とし、そのレンジを守った上で、「定期昇給」においても評価によって減給もあり得るということが充分に社員に理解されていて、かつ、役割等級の「降級」の仕組みがきちんと機能し、役割レベルと成果の給与への反映が、会社が考える「成果主義」の程度にまで実現できるのならば、「役割給」のみで"自社適合"と言えるので、「役割給」一本でいく方がむしろシンプルで合理的です。


● 「業績給」を入れた方が良いケース

 状況的に見て「業績給」を入れた方が良いと思われるのは、例えば次のような場合です。
  ① 役職手当が過大なため役職の任免が硬直化している場合
  ② 管理・監督職に時間外手当を支給している場合
  ③ 営業部門の管理職にのみ業績給を入れ、その他の部門では入れていない場合

 ①のケースでは、変則的運用が横行しているケースもあり、変動的に扱うならば「変動給(業績給)」としてのルールを定めた方が良いでしょう。

 ②のケースも、現在の残業代は変動費である訳ですから、役割給に組み入れて固定化するよりも、業績給として「変動費」的性質を維持した方が良いでしょう。

 ③の場合は、管理部門や企画部門のミッションや年度毎の課題を明確にすることが前提になりますが、現在が曖昧であるならば、「業績給」導入を機にその点を改善するのも一策です。業績反映度を直接部門と間接部門で変えるなどの調整も、問題ありません。


次項⇒〔24〕 日本の賞与と米国のボーナス- "生活保障+成果配分" vs. "ゼロベース"

〔24〕 日本の賞与と米国のボーナス- "生活保障+成果配分" vs. "ゼロベース"


● 日本の賞与は生活保障+成果配分、米国のボーナスはゼロベース

 わが国における賞与の特徴は、「生活保障」と「成果配分」という2側面の機能持っていることです。
 会社が赤字でも生活保障分は支給し(賃金の後払い)、さらに利益が上がったならば企業業績を配分する(社員に対するインセンティブ)という考え方です。

 一方、米国のボーナス制度(団体業績給)は、企業業績に連動した完全業績給制度です。
 賞与原資の算定方法にはスキャンロン・プランラッカー・プランがありますが、売り上げや利益が一定以上のときのみ支給する、所謂ゼロベースであるという点で、刺激性の強い仕組みです。

 わが国においてもバブル経済崩壊後は、定期昇給率を抑制し、企業業績や個人の成果は賞与においてより大きく反映させるという動き(「業績反映(連動)型賞与」)が見られます。

図16.gif


次項⇒〔25〕 業績・成果反映型賞与の設計①-一般的なタイプ(基本賞与・業績賞与・支給係数)

〔25〕 業績・成果反映型賞与の設計①-一般的なタイプ(基本賞与・業績賞与・支給係数)


図17.gif
● 業績反映型賞与の狙い

 業績反映型賞与に狙いは、賞与
原資の決定基準をつくり、人件費
をコントロールしながら成果配分することにあります。

 経営指標を用いて行うものを、一般に「業績連動賞与」と呼んでいます。表は、支給月数を「半期ごとの売上高対経常利益率」に連動させた例です。

● 基本賞与と業績賞与、業績賞与への評価反映のさせ方

55-25-2grf400.gif わが国の賞与の機能が「生活保障」と「成果配分」という2つの側面を持っていることに対応して、一般的には賞与は基本賞与 業績賞与 に分かれており、業績賞与の部分に会社・部門・個人の業績を反映させるようになっています。
 
 基本賞与は全社一律の月数(係数)を用いますが、業績賞与の月数(係数)は役割等級および評価が高いほど大きくなるように設計するのが一般的です。

55-25-3grf400.gif
 右表は業績賞与(成果賞与)の支給月数(係数)の「役割等級別・評価(S〜E)別マトリックス」で、全社一律1ヶ月分の基本賞与に上乗せして支給する例です。

 ただしこの例においては、標準的な評価(B)を下回ると上位等級の者ほど支給係数が小さくなり、基本賞与(1ヶ月分)を割り込む可能性もあることを示しており、より刺激性の強い運用方法だと言えます。

 
 

次項⇒〔26〕 業績・成果反映型賞与の設計②-基礎額を基本給から絶縁した「等級別基礎額方式」

〔26〕 業績・成果反映型賞与の設計②-基礎額を基本給から絶縁した「等級別基礎額方式」
 

● 基礎額を基本給から切り離す

 前節のような一般的な基本給ベースの月数方式(係数方式)は、現在の基本給が高い者ほど賞与額が高くなる傾向にあります。ですから、下位等級にあって業績評価も決して高くない社員が、上位等級で標準的な評価を得ている社員の賞与額を上回るということも起こり得ます。

 そこで、賞与の算定基礎額に個々の基本給を用いることをやめ(基本給絶縁)、別途に等級別の基礎額を設定し、平均支給月数に評価係数を乗じたものを掛けて支給額を求める方法があります。

 ★ 支給額=等級別算定基礎額×平均支給月数×評価係数

 このようなやり方は「等級別基礎額方式」と呼ばれるものですが、結果として次のような支給額テーブルができるので、「別テーブル方式」とも言います。

55-26-1grf400.gif


● 基本賞与を存続し、業績賞与のみ基本給から切り離した場合

 「等級別基礎額方式」を検討しシュミレーションしたところ、今までの支給実績との差額が大きくなる社員が多数出るという場合には、基本給連動型の基本賞与を存続し(例えば基本給の1ヶ月分を支給)、従来の(または新たに拡大設定する)業績賞与の部分のみ(例えば算定基礎額の平均1ヶ月分)において「等級別基礎額方式」を採用するというやり方により、制度移行をスムーズにする考えもあります(下表)。

55-26-2grf400.gif

 考え方として基本給から完全に切り離す方式より一見後退したかのように見えますが、評価間の評価係数のポイント格差の設定の仕方によっては、充分に業績反映度の高いテーブルを作ることができます(上の例では、評価間格差は拡がっています)。

次項⇒〔27〕 業績・成果反映型賞与の設計③-原資管理に主眼を置いた「ポイント方式」

〔27〕 業績・成果反映型賞与の設計③-原資管理に主眼を置いた「ポイント方式」
 

● 原資管理に主眼を置いた「ポイント方式」

 前節の「等級別基礎額方式」と同じように基本給から切り離した賞与算定方式で、より柔軟な賞与原資の管理に主眼を置いたものに「ポイント方式」があります。

 「ポイント式」業績賞与は、総額の確定している賞与原資がまずありき、という前提のもとに、次のような流れで算定します。
55-27-1grf400.gif
① 等級・評価ごとに支給額ポイントを設定する(ポイントテーブルの作成) 

② 支給対象全員に個々の等級・評価に沿って支給額ポイントを割り当てる

③ 支給対象全員の総ポイント数を求める(Σ(支給額ポイント×人員)=総ポイント数)

④ 賞与原資÷総ポイント数=1ポイント当たりの単価

⑤ ポイント単価×等級・評価ごとのポイント=等級・評価ごとの支給額

 ⑤は<ポイント単価×個々の支給額ポイント=個々の賞与支給額>と言い換えることもできます。

 ポイントテーブルの作成手順は、次の通りです。

① 実績に基づく(標準評価〔B〕での)等級別支給額ポイントを仮設定する

② (標準評価〔B〕での)あるべき等級別支給額ポイントを設定する

③ 評価間格差を設定する(左表上)

④ 支給額ポイントに置き換える(左表下)

  
● 「ポイント方式」のメリットと注意点

 「ポイント方式」は、理論上原資の過不足が生じないため、原資に合わせて評価をいじるといった必要がないというメリットがあります。

 また、「等級別基礎額方式」と同様、基本賞与は存続し、業績賞与のみに適用することも可能です。

 注意点としては、原資オーバーの心配がないため評価の充分な吟味や調整が行われないまま計算作業に入ってしまいがちなことです。
 会社全体が業績目標を達成していても、それ以上に評価がインフレ(甘い)傾向にある場合、ポイント単価が下がり(このことにも違和感がありますが)、下位職層の支給水準が極端に低くなってしまうなどの影響がでます。


次項⇒〔28〕 プロフィット・シェア・ボーナス(利益還元賞与)-好業績時に利益の一部を社員に還元

〔28〕 プロフィット・シェア・ボーナス(利益還元賞与)-好業績時に利益の一部を社員に還元

 
● プロフィット・シェア・ボーナスとインセンティブ・ボーナス

 欧米企業では、社員のモチベーションを促す業績分配システムとして、プロフィット・シェア・ボーナス(ペイ・バック)やインセンティブ・ボーナスがよく見られます。
 日本企業でも、通常の賞与とは別に決算賞与(期末賞与)や報奨金制度を設けているところは多いですが、ほぼ同趣の流れを汲むものと見てよいでしょう。

 プロフィット・シェア・ボーナスは目標利益(営業利益または経常利益)を超過したときに全社的に支給されるものを指すことが多いのですが、インセンティブ・ボーナスは目標とする売上高(または売上総利益)を達成したときに部門や個人に対して支給されることが多いようです。

 ですから、プロフィット・シェア・ボーナスは利益還元の意味合いが強く、決算賞与に近い性格を持つものであるのに対し、インセンティブ・ボーナスは日本の報奨金制度に近い(ただし報奨金制度は売上げ目標のみが対象となるとは限りません)と捉えてよいかと思います。


● プロフィット・シェア・ボーナスの支給の考え方と配分方法

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 プロフィット・シェア・ボーナスは、業績が一定の基準より良いときにだけ適用されるのが原則です。業績の良し悪しの指標は、主に営業利益(または経常利益)の目標達成度になります。

 全社の営業利益を指標とするので、本来は全社的に支給されるものですが、定期賞与ではないので、貢献度の高かった部門や個人のみ支給する(あるいは"重点的に"支給する)という柔軟な考え方で運用してよいかと思います。
 全社的に低調だったが特定部門の利益貢献が著しい場合や、配分原資が小さくて全員に配分しきれない場合などは、特にその方がよいと思います。

 配分方法としては、賞与配分の「ポイント方式」を準用する方法があります。

 右図は、営業部門・管理部門の一定評価以上の社員に支給した例ですが、配分ポイントを定め、該当者を当てはめて総ポイント数を求め、原資総額を総ポイント数で割ってポイント単価および各該当者の支給額を決めています。


 ※ 決算賞与として支給する場合は、決算日までにすべての支給対象者に支給額を通知し、かつ決算日から1ヶ月以内に支払われるという条件を満たさなければ、当期の損金として認められません。
 ですから、仮決算後に回収不能債権が露見するような会社の場合、まずそうした体質を改善しない限り制度が機能しないことになります。


次項⇒〔29〕 インセンティブ・ボーナス(報奨金)-わかりやすく達成感のある仕組みにする

〔29〕 インセンティブ・ボーナス(報奨金)-わかりやすく達成感のある仕組みにする
 

● インセンティブ・ボーナスのポイント

 インセンティブ・ボーナスという用語は、日本では定期賞与のうちの業績反映部分を指して用いられることもありますが、ここでは報奨金(褒賞金)制度という意味で用います。

 インセンティブ・ボーナスは、わかりやすく達成感のある仕組みにすることがポイントです。中小企業等で実際に実施されている、そうした報奨金制度のいくつかのタイプ例を挙げてみます。

 ① 売上高目標達成基準・Aタイプ 【達成率基準】
   115%以上2万円、110%以上1万6千円、105%以上1万2千円、100%以上8千円
 ② 売上高目標達成基準・Bタイプ 【社内順位】
   1位3万円、2位2万円、3位1万円、4・5位5千円
 ③ 新規開発基準・Aタイプ 【売上高基準】
   800万円以上3万円、600万円以上2万円、400万円以上1万円、200万円以上1万円、
 ④ 新規開発基準・Bタイプ 【件数基準】
   4件2万円、3件1万5千円、2件1万円、1件5千円

 上の例は月次ベースですが、業態や業務内容によっては四半期、半期ベースでよりまとまった金額を支給するやり方の方が、効率的かつ効果的な場合もあります。

● 業績連動報酬の考え方

 プロフィット・シェア・ボーナス(利益還元賞与)、インセンティブ・ボーナス(報奨金)、コミッション(歩合給)などはすべて、毎期の範囲内で会社がその社員に支給する報酬額を変動させるという意味で、業績連動報酬にあたります。 
 ですから、短期インセンティブ(刺激給)とも言えます。

 ストックオプションのような新たなインセンティブが登場し、今どき報奨金などは古いやり方ではないかと考える経営者の方もいますが、権利行使期間の制限があるストックオプションは、厳密な意味では短期インセンティブではありません。
 その点、利益還元賞与や報奨金は、報酬に利益貢献の対価としてのメッセージを持たせる上での強力かつ即時的なメッセージになります。

 また、期中での業績測定や原資配分の難しさ、間接部門の成果判定の難しさ、直接部門との機会均衡の問題などから、制度の検討や導入を躊躇する人事担当者がおられますが、導入時にすべての問題をクリアしようとは考えずに、制度策定の方向性として次の3点を見据え、運用しながら制度を拡充し、納得性のある社内基準を整備していくという考え方でよいと思います。

 ① 社員全員を何らかの業績連動報酬の対象とすることができるようにする
 ② どのような業績・成果をあげた場合にどれぐらいの報酬がでるか予め示せるようにする
 ③ 役職や職群別に支給水準(支給パターン)を定める

 ③については、全員が業績連動報酬の対象となることを前提としつつ、例えば管理職は一般職よりも、営業・事業開発部門の社員はスタッフ部門の社員よりも業績が悪ければ業績賞与(定期賞与)などでシビアな査定を受けるリスクを負っている分、業績が良ければ相応の業績賞与に加えて高い金額の報奨金が得られるチャンスもあるというように、自社内での職層・職群別の相対的なハイリスクハイリターン、ローリスクローリターン構造を定めるということです。


次項⇒〔30〕 年俸制とは何か-その定義と日本型年俸制の特徴、導入のメリット・デメリット

〔30〕 年俸制とは何か-その定義と日本型年俸制の特徴、導入のメリット・デメリット
 

● 年俸制とは賃金の"決定形態"の1つに過ぎない

 年俸制と言うとかつてはプロ野球の選手の年俸しか思い浮かばなかったものですが、日本企業においても1995年ごろから電機・自動車・鉄鋼業界などがコンスタントに導入を始め、現在では大企業の管理職を中心広く普及しています。

 年俸制というのは、賃金の額を年単位で決める制度で、賃金の"決定形態"の1種ということになります(賃金体系や支払形態を指すのではありません)。

 "決定形態"の1つに過ぎないものが"成果主義賃金の究極のスタイル"であるかのように見られるのは、従来の定昇制度による賃金の下方硬直性を撤廃し、働く側の社員の「給料(年収)は毎年上がるものだ」という思い込みを取り除くのに、 「年俸制」という言葉が有効なキーワードだったからだと考えます。

 経営側から見て、自社の処遇制度がパラダイム・シフト(従来支配的だった考え方の転換)をしたことを社員に伝えるのに効果的な用語であったとも言えると思います。

55-30-1grf400.gif日本の企業で今までに導入されてきた年俸制の特徴としては、次の3点があると思います。

 ① いずれも「成果主義」を明確に志向(標榜)している
 ② なのに、年俸の増減幅などは緩やかな運用にとどまるケースが多い(今までは)
 ③ 「月例給×12+業績賞与」という「足し上げ方式」が主流だった(所謂「日本型年俸制」)

 ※ ③の「足し上げ方式」とは、月例給と業績賞与を別々に定め、足し上げたものを年俸とするもので、移行時に月給の減額を避けることができるので導入しやすいというメリットがありますが、従来の賃金制度との違いがわかりにくいという欠点があります。
 一方、もう1つのタイプ「係数配分方式」は、「はじめに年俸ありき」で、それを係数で月額分・賞与分に配分するものです。年俸ダウンはそのまま月給ダウンにつながるので、導入のインパクトは大きいと言えます。


● 年俸制導入のメリットとデメリット

 年俸制を導入するメリットは、
  ①成果主義の徹底や年功的賃金の是正が可能になる、
  ②社員の意識改革や組織風土の改善につながる、
  ③目標管理制度と連動することで社員の業績達成志向が強まる、
  ④フィードバック面接の実施によりコミュニケーション機会が増える、
  ⑤社員個々の年収管理や総額人件費予算の把握が容易になる、

などです。

 デメリットが出るとすれば、それはちょうどメリットを裏返したかたちであらわれます。年俸制は運用次第では、
  ①単なる「結果主義」(結果偏重)に陥る、
  ②チーム連帯感が喪失する、
  ③目標達成基準や評価基準が明確にできない、
  ④フィードバック面談に時間がかかるためフィードバックがおざなりになる、
  ⑤人件費が硬直化する、

などの危険性を孕んでいるのも事実です。


次項⇒〔31〕 年俸制の導入に際して-導入のための条件、賃金制度上・法規上の課題と解決策

〔31〕 年俸制の導入に際して-導入のための条件、賃金制度上・法規上の課題と解決策

 
● 年俸制導入のための条件

 年俸制導入のための条件として、次のような関連制度・システムの整備が必要となります。

 ① 目標管理制度、人事評価制度、年俸額査定のルールの確立

 「目標管理制度」は年俸制導入の必須条件と言ってよいかと思います。
 経営計画から部門目標、個人目標へとブレークダウンされた具体的な業績・成果目標の設定が、運用の要になります。
 「人事評価制度」は、目標管理制度における業績・成果目標に、プロセス評価や行動評価をどこまで加味するかがポイントになりますが、成果主義の考え方から外れないことが原則です。年俸額の決定ルールは、納得性は当然必要ですが、公開し透明性のあるものにすべきです。
 良くない例は、年俸がダウンする理由が評価から明確に示せない⇒年俸ダウンができない⇒大幅なアップもできない⇒「年俸制」が動機付けとして機能しない、といったパターンです。

 ② 評価フィードバック面談、その他補完制度の整備

 評価のフィードバック面談も必須条件です。加えて、自己申告制度やその他のキャリア開発を支援する制度についても検討し、個々の能力や志向と仕事のミスマッチを最小限にとどめる機会均等の人材配置が行われるよう配慮することが必要だと思います。


● 従来の賃金制度との関係上または法規対応上の課題と解決策

 年俸制に移行する際に従来の賃金制度との関係で、あるいは法規との対応関係でいくつかのボトルネック(障壁)が生じることがありますが、その解決策と併せていくつか挙げてみます。

① 諸手当の問題

 諸手当は、単身赴任手当や通勤手当など支給することに一定の合理性のあるもの、または廃止することが極度のディスインセンティブにつながるものなどを除いては、成果主義の考えに沿うならばできるだけ年俸に組み入れ、手当項目としては廃止することを検討すべきです。

 時間外手当については、裁量労働や事業場外労働のみなし時間制であれば、見合い分を年俸に含めて構いません。みなし時間制でなくとも予め割増賃金を含めて年俸を設定することは可能ですが、年俸や月額給与のうちの時間外手当相当額を明示することや、実労働時間に基づく割増賃金の額が見合い分を超過した場合にはその差額分を支払うなどの条件が付きます。

② 賞与の問題

 賞与は、生計費の年間サイクルとの関係から、年俸の賞与配分として残した方が移行・運用はしやすいかと思います。
 その場合に、賞与額完全固定型の年俸制にすると、法規上は割増賃金の算定基礎になってしまいます。
 本来の賞与の性格を残し、賞与変動型(期首に定めるのは賞与の基準額で、実際の支給額が確定しているわけではないという考え方)の年俸制として導入した方が、法規対応上は運用しやすいと考えます。

 退職者の賞与請求権についても、判例は就業規則の支給日在籍要件の優越性を認めていますが(支給日に在籍していなければ支給義務はない)、賞与額完全固定型の年俸制の場合は、専門家の解釈が分かれています(その他に、年俸制における賞与は賞与引当金の対象にならないという税法上の課題もありますが、引当金制度自体が廃止傾向にあるので、年俸制移行時に引当をやめるという対応が考えられます)。


次項⇒〔32〕 年俸制のタイプと年俸の決定時期①-運用しやすい賞与変動型A(賞与仮決定型)

〔32〕 年俸制のタイプと年俸の決定時期①-運用しやすい賞与変動型A(賞与仮決定型)

 
① 完全年俸制

 まず期末に次期年俸額を決め、それを12等分して月々支給するという米国型の年俸制です。
 賞与が無くなるので、一般的な日本企業の社員には馴染まないかもしれません。

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② 賞与固定型

 まず期末に次期年俸額を決め、それを一定係数で等分して月々支給し、残りを夏冬の賞与で支給するタイプです。 
 賞与が固定されるので安定感はありますが、人件費の硬直化、期中のインセンティブ維持、法規上の賞与と認められなくなる可能性、などの問題があります。

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③ 賞与変動型A (賞与仮決定型)

 まず期末に次期年俸額を決め、それを係数で等分して月々支給し、残りを夏冬の賞与で支給するという点では②と同じですが、賞与支給時に半期ごとの業績評価を実支給額に反映させるタイプです。
 人件費の固定化を防ぎ、業績をタイムリーに賞与に反映できるメリットがあります。

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④ 賞与変動型B (賞与別建て型)

 まず期末に次期年俸額を決め、それを12等分して月々支給し、賞与は年俸の枠外で別途支給時に半期ごとの業績評価に基づき支給額を決めるタイプです。
 導入のしやすさはありますが、従来の月給制との違いがあまりはっきりせず、年俸制導入のインパクトは弱くなります。

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次項⇒〔33〕 年俸制のタイプと年俸の決定時期②-「半期年俸制」という考え方もある

〔33〕 年俸制のタイプと年俸の決定時期②-「半期年俸制」という考え方もある

 
① 半期年俸制A (半期決済型)

 半期ごとに次半期の(半期)年俸額を決め、それを一定係数で等分して月々支給し、残りを賞与で支給するというタイプです。
 前節②と同じ賞与固定型ですが、半期ごとに年俸額を見直せるので、企業にとってはリスク回避、社員にとっては年俸改定の機会増大につながります。

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② 半期年俸制B (期待度加味型)

 ①と仕組みは基本的に同じですが、次半期の(半期)年俸額を決める際に、期待度をより加味して決定するタイプです。期中の役割変動にタイムリーに対応できるメリットがあります。

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③ 半期年俸制C (期待度加味型)

 半期ごとに、当半期の業績と次半期の期待度に基づき、むこう1年の年俸を決めるタイプです。
 ですから、かたちとしては1年間の年俸制ですが、考え方としては②の半期年俸制と同じです。

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次項⇒〔34〕 賞与変動型A(賞与仮決定型)年俸制-月額賞与配分と賞与支給額決定のイメージ

〔34〕 賞与変動型A(賞与仮決定型)年俸制-月額賞与配分と賞与支給額決定のイメージ


●賞与変動型(賞与仮決定型)年俸の月額・賞与配分と賞与支給額決定のイメージ

 賞与変動型(賞与仮決定型)年俸は、まず期末に次期年俸(基準年俸)を決定し、一定係数により月額分と賞与分に配分します。

 ただし賞与分はあくまでも基準額(基準賞与)であり、実際の支給に際しては、賞与基準額のうち予め定めた変動部分に半期ごとの会社・部門・個人業績を反映させて金額決定します。(賞与固定部分も、法規上の"賞与"性維持のため、"原則としての"固定部分と断っておきます。)

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● 役割等級別の賞与の支給率(最大・標準・最小)のイメージ    

 賞与変動部分への業績反映については、予め基準を設けておきます。
 (下図は全等級一律に会社業績を反映させ、上位等級は部門業績を中心に、下位等級は個人業績を中心に反映させる例です。ただし個人業績反映の場合は、何らかの形で半期毎の評価が必要になります。)

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次項⇒〔35〕 「全社員年俸制」①-「全社員年俸制モデル」の「基準年俸」構成要素

〔35〕 「全社員年俸制」①-「全社員年俸制モデル」の「基準年俸」構成要素
 

● 「全社員年俸制」を考える

 年俸制は今や多くの企業で導入されていますが、その適用対象の大部分は、管理職と高度専門職です。
 一般職への適用が少ない理由としては、「習熟過程にある社員に年俸制は馴染まない」という説明の仕方もありますが、「年俸制」自体は賃金決定の"形態"に過ぎず、この考え方は「年俸制」の"運用"についての予断が含まれているように思います。

 一般職への適用が少ない実際上の理由には、時間外手当の問題が克服できない、というマインドセット(思い込み)があるかと考えます。年俸とは別に時間外手当を支給すればいいのですが、裁量労働などのみなし時間制であれば、残業見合い分を年俸に含めて構いません。

 それに該当しない一般職も、予め割増賃金を含めて年俸を設定し、年俸や月額給与のうちの時間外手当相当額を明示するとともに、実労働時間に基づく残業手当の計算額が見合い分を超過した場合にはその差額分を支払うなどの条件を満たせば、法規上の問題はクリアできます。


● 「全社員年俸制」モデルの「基準年俸」構成要素

 全社員年俸制の1つのモデルとして、「基準年俸」の構成要素を次の通りとする方法を考えてみました。「基準」という言葉を使うのは、賞与に変動的要素を持たせるためで、年俸額が「固定」額ではないということです。

  ★ 管理監督職の「基準年俸」=「役割年俸+業績年俸」(または「役割年俸」のみ)
  ★ 一般職の「基準年俸」=「役割(キャリア)年俸+残業固定分の年額

 管理監督職を「役割年俸+業績年俸」とするか、「役割年俸」一本とするかは、賃金制度での「役割給」「業績給」の問題と相似形です。同じように考え、自社適合型を選べば良い訳です。

 管理監督職の「役割年俸」一般職の「役割キャリア年俸」も、最初から年間ベースで決定します(1万円単位が妥当です。

 管理監督職の「業績年俸」には、最初から年間ベースで決める方法(1万円単位が妥当です)と、月額ベースで決めて12倍したものを「業績年俸」とする方法(この場合は年額が千円単位になる可能性あり)があります。

 一般職の「残業固定分」の年額は、全員の基準残業時間(毎月これだけの時間は残業するであろう、という時間)を定め、個々の超勤単価に基づき月額を算定し、更にそれを12倍して年額を決めます。 

 もちろん、年間の基準残業時間からいきなり年額算定する方法もあり、この方式だと、繰上げ計算で年額を1万円単位にすることができます。(ただし、支給の際には12等分した額を月々支給するため、年額を1万円単位にすると月額分に端数が出ます。)
 
  「残業固定分」は残業実績に関わらず毎月支払われ、月々において基準残業時間を超過した場合には、超過分の手当を別途支給することになります。
 
そのことを前提に、基準残業時間を「一般職一律」「役割等級別」「職種・職群別」「個人別」のどの決め方をするか選ばなければなりません。
 管理上は「一般職一律」が最も簡便ですが(単価が異なるので、金額は個々に異なる)、その場合、ほとんど残業がない社員にも毎月定額の残業手当が支給されることになります。


次項⇒〔36〕 「全社員年俸制」②-「全社員年俸制モデル」の「基準年俸」の月額・賞与配分方法

〔36〕 「全社員年俸制」②-「全社員年俸制モデル」の「基準年俸」の月額・賞与配分方法


● 「基準年俸」の月額・賞与配分方法

 「基準年俸」の月額分・賞与分への配分は、図のように一定係数で基準月額と基準賞与に配分します。
 月額給与には諸手当が含まれてくる可能性があるので、ここでは、「基準年俸のうちの年間月額分の12分の1」という意味で「基準月額」と言っています。賞与は夏冬に分けて支給しますが、支給時に基準賞与額の一定割合に対して業績反映をさせます。

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 準月額の内訳ですが、管理監督職は、役割給と業績給から成り、業績給は、業績年俸の12分の1(月額ベースで業績年俸を決めた場合は、その当初月額で決めた額)、役割給は「基準月額-業績給」となります。
 
 一般職の基準月額は、役割キャリア給と残業固定手当から成り、残業固定手当は、残業固定手当の年額の12分の1(月額ベースで残業固定手当の年額を決めた場合は、その当初月額で決めた額)、役割キャリア給は、「基準月額-残業固定手当」となります。

 役割給、役割キャリア給が"引き算"で出てくることに違和感があるかも知れませんが、まず年俸を決めて、次に月額と賞与を決めるという手順のため、その時点で月額配分は決まっているので、後は形式的な配分なのです。

 法規に沿うために、月額給与に占めている「残業固定手当」を明示しているのです。「業績給」を明示するのは、そのことによって期中の見直しがし易くなるためです。
 半期ごとに見直すルールとすることも可能です。あくまでも査定対象は。年俸辞令にある"基準年俸"であり、給与明細に表示される"役割(キャリア)給"ではないのです。

 一般職から管理監督職に昇進した場合は、業績年俸を設定している場合は初任業績年俸が加算され、「役割キャリア給+昇格昇給年額」が役割給に、役割年俸一本の場合は「役割キャリア給+所定の額(残業固定手当の年額相当)+昇格昇給年額」が役割給になります。

 すでにお気づきの通り、このやり方だと管理監督職と一般職がほぼ同じシステムで運用することが可能になります。
 一般職から管理監督職への繋がりもスムーズですし、一般職と管理監督職の基準年俸を連続性の中で対比することが可能で、更に、業績給を設定した場合は、一般職の役割年俸と管理監督職の役割年俸も、連続性の中で対比することができます。


次項⇒〔37〕 「全社員年俸制」③-「全社員」のメリット、一般職に適用拡大する理由と期待効果

〔37〕 「全社員年俸制」③-「全社員」のメリット、一般職に適用拡大する理由と期待効果


● 「全社員年俸制」のメリット

 「全社員年俸制」のメリットは、賃金の「下方硬直性」のマインドセットを全社的に取り除くとともに、(基準額としてですが)会社がそれぞれの社員に年間いくら払っているかが一目瞭然となることにあります。
 基準賞与への業績反映を「会社・部門業績」に限定し、個人業績を入れないのであれば、査定が年1回で済むことになり、人事担当者の労務コストの低減にもなります。


● 一般職にまで年俸制を適用拡大する理由

 成果主義の考え方を全社員に浸透させる

 職種や業態によって差はありますが、若年層でも仕事の裁量度が高く、個人の創意と努力で高い業績を上げるケースがあります。
 会社が「成果主義」を標榜していても、そういう個人に報いるシステムが、表彰とか臨時ボーナスなどの一過性のものに限られていては、有能人材に対するリテンション(引き止め)効果は弱いと考えられます。

 ② 目標の遂行結果の評価は年ベースが合理的

 企業の数値目標は年ベースが基本であり、目標管理もそうなります。半期ごとにチェックことは大切ですが、中期プロジェクト的な業務などの場合は、その時点で評価をするとなると、最終結果とのズレが生じる場合があります。また、評価に業績・成果反映の度合いを強めるのであれば、従来のような4月の昇給時に能力査定をし、業績査定は夏・冬の賞与で行う、という教科書的な考え方を見直す必要があるかも知れません。

 ③ 従来の残業手当の不合理を解消する

 業務の進め方についての裁量度が高い仕事、例えば企画業務などはその傾向がありますが、こうした業務は、投入した時間と成果が必ずしも相関関係にないことがあります。
 しかし、時間単価で支払う残業手当は、成果に関係なく、多く残業した人に多く支払われてしまいます。ある程度の水準までは固定額とし、「時間=賃金」という発想を払拭することも、業務の効率化に繋がると考えられます。


● 一般職年俸制の期待効果と補完すべきシステム

 一般職にまで年俸制を適用拡大することの期待効果として次のことが考えられます。

 ① 社員の意識改革......"年俸制"適用者であることが「成果主義」適用者であるという自覚に
 ② 業務のやり方の改善......残業代は固定なので、効率的に仕事をし、結果を出す
 ③ 職場風土の改善......「遅くまで会社にいる人が偉い」「休みがとりにくい」という風土の改善
 ④ 労働時間の短縮......結果として、労働時間が短縮される
 ⑤ 人件費の有効カ活用......予測・制御が困難な流動費が減り、成果配分に再分配可能

 導入に際して補完または充実すべきシステムとして、①目標設定や評価フィードバックの際の面談制度、②自己申告制度などによる機会均等の人員配置、③ 残業時間の抑制(導入前の"時短"運動、導入後の長期間労働の発生予防)などが必要になると考えます。


次項⇒〔38〕 退職金制度改革の方向性と「ポイント制退職金制度」の位置づけ-短期決済化

〔38〕 退職金制度改革の方向性と「ポイント制退職金制度」の位置づけ-短期決済化
 

● 退職金制度改革の方向性

 従来、多くの企業では、退職金の算定に「退職時基本給×勤続年数×退職事由係数」という算定式を用いていてきました。
 しかしこの公式は、勤続年数で支給額が累増するものであり、知らぬ間に高額化してきた退職金が、いま企業の経営・財務に大きな影響を及ぼすようになっています。

 そこで今、企業で、退職金制度の見直しが行われつつありますが、その方向性は、図に示すように ①勤続中立化 ⇒ ②短期決済化 ⇒ ③現金給付化となっています。

① 勤続中立化

 上記のような基本給連動型の算定式の退職金の給付は、年齢に沿って「S字カーブ」になり、40代ぐらいから急に立ち上がります。
 この年代の1年当たりの積み上げ額が、入社時に比べて5倍ぐらいになっているためです。まさに「年功カーブ」とでも言うべきこのSカーブを直線化する、つまり1年当たりの積み上げ額の格差を縮小するというのが、「勤続中立化」の動きです。

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② 短期決済化

 基本給連動型の算定式では、退職時にならなければ退職金の受給額はわかりません。そこで、勤続1年ごとに、その年分の金額を確定させよう(さらにそこに貢献度や評価を反映させよう)という動きが、「短期決済化」です。
 つまり、「その都度確定」という考え方で、これから述べる「ポイント制退職金制度」もここに位置づけられます。

③ 現金給付化

 「その都度確定」を更に発展させて、「その都度確定、その都度払い」にしよう、というのが「現金給付化」の流れであり、後で述べる「退職金前払い制度」確定拠出年金制度(日本版401k)がこれに該当します。


次項⇒〔39〕 退職金の基本給絶縁方式とポイント制退職金制度の種類-併存型・併合型

〔39〕 退職金の基本給絶縁方式とポイント制退職金制度の種類-併存型・併合型
 

● 基本給絶縁の2方式

 「退職時基本給×勤続年数×退職事由係数」という従来の退職金算定式の見直しの方向性として、もう1つは、基本給から絶縁する(基本給を計算の基礎として使わない)という考え方があります。

 「ポイント制退職金制度」はこの考え方に沿うものですが、その他に、算定基礎額を別に設ける「定額方式」も基本給絶縁の1タイプです。

① 定額方式

 算定基礎額を基本給とは別建てにするもので、通常は次のような算定式になります。
 算定基礎額×勤続年数(または勤続指数)×退職事由別係数
 この方式には、基本給を第1基本給と第2基本給に分けて、第1基本給のみを算定基礎とすることで"ベア(昇給)の跳ね返り"を抑える、といった、従来制度の一部修正型のやり方もあり、高度経済成長期、昭和50年代前半に多くの企業で採用されました。

 しかし、本来的な"基本給絶縁" "定額"の考えに沿うならば、基礎額を、(退職時の資格や等級など)何らかの基準に沿って別テーブルで設定するやり方が「定額方式」ということになります。
 ただし、こちらの方はあまり普及していません。

② ポイント制退職金制度(併存型・併合型)

 同じく"基本給絶縁"の考え方に沿う、ポイント制退職金制度は、退職金の算定を1年毎のポイント算定に移行したもので、ポイント単価を変えることで給付水準を調整することができるのと、役割ポイントなどの設定により貢献度反映機能を持たせることができるのが、大きな特長です。

 役割等級制度におけるポイント制退職金制度には、「勤続ポイント」(勤続1年毎のポイント)と「役割ポイント」(勤続1年毎にどの役割等級に該当していたかで得られるポイント)の「併存型」と、「役割ポイント」に「勤続ポイント」を併合し、「役割ポイント」一本にした「併合型」の2タイプがあります。それぞれ、通常は次のような算定式になります。

A.「併存型」...(勤続ポイント累計+役割ポイント累計)×ポイント単価×退職事由別係数
 この方式での「勤続ポイント」は勤続年数に正比例させる必要はなく、したがって勤続が一定年数を超えると1年毎に積み上げるポイント数を減じることにより(あるいはポイントの積み上げを停止することにより)、長期勤続による給付の増大を抑制することが可能になります。

B.「併合型」...役割ポイント累計×ポイント単価×退職事由別係数
 この方式は、「役割ポイント」が、その年にどの役割等級に属していたかによって積み上げるポイント数こそ異なるものの、"1年ごとに何ポイントか積みあがる"というのは事実であり、そうであれば「勤続ポイント」は要らないのではないか、という考えによるものです。
 当然、一般的には「併合型」の方が貢献度反映の度合いを強めることができますか、それだけに新制度の退職金カーブと従来の退職金カーブで大きな差が出る可能性があります。


次項⇒〔40〕 ポイント制退職金制度の概要①-併存型の勤続ポイント・役割ポイント設定例、計算例

〔40〕 ポイント制退職金制度の概要①-併存型の勤続ポイント・役割ポイント設定例、計算例
 

● 併存型ポイント制(勤続ポイント+役割゚イント)のポイント設定例と退職金計算

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 この例では、1年あたりの「勤続ポイント」は、勤続5年超で大きく引き上げ、20年超で最大になりますが、25年を超えると小さくなり、35年を超えると新たには付与していません。

 「役割ポイント」は、"平社員"からチーフ(S2)または主任(S1)クラスに昇進したときに1年当たりに付与するポイントを引き上げ、さらに管理職(M)になったときに大きくしています。

 どこに付与ポイントのアクセントを置くかはそれぞれの企業の考え方によります。(自己都合係数は、最近の制度改定の傾向では、90%〜100%到達に要する年数が早まっています。)

 勤続25年の上級管理職(M1)社員が自己都合で退職した場合、ポイント単価1万円として退職金がいくらになるか計算例を示します。

図19.gif


次項⇒〔41〕 ポイント制退職金制度の概要②-ポイント制の特長と併合型の制度設計の流れ

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