【3172】 ○ 松本 清張 「鉢植を買う女」―『影の車』 (1961/08 中央公論社) ★★★★

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裏切られた中年女性の怨念と復讐。結構ホラーだった(笑)。

『影の車』1.jpg『影の車』2.jpg 「鉢植を買う女」1.gif 「鉢植を買う女」余泉.gif.jpg
影の車 (1961年)』『影の車: 松本清張プレミアム・ミステリー (光文社文庫プレミアム)
「松本清張特別企画・鉢植を買う女」['11年/テレビ東京]余貴美子・泉ピン子

 上浜楢江は精密機械会社に勤めているが、女性社員としては最年長となっていた。不器量の彼女は、美しい同僚2人が若い社員からもてるのをよそに、恋愛の対象から除外されていた。楢江は美人の同僚に言い寄る男たちの言葉に次第に耳をふさぐようになり、懸命に仕事に精を出した。結婚に諦めを持つようになった彼女には、金さえあれば、いかなる不幸も、ある程度は防げるように思われた。やがて楢江はかなりの金を貯め、金銭的に苦しむ社員に対して、金貸しを始める。会計課の杉浦淳一も楢江から金を借りる常連となった。返済が溜り、利子も払えなくなった杉浦は、それを棒引きさせるため、楢江を陥れることを思い立つ―。

 先に取り上げた「潜在光景」同様、松本清張の「婦人公論」1961(昭和36)年1月号から8月号まで連載され、同年8月、中央公論社より単行本が刊行された連作短編『影の車』の内の1つ(「婦人公論」1961年7月号発表)。

 杉浦は会社から800万円を横領し、彼が計略的に自分の愛人とし上浜楢江のところに転がり込みますが、自分を利用するだけ利用してポイ捨てしようとしている男に、この独身中年女性は復讐する―。結構ホラーだったなあ(笑)。松本清張の作品には、こうした裏切られた女性の怨念を描いたものが多いですが、これはその典型です。蓄財してアパート経営するのが夢が唯一の夢になってしまった女性の姿が哀しいですが、でも、彼女は結果的には"完全犯罪"を成し遂げてしまっている!(彼女にとってはハッピーエンド?)。

 この作品はこれまでに以下3回ドラマ化されています。

 ・1962年「黒の組曲・鉢植を買う女」(NHK) 中北千枝子・近藤洋介
 ・1966年「松本清張シリーズ・鉢植を買う女」(関西テレビ・フジテレビ) 根岸明美・寺島達夫
 ・1993年「松本清張スペシャル・鉢植を買う女」(テレビ朝日)池上季実子・布施博
 ・2011年「松本清張特別企画・鉢植を買う女」(テレビ東京)余貴美子・泉ピン子・田中哲司

「鉢植を買う女」余.gif.jpg「鉢植を買う女」2.jpg この内、2011年にテレビ東京系列の「水曜ミステリー9」枠で放映された余貴美子版を観ました。中堅精密機械メーカーに30年勤める独身OLの上浜楢江を余貴美子が演じていますが、口うるさい性格で社内で疎まれているものの、原作のように社内で完全に孤立しているのではなく、泉ピン子が演じ社員食堂の従業員・岸田茂子とは比較的何でも話す間柄です。

「鉢植を買う女」5.jpg「鉢植を買う女」3.jpg 実は、(原作には無い)この岸田茂子は、以前は社内で個人的に金を貸し、その利子で密かに金を稼いでいたのが、今は楢江がそれをやっている(つまり、茂子から客を奪った)ということで、この二人の微妙な関係の変化が、事件解決の鍵を握ることになり、ドラマ版では(ありがちだが)完全犯罪は成立せず、最後は茂子が楢江に、男性に恋心を抱いたのがその失敗の原因だったというような諭し方をするところで終わっていたのではないかと思います。

「鉢植を買う女」佐藤.jpg 原作では、茂子がどうやって犯行後に死体を隠したのか推察させるつくりになっていて、最後の、彼女がアパートを建てる花壇の土には「動物性の脂が十分に滲みこんでいた」というのが不気味ですが、ドラマでは、土一杯のガス風呂の木桶が出てくるので何だかリアル。佐藤二朗演じる刑事が家宅捜索して、木桶の蓋を開けるところでヒヤッとさせますが、その時にはすでに死体は別所に移し終えていて...(木桶の内側が綺麗すぎるのが不自然だが)。

 彼女が会社に留まっているのは、男性社員と定年年齢が同じだからで、それは今なら当たり前のことのようですが、実は彼女が入社した終戦直前は世間一般に男女で定年年齢の差が無かったのが、その後、例えばこの作品の会社で言えば昭和25,6年から男性と女性で定年格差を設けたとなっており、この後、世間一般にも男性と女性で定年格差のある時代が長く続くわけです。そうなる前に18歳で入社し、昭和25年には23歳になっていた主人公には、改定後のルールが適用されないということだったのです(結果として主人公は、全社で3人しかいない中年女性社員の一人となる)。

 それから、彼女は自宅の風呂が使えなくって(なぜ使えなくなったのがこの作品のヤマなのだが)「会社の風呂」を使うようになったとありますが、かつてはメーカーなどであれば会社や工場の敷地内に風呂があるのが当たり前だったということです。風呂どころか、診療所や娯楽施設、集会場、公園などもあったりするというのがごく普通に見られたのではないでようか。こうした手厚い福利厚生は今では考えれないなあと、ふと思ったりしました。

「鉢植を買う女」松村.jpg「鉢植を買う女」t.jpg「松本清張特別企画・鉢植を買う女」●制作年:2011年●監督:大岡進●脚本:西岡琢也●選曲:御園雅也●原作:松本清張●出演:余貴美子/泉ピン子 /田中哲司/筒井真理子/佐藤二朗/佐々木すみ江/マギー/山口翔悟 /渡辺いっけい/津村鷹志/池田道枝/松村邦洋/加藤虎ノ介●放映:2011/11/09(全1回)●放送局:テレビ東京
松村邦洋(花屋の店主)

【1973年文庫化[中公文庫]/1983年再文庫化[角川文庫]/2018年再文庫化[光文社文庫(松本清張プレミアム・ミステリー)]】

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