【3169】 ◎ 佐藤 泰志 「きみの鳥はうたえる」―『きみの鳥はうたえる』 (1982/03 河出書房新社) ★★★★☆

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いい作品(と言うか、好みの作品)。芥川賞を受賞していたら、と考えてしまう。

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きみの鳥はうたえる』『きみの鳥はうたえる (河出文庫) 』/映画「きみの鳥はうたえる」(2018)柄本佑/石橋静河/染谷将太
『きみの鳥はうたえる』1982.jpg 1981(昭和56)年下期・第85回「芥川賞」候補作。

 冷凍倉庫のアルバイトで知り合った僕と静雄。2人は意気投合し共同生活を始める。静雄の数少ない持ち物の中にはレコードもあり、それは全てビートルズのものだった。部屋にはレコードプレイヤーが無く、2人で飲んだ時に静雄はビートルズの「And Your Bird Can Sing」を歌ってくれた。その後、僕は東京郊外の国立にある書店で働き始め、そこで一緒に働く佐知子とやがて恋仲となり、静雄との生活に佐知子も加わり、3人で夜通し飲み明かす生活が始まる。楽しくも切ない3人の夏のひとときが過ぎようとしていく―。

 佐藤泰志(1949-1990/41歳没)の雑誌「文藝」の1981(昭和56)年9月号に発表された最初の芥川賞候補作で、その後も4作品が芥川賞候補作(第88・89・90・93回)となりますが、結局何れも受賞に至りませんせした。その中でも、この作品は惜しかったような気がします。選考委員の中では丸谷才一の「これは青春の哀れさと馬鹿ばかしさという、もうすっかり陳腐なものになってしまった主題、いや、文学永遠の主題の一つを扱ったもので、かなり読ませる。特にいいのは若者たちに寄り添いながら、しかしいつも距離を取っていることである」というのが、最も推している評になるでしょうか。

 21歳の若者男女3人の三角関係を描いていて、作者と同世代作家である村上春樹の初期作品なども想起しましたが(ビートルズの曲からタイトルをとっているのは『ノルウェイの森」』('87年)よりこちらが先)、いちばん雰囲気的に近いのは、作者自身の後の作品『そこのみにて光輝く』だったでしょうか。これも、第2回「三島由紀夫賞」(1988(昭和63)年度)、第11回「野間文芸新人賞」(1989(平成元)年)の候補作でした。そう言えば、村上春樹も2度「芥川賞」候補になっていますが(第81・83回)、結局受賞していません(「野間文芸新人賞」は2度候補になって(第1・2回)、3回目『羊をめぐる冒険』で受賞している)。

 この「きみの鳥はうたえる」という作品の最も不思議なところは、主人公が静雄に恋人である佐知子を譲っているように見えるところで、作品の中ではその理由を解き明かしていない点です。これは、いろいろな見方があると思いますが、個人的には、主人公は佐和子を通じて静雄と繋がっていたいと思っていて、自分が佐和子を独占するよりはその方が主人公にとっては心地良い状態だったのではないかという気がしました。実際、「そのうち僕は佐知子をとおして新しく静雄を感じるだろう、と思ったことは本当だった」「今度僕は、あいつをとおしてもっと新しく佐知子を感じることができるかもしれない」と小説の終わりの方にあります、

 ただ、結末については、静雄の家庭に関する終盤の展開は余分だったのではないかという批判もあって、丸谷才一でさえも、「ただし、お終いの方は感心しない。人殺しなんか入れなくたっていいのに。佐藤さんは小説的な恰好をつけようとして、かえって話のこしらえを荒つぽくしてしまった」と批判的でした。又吉直樹氏の『火花』('15年)が「芥川賞」候補になった際に、最後に、主人公の憧憬する神谷が豊胸手術をしたという結末に、批判があったのを思い出しました(でも『火花』は芥川賞を受賞したが)。

 個人的には、ラストへの批判は分かる気もしますが、それでもいい作品だと思います(と言うか、好みの作品)。また、正直、この時この作品が芥川賞を受賞していたら、この作家はその後どうなっただろうという思いもあります。でもやはり、当時のバブル経済に向かおうとする日本においては、あまりに"古い""後ろ向き"な感じの作品と見られたのかもしれません。だから、この作家は、バブル経済が崩壊してから注目されたのかも。

 作者の『海炭市叙景』('91年)が函館にあるミニシアター「シネマアイリス」支配人の菅原和博氏が映画化を実現したのを契機に、その後「そこのみにて光輝く」「オーバー・フェンス」と映画化され、この「きみの鳥はうたえる」もシネマアイリスの開館20年を記念して2018年に三宅唱監督により、原作の舞台を東京から函館へ移して、オール函館ロケで映画化されています(その後、併録の「草の響き」も映画化された)。

きみの鳥はうたえる [DVD].jpg「きみの鳥はうたえる」●制作年:2014年●監督・脚本:三宅唱●製作:菅原和博●撮影:四宮秀俊●音楽:Hi' Spec●原作:佐藤泰志●時間:106分●出演:柄本佑/石橋静河/染谷将太/足立智充/山本亜依/柴田貴哉/水間ロン/OMSB/Hi' Spec/渡辺真起子/萩原聖人●公開:2018/09●配給:コピアポア・フィルム+函館シネマアイリス(評価:)

きみの鳥はうたえる [DVD]

【2011年文庫化[河出文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2022年7月 4日 00:33.

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