【3168】 ○ 瀬戸内 寂聴 (画:横尾忠則) 『奇縁まんだら 終り (2011/12 日本経済新聞出版) ★★★☆

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シリーズを通して亡くなった人に対するレクイエムだったのだなあと。

『奇縁まんだら 終り』0.jpg奇縁まんだら 終り 2011.jpg奇縁まんだら 終り

 著者自身が縁あって交流したことのある文学者や芸術家との間のエピソードを綴ったエッセイに、彼女と親交の深かった横尾忠則氏が、エッセイに登場する人たちの肖像画を描いて(装幀も担当)コラボした本の、全部で4集の内の第4弾。日本経済新聞の連載で言うと、2010年9月から2011年11月にかけてになります。登場する人物は、第1集の21人、第2集の28人、第3集の41人からさらに増えて45人です。

 連載が始まったのが2007年1月で、著者の年齢で言うと84歳から89歳まで書き続けたことになりますが、3冊目が出た2010年に背骨圧迫骨折で作家になって初めて休筆した半年、「奇縁まんだら」としては6回分休んだだけというのがスゴイです。病も癒えぬうちに再開し、他の連載はすべて休ませてもらって「奇縁まんだら」だけ書き続けたというから相当の入れ込み様です。「最後の章は、個人となった「瀬戸内寂聴」で締めくくれればスマートだなと思っていた」と―。でも、連載を終了してから10年も生きて、2021年11月に99歳で亡くなっています。

 第4集は、吉村昭から始まって、やはり基本的には同業である作家が多いでしょうか。ただ、他分野の芸術家や俳優などもこれまでと同様に入ってきます。作家といっても、表紙にも横尾忠則氏の肖像画がきていますが、ボーボワールやパール・バックなどの"大物"も出てきて、実際に見たり会ったりしており、まさに"生き証人"という感じです。

 裏表紙にもある池部良の、「かの子繚乱」の舞台で岡本一平役を演じた時の話が面白かったです。池部良が以前に舞台で台詞が飛んでしまったのを知っていてダメだろうと言っていた岡本太郎が、本番を見て驚いたという―。岡田嘉子とはモスクワで会ったのかあ。後に日本で会って対談した際に馬鹿にされて、自分のことを書いていいと言われ、書いてやるものかと(笑)。やっぱり人間、合う合わない、好き嫌いはあるみたい。寺山修司とはミュンヘンで会ったのかあ。エノケンこと榎本健一と会ったときは、修行を積み上げた賢僧に向かい合っている気持ちだったと―。作家以外の職業の人の方が好き嫌いが出ている?

 永田洋子、永山則夫といった死刑囚なども出てくるのは、そうした人たちとの往復書簡があったり接見する機会があったりしたためのようです。そう言えば、第1集から第4集まで登場した135人全員が、連載執筆の時点ですでに故人となっており、このシリーズはそうした人たちへのレクイエムだったのだなあと改めて思いました。

 巻が進むと、そのうち連載時点で生きている人の話も出てくるのかなあと思って読んでいましたが、そういうコンセプトではなかったと途中で気がついた次第です。ホントは、第1集から人物のプロフィール紹介のところに墓の写真が多く出てくるので、その時点で気づくべきでした。

 因みに、最後に登場したのは永平寺第78世貫首の宮崎奕保禅師で、やはり著者は僧侶だなあと。禅師は108歳で亡くなっていますが、著者が数えで84歳の時の数え105歳の禅師との間の思い出を書いています。個人的には、NHKの立松和平がインタビュアーを務めたドキュメンタリー「永平寺 104歳の禅師」('04年)で見た記憶があり、著者の話もその頃でしょうか。お坊さんって時々すごく長生きする人がいるなあと思ったりしました。

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