【3164】 ◎ 小梅 けいと (原作:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ/監修:速水 螺旋人) 『戦争は女の顔をしていない (全3巻)』 (2020/01 KADOKAWA) ★★★★☆

「●コミック」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【1352】 東風 孝広 (原作:田島 隆) 『カバチタレ!
「●世界史」の インデックッスへ 「●「日本漫画家協会賞」受賞作」の インデックッスへ 「○コミック 【発表・刊行順】」の インデックッスへ

原作ノンフィクションを漫画にしようと思い、それをやってのけたこと自体がすごい。

戦争は女の顔をしていない 1.jpg戦争は女の顔をしていない 2.jpg 戦争は女の顔をしていない 3.jpg  戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫).jpg
戦争は女の顔をしていない 1』『戦争は女の顔をしていない 2』『戦争は女の顔をしていない 3』『戦争は女の顔をしていない (岩波現代文庫)
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ.jpg『戦争は女の顔をしていない』014.jpg 『チェルノブイリの祈り』(1997)などの著作により、2015年にノーベル文学賞を受賞したベラルーシの作家・ジャーナリストであるスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ(1948年生まれ)による、第二次世界大戦の独ソ戦に従軍した女性たちの聞き取りがまとめられたノンフィクション『戦争は女の顔をしていない』(1984)のコミカライズ作品です(小梅けいとが作画を担当し、速水螺旋人が監修)。2019年4月27日からウェブコミック配信サイトComicWalker(KADOKAWA)で漫画の連載が始まり、2020年1月にコミックス第1巻が発売。個人的には、原作を先に読み、続いてコミックを読みました(2021年7月、第50回「日本漫画家協会賞」が発表され、「まんが王国とっとり賞」に本作が選出されている)。

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ 6.jpg[戦争は女の顔をしていないil2.jpg 原作は、アレクシエーヴィッチが雑誌記者だった30歳代、1978年から500人を超える女性たちから聞き取り調査を行ったもので、本は完成したものの、2年間出版を許可されず、ペレストロイカ後に出版されています。当時ベラルーシの大統領だったアレクサンドル・ルカシェンコは祖国を中傷する著書を外国で出版したと非難し、ベラルーシでは長らく出版禁止になっていたようです。
戦争は女の顔をしていない

プーチン ルカシェンコ.jpg プーチンやルカシェンコには批判的で、特にベラルーシではその著書は独裁政権誕生以後、出版されず圧力や言論統制を避けるため、2000年にベラルーシを脱出し、西ヨーロッパを転々としたが、2011年には帰国、プーチン・ロシアがウクライナに侵攻し、それをルカシェンコが支持しているという2022年現在においてはどうしているかというと、。2020年に持病の治療のためドイツに出国し、以来ドイツに滞在しているとのこと、今年['22年]5月に74歳になっており、祖国に戻れる日が来るのか心配です。

 『チェルノブイリの祈り』でのチェルノブイリ原子力発電所事故に遭遇した人々の証言も衝撃的でしたが、こちらも強烈です。『チェルノブイリの祈り』が約300人に取材しているのに対し、こちらが約500人に取材していて、実に精力的に話を聞いて回ったことが窺えます。コミカライズに際して、どうエピソードを抽出しどうまとめるか難しいところだったのではないかと思いますが、上手くまとめているように思いました。

 戦線に駆り出された女性たちは、医療・看護・衛生関係者が多かったようですが、飛行士や高射砲の指揮官などもいて、目の前で人の命が一瞬にして奪われていくのを見ており、さらには女性狙撃兵もいて、これは逢坂冬馬氏のべしとセラー小説『同志少女よ、敵を撃て』('21年/早川書房)のモチーフにもなっています。

『戦争は女の顔をしていない (全3巻)』1.jpg コミックを見て思ったのは、アレクシエーヴィッチが30歳代とまだ若かったのだなあと(絵は少し若すぎて20代にしか見えないが)。インタビューを受ける側も、原作を読んだ時はかなり高齢かと思いましたが、まだ50代前半ぐらいの年齢だったのではないかと思います。若い頃の壮絶な体験ということもあり、まったく忘れてはおらず、むしろ話すことができるようになるのに戦後20余年を経る必要があったといった内容の話も多かったように改めて思いました。

 単行本第1巻の帯には、「機動戦士ガンダム」の富野由悠季氏が推薦文を寄稿していますが、小梅けいと氏、速水螺旋人氏との対談では、「この原作の内容をマンガ化するのは、正気の沙汰とは思えない」と言い(帯にも「蛮勇」と書いている)、「戦争を知らない世代だから描ける」のだとまで言っています(特に「小梅世代」を指して言っている)。富野氏が、「あっけらかんと描いていることが、救いだと思います」と述べているのは、それだけコミカライズによって"抜け落ちる"ものも大きいということを言っているのだと思います。

 それでも、この原作ノンフィクションを漫画にしようと思い、それをやってのけたこと自体がやはりすごいことではないかと思います(小梅氏は、いつかこうの史代氏の『この世界の片隅に』のような作品を書いてみたいとの思いはあったようだが)。個人的にも、ビジュアライズされることでイメージに肉付けがされた面があり、原作本と併せて読んで決してがっかりさせられるようなレベルではなかったように思いました。

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2022年6月19日 03:08.

【3163】 ◎ アンソニー・ホロヴィッツ (山田 蘭:訳) 『ヨルガオ殺人事件 (上・下)』 (2021/09 創元推理文庫) ★★★★☆ was the previous entry in this blog.

【3165】 ◎ 逢坂 冬馬 『同志少女よ、敵を撃て』 (2021/11 早川書房) ★★★★☆ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1