【3146】 ○ ロベール・ブレッソン 「たぶん悪魔が」 (77年/仏) (2022/03 マーメイドフィルム/コピアポア・フィルム) ★★★☆

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「白夜」「ラルジャン」と同じ研ぎ澄まされた現代劇。少し入り込みにくかったか。

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たぶん悪魔が [DVD]
「たぶん悪魔が」 1.jpg 裕福な家柄に生まれた美貌の青年シャルル(アントワーヌ・モニエ)は、自殺願望にとり憑かれている。左翼の政治集会や宗教論争に精神分析、そして環境問題を論じる大学サークルやヒッピーたちの集いに参加しても、そこに自分の居場所を見いだすことができず、違和感を抱くだけで何も変わらない。環「たぶん悪魔が」f1.jpg境破壊を危惧する生態学者の友人ミシェル(アンリ・ド・モーブラン)や、シャルルに寄り添う二人の女性アルベルト(ティナ・イリサリ)とエドヴィージュ(レティシア・カルカノ)と一緒に過ごしても、死への誘惑を断ち切ることはできない。やがて冤罪で警察に連行されたシャルルは、さらなる虚無にさいなまれていく―。

「たぶん悪魔が」 2.jpg ロベール・ブレッソン監督が1977年に手掛けた作品で、第27回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員特別賞)を受賞していますが、日本では今年['22年]3月に初の劇場公開が実現した作品です。「たぶん悪魔が」というタイトルは、『カラマーゾフの兄弟』の中にあるイワンの「悪魔が裏で手を引いている」という表現から引いているとのことです(これ、イワンが父フョードルに神はいないと説き、では神を"でっち上げた" のは誰かと訊かれ、「悪魔でしょ、たぶん」と答えるも、さらにイワンは悪魔もいないと言う)。ブレッソン作品の中でも実験的な作品と言え、76歳にしてここまでラジカルな映画を撮るブレッソンには敬服しますが、それゆえに日本での公開が遅れたように思えなくもないです(ビデオグラム化としては、'08年に紀伊國屋書店よりリリースされた「ロベール・ブレッソン DVD-BOX」(3枚組)に収められた)。

「 たぶん悪魔が」 3.jpg 主人公のシャルルは裕福な家柄に生まれた美貌の青年で、頭脳も優れていて、二人の女性の恋愛の対象にもなっているわけですが(それでいて行きずりのの女性と寝たりもする)、それでも死への誘惑にとり憑かれたらアウトなのだろなあ。一昨年['20年]に芸能人の自殺が相次いだのを思い出しました。シャルルの死を希求する気持ちの特徴は、彼の死への道筋に絡むように挿入される撲殺されるアザラシ、切り倒される木々、水俣病患者、核実験といった映像の数々から窺えるように、人類の未来への不安と同調している点です。

 冒頭に「ペール・ラシェーズ墓地で青年が自殺、いや他殺か?」という新聞記事を示しておいて、では実際に主人公がどのような自死の方法を選んだのかと思ったら、ラスト、薬物中毒の友人に自分を背後から射殺させた!(これって予想外だった)。 ベルリン国際映画祭の審査員だったでライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督が絶賛し、フランソワ・トリュフォーが「すばらしく官能的」と評した作品ですが、ちょっとついて行きにくい面もありました。

「たぶん悪魔が」 21.jpg その作品限りの素人ばかりを採用し(出演者を「モデル」と呼んだ)、音楽はほとんど使用せず、感情表現をも抑えた作風を貫くその作風(自らの作品を「シネマトグラフ」と称している)はこの作品においても徹底していて、友人や恋人がが自殺しそうな雰囲気だと周囲の人間はもっと焦って大騒ぎになりそうな気がしなくもないですが、この映画(「シネマトグラフ」と言うべきか)では、本人も周囲も意外と飄々としています。でも、その方が何となくリアリティがありそうな気もしました。

 現代の若者を描いているという点で、この作品の前と後のブレッソンの作品であるドストエフスキー原作の「白夜」('71年)、トルストイ原作の「ラルジャン」('83年)と同系譜のように思えましたが、それら二作と同様に映像的に研ぎ澄まされているものの、個人的には正直それらより少し入り込みにくかったかなという印象です。

 このブレッソン監督の晩年現代劇3作(あと、今回「たぶん悪魔が」と同時公開された「湖のランスロ」('74年)があるが、時代設定は中世アーサー王伝説の時代になる)では、個人的評価は「白夜」がいちばんで、「ラルジャン」がそれに次いで、この「たぶん悪魔が」はその次でしょうか。ほとんど感覚的な好みであり、理屈で説明すると後付けになりそうです。

白夜」('71年)(ドストエフスキー原作)/「ラルジャン」('83年)(トルストイ原作)
「白夜」(ブレッソン版).bmp 「ラルジャン」 (83年/仏・スイス).jpg「ラルジャン」ブレッソン.jpg

「たぶん悪魔が」 [.jpg「たぶん悪魔が」●原題:LE DIABLE ROBABLEMENT(THE DEVIL PROBABLY)●制作年:1977年●制作国:フランス●監督・脚本:ロベール・ブレッソン●製作:ステファン・チャルガジエフ●撮影:パスカリーノ・デ・サンティス●音楽:フィリップ・サルド●時間:97分●出演:アントワーヌ・モニエ/ティナ・イリサリ/アンリ・ド・モーブラン/レティシア・カルカノ●日本公開:2022/03●配給:マーメイドフィルム/コピアポア・フィルム●最初に観た場所:新宿シネマカリテ(22-04-19)(評価:★★★★)●併映(同日上映):「湖のランスロ」(ロベール・ブレッソン)

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This page contains a single entry by wada published on 2022年5月 8日 05:28.

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