【3138】 ◎ 井上 昭 (原作:松本清張) 「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件 (1979/05 テレビ朝日) ★★★★☆

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女主人公をイノセントとして描いている。原作を改変して成功している稀有なドラマ化例。

松本清張の種族同盟0.jpg 松本清張の種族同盟1.jpg 火と汐  ポケット文春 1968.jpg 火と汐  文春文庫 旧.jpg
土曜ワイド劇場「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」['79年/テレビ朝日]小川真由美/高橋幸治『火と汐 (文春文庫)
種族同盟 松本清張3.jpg松本清張ほか著/日本推理作家協会編『種族同盟―現代ミステリー傑作選1〈策謀・黒いユーモア編〉』(カッパ・ノベルス 1969.01)
 千鶴子(小川真由美)は旅館から旅館、仕事から仕事へと流れ歩く"渡り中居"。そんな千鶴子に思わぬ災難がふりかかる。彼女の色気に目をつけた議員秘書に犯され、誤って崖から突き落としてしまったのだ。そして、千鶴子は逮捕されてしまうが、一人の高い野望を抱いた男(高橋幸治)が国選弁護士となり、無罪判決を勝ち取るが―。原作は松本清張の中編推理小説で、「オール讀物」1967(昭和42)年3月号に掲載され、1968年7月に中短編集『火と汐』収録作として、文藝春秋(ポケット文春)から刊行されています(その後、文春文庫で文庫化)。また黒の奔流 01 -  コピー.jpg、カッパ・ノベルス『現代ミステリー傑作選1〈策謀・黒いユーモア編〉』('69年)に表題作として収録されています。渡邊祐介監督、岡田茉莉子・山崎努主演で、「疑惑」('82年/松竹)の10年前に「黒の奔流」('72年/松竹)として映画化されているほか、これまで以下3度テレビドラマ化されています。
渡辺 祐介 「黒の奔流」 (1972/09 松竹) ★★★★

 •1979年「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」(テレビ朝日)小川眞由美・高橋幸治・金沢碧
 •2002年「松本清張没後10年記念企画・黒の奔流」(テレビ朝日)渡瀬恒彦・さとう珠緒・純名里沙
 •2009年「松本清張生誕100年特別企画・黒の奔流」(テレビ東京)船越英一郎・星野真里・黒谷友香・賀来千香子

「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」('79年/テレビ朝日)小川真由美/高橋幸治/金沢碧
松本清張の種族同盟3.jpg松本清張の種族同盟 6.jpg この1979年版の小川真由美演じる被告は、映画版と同じく旅館の女中(渡り仲居)で(千鶴子、つまり原作で殺害される女性と同じ名前になっている)、彼女の色香に目をつけた客の議員秘書に犯され、彼を崖から渓流に突き落として死なせてしまいます。警察に捕まって尋問されますが、本人に殺意がなかったこともあってか無実を訴え、資力がないので国選弁護人をつけることになりますが、その案件引き受けた弁護士が、高橋幸治演じる矢野弁護士で(原作は一人称で語られるため、弁護士の名は出てこず、この「矢野」という名は映画と同じ名前)、その助手の金沢碧が演じる由基子は(これは原作でもそのことが示唆されているが)彼の愛人ということになっています(男女の入れ替えをはじめ、全体の設定としては原作より映画「黒い奔流」にずっと近い)。

阿刀田高.jpg 小説家の阿刀田高はその著書『松本清張あらかると』(1997年/中央公論社)で「種族同盟」のドラマの脚色を賞賛していて、少し長くなりますが引用します。

松本清張の種族同盟ド.jpg 「〈種族同盟〉のテレビ化は、実にみごとなものであった。もちろん小説を映像化して絶讃を受けた映画やテレビ・ドラマは他にもたくさんあるだろう。どちらかと言えば、テレビより映画のほうによい作品が多いような気がするけれど、テレビ化だって捨てたものじゃない。名品を次々に思い出すことができる。だが、私がここでことさらに〈種族同盟〉を挙げるのは、作品の筋が原作から大きく変更されたにもかかわらず、見どころのある物語をあらたに創っていたからである。しかもその変更の理由が(これはあくまで私の推測ではあるけれど)―テレビ的だなあ―と思いたくなるような、けっして本質的ではないものなのに、ドラマ化された結果は本質的な条件をクリアーしていた。ありていに松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件454.jpg言えば「小説をテレビ化するとき、テレビ局の側にもいろいろ事情はあるでしょう。しかし変更するなら、このくらい、熟慮して変えてください」と、あらまほしき例として挙げたくなるのが、この〈種族同盟〉のテレビ・ドラマ化であった。(中略)〈種族同盟〉のドラマ化は、原作のエンドマークの先にたっぷりと新しいものをつけたして違和感のないものとした。付加するならば、このくらいうまく繋げてほしい。主人公を男から女へ変えるなら、ここまで工夫してほしい。小説〈種族同盟〉と、テレビ・ドラマ化された映像と、どちらがよいかは、むつかしい問題ではあるけれど、私としては、「小説のほうは凄味があるけれど、陰鬱だからなあ。テレビのほうがある種の女のあわれさがよく出ていて、ここちはいいね」と言いたくなってしまう。いずれにせよテレビドラマ〈種族同盟〉は、原作を大きく変えて、しかも充分に成功した珍しい例、と、私は特筆大書したいのである。」

 個人的にも阿刀田氏とほぼ同意見で、やはり脚本が優れているのでしょう。原作や映画化作品と大きく異なるのは、小川真由美演じる千鶴子が"イノセント"として描かれていることで、彼女が無罪を訴えるのも自分は何も悪いことはしていないという"イノセント(無実)の心情"によるものであり、彼女の高橋幸治演じる弁護士に対する想いも"イノセント(純粋)な愛"であって、これが最後まで貫かれていました。弁護士が婚約しても、「先生の結婚は邪魔しない」と言い、妊娠を口実に結婚を迫った映画版とは真逆と言えるかもしれません。

8話)/悪魔のような美女 o.jpg松本清張の種族同盟4.jpg ただ、この"イノセント"を実際に演じるのは相当に難しいはずであり、それをリアリティをもって演じ切った小川真由美ってすごいなあと思いました。同じ「土曜ワイド劇場」枠で同年4月放映の「江戸川乱歩 美女シリーズ(第8話)/悪魔のような美女」('79年/テレビ朝日)で『黒蜥蜴』の緑川夫人(魔性の女賊・黒蜥蜴)を演じたばかりだったはずですが、演技の幅を感じます(出演映画では、前年の6月に「鬼畜」('78年/松竹)、この年の4月「復讐するは我にあり」('79年/松竹)が公開されている。まさに絶頂期)。

松本清張の種族同盟図9.jpg松本清張の種族同盟 t.jpg 最初の方で小川真由美演じる千鶴子と議員秘書の絡みがあって、しかも千鶴子がたまたまゆっくり走っていたトラックに飛び乗るシーンがあるので(これが意図せず時間トリックとなって彼女の無罪につながるのだが)、原作と違って言わば倒叙ミステリーになっています。その分、ミステリとしての意外性は削がれていることになりますが、ドラマはあくまでも千鶴子が主人公である作りなので、あまり気になりませんでした。

松本清張の種族同盟5.jpg松本清張の種族同盟6.jpg 高橋幸治(1935年生まれ)も悪くなかったです(映画で弁護士を演じた山崎努(1936年生まれ)と似た感じか)。NHKの大河ドラマ「太閤記」('65年)で織田信長、連続テレビ小説「おはなはん」('66年)で速水中尉を演じて人気を博した俳優です。山崎努より1歳年上なだけですが、今世紀に入ってから引退状態にあり、知らない人も多くなっているか...。

高橋幸治(矢野弁護士)/小川真由美(千鶴子)
金沢碧(由基子)
松本清張の種族同盟0.png 金沢碧は、事務所の助手・岡橋由基子役でしたが、原作や映画において弁護士を追いつめる元被告に代わって、由基子が弁護士を恐喝する役回りでした。ダーティな部分を全部引き受けた感じで、最後にドジを踏ん7話)/宝石の美女 kanazawa2.jpgで哀れな末路を辿りますが、どこかユーモラスで憎めない感じであり、その前に、基本"美人"です。実際、「江戸川乱歩 美女シリーズ(第8話)/宝石の美女」('79年)に"美女"役で出ており、これは小川真由美が出た「悪魔のような美女」の1話前になります(同シリーズ第15話「鏡地獄の美女」('81年)にも再度"美女"役で出ている)。

 小川真由美版のドラマ「種族同盟」は、改変して成功している稀有な例ですが、一つケチをつけるとしたら、「湖上の偽装殺人事件」というサブタイトルでしょうか。これって、視聴者を怖がらせるための、ある種"叙述トリック"のつもりなのかなあ。でも"偽装"しようとした側からすれば未遂に終わったわけで、未遂行為をタイトルにするのは如何なものでしょうか。

松本清張の種族同盟k.jpg松本清張の種族同盟1-.jpg「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」(土曜ワイド劇場)●演出:井上昭●脚本:吉田剛●音楽:津島利章●原作:松本清張●出演:小川真由美/高橋幸治/金沢碧/下条アトム(下條アトム)/加藤嘉/朝加真由美/中村竹弥/川合伸旺/進藤準/小島三児●放映:1979/05/26(全1回)●放送局:テレビ朝日(評価:★★★★☆)

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