【3135】 ○ 宇佐美 りん 『推し、燃ゆ (2020/09 河出書房新社) ★★★☆ (△ 宇佐美 りん 『かか (2019/11 河出書房新社) ★★★)

「●あ行の現代日本の作家」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2501】 内館 牧子 『終わった人
「●「芥川賞」受賞作」の インデックッスへ 「●「本屋大賞」 (10位まで)」の インデックッスへ

『コンビニ人間』と逆方向の結末は"鮮やかに決まりすぎている"という印象も。

推し、燃ゆ.jpg宇佐見りん.pngかか usami.jpg   『コンビニ人間』.jpg
推し、燃ゆ』['20年]宇佐美りん氏(芥川賞授賞式)『かか』['19年]  村田沙耶香『コンビニ人間』['16年]

 2020(令和2)年下半期・第164回「芥川賞」受賞作。2021年・第18回「本屋大賞」第9位。

 普通のことが普通にできない高校生のあかり。そのせいで高校は退学、バイトもくびになり、勤め先は決まらない。そんなあかりが、自分の「背骨」と定義し人生を傾けて推しているのが男女混合アイドルグループのひとり、上野真幸。あかりは推しの作品や推し自身を丸ごと解釈したいと思いながら、推しに心血を注いでいる。そんなある日、突然SNS上で推しが炎上した。ファンを殴ったらしい。そこから、あかりの人生も少しずつ歯車が狂い始める―。

 著者の21歳での芥川賞受賞は、同時受賞だった綿矢りさ(『蹴りたい背中』)、金原ひとみ(『蛇にピアス』)両氏に次ぐ歴代3番目の若さとのこと。すでにデビュー作『かか』('19年/河出書房新社)で文藝賞を受賞し、さらに三島由紀夫賞を最年少で受賞していて、やっぱり才能あるんだろうなあ。

 句読点の少ない文章は、最初のうちは読みなれなかったけれども、読んでいくうちに一定のリズム感のようなものが感じられるようになりました。少なくとも『かか』よりもこちらの方が文章的に洗練されていて、分かりよいように思いました。もしかしたら、『かか』より(『かか』はもともと"壊れゆく母親"を描いたものだが)ずっと自身に近いところで書かれているためではないかと推察したくなります。

 芥川賞の選考では、9人の選考委員の内、小川洋子氏と山田詠美氏が強く推していて、小川洋子氏は「推しとの関係が単なる空想の世界に留まるのではなく、肉体の痛みとともに描かれている」とし、山田詠美氏は「確かな文学体験に裏打ちされた文章は、若い書き手にありがちな、雰囲気で誤魔化すところがみじんもない」と絶賛。他の委員の評価もまずまずで、(吉田修一氏の講評のみ否定的だったが)比較的すんなり受賞が決まったようです。

 主人公について文中では、「2つの診断名がついた」とあるものの、その具体的な診断名は書かれていませんが、おそらく発達障害の内の学習障害(LD)と注意欠陥障害(ADD)だと思われます。こうした障害による「生きづらさ」を抱えた主人公が登場する小説として想起されるものに、'16年に同じく芥川賞を受賞した村田沙耶香氏の『コンビニ人間』('16年/文藝春秋)があります。

 両作品はその点で似ているところがありますが、結末の方向性が、『コンビニ人間』の方は主人公が自身の性向に合ったセキュアベース的な場所(それがコンビニなのだが)に回帰するのに対し、この『推し、燃ゆ』の主人公は、自らセキュアベースであったアイドルを推すという行為から脱却することが示唆されて、結末は逆方向のような気もします。

 芥川賞の選考委員の一人、堀江敏幸氏も、「バランスの崩れた身体を、最後の最後、自分の骨に見立てた綿棒をぶちまけ、それを拾いながら四つん這いで支えて先を生きようと決意する場面が鮮烈だ。鮮やかに決まりすぎていることに対する書き手のうしろめたさまで拾い上げたくなるような、得がたい結びだった」と言っており、これって、手放しで褒めているのか、そうとも言えないのか?

 個人的にも、やや"鮮やかに決まりすぎている"という印象を持ちました。そこが上手さなのだろうけれど、これでこの先、主人公は本当に大丈夫なんだろうかと気を揉んでしまいます(笑)。

芥川賞の偏差値 .jpg小谷野敦.jpg 比較文学者で辛口批評で知られる小谷野敦氏がその著書『芥川賞の偏差値』('17年/二見書房)で『コンビニ人間』を絶賛し、歴代芥川賞受賞作の中でも最高点を与えていましたが、この作品についてはどうかなと思ってネットで見たら、「週刊読書人」の対談でやはり「スマッシュヒットという感じでした」と絶賛してました。

 小谷野敦氏は、「私は〝人間は「推し」がいなくても生きていかなければいけない〟という主題だと読んだ」とのことで「受賞後のインタビューで本人は、〝推しを持つ気持ちを認めてほしい〟ということを繰り返し語っています。それが引っかかっている」と。でも、小谷野氏の最初の解釈がフツーだろうなあ。

 あとは、『コンビニ人間』とどちらがいいかですが、小谷野氏は特にそれは言っていません(両方いいのだろう)。個人的には、結末は、考え方的には『推し、燃ゆ』なんだろうけれど、読み心地としては『コンビニ人間』かなあ。『推し、燃ゆ』もいい作品ですが、このラストは結構キツイと言うか、この後主人公は本当に大丈夫なのかという印象が残りました(われながら全然文学的な読み方してないね)。

      





ブログランキング・にほんブログ村へ banner_04.gif e_03.gif



和田泰明

About this Entry

This page contains a single entry by wada published on 2022年4月 8日 23:42.

【3134】 ○ 沖田 ×華 『毎日やらかしてます。―アスペルガーで、漫画家で』 (2013/05 ぶんか社) ★★★★ was the previous entry in this blog.

【3136】 ○ 松本 清張 「市長死す」―『顔』 (1956/10 講談社ロマン・ブックス) ★★★★ is the next entry in this blog.

Find recent content on the main index or look in the archives to find all content.

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1