【3132】 ◎ 松本 清張 『けものみち (1964/05 新潮社) ★★★★☆

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『わるいやつら』に勝るとも劣らない面白さ。リアルタイムであるのがスゴイ。

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けものみち (新潮文庫) 』['68年]/『けものみち(上) (新潮文庫)』『けものみち(下) (新潮文庫)』['05年]「松本清張 けものみち DVD-BOX」米倉涼子

IMG_20220413_170911.jpg 成沢民子は、脊髄損傷のために動けなくなった夫・成沢寛次を養うため、割烹旅館・芳仙閣で住み込みの女中をしていた。しかし、寛次はそんな民子をいたわるどころか、日々、猜疑心を募らせ、民子が家に戻るたびに、執拗にいたぶるのだった。ある日、芳仙閣にニュー・ローヤル・ホテルの支配人・小滝章二郎が訪れる。小滝は民子に、今の生活から抜け出し、もっと安楽な生活に導く手助けをするようなことをほのめかす。民子は小滝の誘いに乗ることを決意し、失火に見せかけて夫を焼き殺す。そして、民子は弁護士・秦野重武によって、政財界の黒幕・鬼頭洪太の邸宅に連れて行かれる。小滝の誘いとは、鬼頭の愛人になることだったのである。民子は鬼頭の相手を務める一方、小滝とも関係を持ち、鬼頭の後ろ盾を得て、奔放な生活を送るようになる。そのころ、寛次の焼死事件は、小滝が民子のアリバイを証言したこともあり、警察と消防によって失火と断定された。しかし、事件を担当した刑事・久恒義夫は、事件に不審を抱いて独自に捜査を進め、民子が夫を焼き殺したという結論に達する。民子の美貌に魅せられた久恒は、自分が集めた証拠を民子にちらつかせ、民子にたびたび関係を迫る。しかし、逆に久恒はささいな理由で警察官を免職される。自分を免職にした上司の背後に鬼頭の姿を見た久恒は、自分が調べ上げた鬼頭の闇の部分を手紙にしたため、新聞社に持ち込むが、鬼頭の力を恐れる新聞社は久恒のネタをどこも採用しなかった。改めて鬼頭の実力を知った久恒は、失踪した鬼頭家の女中頭・米子の殺害事件の証拠を集めて鬼頭を追い詰めようとする―。(Wikipediaより)

 松本清張が「週刊新潮」の'62(昭和37)年1月8日号から'63(昭和38)年12月30日号にかけて連載したもので、'64(昭和39)年5月、新潮社から単行本として刊行されています。時代設定は執筆当時、つまり東京オリンピック開催の2年前になっていて、当時においてのリアルタイムということになります。本作は以前に同じく「週刊新潮」('60年1月11日号~'61年6月5日号)に連載された『わるいやつら』以上の評判を呼び、本作連載時の「週刊新潮」は120万部を発行し、増刷となったとのことです。実際、『わるいやつら』に勝るとも劣らない面白さだと思います。

実録日本の黒幕右翼の巨魁児玉誉士夫 (バンブー・コミックス)
-Hotel-New-Japan_(1993).jpg児玉誉士夫.jpg 小説中の政財界の黒幕・鬼頭洪太のモデルは諸説ありますが概ね児玉誉士夫をモデルに造形された人物だろうとされ、その児玉誉士夫の名は、'76(昭和51)年に明るみに出たロッキード事件により世に知られるようになります。また、赤坂の高台に3年前に新築されたという「ニュー・ローヤル・ホテル」は、1960(昭和35)年開業のホテルニュージャパンがモデルと推察されますが、このホテルは'82年(昭和57)年に33人の死者を出した「ホテルニュージャパン火災事件」で有名になります。
 
 ホテルニュージャパンがモデルならば、ニュー・ローヤル・ホテルの支配人・小滝章二郎のモデルは、当時ホテルニュージャパンのオーナー兼社長だった横井英樹(1913-1998)でしょうか。モデルがそのあたりの事情を多少とも知っている人が読めばすぐに思いつきそうな設定で、しかもリアルタイムの時代設定で書いているのがスゴイし、ゆえにベストセラーとなるのでしょう。文芸評論家の細谷正充は、「政財界を裏から操る黒幕」という設定は、大藪春彦や森村誠一の小説、のちにはコミックなどのエンターテイメント作品に広く流布されているが、本作は、政財界の設定を使い勝手の良いガジェットとして扱うのではなく、政財界の闇そのものを真正面から取り上げ、徹底的にリアルな掘り下げをした点で、意外なほど少ない、例外的な作品となっていると評しています。

「けものみち」池内.jpg この作品は1965に須川栄三監督、池内淳子(民子)、池部良(小滝)主演で東宝で映画化されているほか(久恒刑事役は小林佳樹)、過去3度テレビドラマ化されています。
 •1982年「松本清張シリーズ・けものみち」[全3回]名取裕子・山崎努(NHK)
 •1991年「松本清張作家活動40年記念・けものみち」[全3回]十朱幸代・草刈正雄(NHK)
 •2006年「松本清張 けものみち」[全9回]米倉涼子・佐藤浩市(テレビ朝日)

「けものみち」米倉.jpg「けものみち」米倉4.jpg やはり、ドラマは複数回にわたりじっくり描いたものが人気のようで、今世紀に入ってからの米倉涼子版は、米倉涼子にとって「松本清張 黒革の手帖」('04年)、「黒革の手帖スペシャル〜白い闇」('05年)に続く松本清張原作ドラマ出演で、翌年には「松本清張・最終章 わるいやつら」('07年)に出演するなど(いずれもテレビ朝日)、この辺りの松本清張原作ドラマは、女優・米倉涼子のキャリア上の大きな転換点となった作品群と言えます。

 では、その前の「清張女優」は誰だったかと言うと、松本清張作品に映画・テレビドラマ合わせて17本出演した名取裕子が筆頭に思い浮かび、その名取裕子が初めて出演した清張原作ドラマが「けものみち」でした。名取裕子版を観ると、米倉涼子はドライと言うか、名取裕子にあるウエットな感じが彼女には無いなあという気がします(名取裕子版は次のエントリーで取り上げたい)。

「けものみち」池内2.jpg 池内淳子の映画版は、ラストで民子が辿る運命は原作と同じで、ちょっと残酷ですが、これも夫殺しの原罪の報いということでしょうか。まあ、原作も民子ではなく小滝が主人公のピカレスク小説と解せないこともないですし。

 それに対して直近の米倉涼子版は、途中、民子が企業経営に乗り出したり、二度の殺人がともに小滝の仕事部屋で行われるなど、かなり話が飛躍していたり非現実的であったりし、ラストも民子は原作と同様の状況に陥るも、そこから奇跡的に(どうやって?)脱出して生き延びます。今風と言えば今風かもしれませんが、翌年放送の「松本清張スペシャル・地方紙を買う女」('07年/日本テレビ)で、内田有紀が演じる主人公が原作のように自殺しないで生き延びたのを思い出しました(「強い女性」が当時のトレンドだったのか)。

「けものみち」平 米倉.jpg「けものみち」米倉[.jpg「松本清張 けものみち」●演出:松田秀知/藤田明二/福本義人●プロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)/伊賀宣子(共同テレビ)●脚本:寺田敏雄●音楽:(エンディング)中島みゆき「帰れない者たちへ」●原作:松本清張●出演:米倉涼子/佐藤浩市/仲村トオル/若村麻由美/平幹二朗●放映:2006/01/12~03/09(全9回)●放送局:テレビ朝日

「けものみち」1982.01 .jpg「けものみち」19822.jpgkemonomichi.jpg NHK土曜ドラマ「松本清張シリーズ・けものみち」 (1982/01 NHK) ★★★★(演出:和田勉/脚本:ジェームス三木/出演:名取裕子・山崎努)
    
【1968年文庫化[新潮文庫(全1冊)]/2005年再文庫化[新潮文庫(上・下)]】

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This page contains a single entry by wada published on 2022年4月 3日 17:20.

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