【3131】 ○ 濱口 竜介 「親密さ (2012/07 ENBUゼミナール) ★★★★

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演技性を排することを指向する一方で、映画内舞台劇を見せているところが興味深い。

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「親密さ」

「親密さ」1.jpg 「親密さ」という演劇を作り上げる過程を描いた劇映画と、実際の舞台「親密さ」の記録映像の2部構成。それぞれに虚構と現実が複雑、微妙に交錯し続ける。新作舞台の上演を控えた令子(平野鈴)と良平(佐藤亮)はコンビで演出を手がけているが、そのやり方に限界が見え始めてきていた―。

 濱口竜介監督・脚本による2012年製作映画で、俳優養成の専門学校・ENBUゼミナールの演技コースの修了作品としてスタートした企画から生まれた255分、4時間超の長編であり、2012年7月28日オーディトリウム渋谷での「濱口竜介レトロスペクティヴ」で上映されています(同監督の一連の過去作品と併せて上映されたため「レトロスペクティヴ」(回顧展)というイベント名になっているようだ)

「親密さ」4.jpg 前半の舞台演劇を作り上げていく過程の部分は、そこまでが現実でどこまでが演技か分からない部分もあり、こうした作りは、同監督の「ハッピーアワー」('15年)などに受け継がれているなあと。朝鮮半島で戦争が始まったという設定は、オムニバス映画「偶然と想像」('21年)の第3話「もう一度」でも、2019年、強力なコンピュータ・ウィルスが大発生し、インターネットが遮断され、世界は郵便と電話だけの古いシステムへ逆戻りしていたというSF的設定があったことを想起させられました。

「親密さ」6.jpg 演出の令子が舞台の出演者たちにいきなり政治的なインタビューをしたり、超長回しのシーンがあったりと、実験的な要素は多いです。舞台稽古の途中で主役の衛(まもる)役を託してした男性が去り、良平自身が主役を演じることになるというのはまさに「ドライブ・マイ・カー」('21年)と同じではないかと。―といろいろありましたが、やはり、第2部の舞台劇に入ってからが、緊張感があって、また時にユーモラスな場面もあってぐっと面白くなったように思います。

「親密さ」2.jpg そして、「短い第3部」とも言えるエピローグ。舞台劇「親密さ」の演出家だった令子は編集者になり、脚本家かつ主演俳優だった良平は(SF的設定のもと)韓国の義勇兵となり、軍楽隊に所属している。その2人が偶然再会し、それぞれの電車に乗り、車内を走り回り、投げキスを交わし合う。山手線と京浜東北線を走る電車が並走し、追いつき追い越し、最終的に二手に分かれて消えていく―。何だか青春映画っぽい結末にも見えますが、平行線で交わらない線路によって「親密さ」を表現するという発想自体が「視線」について考え抜いてきた濱口監督ならではの演出と言えるかと思います(このラストシーン、出演者はカメラがどこにあるかわからないまま演技したそうで、このあたりも濱口監督らしい)。

 早稲田大学教授の藤井仁子氏が、WEB版「神戸映画資料館」で、「『親密さ』には名のあるスターは出ておらず、演技経験の浅い、通常の商業映画であれば現時点で重要な役が回ってくることはまずありえない若者だけでキャストが固められている」が、「はじめから『映画的』であるわけではない彼らの顔と声が、映画が進むにつれてスターに成長していくというのではなく、小さく、また弱くあるままで思いがけない輝きを放っていくさまは感動的」と評価しています。

 4時間に及ぶ長編であるためか、後半の舞台劇の部分だけを上映したこともあったようですが、舞台劇の部分だけだとこの「思いがけない輝きを放っていく」という部分が感じにくいわけで、やはりこの映画は、前半部のドキュメンタリータッチな部分があってこその後半の舞台劇ではないかと思います。

 「ドライブ・マイ・カー」の中の「ワーニャ伯父さん」の舞台の読み合わせシーンで、演技性を排することを指向して、監督自身の演出スタンスの種明かしをしていましたが、この映画の前半部がそれに当たるのではないでしょうか。一方で、映画内の舞台劇としての「演技」見せているところに、濱口作品が「演劇」との密接な繋がりがあることも感じられ(「ドライブ・マイ・カー」もそうなのだが)興味深いと思います。

「親密さ」●制作年:2012年●監督・脚本:濱口竜介●舞台演出:平野鈴●撮影:北川喜雄●劇中歌:岡本英之●時間:225分●出演:平野鈴/佐藤亮/田山幹雄/伊藤綾子/手塚加奈子/新井徹/菅井義久/香取あき●公開:2012/07●配給:ENBUゼミナール●最初に観た場所:渋谷・Bunkamura ル・シネマ2(22-03-29)(評価:★★★★)

「親密さ」 濱口竜介.jpg  「偶然と想像」2021.jpg 「ドライブ・マイ・カー」2021.jpg



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和田泰明

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This page contains a single entry by wada published on 2022年4月 2日 00:34.

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