【3127】 △ 大島 渚 「日本の夜と霧 (1960/10 松竹) ★★★

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観ていて〈しんどい〉感じがした。議論が〈空疎〉で〈内向き〉であることが浮き彫りに。

「日本の夜と霧」ポスター.jpg『日本の夜と霧』.jpg 「日本の夜と霧」1960-0.jpg
あの頃映画 日本の夜と霧 [DVD]」芥川比呂志/渡辺文雄/桑野みゆき
日本の夜と霧」ポスター
「日本の夜と霧」6.jpg 60年安保闘争で6月の国会前行動中に知り合った新聞記者の野沢晴明(渡辺文雄)と、女子学生の原田玲子(桑野みゆき)の結婚式が行なわれていた。野沢はデモで負傷した玲子と北見(味岡享)を介抱する後輩の太田(津川雅彦)に出会い、2人は結「日本の夜と霧」津川.jpgばれたのであった。北見は18日夜、国会に向ったまま消息を絶つ。招待客は、それぞれの学生時代の友人らで、司会は同志だった中山(吉沢京夫)と妻の美佐子(小山明子)。その最中、玲子の元同志で逮捕「日本の夜と霧」小山1.jpg状が出ている太田が乱入し、国会前に向かっ「日本の夜と霧」佐藤戸浦.jpgたまま消息を絶った北見の事を語り始める。一方で、野沢の旧友だった宅見(速水一郎)も乱入してきて、自ら命を絶った高尾(左近允宏)の死の真相を語り始める。これらを契機に、約10年前の破防法反対闘争前後の学生運動を語り始め、玲子の友人らも同様に安保闘争を語り始める。野沢と中山は暴力革命に疑問を持つ東浦(戸浦六宏)と坂巻(佐藤慶)を「日和見」と決めつけていたが、武装闘争を全面的に見直した日本共産党との関係や「歌と踊り」による運動を展開した中山、「これが革命か」と問う東浦や「はねあがり」など批判し合う運動の総括にも話が及び、会場は討論の場となる―。

 1960年10月公開の大島渚監督作で、大島渚監督は同年に「青春残酷物語」(6月公開)、「太陽の墓場」(8月公開)という、後にこれも代表作と評価される2作を撮っているわけで、この時期は凄く精力的だったと思います。

 この映画は異例のスピードで制作された背景には、松竹が制作を中止することを大島渚監督が恐れていたためで、実際、公開からわずか4日後、松竹が大島に無断で上映を打ち切ったため、大島渚監督は猛抗議し、翌1961年に松竹を退社しています。

 実際に撮影中にも松竹社長から異議が出ていたといい、撮影を短くすませるために、カット割りのない長回しの手法を多用し、俳優が少々セリフを間違えても中断せずに撮影を続けていて、それによって独特の緊張感が生まれています。

 上映中止は、「過激な」政治をテーマにしたメジャー映画(商業映画)というものの成立の難しさを示しているように思いますが、今の若い人がこの映画を観たらどう思うのかなあ。「青春残酷物語」や「太陽の墓場」のように、安保闘争時の時代の雰囲気を、恋人同士やドヤ街の人々に落とし込んだものの方が、「安保闘争」のことは分からなくとも、雰囲気は伝わりやすい気がします。

 この作品は劇場で観るのは今回が初めてですが、ストレートに安保闘争を巡る議論になっていて、個人的にも〈しんどい〉感じがしました。それは、1つは、彼らの語る言葉が非常に〈空疎〉に聞こえることで、多分、大島渚はその〈空疎〉を計算して描いているのではないかと思いました。

 もう1つは、議論が〈内向き〉であること。「誰があの時どうだったか」という、仲間の過去の言動のあげつらい合戦になっていて、これが、「革命運動」とやらがこれを以って終焉を迎えたという「連合赤軍事件」における「総括」と称する内部粛清に引き継がれていったとのではないかと思うとぞっとします。

 これって、さらには「オウム真理教」で繰り返された「構成員リンチ殺人事件」にもつながるように思います。脱会しようとした信徒を教祖・麻原の指示で殺害したわけですが、そう言えば、「太陽の墓場」でも愚連隊「信栄会」を抜けようとしたヤス(川津祐介)が会長の信(津川雅彦)に殺されるわけで、大島渚という人は、これらの日本的組織に通底するものを見抜いていたのではないかと思いました。

 力が〈内向き〉に働くというのは、日本の会社組織における権力争いなどもそうで、外国企業であれば別会社に自分を売り込んでさっさと転職してしまうけれども、日本企業の場合、会社に留まってキャリアの長い期間と大きな労力を内部の権力争いに費やすことが多いように思います。

 何だか、登場人物の議論に入っていけない分、そういうことを考えてしまいました。議論が〈空疎〉で〈内向き〉であることが浮き彫りにされるのも大島渚監督の計算の内だとは思いますが、映画としては前2作の方が自分との相性は良かったように思います。

「日本の夜と霧」小山2.jpg「日本の夜と霧」●制作年:1960年●監督:大島渚●製作:池田富雄●脚本:大島渚/石堂淑朗●撮影:川又昂●音楽:真鍋理一郎●時間:107分●出演:渡辺文雄/桑野みゆき/津川雅彦/味岡享/左近允宏/速水一郎/戸浦六宏/佐藤慶/芥川比呂志/氏家慎子/吉沢京夫/小山明子/山川治/上西信子/二瓶鮫一/寺島幹夫/永井一郎●公開:1960/10●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(22-03-20)(評価:★★★)

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This page contains a single entry by wada published on 2022年3月26日 14:48.

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