【3122】 ○ 瀬戸内 寂聴 (画:横尾忠則) 『奇縁まんだら 続の二 (2010/11 日本経済新聞出版) ★★★☆

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作家だけでなく、芸能人や政治家も登場。「私の履歴書」に出てくるような人ばかりになった印象も。
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奇縁まんだら 続の二

『奇縁まんだら 続の二』n.jpg 著者自身が縁あって交流したことのある文学者や芸術家との間のエピソードを綴ったエッセイに、彼女と親交の深かった横尾忠則氏が、エッセイに登場する人たちの肖像画を描いて(装幀も担当)コラボした本の、全部で4集の内の第3弾。日本経済新聞の連載で言うと、2009年10月から2010年8月になります。

 登場する人物は、第1集の21人、第2集の28人に対し、41人と増えていて、内容も、第1集が作家20人と芸術家1人、第2集も作家や芸術家が中心だったのが、この第3週では芸能人や政治家、実業家などの何人か入っています。

 最初が田中角栄、次が美空ひばりと大物が続きますが、著者は田中角栄と自身が出家する前の時代に対談しているし(田中角栄は自民党幹事長時代)、美空ひばりとは2度も対談していたのだなあ。出てくるのは、連載執筆当時すでに亡くなっている人ばかりで、各冒頭にプロフィールと併せてお墓の写真があり、ああ、これって、単なる回顧録ではなく、鎮魂歌的なトーンになっているなあと新ためて思いました。

 亡くなった時に著者自身が駆けつけた人も何人かいて、吉行淳之介などもそうだったのだなあ。「まりちゃん」と暮らしていた家に行って、安らかな死顔に対面したと。吉行淳之介と宮城まり子の間のエピソードなども興味深かったです。結婚していない異性との欧州旅行するのは、著者の方が先輩で、あちらのホテルが正式な夫婦でないと一つの部屋に泊めないことに対する対応を、吉行淳之介は著者に訊いてきたとにこと。

 芸能人や俳優と言っても出てくるのは森繁久彌や藤山寛美、長谷川一夫など大物ばかりで、勝新太郎との話で、勝新が大麻を忍ばせて飛行機に乗り、空港で逮捕された事件を振り返って、著者に話した話がおかしいです。五百人乗りのジャンボ機に五百一人の乗客が乗っていて、その一人がお釈迦様で、そのお釈迦様から、「勝よ、お前にこれをやろう」と薬を授かったと。その後、著者が勝新を祇園に連れて行った時の話も、小説みたいで面白いです。

 小林秀雄や江藤淳もでてきますが、一つの講演会で、著者は江藤淳と小林秀雄の間に講演したりしていたのだなあ(昔から話上手だった)。あの司馬遼太郎さえ一緒にいると緊張したという「日本一偉大な評論家」小林秀雄の懐にすっと入っていく著者。その入っていき方が面白いです。江藤淳の自殺は、「美貌の愛妻の死に殉じた」としています。遺書では、脳梗塞で今の自分は形骸にすぎないとあり、最近では、妻の死の4年後に自殺した西部邁を想起させられました。

 いろいろな人が出てきて興味深くは読めるし、横尾忠則の装画も愉しめます。取り上げる人数が増えて、一人当たりのページ数が減っても、それほど浅くなったという印象がないのはさすが作家(でも、やっぱり少し浅くなっているか)。日経新聞連載ということのあってか、「私の履歴書」に出てくるような人ばかりになった印象も少しあります。最後の第4集はどうなるのでしょうか。

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This page contains a single entry by wada published on 2022年3月19日 00:34.

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