【3121】 △ クリストファー・ハイド (田中 靖:訳) 『大洞窟 (1989/07 文春文庫) ★★★

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いちばん生き残ってはいけない人物が生き残ってしまっている。

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大洞窟 (文春文庫)

 ユーゴスラヴィアのカルスト台地の地底深く、4万年前にネアンデルタール人が壁画を残した大洞窟が見つかった。世紀の大発見に、国際調査団が勇躍現地に赴くが、ときならぬ大地震で閉じこめられてしまう。漆黒の闇のなかで、土砂流、水没洞、大瀑布、毒虫などと闘いながら続ける地獄めぐり。彼らが再び陽光を見る日はあるのか―。

 1983年にカナダ人作家クリストファー・ハイドが発表した作品で、原題は"STYX(黄泉) "。もちろん巣既に絶版となっていますが、一部の冒険小説ファンの間では根強い人気があるようで、Amazonのレビューの評価も高いようです。

 光の射さない洞窟内に閉じ込められ、食料や燃料、電池といった物資がいつかは枯渇してしまうという緊張感の中、13人のメンバーは、目の前に立ちはだかる障害を、ただただ切り抜けるしかない―このシンプルな構成が読者を引き付けるのでしょう。13人の内、誰が生き残るのかという興味もあります。

 また、人種や年齢、性別や性格も多様な一行ですが、その中で光るのが、日本人の中年の地質学者・原田以蔵で、こうした冒険小説の魅力は、ただスケールの大きさや緊迫感だけでなく、登場人物(主人公)の魅力によるところが大きく、個人的にはその主人公の哲学的深みによるところが大きいと思っています(ダイバーのスピアーズも自らの"人生哲学"を独白するが、その内容は空寒い)。

 その点、この原田以蔵の人物造型はまずまず良かったです。ただ、洞窟内での専門イラストレーター・マリーアとの "ベッドシーン"(ベッドではなく寝袋だったが)は必要だっただろうか(ほとんどポルノ的描写)。あるとすれば、イケメン男ディヴィッドとその恋人イレーヌだけでよかったのでは。トーンが"通俗"冒険小説になった気がします。

 一番良くないのは、このタイプの小説のセオリーからすると、本来はいちばん生き残ってはいけない人物が生き残ってしまっているということ(他はいっぱい死んでいるのに)。これにはややガックリしました。

 「土砂流、水没洞、大瀑布、毒虫」とありますが、「毒虫」で、無数のムカデに獲りつかれて血を吸われて死ぬというのは、昔からあるパターンなんだなあ。

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This page contains a single entry by wada published on 2022年3月16日 00:47.

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