【3109】 ○ 松本 清張 『Dの複合 (1968/07 カッパ・ノベルス) ★★★★

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トラベルミステリーと歴史・民俗学ミステリーを融合させた展開は愉しめた。

『Dの複合』カッパ.jpg 『Dの複合』d1.jpg 『Dの複合』d2.jpg 「Dの複合」D1.jpg
Dの複合 (カッパ・ノベルス)』『Dの複合 (新潮文庫)』1993年フジテレビ「松本清張スペシャル Dの複合」野村宏伸/津川雅彦/いしだあゆみ
『Dの複合.jpg あまり売れない小説家・伊瀬忠隆は、天地社の雑誌「月刊 草枕」の依頼を受け、「僻地に伝説をさぐる旅」の連載を始めた。浦島太郎伝説の取材で、編集者の浜中と丹後半島の網野町を訪れるが、宿泊した木津温泉にて、警察が近くの山林を捜索しているところに遭遇する。人間の死体を埋めたという投書があったというが、のちに同じ場所からは「第二海竜丸」と記された木片が発見された。旅は網野神社から明石へと続くものの、以降、取材先の各地で、不可解な謎や奇怪な事件が立て続けに発生した。やがて浮上する奇妙な暗合。伊瀬を動かすプランの正体とは―。

 松本清張の長編推理小説で、光文社の月刊総合雑誌「宝石」に連載され(1965年10月号-1968年3月号、連載時の挿絵は山藤章二)、加筆訂正の上、1968年7月に光文社(カッパ・ノベルス)から刊行された作品です。

 木津温泉、網野町、柿本神社、淡路島、友ヶ島、淡嶋神社、三保の松原、折戸駅、松尾大社、大仁町、九重駅、館山駅、熱海市、新勝寺、三条大橋、三朝温泉、塩竈市、戸田村、網走刑務所...いずれもこの作品の関係地点です! 浦島太郎、羽衣伝説といった民俗説話を追っての旅情と、謎解きから殺人事件へと、トラベルミステリーと歴史・民俗学ミステリーを融合させた展開は飽きさせず、愉しめました(ややマニアック過ぎる部分もあってか、カッパ・ノベルス所収の際には、本筋と直接関係のない部分を中心に一部割愛したとのこと)。

 ミステリ的には、読者に対して「隠された人間関係」というものがあり、そのため最後ぎりぎりまで犯人の見当はつきません(怪しそうな雰囲気はあるが、動機がさっぱりわからない)。謎解きに興味のある読者にとっては、ややアンフェアな印象を与えるかもしれませんが、個人的にはあまり気になりませんでした(クリスティにしても誰にしても、こうしたパターンは広くある)。

 一番気になったのは、結局、壮大な復讐劇だったわけですが、ここまで手の込んだやり方をするかな(ある意味"趣味的")という印象を抱かされた点です。復讐相手をじわじわと苦しめるたいという気持ちは分からなくもないですが。

「Dの複合」D2.jpg これだけ複雑な展開の作品をドラマ化するとなるとたいへんなような気がしますが、これまで1度だけ、1993年にフジテレビ系列の「金曜エンタテイメント」枠で「松本清張スペシャル Dの複合」としてドラマ化されています。

 作家・伊瀬を津川雅彦、編集者・浜中を野村宏伸、天地社の社長・奈良林を平幹二朗が演じ、しだあゆみが演じる伊瀬の妻・「Dの複合」D3.jpg和代がかなり前面に出てきて伊瀬と一緒に謎解きをします。さすがに2時間ドラマにまとめるには登場人物が多すぎると思たのか、二宮健一と照千代が登場しないなど、原作と比べて人間関係は簡略化されています(脚本は金子成人)。

「Dの複合」D4.jpg 浜中役の野村宏伸は、津川雅彦と平幹二朗というベテラン大物俳優の間に挟まって、まずまず奮闘していたでしょうか。ただ、ラストはどうなるかと思ったら、楢林社長の最期は自殺に改変されていて、浜中は最後まで伊瀬のそばにいて、伊瀬に楢林社長を追い詰めたことをなじられるという終わり方になっています。

 先にも述べたように、壮大な復讐劇であるとともに、ここまで面倒なことやるかなというのもあって、テレビ版は復讐者に直接手は下させないように改変したために(所謂"テレビ向け改変"?)、そのマニアックな部分が逆に浮き彫りになったように思います。

「Dの複合」だい.jpg 二宮健一と照千代が登場しないというのは、原作のラストでのこの二人が緊迫感があった(装画入り!)だけに、物足りない印象があります。心中というのはテレビ向けではないということで割愛したわけではなく、あくまでもは登場人物が多すぎるために"リストラ"されてしまったのだとは思いますが。

「松本清張スペシャル Dの複合」●監督:長尾啓司●脚本:金子成人●音楽:高島正明●原作:松本清張●出演:野村宏伸/津川雅彦/いしだあゆみ/平幹二朗/森口瑤子/石丸謙二郎/沼田爆/芦川誠/大杉漣/緒口幸信●放映:1993/09/10(全1回)●放送局:フジテレビ

【1973年文庫化[新潮文庫]】

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