【3106】 ○ トッド・ブラウニング (原作:ブラム・ストーカー) 「魔人ドラキュラ」 (31年/米) (1931/10 ユニバーサル・ピクチャーズ) ★★★★

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ベラ・ルゴシの演技が作品全体を「雰囲気」のあるものにしている。

「魔人ドラキュラ」1931 1.jpg 「魔人ドラキュラ」1931 2.png  「魔人ドラキュラ」1931 3.jpg 「魔人ドラキュラ」1931 4.jpg 「魔人ドラキュラ」1931 5.jpg
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「魔人ドラキュラ」2.jpg 英国の事務弁護士レンフィールド(ドワイト・フライ)は、トランシルヴァニアの貴族ドラキュラ伯爵(ベラ・ルゴシ)に招かれてドラキュラ城を訪れる。ドラキュラはロンドンでの土地の購入を希望していた。しかし、ドラキュラの正体は伝説上の存在とされていた吸血鬼「魔人ドラキュラ」3.png.jpgであり、レンフィールドは下僕にされてしまう。ドラキュラはレンフィールドに手引きさせて船を占拠して英国に渡り、レンフィールドは「精神を病んだ」としてセワード精神病院に搬送される。修道院を棲家とすると、東欧から移住してきた高貴な伯爵として社交界に現れ、修道院の隣に居住するセワード博士(ハーバート・バーンストン)一家に接触する。セワードの娘ミーナ(ヘレン・チャンドラー)の友人ルーシー(フランシス・デイド)はドラキュラの虜になり、血を吸われて死んでしま「魔人ドラキュラ」1.jpgう。セワードの元を恩師のヴァン・ヘルシング教授(エドワード・ヴァン・スローン)が訪れ、レンフィールドが吸血鬼になっていることを告げるが、セワードは吸血鬼の存在を信じようとはしない。レンフィールドも「自分を病院から遠ざけろ」と訴えるが、セワードは聞き入れずに病室に戻してしまう「魔人ドラキュラ」4.jpg。その夜、ドラキュラはセワード邸に忍び込み、ミーナを襲い吸血する。その日以来、ミーナは悪夢にうなされるようになり、ヘルシングは彼女の婚約者ハーカー(デヴィッド・マナーズ)と共に屋敷を訪れるが、そこにドラキュラが見舞いに訪れる。ミーナはドラキュラの来訪を喜ぶが、ドラキュラの姿が鏡に映らないのを見たヘルシングは、ドラキュラこそが吸血鬼であると確信する。ヘルシングは、ドラキュラを寄せつけないためにミーナの部屋をトリカブトで埋め尽くすが、吸血鬼の血が入ったミナはそれを嫌がり、彼女の身を案じるハーカーもヘルシングに反発する。ドラキュラは再びセワード邸に忍び込み、ミーナを連れ去ってしまう。同じ頃、レンフィールドが精神病院から脱走してドラキュラの元に向かい、ヘルシングとハーカーは彼を尾行する。これによってドラキュラが隠れ家にしていた修道院まで二人が来てしまい、ドラキュラはレンフィールドを裏切ったと見なし殺害するも、夜明けが近付いてきていたためミーナを連れて慌てて地下墓所の棺に逃げ込む。地下墓所で二人は棺で眠るドラキュラを発見、ヘルシングはそばにあった棒を折ってドラキュラの心臓にその尖った先端を刺して彼を殺し、ハーカーはミーナを取り戻す―。

吸血鬼ドラキュラ (角川文庫).jpg「魔人ドラキュラ」 11.jpg トッド・ブラウニング監督の1931年2月公開作で、ブラム・ストーカー原作『吸血鬼ドラキュラ』の初の正規映画化作品(先行するF・W・ムルナウ監督の「吸血鬼ノスフェラトゥ」('22年/独)は非公式に映画化された作品)。世界的にヒットし、戦前のホラー映画ブームを巻き起こすとともにユニバーサルは怪奇メーカーとして名を馳せ、ドラキュラ役で主演したベラ・ルゴシはこの1作で世界に知られる怪奇スターとなりました。ドラキュラ役は当初「オペラ座の怪人」('25年/米)のロン・チェイニーに内定していましたが、チェイニーが1930年に47歳で急死し 、ブロードウェイ版舞台でドラキュラを演じたハンガリー出身の俳優ベラ・ルゴシ(日本などと同じくハンガリー語圏では名前を「姓・名」の順で表記するため、母国ハンガリーでは映画監督のタル・ベーラなどと同様、ルゴシ・ベーラとなる)が、たまたま別の舞台に出演するためにロサンゼルスを訪れていたこともあって、役が回ってきたのです。ベラ・ルゴシはそれまで、俳優として長いキャリアがありながら、ハンガリー訛りが強く英語下手のため、米国では役に恵まれずにいましたが、この後はエドガー・アラン・ポー原作の「モルグ街の殺人」('32年/米)でのマッドサイエンティスト役(原作にない、ほとんどベラ・ルゴシのために作ったような役)、ボリス・カーロフ(ベラ・ルMurders in the Rue Morgue 1932 1.jpegThe Black Cat. (1934).jpgゴシが「フランケンシュタイン」('31年/米)への出演を台詞のない厚いメイクの怪物役を拒否して降りために脇役俳優だった彼に役が回ってきて、彼の当たり役となった)と共演した「黒猫」('32年/米)など、怪奇映画の出演オファーが次々来るようになります。
ベラ・ルゴシ in「モルグ街の殺人」('32年/米)/「黒猫」('32年/米)with ボリス・カーロフ

「魔人ドラキュラ」 7.jpg 原作との違いは幾つもありますが、まず、ドラキュラ城を訪れるのが弁護士のジョナサン・ハーカーではなく、原作において精神病院の院長のジョン・セワード博士の患者であるレンフィールドになっていて(ドラキュラ伯爵のロンドンでの土地購入手続きのために赴くのは原作と同じ。そして映画でも結局ドラキュラ伯爵にやられて結果的には原作のようにセワードの患者になるのだが、原作では最初からセワードの精神病院にいる患者となっている)、ハーカーの方はずっとロンドンにいることになっています。ミーナがセワード博士の娘であるというのも映画のオリジナルで、原作では、ハーカーとセワードはかつてはミーナを巡っての恋のライバルで、今は友人みたいな関係でさほど年齢差が無いのですが、映画ではセワードはミーナの父親であるため、初老の医師となっています。

「魔人ドラキュラ」 8.jpg それと、これが一番原作と異なる点かもしれませんが、原作ではドラキュラ伯爵はロンドンにおいては影の如く行動し、作「魔人ドラキュラ」 6.jpg中の主要登場人物の前に姿を見せないのに対し、このベラ・ルゴシ演じるドラキュラ伯爵は、社交好きなのか(笑)社交の場も含め主要登場人物の前によく姿を現し、わざわざミーナのお見舞いにまで来たりして、そこで鏡に映らないことで自らが吸血鬼であることがヘルシング教授にバレてしまったりしています。

「魔人ドラキュラ」9.jpg このように物語は序盤はドラキュラ城で、中盤以降はほとんどセワード邸の中で話が進んでいきますが、セワード邸ではドラキュラ伯爵vs. セワード博士の"直接対決"があったりして、互いに"ガンの飛ばし合い"をしたりします(ヤンキーではない。ドラキュラ伯爵がセワード博士に催眠術をかけようとして失敗する、といった場面などがあったりするということなのだが)。

「魔人ドラキュラ」 5.jpg でも、夜会服をまとったドラキュラ伯爵の妖しく、不遜で、優雅な姿や立ち振る舞いは厳かかつ華麗であり(時折ユーモラスに見えるチャーミングさも)、作品全体を「雰囲気」のあるものとしており、当時49歳だったベラ・ルゴシの演技がその時代「映画の中で最もユニークで強力な役」と称賛されたのも頷けます。

 古典に対する好みは人さまざまだと思いますが、ドラキュラ映画ファンならずとも一度観ておいて損はない作品かと思います。

「魔人ドラキュラ」 105.jpg「魔人ドラキュラ」●原題:DRACULA●制作年:1931年●制作国:アメリカ●監督:トッド・ブラウニング●製作:トッド・ブラウニング/カール・レムリ・jr●脚本:ギャレット・フォート●撮影:カール・フロイント●音楽:フィリップ・グラス (1999年)●原作:ブラム・ストーカー●時間:75分●出演:ベラ・ルゴシ/ヘレン・チャンドラー/デヴィッド・マナーズ/ドワイト・フライ/エドワード・ヴァン・スローン/ハーバート・バーンストン/フランシス・デイド/ジョアン・スタンディング/チャールズ・ジェラード●日本公開:1931/10●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ(評価:★★★★)

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