【3098】 ○ カール・テオドア・ドライヤー (原作:シェルダン・レ・ファニュ) 「吸血鬼(ヴァンパイア)」 (30年/仏・独) (1932/11 東和商事) ★★★★

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俳優は素人ばかりだが雰囲気は出ていた。制作秘話に事欠かないみたい。

吸血鬼 (1932年画)dvd.jpg吸血鬼 [DVD]」['02年]
バンパイア ドライヤー.jpg 吸血鬼 (1932年画)dvd1.jpg吸血鬼 (1932年画)dvd2.jpg 吸血鬼 (1932年画)dvd5.jpg 女吸血鬼カーミラ.jpg
ヴァンパイア [DVD]」['06年]/「ヴァンパイア 《IVC BEST SELECTION》 [DVD]」['11年]/「カール・Th・ドライヤーコレクション 吸血鬼 ボローニャ復元版 [DVD]」['11年]/シェリダン・レ・ファニュ 『女吸血鬼カーミラ
吸血鬼 (1932年画)1.jpg 主人公アラン・グレー(ジュリアン・ウェスト)は、ある夜遅くクルタンピエール村の寂れた旅館へやって来る。その周囲の凄惨な光景が彼に強い印象を与えた。宿では朝まで眠れなかった。それ以来アランは、説明のつかないような現象を目にするようになる。宿には義足の男と村医者(ジャン・ヒエロニムコ)と老婆(ヘンリエット・ジェラルド)がいた。宿主(モーリス・シュッツ)はアランに何かを託して、自分の死後に開けるよう書き遺す。アランが奇妙な影を追いかけると屋敷があり、主人が宿主で病に伏す長女レオーヌ(ジビレ・シュミッツ)と妹のジゼル(レナ・マンデル)、それに何人かの召使が暮らしていた。やがて主人は何者かに銃で撃たれて死ぬ。続いて、レオーヌが夜中に外に出てさ迷い歩くのを見たアランとジゼルは、レオーネを探して外に出るが、レオーネは闇の帝王に血を吸われてぐったりしているところを見つかって屋敷へ運び込まれる。ジゼルが介抱するが、自分は吸血鬼 姉.jpg呪われていると言い、嘆き悲しんだかと思うと突然不気味に笑う。それを見て慄(おのの)くジゼル。アランが主人の遺したものを開封すると、それは吸血鬼の存在とその魔力について書かれた古い本だった吸血鬼 (1932) jijyo.jpg。アランが本を読み進めると、「吸血鬼は人間に彼らの犯行を手伝わせることがあり、ハンガリーでは悪魔に魂を売った医者が吸血鬼の犯罪の手先になっていた」と書いてあった。村医者はレオーネは助からないが血を欲しがっていると言うので、アランは献血をする。アランが眠っている間、召使が置いてあったアランの本を読むと、「吸血鬼は犠牲者から精気を吸い尽くすと犠牲者を自殺に追い込む。自殺した者は来世も放棄するからで天国の扉が開かないからだ」と書いてある。そこには、「胸に鉄の杭を打ち込むと、本当の意味で死を迎える」とも書いてあった。真実は、老婆こそが吸血鬼であり、村医者とその助手の義足の男とを自分の忠実な下僕にし、義足の男に主人を殺害させ、村医者が主人の長女レオーヌをさらって吸血鬼の餌食にしたのだった。この吸血鬼はかつて世にありし時に犯した罪悪のために墓場に入っても静安を得ることの出来ない女亡者で、人間の生き血を吸わねば生きていられないのだ。その第一の犠牲者が、長女レオーヌだったのだ。乗り越えるべき困難を前に、ジゼルとアランとの間に強い愛情が生まれる。吸血鬼に侵された病めるレオーヌは、村医者の企みにより自殺させられそうになるがアランに気づかれ、毒薬の瓶は彼女の手からもぎとられる。その毒薬は、吸血鬼がレオーヌに飲ませるべく村医者に渡したものだった。アランは眠りに吸血鬼 (1932) 幽体.jpg襲われる。――眠っているアランから意識が抜け出して、建物に入る。中にはジゼルが捕らわれていた。さらにそこには棺があり、蓋を開けるとアラン自身が入っていた。驚くアランだが、村医者とその下僕がやってきて、棺の蓋を閉めると釘を打つ。アランは棺の中から外を、町の風景を見上げている。空が見え、建物が見え、鐘の音が聞こえて棺は運ばれていく――。眠っている本当のアランの横を棺が運ばれていき、アランは目を覚ますと召使が行くのが見える。召使が墓を暴くのをアランは手伝い、出てきた棺の蓋を開ける。中にはレオーネの血を吸っていた老女がいて、召使がその胸に鉄の杭を突き刺すとその姿はたちまち白骨に。その時、臥せっていたレオーネは起き上がり、元気になる。義足の男は崖から落ちて死に、村医者も逃げ込んだ製粉所で粉に埋もれてその命を落とそうとしていた。同じ頃、アランは愛するジゼルと共に、夜の恐怖の去った森で、輝かしい夏の朝を迎えていた―。

吸血鬼 (1932年画)dvd4.jpg デンマークノカール・テオドア・ドライヤー(「裁かるるジャンヌ」('28年)/「奇跡」('55年))が監督した1930年制作、1932年5月公開のフランス・ドイツ合同映画で、日本では「ヴァンパイア」という題名で呼ばれることもある作品です。

吸血鬼 (1932年画)9.jpg ドライヤーは超自然の存在を題材とした作品を書こうと思って30冊以上のミステリ小説を読み、「なぜかドアが開いたり、わけもなくドアノブが動く」といったいくつかの要素がよく出てくることに気づいて、「我々ならこういうのを楽しく作れそうだ」と思ったとのこと。ロンドンとニューヨークで1927年に舞台版「ドラキュラ」が大ヒットした折でもあり、吸血鬼物は時代の最先端を行くと考えていた彼は、脚本において、シェリダン・レ・ファニュの同性愛女吸血鬼カーミラ.jpg的要素のある吸血鬼小説『女吸血鬼カーミラ』(1872)(それで女性吸血鬼なんだ。カミーラのように若い姿に化けないで老女のままだが)と、生き埋めを題材とした短編「ドラゴン・ヴォランの部屋」(創元推理文庫に訳出されている)を基にしたとのことです。

吸血鬼 (1932年画)医師.jpg ドライヤーはキャスティングとスカウトを開始して貴族ニコラ・ド・ガンズビュールと知り合い、彼を主役にするという条件で作品の資金提供の約束を取り付け、俳優になることを許していなかった家族と揉めたガンズビュールは、ジュリアン・ウェストという芸名で出演することに。彼に限らず、この映画の出演者のほとんどは素人で、城主役のモーリス・シュッツとその長女レオーネ役のジビレ・シュミッツだけがプロの俳優で、あとは、村医師役のジャン・ヒエロニムコなどは、ドライヤーが深夜のパリの地下鉄でスカウトした人物だったとのこと。映画に出ないかと持ちかけられた時、ヒエロニムコはぽかんとドライヤーを見つめそのまま答えなかったが、後で出演の意向を伝えたとのことで、他の素人出演者も同様に店先やカフェで声をかけられたそうです。

吸血鬼 (1932年画)陰.jpg そのせいか、この作品を観ると、ドライヤーは俳優の演出よりも背景づくりに力を入れている印象があり、その部分については、前衛的なカメラワークを駆使するなどして雰囲気はよく出ていて、1930年に製作された作品としては上出来ではないでしょうか。ストーリー自体ははっきりしない部分も多く、ただただ全体を通して恐ろしい夢の中のような雰囲気に包まれていますが(全部を夢想家である主人公の夢であるとする見方もあるようだ)、ガーゼをカメラから90cm離れたところに置き、それを通じて撮影したりしたようです(わざとボカしたのか)。

吸血鬼 (1932年画)8根」.jpg吸血鬼 (1932年画)ミール1.jpg吸血鬼 (1932年画)ミール2.jpg 脚本の草稿では、村医師が村から逃げようとして沼地にとらわれるという展開だったそうですが、スタッフが沼地探しに行った途中で製粉場を見つけ、その製粉錠の窓やドアの周りに白い影が現れたのを目の当たりにして、村医者が製粉場で大量の小麦粉に押し潰されて死ぬというものに変更されたそうです。ドライヤーというと重々しい作品のイメージがありますが、何だか制作秘話に事欠かないみたいで楽しいです。

 映画の目的について尋ねられた際、ドライヤーは「特にこれといった意図はありません。他の映画と違ったものを撮りたかったと思っただけ。私は映画界に新たな風をもたらしたかったのです、あなたが望むのならば。それだけです。そしてこの意図はうまくいったかと思いますか? 私はそう思います」と答えたそうです。

吸血鬼 (1932年画)夢.jpg 当時、この作品をある評論家が、同時期のトッド・ブラウニング(「フリークス」('32年))が監督し、ベラ・ルゴシ(「モルグ街の殺人」('32年))が主演した吸血鬼映画「魔人ドラキュラ」('31年)の亜流というよりも、ルイス・ブニュエルとサルバドール・ダリによる、実験映画としての性格の強い「アンダルシアの犬」('28年)などの作品に近いと評したそうですが、ほとんどの人がそう思うのではないでしょうか(主人公が幽体離脱し、棺に入れられている自分を見る場面などはまさにそう)。ただ、「アンダルシアの犬」に比べればまだストーリー性がある方で、分かりやすい作品ではないでしょうか。

吸血鬼 (1932)04.jpg「吸血鬼(ヴァンパイア)」●原題:VAMPYR●制作年:1930年(公開年:1932年)●制作国:フランス・ドイツ●監督:カール・テオドア・ドライヤー●製作:カール・テオドア・ドライヤー/ジュリアン・ウェスト●脚本:カール・テオドア・ドライヤー/クリステン・ジュル●撮影:ルドルフ・マテ●音楽:ウォルフガング・ツェラー●原作:シェルダン・レ・ファニュ●時間:75分(82分)●出演:ジュリアン・ウェスト/レナ・マンデル/ジビレ・シュミッツ/ジャン・ヒエロニムコ/ヘンリエット・ジェラルド/ジェーン・モーラ/モーリス・シュッツ/アルバート・ブラス●日本公開:1932/11●配給:東和商事(評価:★★★★)

          




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和田泰明

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