【3097】 ○ ブラム・ストーカー (田内志文:訳) 『吸血鬼ドラキュラ (2014/05 角川文庫)《( 平井呈一:訳) 『吸血鬼ドラキュラ (1963/12 創元推理文庫)》 ★★★★

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ストーリーの面白さでぐいぐい読み進むことができた。ヒロインのキャラが立っている。

吸血鬼ドラキュラ (角川文庫).jpg 『吸血鬼ドラキュラ』 昔の創元推理文庫の表紙.jpg 吸血鬼ドラキュラ (創元推理文庫).jpg Bram_Stocker_1847-1912.jpg
吸血鬼ドラキュラ (角川文庫)』['14年](カバー:山中ヒコ)/『吸血鬼ドラキュラ (1963年) (創元推理文庫)』['63年](カバー:石垣栄蔵)/『吸血鬼ドラキュラ (創元推理文庫)』['71年]/Bram Stocker(1847-1912)
『吸血鬼ドラキュラ』 角川文庫.jpg『吸血鬼ドラキュラ』 創元推理文庫o.jpg 事務弁護士のジョナサン・ハーカーは、ロンドンに屋敷を購入したいというドラキュラ伯爵との交渉のためトンラシルヴァニア山中の古城まで旅する。到着した城では、黒ずくめで長身のドラキュラ伯爵に迎えられる。伯爵の唇は毒々しい赤、その端からは尖った白い犬歯が出ており、息は生臭い。伯爵と英語で話す日が3日すぎた朝、持参の小鏡でヒゲ剃りを始めると、「おはよう」と伯爵が肩に手をやるが、鏡に伯爵の姿が映っていないことに驚く。手が滑り、頬から出血すると、伯爵が彼の喉笛に飛びかかる。身を引いた拍子に手が首の十字架にふれると、伯爵はとたんに「手当を」と言って、窓から鏡を外へ投げ捨てる。囚われの身であることに気づいた彼は、脱出方法を探しながら2ヵ月近くを過ごす。ある日、納骨所の木箱の一つに伯爵が死んだように横たわっているのを発見、2日後にまた行ってみると、若々しく膨らんだ伯爵の口のまわりが血だらけだった。魔女のような3人の怪女も現れて彼を苦しめる。ロンドンでは、ジョナサンからの連絡が途絶え、婚約者のミーナが気を揉む。ミーナの友達のルーシーは、3人の男性から求婚され、アーサー・ホルムウッド(ゴダルミング卿)を選んで幸福の絶頂にいた。しかし、近ごろ奇怪な夢遊病にかかり、夜中に外を歩き回って朝になるとその記憶がなく、体は衰弱していく。ルーシーの求婚者の一人でもあった精神病院の院長のジョン・セワードが診察するものの良くならず、恩師ヴァン・ヘルシング教授に救援を依頼する。駆けつけたヘルシング教授がルーシーの体に血液が足りないと診て輸血の手配をすると、彼女の首に2つの穴を発見する。教授は、ルーシーにニンニクの花輪を渡し、いつも身に着けているように指示する。どんどん血がなくなっていくルーシーに、もう一人の求婚者だったテキサスの大地主クインシー・モリスも駆けつけて輸血を申し出するが快方には向かわず、むき出しになってきた白い歯が尖り出す。やがてルーシーは亡くなって葬られるが、死に顔には元の美貌が戻り、首の穴も消えている。新聞は、人攫いの女に誘拐された子供が首にかみ傷をつけて戻るという怪事件の続発を報道、教授は、事件は実はルーシーの所業であるという。またセワード院長の奇妙な精神病患者レンフィールドは蝿、蜘蛛、鳥などを食べ、妙な説を唱え続けていたが、この男も伯爵の支配下にあるのだと。一方、ジョナサンはなんとか城を脱出して帰国し、ミーナと結婚していたが、伯爵は彼女に目をつけ、つけねらうようになる。レンフィールドを操ってセワードの病院に潜入した伯爵は、何万匹ものネズミの魔物を使ってパニックを引き起こす。ミーナを捉えると首を噛み、自分の爪であけた胸の傷口に彼女の口を押しつけて血を飲ませる。教授の用意した「聖餅」の効力で伯爵は退散するが、ミーナは「汚されてしまった」と嘆き、額に「聖餅」を当てると悲鳴を上げ、赤い痣ができる。ミーナの心に伯爵が入り込んだのだ。伯爵は自分の城へ帰ったらしいが、教授は、大都会で自分と同じ「不死者」を増殖させるのが伯爵の計画で、放置すればミーナも死後は彼と同じ「不死」の怪物になるという。事態を食い止めるには、ドラキュラ城まで追撃して彼を撲滅するしかないと、セワード、ゴダルミング卿、クインシーとジョナサンで計画を練る。ミーナからは催眠術でドラキュラの思考を引き出せるようになっていたので、彼女も加えたグループで東へと出発、城へ着くと、かつてジョナサンに迫った3人の魔女から攻撃を受ける。戦闘中、クインシーは深手を負うものの、彼らを撃退して、ついに納骨所の例の木箱に伯爵を発見。ジョナサンの大刀が伯爵の喉元を貫き、クインシーの匕首が胸に深く突き刺さると、その体は粉々の塵となって影も形なくなる。最期の瞬間の伯爵の顔には「平和の色」が浮かび、ミーナの額からは痣が消え、深手を負っていたクインシーもそれを見てにっこり笑って死ぬ―。

女吸血鬼カーミラ.jpg 1897年5月26日に刊行されたアイルランド人作家ブラム・ストーカー(1847-1912/64歳没)のゴシック・ホラー小説。ドラキュラ以前に書かれた同じアイルランド人作家でトリニティ・カレッジの先輩であるシェリダン・レ・ファニュの『カーミラ』(1872年)の影響が強く見られ(実際、ドラキュラの初稿では舞台はトランシルヴァニアではなくカーミラと同じオーストリアだった)、棺で眠るなどもカーミラと共通で、以降の吸血鬼作品のモデルになっています。

 アイルランドの吸血鬼伝説の影響も受けていて、「吸血鬼小説」としては『吸血鬼』(1819年)や『吸血鬼ヴァーニー』(1847年)などこれら以前にあり、前者については、イギリスの詩人バイロン、パーシー・シェリーと、バイロンの愛人(後に妻)メアリー・ゴドウィンの3人に、バイロンの主治医であるジョン・ポリドーリを加えた4人で、レマン湖畔の別荘に滞在した時、それぞれ怪奇小説を書いてみよう、ということになり、その時に、メアリーが書いたのがあの有名な『フランケンシュタイン』(1818年)ですが、バイロンが吸血鬼ものの物語の出だしとなる『断片』を書いており、これをジョン・ポリドーリが完成させたのが『吸血鬼』でした。

『ドラキュラ』水声社.jpg この小説を読むのは個人的には何十年ぶりかですが、かなりの部分が手紙や日記形式になっていて、角川文庫で660ページとページ数もあり、最初は読み進むのにやや時間を要しますが、読み慣れてくるとストーリーの面白さもあってぐいぐい読み進むことができます。

 久しぶりに読み返してみて、4人の若者が力を合わせ、教授(この人も結構若そうな感じ)の知恵を借りてドラキュラ伯爵を倒したのだなあと改めて思い出しました(複数ヒーロースタイルだったことを忘れてしまっていた)。ヒロインたるミーナが、いったんはドラキュラに侵されながらも、逆にそれを利用して、自分に催眠術をかけ、ドラキュラ探索の羅針盤としてほしいと申し出るなど、ヒロインとしてのキャラがぐっと立っていて、その分、4人に分散されたヒーロー一人一人のキャラクターの印象が弱いのかもしれません。

 角川文庫のための訳し下ろしである田内志文氏の新訳は読み易かったですが、表紙イラストは何とかならなかったものか。自分が昔読んだのは、平井呈一訳『世界大ロマン全集〈第3巻〉魔人ドラキュラ』(1956)を創元推理文庫に移植したものではなかったかと思いますが、こちらも、今読んでも、読みつけてしまえば(活字が小さいことを除いて)そう読みにくくはないです。また、単行本『ドラキュラ』('14年/水声社)という完訳詳注版もあり、こちらは140ページにも及ぶ注釈が充実しています。

 この物語をベースにした映画などの話になると、原作の最初の正規の映画化作品であるトッド・ブラウニング監督の「魔人ドラキュラ」('31年/米)をはじめいくらでもありそうですが、また別の機会にします。

【1963年文庫化・1971年新装版[創元推理文庫(平井呈一:訳)]/2004年再文庫化[講談社文庫(菊地秀行:訳)]/2014年再文庫化[角川文庫(田内志文:訳)]】

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