【3092】 ○ 松本 清張 「事故」―『事故―別冊黒い画集』 (1963/09 ポケット文春) ★★★★

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途中から倒叙法になるという変則的な作りだが、これはこれで面白かった。

事故 ポケット文春.jpg1973/07 事故.jpg事故  文春文庫.jpg 「事故」1975.jpg
事故―別冊黒い画集 (1963年) (ポケット文春)』['63年]/単行本['73年]/『新装版 事故 別冊黒い画集 (1) (文春文庫)』['07年]/NHK土曜ドラマ「松本清張シリーズ・事故」(1975)田村高廣・山本陽子
事故  3.jpg 山梨県内の断崖の下で、血まみれで死んでいる若い男が発見された。翌日、同県の湖畔の竹藪の中から三十すぎの女の絞殺死体が出てきた。男はトラック運転手で、女は興信所員だった。この二つの殺人と東京で起こったトラックの軽い接触事故。何の関係もなさそうな三つの事実の繋がりを追う―。

 松本清張が「週刊文春」1962(昭和37)年12月31日号・1963(昭和38)年1月7日号合併号から1963年4月15日号まで、「別冊黒い画集」第1話として連載した文庫で200ページほどの小説で、1963年9月に短編集『事故―別冊黒い画集1』収録の一作として、文藝春秋新社(ポケット文春)より刊行されています。

 前半は、居眠り運転でトラックが甲州街道脇の民家の玄関先を壊した事故、その事故を起こした運転手が山梨で殺害された事件、さらに興信所の女性所員が同じ山梨のそれとは離れた場所で殺害された事件の3件が描写されています。殺人事件にはともに捜査本部が置かれ、警察は懸命に捜査をするものの、犯人を割り出せず、迷宮入りの公算が高くなり、やがて本部も解散となります。

 そして後半は、田中幸雄という興信所所長の回想が独白形式で続き、発端となったトラック事故の被害民家と所長との関係、女性所員が調査にあたった経緯、秘密保持のための思い切った殺人計画など、事件の全貌が明らかにされます。結局、この男が犯人であるわけで、二人を殺害した経緯などが詳しく語られますが、最後にではなく途中にこの部分を持ってくることで「途中から倒叙法になる」という変則的な作りになっていますが、犯人が追い詰められていく心理の描写など、これはこれで面白かったです。

 結局、事件は迷宮入りし、犯人は追及を免れたかに見えましたが、最後、些細なことから警察の目が所長に向けられることになり、再捜査が進められるところで終っています。そうなる経緯として、トラック事故を起こした男の所属する自動車会社の総務の車両担当(事故の賠償交渉担当)が、その件で門と玄関を壊したのに2万円の賠償額で済んだことを、他の賠償交渉の際に吹聴していたとうのがあります。

 それを聞いておかしいと思った刑事(名前は出てこない)が、実際に事故のあった家を訪ね、夫婦が別居状態になっていることを知り、別れた妻の働き口を紹介したのが田中幸雄であったことを知って―。自動車会社の事故の賠償交渉担当が、交渉を有利に進めるために過去の事案としてその事故を語っていたのが、図らずも迷宮入りした事件の再捜査の契機になったというのがありそうで面白いです。

 妻が夫の浮気調査を興信所に依頼し、その確証は掴めたものに踏み込めず、逆に自分が興信所の局長と不倫関係になったところへ、今度は夫の方がその局長の元に妻の浮気調査を依頼してくるというのも、滑稽と言うか皮肉と言うか、でもこれもまたまったくあり得ない話でもないように思え、このあたりのリアリティの持たせ方というのも上手いと思いました。

 過去にフジテレビで帯番組として作られたものも含め5回ドラマされていて、単発では、NHKの「土曜ドラマ」枠、テレビ朝日系の「土曜ワイド劇場」枠、に日本テレビ系の「火曜サスペンス劇場」枠、テレビ東京系の「水曜ミステリー9」枠で放送されています。後になるほど改変の度合いが大きいようです。
 •1972年「真昼の月(CX)」[全50回]市川和子・土屋嘉男・下條正巳
 •1975年「松本清張シリーズ・事故(NHK)」田村高廣・山本陽子・佐野浅夫 
 •1982年「松本清張の事故 (ANB)」山口崇・松原智恵子・中尾彬
 •2002年「松本清張スペシャル・事故 (NTV)」古谷一行 ・斉藤慶子 ・十朱幸代
 •2012年「松本清張没後20年特別企画 事故〜黒い画集〜(TX)」高橋克実 ・京野ことみ
 以上のうち、1975年のNHK「土曜ドラマ」版「松本清張シリーズ・事故」を最近観たので、それについては次のエントリーで取り上げようと思います。

「松本清張シリーズ・事故」03.png「松本清張シリーズ・事故」05.jpg【3093】 松本 美彦 (原作:松本清張/脚本:田中陽造) 「松本清張シリーズ・事故NHK) ★★★★
【1973年単行本[文藝春秋(『事故―別冊黒い画集1』)]/1975年文庫化・2007年新装版[文春文庫(『事故―別冊黒い画集1』)]】
 
     
 

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