【3090】 ○ 藤原 審爾 「放火」―『葛藤する刑事たち―傑作警察小説アンソロジー』 (2019/11 朝日文庫) 《放火」―『新宿広場:新宿警察』 (1969/12 報知新聞社)》★★★★

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シリーズ初期作品で、これまで文庫に収められなかった「放火」。登場人物の名前が違う。

『新宿広場』1.jpg『新宿広場』2.jpg  『葛藤する刑事たち』.jpg 藤原審爾1.jpg 藤原審爾
『葛藤する刑事たち』傑作警察小説アンソロジー (朝日文庫)』['19年]
『新宿広場:新宿警察』['69年/報知新聞社](収録作品:新宿ゴキブリ、勇気ということ、新宿でかめろん、ズベ公おかつ、新宿心中、優雅な死、新宿製人魚、青い公園にて、新宿その血の渇き、所轄刑事、純情無頼、放火、鴉のあしあと、新宿西口ビル街殺人事件)

 聞込みは、運が左右する。不意に思いがけないことをきかれて、すらすら思い出せるものではない。それに、なにか大事な目撃をした者が、聞込みの時に居合せなければ、それきりである。それに喋るほうは無責任で、正確を期そうとするわけではない。それらの悪条件を克服するのは、犯人を捕えないではいられない情熱と運と、足が棒のようになるほど、根気よく聞込みをつづけることである―。(「放火」より)

「新宿警察」00.jpg 東京・新宿にある警察署を舞台に、燃えるような情熱をもった刑事たちを描いた藤原審爾の《新宿警察シリーズ》('75年9月から'76年2月にかけてCX系で放映された北大路欣也主演のドラマ「新宿警察」の原作)の1作。文字通り放火事件の犯人捜査を軸とする捜査ものですが、このシリーズの特徴的傾向として、軸となる物語の事件が他の事件との並行捜査になっていて、ここでは、新宿の暴力団の十二社にある賭場への武装警官突入と重なっています。そこで、新興の愚連隊の男の超絶美人の情婦を挙げることになりますが、実は彼女は―。

 藤原審爾の短編集『新宿警察』('09年/双葉社文庫)を読んで、この文庫シリーズは『慈悲の報酬-新宿警察Ⅱ』『所轄刑事-新宿警察Ⅲ』『新宿生餌-新宿警察Ⅳ』と続くのですが、次にどれを読もうかと思っていたら、このアンソロジーの中に作者の「放火」が収められていることを知りました。

「新宿警察」03.jpg 「放火」は藤原審爾が雑誌「新評」の1969年12月号に発表したもので、短篇集『新宿広場:新宿警察』('69年/報知新聞社)に収められた、シリーズの中でも初期の作品になります。この頃は、物語の主要メンバーのうち、根来(ドラマにおける北大路欣也)、仙田(同・小池朝雄)、徳田(同・花沢徳衛)は名前「新宿警察」07.jpg.png.jpgが確定していますが、山辺(同・財津一郎)は"富田"、戸田(同・三島史郎)は"戸川"(「新宿警察」)だったり"村山"(「放火」)だったりしたようです。そして、この「放火」は、『新宿広場:新宿警察』以降なぜか文庫等への収録が無かったためそれらの名前を統一する機会がなく、杉江松恋氏監修のKindle版(『新宿警察(1)捜査篇 新宿警察』('17年/アドレナライズ)に所収)でもそのままだったようです。

 「放火」は火事を最初から放火と決めつけ、興奮のあまり場所の報告を忘れてしまうような若い部下を仙田が、辛抱強く見守り導く"部下育成"物語にもなっていますが、この部下の"村山"が、後の戸田であり、シリーズの主人公の根来の妹・登志子(同・多岐川裕美)の婚約者になるのではないかな。


この『葛藤する刑事たち』に収められているのは、以下の9篇。

【黎明期】
 松本清張 「
 藤原審爾 「放火」
 結城昌治 「夜が崩れた」

【発展期】
 大沢在昌「老獣」
 逢坂剛 「黒い矢」
 今野敏 「薔薇の色」

【覚醒期】
 横山秀夫 「共犯者」
 月村了衛 「焼相』
 誉田哲也 「手紙」

 村上貴史氏の解説では、50年代半ばから警察小説と呼びうる作品が発表され始め、松本清張で言えば'55年の「張込み」、藤原審爾で言えば'59年の《新宿警察シリーズ》の「若い刑事」などであり、島田一男の《部長刑事》シリーズの第1作の刊行も'62年で、いずれも作家も他のジャンルを書きつつ、警察小説も書いていたとのことですが、「黎明期」の三人としては、松本清張、藤原審爾に加え、'59年に長編『ひげのある男たち』を書いている結城昌治の作品を取り上げています(取り上げた作品は貞永方久監督、勝野洋・桃井かおり・原田芳雄主演で「夜が崩れた」('78年/松竹)として映画化されている)。

 松本清張は〈社会派推理〉とか〈旅情ミステリ―〉とかで先駆者としてどこにでも顔を出すとして(「」も'56年発表と早い、これも鈴木清順監督、二谷英明・南田洋子主演で「影なき声」('58年/日活)として映画化されているほか、何度かテレビドラマ化されている)、結城昌治はどちらかと言うと「ハードボイルド小説の先駆者」という印象があります。「三人」を敢えて「二人」に絞ると、松本清張とあとは《新宿警察シリーズ》が「日本の87分署」と評される藤原審爾になるのではないでしょうか。

 単に警察小説を並べるのではなく、黎明・発展・革新の3部構成で分類し、解説もそれに沿ってされており、「警察小説」における各作家のポジショニングが分かったのが良かったです。藤原審爾について「放火」を選んだのも、これまで文庫に収められていなかったことを考えてのことかと思われます。

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