【3088】 ○ 藤原 審爾 『新宿警察 (2009/10 双葉社文庫) ★★★★ (△ 鈴木 則文 (原作:鈴木則文) 「聖獣学園 (1974/02 東映) ★★☆)

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ドラマ「新宿警察」の原作。粒ぞろいだが、「新宿心中」が一番か。

I新宿警察I (双葉.jpg新宿警察 tv4.jpgseijyugakuen.jpg聖獣学園 [DVD]」(多岐川裕美)
新宿警察I (双葉文庫)』['09年] TVドラマ「新宿警察」北大路欣也/藤竜也/財津一郎/花沢徳衛/小池朝雄 
新宿警察1-4.jpg新宿警察 tv図2.jpg '75年9月から'76年2月にかけてCX系で放映された北大路欣也主演のドラマ「新宿警察」の原作です。既刊の『新宿警察』('75年/双葉社)を分冊したもので、本書に収められているのは「新宿警察」「復讐の論理」「若い刑事」「新宿心中」「ズベ公おかつ」の全5篇です(残りは『慈悲の報酬-新宿警察Ⅱ』に収められ、さらに『続新宿警察』('75年/双葉社)』も分冊化され、『所轄刑事-新宿警察Ⅲ』『新宿生餌-新宿警察Ⅳ』に収められている)。当初からの物語の主要メンバーは、主人公の新宿署の根来、課長の仙田(ドラマでは主任)、署の生き字引と言われる徳田、後に根来の妹・登志子(ドラマでは戸志子)の婚約者となる戸田などです。

新宿警察 仙田.jpg「新宿警察」... 新宿の街に若い女性に硫酸を浴びせる硫酸魔が出没。新宿署の仙田らは、地道な調査を続け、犯人の特定と犯人の次のターゲットの保護を目指す―。ちようど今年['21年]8月に、東京・港区の東京メトロ白金高輪駅で硫酸を使った傷害事件が起きたばかりで、怖いなあと思いながら読みました。新聞報道によれば、今回の事件は、警視庁が容疑者の男の逮捕までに駅や街中の防犯カメラ約250台を解析していたとのこと。時代は変わったのか変わっていないのか。初出は「推理ストーリー」1968年3月号ですが、Kindle版監修の杉江松恋氏によれば、タイトルは同年刊行の『新宿警察』('68年/報知新聞社)を意識したのではないかとのことです(ドラマ「新宿警察」で仙田を演じたのは小池朝雄)。

新宿警察 登志子.jpg新宿警察 根来.jpg「復讐の論理」... 静岡の刑務所を脱獄した犯人。かつて、船上での逮捕時に、情婦が彼を逃がすために時間を稼ごうと身投げして命を絶ったことから、彼を追い詰めた新宿署の刑事・根来を憎んでいた。脱獄犯は東京に潜入し、ついには根来の唯一の肉親である妹・登志子の住むアパートの屋上に現れる。手にライフルを携えて―。これもハラハラドキドキさせられます。昭和のマンションって屋上が住民たちの洗濯物干し場になっていたのだなあ。そう言えば学校や会社の建物にも屋上があり、バレーボールとかやっていた...(ドラマ「新宿警察」で根来を演じたのは北大路欣也、登志子を演じたのは多岐川裕美)。

「駈けだし刑事」.jpg「駆けだし刑事」1.jpg.png「若い刑事」... 今は亡き敏腕刑事を父に持つ正介は、大学を卒業して金融会社の社長秘書になるも、実はその会社はブラック企業だったために退職、警察学校を経て警官になって1年後、新宿署の刑事に抜擢される。その正介が担当した事件が、前の勤務先のブラック企業絡みのものだった―。若い刑事の成長物語。散々な目に遭って、自分には刑事は向かない、もう辞めてやると思った頃に、傍から見ると"デカ"らしくなっているというのが可笑しいです。1959(昭和34)年に雑誌に発表されたシリーズのパイロット版的作品(シリーズ第1作)です(短編集『若い刑事』('60年/彌生書房)として刊行されたが、 表題作「若い刑事」のみがシリーズ作品)。この「若い刑事」は、「駈けだし刑事」('64年/日活)として前田満洲夫監督、長門裕之主演(共演:長谷百合・伊藤雄之助・高品格)で映画化されていますが、個人的には未見です。

新宿警察 山辺.jpg「新宿心中」... 若い女性を香港や台湾に売り飛ばすことを業としている組織を挙げるために新宿署も協力することになる。仙田は、柔道五段剣道三段の猛者・山辺に担当させることにするが、彼の妻は、山辺と彼の仕事のことで喧嘩したはずみに事故に遭い、寝たきりで精神状態も不調で、山辺ともろくに話さない―。辛い話だなあと。事件の方は無理心中事件の謎解きを経て、組織のアジトへの警官隊の突入にへ。事件が解決したところで、山辺と妻との関係も希望が持てるものに改善。最初が辛かっただけに、カタルシス効果が大きかったです。5篇の中では個人的にはこれが一番良かったです(ドラマ「新宿警察」で山辺を演じたのは財津一郎)。

「ズベ公おかつ」...冒頭の「新宿警察」で危うく硫酸魔の餌食になりかけた"おかつ"。ホントは気のいい女なのだが、新宿西口の寿司屋で大乱闘事件を起こしたために、根来は、おそらく彼女が潜伏している故郷・尾道の島まで彼女を逮捕しにいく途上である。彼女が自分に淡い恋情を抱いだいていることは根来も感じており、どうもやりにくい―。刑事ものにしてはロマンスとユーモアが感じられる一篇でした。

 短篇集ながらその事件の多くが多重構造になっていて、なかなか一直線には解決できず、刑事たちの地道な捜査が続きます(ドラマにおいても「『太陽にほえろ!」と同じ新宿を舞台にしながら、刑事たちを決してヒロイックには描いていなかった)。その一方で、多重構造になっていている分、思わぬところから解決への糸口が見えたりもし、実際の捜査や事件解決ってこんな感じなのだろうなというシズル感がありました。また、全体に昭和の雰囲気も感じられました(監視カメラもなければスマホもない時代だったからなあ)。

 藤原審爾は『秋津温泉』を読み、岡田茉莉子主演の映画「秋津温泉」('62年/松竹)を最近観ましたが、それとはまったく異なる作風の作品で、所謂"警察小説"と言われるものです。この「新宿警察」シリーズは数十年にわたり100篇以上書かれたのではないとも言われていますが、確認されているのは58篇ぐらいで正確な全容は分からないそうです(この問題は、1994年刊行の『活字探偵団』(本の雑誌社)でも取り上げられている)。

『活字探偵団』(1994//10 本の雑誌社)
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藤原審爾
藤原審爾2.jpg 文芸評論家の細谷正充氏の文庫解説によれば、作者の自伝的随筆の中に、「今、当時の作品表をみてみると、(昭和)44年のその頃からは、
 新宿警察もの
 ユーモア昭悦
 動物小説、
その三種の作品が圧倒的に多い」とあるそうで、警察小説だけでないところがスゴイです(動物小説については、1972年発表の動物小説集『狼よ、はなやかに翔べ』などがある)。

 実際、先に挙げた映画「秋津温泉」ばかりでなく、自分が観たものに限っても、市川雷蔵主演の映画「ある殺し屋」('67年/大映)、「ある殺し屋の鍵」('67年/大映)の原作も藤原審爾(雰囲気は警察ものにやや近いか)、森繁久弥・倍賞美津子主演の「喜劇女は男のふるさとヨ」('71年/松竹)の原作も藤原審爾です。文芸的な雰囲気の恋愛もの、警察もの、時代劇、ハードボイルド、お色気ユーモア小説と、これだけ異なる得意ジャンルを持った作家も珍しいと思います。

聖獣学園 takigawa.jpg 因みに、ドラマでの根来(北大路欣也)の妹・登志子(ドラマでは戸志子)を演じた多岐川裕美は、ドラマ出演の前年に成人漫画を映画化した鈴木則文(1933- 2014/80歳没)監督の「聖獣学園」('74年/東映)でデビューしており、この映画は修道院を舞台にしたエロティック・バイオレンスで、多岐川裕美がヌードを披露する他、拷問シーンなど体当たりの演技を見せました。封切り当時は全くヒットせず、忘れ去られた映画になっていましたが、多岐川裕美が清純派イメージで人気を高めていた1980年頃、かつて映画でヌードになっているとメディアに取り上げられて再公開されています。個人的には'83年に新宿昭和館でo0聖獣学園.jpg観ましたが、多岐川裕美の学芸会的演技ぶりでその時の個人的評価は×(★★)、ただし、後に多岐川裕美が"嫌々脱がされた"と訴え、そのことで鈴木則文監督から逆提訴されそうになったとの話もあったりして、いろいろな意味でレアものであるとのことでオマケで△(★★☆)に。ウィキペディアに<よれば、日本におけるナンスプロイテーシ聖獣学園 1974すち.jpgョン映画(尼僧や女子修道院を主題とするエクスプロイテーション映画)の傑作とのことですが、ひとえに後に多岐川裕美が有名女優になったことによるのではないかという気がします。三原葉子(修道院の副院長)や渡辺文雄(司祭)、谷隼人やたこ八郎が出演していて、作家の田中小実昌なども出ています。
山内えみ子(絵美子)/多岐川裕美

「新宿警察」多岐川.jpg 多岐川裕美はこのドラマ出演中に人気が急上昇し、元の「新宿警察」の方の出演が多忙中の綱渡りになってしまったため、最初の内は事件に関与していたりしたものの(第2話「地下水道」)、後は第21話「新宿心中」、第22話「新宿・初恋」で事件に絡む程度でした。最終回の序盤で、ネグリジェ姿のままエプロンをつけ、朝ご飯の支度新宿警察 多岐川.jpgをしている場面があり、兄の根来に「いくら兄貴の前だって、服くらい着ろよ」とたしなめられますが、当時の一部の視聴者が多岐川裕美に求めていたイメージ的役割に応えたともとれます(ただし、これはドラマ用に作ったシーンではなく、本書所収の「復讐の論理」の冒頭に実際に同じようなシチュエーションで兄妹がこうしたやりとりをする場面がある)。'76年にNHKの大河ドラマ「風と雲と虹と」で主人公の平将門が求婚する性に奔放な女性・小督(こごう)を演じ、'78年にはテレビドラマ版「飢餓海峡」のヒロイン役でヌードを拒否し、浦山桐郎監督と揉めて降板しています(この頃から清純派志向になったか)。NHK大河ドラマの方は、その後も「草燃える」('79年・実朝の妻・音羽役)、「峠の群像」('82年・竹島素良役)、「山河燃ゆ」('84年・ 畑中(天羽)エミー役)に出多岐川 NHK.jpg演したほか、同じくNHKドラマの「風神の門」('80年・ 隠岐殿役)にも出演、さらに80年代後半ではフジテレビドラマ「鬼平犯科帳」シリーズで長谷川平蔵(二代目中村吉右衛門)の妻・久栄を長らく演じるなどし、すっかり貞淑妻路線を行っていたように思います。
多岐川裕美 in「風と雲と虹と」('76年)/「草燃える」('79年)/「風神の門」('80年)
「鬼平犯科帳」('89年 -'07年、スペシャル含む)
鬼平犯科帳 多岐川2.jpg

新宿警察 コレクターズDVD.jpg新宿警察 9.jpg「新宿警察」●監督:真船禎/原田雄一ほか●脚本:江里明(小川英)/尾中洋一/永原秀一/池田一朗ほか●音楽:クニ河内●原作:藤原審爾●出演:北大路欣也/藤竜也/財津一郎/三島史郎/司千四郎/花沢徳衛/小池朝雄/多岐川裕美●放映:1975/09~1976/02(全26回)●放送局:フジテレビ

新宿警察 コレクターズDVD <デジタルリマスター版>


0新宿警察 4.jpg   

聖獣学園 dvd.jpg「聖獣学園」p.jpg「聖獣学園」●制作年:1974年●監督:鈴木則文●脚本:掛札昌裕/鈴木則文●撮影:清水政夫●音楽:八木正生●原作:鈴木則文/(画)沢田竜治●時間:91分●出演:多岐川裕美/山内えみこ(恵美子→絵美子)/谷隼人/渡辺やよい/大谷アヤ/城恵美/田島晴美/石田なおみ/美和じゅん子/大堀早苗/村松美枝子/謝秀客/竹村清女/早乙女りえ/谷本小代子/森秋子/山本緑/衣麻遼子/マリー・アントワネット/木村弓美/木挽[三原葉子.jpgwatanabehumio2.jpg輝香/鈴木サチ/根岸京子/三原葉子/山田甲一/田中小実昌/小林千枝/章文栄/太古八郎(たこ八郎)/渡辺文雄●公開:1974/02●配給:東映●最初に観た場所:新宿昭和館(83-05-05)(評価:★★☆)●併映:「純」(横山博人)

三原葉子(副院長・松村定子)/渡辺文雄(司祭・柿沼信之)
     
新宿昭和館2.jpg新宿昭和館3.jpg
新宿昭和館 1951(昭和26)年K's cinema.jpg7月13日新宿3丁目にオープン(前身は1932年開館の洋画上映館「新宿昭和館」)。1956年、昭和館地下劇場オープン。2002(平成14)年4月30日 建物老朽化により閉館。跡地にSHOWAKAN-BLD.(昭和館ビル)が新築され、同ビル3階にミニシアター「K's cinema」(ケイズシネマ)がオープン(2004(平成16)年3月6日)。

《読書MEMO》
●映画「駆けだし刑事」('64年/日活)
「駆けだし刑事」2.jpg

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