【3081】 ○ 松本 清張 『中央流沙 (1968/09 河出書房新社) ★★★★

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何とも言えないやるせなさの残る結末。ドラマの改変は、これはこれで良かったのでは。

中央流沙 (中公文庫).jpg中央流沙(光文社文庫).jpg 「中央流沙.jpg中央流沙 (中公文庫)』['98年]『中央流沙: 松本清張プレミアム・ミステリー (光文社文庫)』['19年]「松本清張生誕100年スペシャル 中央流沙」['09年/TBS]和央ようか/石黒賢/かたせ梨乃/髙嶋政宏/小林綾子
『中央流沙』(1968)
中央流沙 河出書房.jpg 総務課事務官・山田喜一郎は、農林省食糧管理局長・岡村福夫のお供で視察先の札幌に来ていたが、同省の倉橋課長補佐が汚職の重要参考人になったことを受けて、岡村局長と共に東京に呼び戻された。当の倉橋は、警察からの聴取を終えた後、北海道に出張を命じられるが、札幌で不安に怯える倉橋に、農水省の幹部に顔の利く弁護士・西秀太郎から、仙台市の作並温泉のある宿に身を寄せるよう指示される。その宿へ西は愛人を連れてやって来るが、倉橋と二人きりになると、西は倉橋に自殺するよう示唆する。倉橋が反抗すると西はそれ以上言わなかったが、その夜に倉橋は、旅館近くの崖下に倒れているのを西に発見され、西の指示で旅館に運び込まれた後、医師が死亡を確認する。余計なことを聞いてはならぬのが保身の術という哲学の山田は、事態の成り行きを傍観者として眺めているが、その山田が、岡村局長の指示を受け、遺体引取りを命じられる。山田には、倉橋の死に政治的な匂いが感じられた―。

IMG_20211211_042739.jpg 松本清張が「社会新報」の1965(昭和40)年10月号から翌 1966年11月号に連載した作品。1968年9月河出書房新社から単行本が刊行され、中公文庫で文庫化されましたが、2019年に、光文社文庫の「松本清張プレミアム・ミステリー」の第5弾の第8冊として加わりました(通算29作目)。このシリーズ、新潮文庫などとはまた違ったラインアップが楽しめます。

 「わたしに自殺しろという暗示のようにきこえますが」という倉橋課長補佐の言葉が胸に突き刺さります。ずっと傍観者だった山田事務官が立ち上がるかと思いきや、最後はなんと政治家と警察の間で「価値の交換」が行われ、彼の死は何ら報われないものとなってしてしまいました(奥さんは夫の死と引き換えに経済的庇護を得るが、倉橋にすれば、これは"報われた"とは言えないだろう)。

NHK土曜ドラマ「松本清張シリーズ・中央流沙」(1975年)/松本清張(遺体搬送係)
「中央流沙」11.jpg「中央流沙」1matu.jpg これまで3度ドラマ化されれいて、1度目は1975年にNHKの「土曜ドラマ」枠(70分)で「松本清張シリーズ・中央流沙」として放送。山田事務官が川崎敬三、倉橋課長補佐が内藤武敏、岡村局長が佐藤慶、新聞記者が角野卓造という配役で、原作の松本清張が遺体搬送係の役でカメオ出演していますが、個人的には未見です。

日本テレビ火曜サスペンス劇場「松本清張スペシャル・中央流沙」(1998年)
「中央流沙」2.jpg 2度目は、1998年に日本テレビの「火曜サスペンス劇場」枠で「松本清張スペシャル・中央流沙」として放送。山田事務官が緒形拳、倉橋課長補佐が鶴田忍、その妻が藤真利子、岡村局長が石橋凌、西秀太郎が石橋蓮司という配役で、またもトカゲのシッポ切り―中央官庁の腐敗に下級官僚男が怒りの反乱」という口上があり、倉橋の死に疑念を持った緒形拳の山田が、自ら倉橋の遺体を引き取りに行くようです。山田が岡村に呼出され、特捜部に取調べを受ける際の予行演習をやらされるところまで原作を再現していて、結局 検察は岡村に手を出せず、岡村に島根県に転勤と言われた山田が辞表を出すところで終わるようですが、こちらも未見のため詳しくは分かりません(「怒りの反乱」はどうなった?)。

TBS月曜ゴールデン「松本清張生誕100年スペシャル 中央流沙」(2009年)
「中央流沙」3.jpg 3度目は、2009年にTBSの「月曜ゴールデン」枠で「松本清張生誕100年スペシャル 中央流沙」として放映されたもので、倉橋の妻・節子を主人公として、元宝塚歌劇団宙組トップスター・和央ようかがそれを演じ(ドラマ初出演)、倉橋が石黒賢、岡村局長が西岡徳馬、川辺記者が髙嶋政宏、西秀太郎が六平直政、山田喜一郎が平田満という配役です。これは観ました!

松本清張生誕100年スペシャル・中央流沙p.jpg 原作と異なり、和央ようか演じる倉橋の妻が事件の真相を探る"探偵"役的位置づけで、原作では弁護士である西が建設会社の社長になっていて、原作で単に西の愛人としてしか登場しない堀田よし子(29)が、高級クラブのオーナー・堀田真紀子に改変されていて、岡村の元愛人で、二人の間には政治家秘書を務める賢一という息子がいることになっています。

松本清張生誕100年スペシャル・中央流沙.jpg この堀田真紀子をかたせ梨乃が演じ、原作では西が倉橋に自殺を唆すところ、ドラマではその役回りを堀田真紀子がやります。したがって、かたせ梨乃が石黒賢に自殺を唆すという構図ですが、コレ、もしかしたら六平直政がやるより怖かったかも(笑)。

 3度目のドラマ化なので、これくらいの改変があってもいいのかもしれません。倉橋が妻に、自分に何かあった時のために楽譜に(二人の共通の趣味はピアノ)堀田真紀子の高級クラブの名前を暗号化して忍ばせるなど、やや凝り過ぎ感もありますが、かたせ梨乃tyuouryyusa.jpgが演じる堀田真紀子にも息子の自死という哀しい結末が用意されていました。ただ、事件そのものは解決されるので、原作よりカタルシスはあるかと思われ、ドラマはこれでもいいかなと。ただし、一応、原作の方は、巨悪は追及を免れてしまう、何とも言えないやるせなさの残る結末であることを知っておいた方がいいかとは思います。

 因みに、石黒賢は自殺を唆されそれを拒否すると殺害されてしまうという可哀そうな官吏の役でしたが、同じくTBS「月曜ゴールデン」枠の2013年の「松本清張没後20年スペシャル・寒流」では、椎名桔平演じる銀行員から芦名星演じる愛人を奪い取る上司の役でした。

「松本清張生誕100年スペシャル・中央流沙」(TV)●監督:山本実●制作:TBS・毎日放送●脚本:洞澤美恵子●原作:松本清張●出演:和央ようか/石黒賢/かたせ梨乃/西岡徳馬/髙嶋政宏/平田満/六平直政/小林綾子/でんでん/香山美子/天田俊明/ベンガル●放映:2009/12(全1回)●放送局:TBS

光文社文庫(松本清張プレミアム・ミステリー)『中央流沙』['19年]/『高台の家』['19年]
中央流砂・高台の家.jpg
【1998年文庫化[中公文庫]/2019年再文庫化[光文社文庫(松本清張プレミアム・ミステリー)]】

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