【3074】 ○ 筒井 康隆 『あるいは酒でいっぱいの海―筒井康隆初期ショートショート』 (1977/11 集英社) 《『あるいは酒でいっぱいの海』 (2021/08 河出文庫)》 ★★★☆ (○ 筒井 康隆 『にぎやかな未来』 (1968/08 三一書房) ★★★★)

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筒井康隆という作家とショートショートという作品形態の相性が良かった時期。

あるいは酒でいっぱいの海.jpgあるいは酒でいっぱいの海 河出.jpg にぎやかな未来 (1968年)2.jpg
あるいは酒でいっぱいの海 (河出文庫)』/『にぎやかな未来(1968年)』(カバー絵:長尾みのる)
あるいは酒でいっぱいの海―筒井康隆初期ショートショート (1977年)』(カバー絵:柳原良平

あるいは酒でいっぱいの海 syueisyabunko.jpg 作者の処女作とも言える'60年発表の「タイム・マシン」「脱ぐ」などの作品から、'76年に発表された「逆流」「善猫メダル」「前世」といったショートショートまで、約15年間に発表された30篇の短編を集めた作品集。1977年11月に『あるいは酒でいっぱいの海―筒井康隆初期ショートショート』として集英社より刊行されていますが、通常の単行本にするには紙数不足だったようで、余白を大きくとった変形本のスタイルで刊行されています。その後、1979年に集英社文庫化され、今年['21年]8月に河出文庫で再文庫化されました

収録作品:「あるいは酒でいっぱいの海」「消失」「鏡よ鏡」「いいえ」「法外な税金」「女の年齢」「ケンタウルスの殺人」「トンネル現象」「九十年安保の全学連」「代用女房始末」「スパイ」「妄想因子」「怪段」「陸族館」「給水塔の幽霊」「フォーク・シンガー」「アル中の嘆き」「電話魔」「みすていく・ざ・あどれす」「タイム・カメラ」「体臭」「善猫メダル」「逆流」「前世」「タイム・マシン」「脱ぐ」「二元論の家」「無限効果」「底流」「睡魔のいる夏」
あるいは酒でいっぱいの海 (1979年) (集英社文庫)

にぎやかな未来 kadokawabunko.jpg笑うな  新潮文庫 筒井.jpg 河出文庫解説のSF・ミステリ評論でフリー編集者でもある日下三蔵氏によると、昭和のうちに出た作者のショートショートは『にぎやかな未来』('68年/三一書房(48篇)、'72年/角川文庫(41篇)、'76年/徳間書店、'16年/角川文庫(改版))、『笑うな』('75年/徳間書店(34篇)、'80年/新潮文庫、02年/新潮文庫(改版))、『あるいは酒でいっぱいの海』('77年集英社(30篇)、'79年/集英社川文庫)、『くたばれPTA』('86年/新潮文庫(24篇)、'15年/新潮文庫(改版))の4冊で、以上のように、『あるいは酒でいっぱいの海』だけが今世紀に入って改版されたり新装版が出たりしていないため、この度再文庫化されることのなったようです。
にぎやかな未来 (角川文庫)』/『笑うな (新潮文庫)』(カバー絵:ともに山藤章二

東海道戦争.jpgベトナム観光公社.jpgAfrica.jpgalfalfa.jpgホンキイ・トンク.jpgわが良き狼(ウルフ).jpg 上記には、例えば『にぎやかな未来』から『笑うな』の間に刊行された『東海道戦争』('65年/早川書房(ハヤカワ・SF・シリーズ)(13篇))や『ベトナム観光公社』('67年/早川書房(ハヤカワ・SF・シリーズ)(18篇))、『アフリカの爆弾』('68年/文藝春秋)、『アルファルファ作戦』('68年/早川書房(ハヤカワ・SF・シリーズ)(14篇))、『ホンキイ・トンク』('69年/講談社(9篇))、『わが良き狼(ウルフ)』('69年/三一書房(8篇))などは含まれていませんが、これらは収録作品数からわかる通り、短篇集でありショートショート集ではないためでしょう。

 ショートショート集4冊の中では、個人的にはやはり、角川文庫で読んだ『にぎやかな未来』の印象が強いです。今読むと、時代を感じる部分があるのは致し方ないですが、一方で、インターネットの普及やインターネット広告の氾濫を予言したようなところもあり、今読んでも興味深く読めます。日下三蔵氏によると、実は、上記4冊の中で、新作をまとめた通常のショート・ショート集はこの『にぎやかな未来』だけであり、自らが主宰し発行していた「NULL」を始めSF同人誌に発表されたものが主ですが、充実した初期創作期であったことが窺えます。

 一方、この『あるいは酒でいっぱいの海』は、当時それほど注目されなかったような気もするし、編集の経緯で「寄せ集め」的になり、レベル的にもやや玉石混交気味であるように思いました(作者がそれほど積極的に作品集に入れたがらなかった作品も含まれているようだ)。

 それでも、作者自身が自信作と言う「給水塔の幽霊」('63年「団地ジャーナル」発表)(タイトルがオチになっている!)、「鏡よ鏡」('71年「朝日新聞」発表)(星新一風か)などはなかなか良かったです。遅刻ばかりする男の自室の押入れと会社のロッカーが繋がってしまったという奇想譚「トンネル現象」('65年「科学朝日」発表)も面白い。表題作の「あるいは酒でいっぱいの海」は、解説によると「高2コース」の'67年5月号の発表されたそうですが、エイヴラム・デイヴィッドスンのヒューゴー賞(短編小説部門)受賞作「あるいは牡蛎でいっぱいの海」をもじったタイトルなのに、それが分からない学研の編集者に「海水が酒に...」という身も蓋もないタイトルに変えれれて掲載されたそうです。

 『笑うな』('75年)の作者あとがきに『にぎやかな未来』('68年)に収録した以外のショートショートを収めたとし、最近はショートショートを書かなくなり、今後もおそらく書くことはないだろうから、これが最後のショートショート集になりそうだとしていますが、筒井康隆という作家とショートショートという作品形態の相性が良かった時期があったことに改めて思い当たりました。

『あるいは酒でいっぱいの海』...【1979年文庫化[集英社文庫]/2021年再文庫化[河出文庫]】
『にぎやかな未来』...【1972年文庫化・2016年改版[角川文庫]/1976年単行本[徳間書店]】

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