【3056】 ○ 松本 清張 「種族同盟」―『火と汐』 (1968/07 ポケット文春)《松本 清張ほか(著)/日本推理作家協会(編)『種族同盟―現代ミステリー傑作選1〈策謀・黒いユーモア編〉』 (1969/01 カッパ・ノベルス)》 ★★★★

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自分が弁護して助けてやった人物に脅迫され、その元被告に殺意をも抱く―。展開に意外性があって面白かった。
火と汐  ポケット文春 1968.jpg 火と汐  文春文庫 旧.jpg  黒の奔流t1.png 黒い奔流 船越2.jpg 
火と汐 (1968年) (ポケット文春)』『火と汐 (文春文庫)』「松本清張生誕100年特別企画・黒の奔流」(水曜ミステリー9)['09年]船越英一郎/星野真里/賀来千香子
松本清張ほか著/日本推理作家協会編『種族同盟―現代ミステリー傑作選1〈策謀・黒いユーモア編〉』(カッパ・ノベルス 1969.01)
種族同盟 松本清張3.jpg「種族同盟」図1.jpg 弁護士の私は、同僚の楠田弁護士に頼まれ、ある事件の国選弁護を引き継ぐ。それは、新宿のバーのホステス・杉山千鶴子(23歳)が東京の西の外れの渓谷で殺害され、被害者のペンダントを所持していたことが決め手となり、死体発見現場から2キロほど離れた旅館「春秋荘」の番頭・阿仁連平(32歳)が逮捕・起訴されたという案件だった。事務所の助手・岡橋由基子から阿仁は無罪かもしれないと言われ、俄然やる気の出た私は、由基子とともに、阿仁の無罪証明に挑戦する。そして、努力の甲斐あり、晴れて阿仁被告は無罪となる。無罪となった阿仁は、これといった行き場もないため、私の弁護士事務所で働かせることにした。しかし、やがて私と由基子は、阿仁の人間性が芳しくないのに気づき、私は阿仁に対し素行を窘めた。すると阿仁は開き直って、とんでもない事実を口にする―。

 松本清張の中編推理小説。「オール讀物」1967(昭和42)年3月号に掲載され、1968年7月に中短編集『火と汐』収録作として、文藝春秋(ポケット文春)から刊行されています(その後、文春文庫で文庫化)。また、カッパ・ノベルス『現代ミステリー傑作選1〈策謀・黒いユーモア編〉』('69年)に表題作として収録されています。

 展開に意外性があって面白かったです。国選弁護人の話は、'82(昭和57)年発表の「疑惑」もそうでした。「疑惑」は、無名だが優秀な国選弁護人が、自分が弁護士する被告の無実に迫ったことで、そうなると都合の悪い人物に命を狙われるというものでしたが、この「種族同盟」は、自分が弁護して助けてやった人物に脅迫され、その元被告に殺意をも抱くという、これもまた弁護士が厄難に遭う話です('59(昭和34)年発表の「霧の旗」も弁護士がある女性の弁護を断ったがゆえに厄難に遭う話だった)。

『黒の奔流』.jpg黒の奔流 01 - コピー.jpg 「疑惑」は、野村芳太郎監督、岩下志麻主演でその年に「疑惑」('82年/松竹)として映画化されましたが、この「種族同盟」も渡邊祐介監督、岡田茉莉子・山崎努主演で、「疑惑」の10年前に「黒の奔流」('72年/松竹)として映画化されています。

渡辺 祐介 「黒の奔流」 (1972/09 松竹) ★★★☆

 因みに、「疑惑」は、映画化の際に主人公の弁護士を男性から女性に変えて、それを岩下志麻が演じたわけですが、この「種族同盟」の映画化作品「黒の奔流」では、岡田茉莉子演じる貝塚藤江という旅館の女中が、宿泊していたコンツェルンの御曹司を崖から突き落とした容疑で逮捕されることになっていて、こちらでは被害者と加害者の性別が原作と入れ替わっていることになります。

 野村芳太郎監督の映画化作品「黒の奔流」のほかに、これまで以下3度テレビドラマ化されています。

 •1979年「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」(テレビ朝日)小川眞由美・高橋幸治・金沢碧
 •2002年「松本清張没後10年記念企画・黒の奔流」(テレビ朝日)渡瀬恒彦・さとう珠緒・純名里沙
 •2009年「松本清張生誕100年特別企画・黒の奔流」(テレビ東京)船越英一郎・星野真里・黒谷友香・賀来千香子

 最初の2作は、テレビ朝日の「土曜ワイド劇場」枠で、あとの1作はテレビ東京の「水曜ミステリー9」枠。今世紀のものはタイトルが映画と同じ「黒の奔流」になっているほか、被告人役がそれぞれ小川眞由美、さとう珠緒、星野真里と、3作とも女性を設定しています。また、全体のストーリー展開からしても、「原作のドラマ化」と言うより、「映画のリメイクドラマ化」と言えるものとなっています。

黒の奔流t1.png黒の奔流 f.jpg黒の奔流 99.jpg このうちに、最も最近の船越英一郎版を観ましたがイマイチでした。弁護士役の船越英一郎は相変わらず暑苦しい演技で、星野真里の悪女ぶりがまあまあだったでしょうか(リ黒い奔流 船越1.jpgアリティはないが)。犯人の時間トリックは、犯行後に川を渡って近道したということに改変されていますが(「奔流」というタイトルに懸けた?)、その日だけ川の水量が普段の半分だったというのも苦しい設定です。そしてラスト、追いつめられた犯人が弁護士を刺すという、その追いつめられて刺すというのが、映画での「刺す」こと意味合いとは逆の方向ではないかなあ(その結果、犯人が現行犯で捕まるという意味では、テレビ的結末にしたと言える)。

「松本清張生誕100年特別企画・黒の奔流」('09年/テレビ東京)船越英一郎・星野真里・黒谷友香・賀来千香子


松本清張の種族同盟0.jpg松本清張の種族同盟1.jpg '79年版の「種族同盟」(小川真由美版)を観たい思っていたところ、今月['21年8月]日本映画専門チャンネルで放映され、やはりよく出来ていました。これについてはまた別の機会に取り上げたいと思います。

「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」(1979/05 テレビ朝日) ★★★★☆
  
黒の奔流 kurotani.jpg「松本清張生誕100年特別企画・黒の奔流90.jpg「松本清張生誕100年特別企画・黒の奔流」(水曜ミステリー9)●監督:村田忍●脚本:瀧川治水●原作:松本清張●出演:船越英一郎/星野真里/黒谷友香/賀来千香子/西村雅彦/阿部力/風間トオル/金山一彦/吉満涼太/鹿賀丈史/浅見小四郎/栗田よう子/ホリベン●放映:2009/03/04(全1回)●放送局:テレビ東京/BSジャパン

黒谷友香(由基子)

【1976年文庫化・2019年新装版[文春文庫]】

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井上昭(いのうえ・あきら)映画監督
2022年1月9日、脳梗塞、肺炎で死去。93歳。1951年に大映京都撮影所に入社。溝口健二監督らの下で助監督を務めた後、「座頭市」シリーズなどを監督。70年にフリーとなり、田村正和主演の「眠狂四郎」シリーズなどテレビ時代劇を数多く手掛けた。今月公開の藤沢周平原作の時代劇映画「殺すな」が最後の監督作品となった。 

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This page contains a single entry by wada published on 2021年8月13日 22:29.

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