【3050】 ○ 立花 隆 『死はこわくない (2015/12 文藝春秋) ★★★★

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ガン治療の最前線を追いかけながら、自身は検査・治療、リハビリを拒否、QOLの方を選んだ。

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死はこわくない』['15年]  立花 隆(1940-2021)

自殺、安楽死、脳死、臨死体験。 長きにわたり、人の死とは何かを思索し続けた〈知の巨人〉が、正面から生命の神秘に挑む。「死ぬというのは夢の世界に入っていくのに近い体験だから、いい夢を見ようという気持ちで自然に人間は死んでいくことができるんじゃないか」。 がん、心臓手術を乗り越えた立花隆が、現在の境地を率直に語る―。

 今年['21年]4月30日、急性冠症候群のため80歳で亡くなった(訃報は6月23日になって主要メディアで報じられた)立花隆による本です。

 第1章「死はこわくない」は、「週刊文春」に'14年10月から11月にかけて3回にわたり連載された編集者による訊き語りで、「死」を怖れていた若き日のことや、安楽死についてどう考えるか、「死後の世界」は存在するか、「死の瞬間」についての近年の知見、体外離脱や「神秘体験」はなぜ起こるのか、自らががんと心臓手術を乗り越えて今考える理想の死とは、といったようなことが語られています。

Elisabeth Kübler-Ross.gif 第2章「看護学生に語る『生と死』」は、これから患者の死に立ち会うであろう看護学生に向けてリアルな医療の現場を語った'10年の講演録で、人は死ぬ瞬間に何を思うか、難しいがん患者のケア、長期療養病棟の現実、尊厳死とどう向き合うか、などについて述べています。また、その中で、キューブラー=ロスの『死ぬ瞬間』など、人間の死や終末医療に関する本を紹介しています。

Elisabeth Kübler--Ross

 第3章「脳についてわかったこと」は、月刊『文藝春秋』'15年4月号に掲載された「脳についてわかったすごいこと」を加筆・修正したもので、NHKの科学番組のディレクターの岡田朋敏氏との脳研究に関する対談になっています。

 というわけで、寄せ集め感はありますが、第1章は「死」に対する現在の自身の心境(すでに死はそう遠くないうちに訪れると達観している感じ)が中心に語られ、延命治療はいらないとか、自分の遺体は「樹木葬」あたりがいいとか言っています。章末に「ぼくは密林の象のごとく死にたい」という'05年に『文藝春秋』の「理想の死に方」特集に寄港したエッセイが付されていますが、このエッセイと本編の間に約10年の歳月があり、より死が身近なものになっている印象を受けます。

臨死体験.jpg臨死体験 下.jpg 第2章の看護学生に向けての講演も、第1章に劣らす本書の中核を成すものですが、内容的には著者の『臨死体験』('94年/文芸春秋)をぐっと圧縮してかみ砕いた感じだったでしょうか。ただ、その中で、検事総長だった伊藤栄樹(1925-1988)の『人は死ねばゴミになる―私のがんとの闘い』('88年/新潮社)といった本などの紹介しています。学術分野で言えば、第2章は脳科学であるのに対し、第3章は大脳生理学といったところでしょうか(著者は、'87年にノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進へのインタビュー『精神と物質―分子生物学はどこまで生命の謎を解けるか』['90年/文藝春秋]など早くからこの分野にも関わっている)。

I死は怖くないtukushi.jpg また、この中で、「NEWS23」のキャスターで73歳でガンで亡くなっただった筑紫哲也(1935-2008)のことに触れられていて、ガン治療に専念するといって番組を休んだ後、ほぼ治ったと(Good PR)いうことで復帰したものの、2か月後に再発して再度番組を休み、結局帰らぬ人となったことについて(当時まだ亡くなって2年しか経っていないので聴く側も記憶に新しかったと思うが)、「Good PR」はガンの病巣が縮小しただけで、まだガンは残っている状態であり、これを「ほぼ治った」と筑紫さんは理解してしまったのだとしています。かつては、病名告知も予後告知もどちらも家族にするのが原則でしたが、最近は本人に言うのが原則で、ただし、予後告知とか、どこまで本人がきちんと理解できるような形でお行われているのか、或いは、詳しくは言わない方がいいという医師の判断が働いていたりするのか、考えさせられました。

 それにしても、著者は、こうしたガン治療の最前線を追いかけながら、自分自身は大学病院に再度院したものの、検査や治療、リハビリを拒否し、「病状の回復を積極的な治療で目指すのではなく、少しでも全身状態を平穏で、苦痛がない毎日であるように維持する」との(QOL優先)方針の別の病院に転院しています。病状が急変したとき、看護師のみで医師が不在だったらしく、その辺りがどうかなあというのはありますが、あくまでも本人の希望がそういうことだったならば...(これも本人の希望に沿って、樹木葬で埋葬された)。
 
 このことから思うのは、著者の〈知〉の対象は、あくまでも〈対象〉であって、その中に著者自身は取り込まれていない印象を受けます。もちろん「QOL優先」については、テレビ番組の取材などを通して放射線や抗ガン剤治療が患者のQOLを下げた上に、結局その患者は亡くなってしまったといった例も見てきただろうから、その影響を受けている可能性はあるし、「QOL優先」自体が「たガン治療の最前線」のトレンドと言えなくもないですが。

 かつての『田中角栄研究』にしても、当時は「巨悪を暴いた」みたいな印象がありましたが、本人は田中角栄という人物の編み出した金権構造に、システムとしての関心があったのではないかと思います。だから、『脳死』とか『サル学の現在』とか、別のテーマにすっと入っていけたのではないかと、勝手に推測しています。

【2018年文庫化[文春文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2021年7月31日 00:37.

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