【3043】 ○ 辻 真先 『たかが殺人じゃないか―昭和24年の推理小説』 (2020/05 東京創元社) ★★★★

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青春ミステリ。"白眉"と言える箇所はどこか。『容疑者Xの献身』『屍人荘の殺人』よりは好み。

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たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』['20年] 辻 真先 氏

 昭和24年、ミステリ作家を目指しているカツ丼こと風早勝利は、名古屋市内の新制高校3年生になった。旧制中学卒業後の、たった一年だけの男女共学の高校生活。そんな中、顧問の勧めで勝利たち推理小説研究会は、映画研究会と合同で一泊旅行を計画する。顧問と男女生徒5名で湯谷温泉へ、修学旅行代わりの小旅行だった。しかし、そこで彼らは密室殺人事件に巻き込まれる。そしてさらに―。

 2020(令和2)度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2021(令和3) 年「このミステリーがすごい!」(国内編)第1位、2021年「ミステリが読みたい!」第1位。所謂"ミステリ3冠達成"で、過去には米澤穂信氏が『満願』(2014年刊)と『王とサーカス』(2015年刊)で同じく「週刊文春ミステリー ベスト10」「このミステリーがすごい!」「ミステリが読みたい!」での3冠を達成していますが、この作者の場合、これを88歳で成し遂げたということはスゴイと言えるかもしれません。

 作者は60年代からアニメ脚本家として活躍し、「鉄腕アトム」「サザエさん」「デビルマン」「名探偵コナン」など、さまざまな作品を手掛けており、小説家としては'82年に日本推理作家協会賞を受けていますが、自作がこれらのランキングで1位に選ばれるのは初めてです。

 読んでみると、推理小説によくある〈学園もの〉の青春ミステリでしたが、昭和24年の名古屋市内の旧制中学卒業後の1年だけの新制高校という、時間的にも空間的にも限定された状況下での高校生活を描いていることもあり、興味深く読めました。

 作者自身の経験がもとになっていて、登場人物にも皆モデルがいるそうですが、そうした作者の思い入れもあってか、高3で経験する初めての男女共学の甘酢っぱさがさよく伝わってきます。

 タイトルも一見軽い感じであるし、そうしたライト感覚で最後までいくのかなと思ったら、意外と事件の真相とその背後にあったものは重かったです。このギャップを、書き出しとラストで上手く表していて、この点がこの作品の白眉であったように思います。

 一方で、ミステリとしてはどうかなというのもありました。両方の殺人において、トリックの理屈よりも実行面で、かなり実現可能性に疑いがあるように思いました(いずれ映画等の映像化作品を観てみたいところ)。

 因みに、現在、主要ミステリランキングには、
 ・文藝春秋「週刊文春 ミステリーベスト10」(「文春ミス」)
 ・宝島社「このミステリーがすごい!」(「このミス」)
 ・原書房「本格ミステリ・ベスト10」(「本ミス」)
 ・早川書房「ミステリが読みたい」(「早ミス」)
がありますが、今まで['21年まで]国内部門での"4冠達成"の作品はなく、"3冠達成"は本作を含め5作となり、それらは以下の通りです(因みに海外部門ではアンソニー・ホロヴィッツが『カササギ殺人事件』、『メインテーマは殺人』、『その裁きは死』で3年連続"4冠達成"をするなどしている)。

東野 圭吾『容疑者Xの献身(2005年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」1位、「ミステリが読みたい」賞自体が未創設

米澤 穂信『満願(2014年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」2位、「ミステリが読みたい」1位

米澤 穂信『王とサーカス(2015年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」3位、「ミステリが読みたい」1位

今村 昌弘『屍人荘の殺人(2017年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」1位、「ミステリが読みたい」2位

辻 真先『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』(2020年刊)
 「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位
 「本格ミステリ・ベスト10」4位、「ミステリが読みたい」1位

 「ミステリが読みたい」(「早ミス」)が当時まだ創設されていなかった『容疑者Xの献身』を除けば、傾向としては、「早ミス」で支持されると「本格ミス」を落とすというのがあるようです((満願』『王とサーカス』『たかが殺人じゃないか』がそれに該当。『屍人荘の殺人』が「本格ミステリ・ベスト10」1位、「ミステリが読みたい」2位で、4冠に最も迫ったということになるか)。(その後、2022年に米澤穂信の『黒牢城』(2021年刊)が4冠を達成)

 やはり先にも述べたように、「本格ミステリ」かと言われると、ちょっと弱いでしょうか。本格ミステリのファンには多分に物足りないと思いますが、個人的には、『容疑者Xの献身』や『屍人荘の殺人』よりは好みでした(まあ、自分の場合、『屍人荘の殺人』などは映画化作品を観て初めてトリックが理解できたくらいのミステリ音痴なのだが)。

【2023年文庫化[創元推理文庫]】

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