【3038】 △ 島田 明宏 『ジョッキーズ・ハイ (2019/09 集英社文庫) ★★★

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ディテールの描写はいいが、主人公にはカタルシス不全を覚え、結末もやや大雑把だったか。

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ジョッキーズ・ハイ (集英社文庫)』 大井競馬場

 地方競馬の騎手・一色純也は、中堅だが成績は三流だ。彼が所属する北関東競馬で、競走馬から禁止薬物が検出された。愉快犯の犯行? それとも競馬開催を妨害しようとする陰謀? 純也は恋人の競馬ジャーナリスト・沙耶香と調査を始める。薬物事件はその後も続き関係者が揺れる中、純也にかつてない好調の波が訪れ―。

 競馬に関するノンフィクション・ライターでもある作者の小説で、替え玉を扱った『ダービーパラドックス』('18年/集英社文庫)、馬牧場を舞台にした『キリングファーム』('19年/集英社文庫)に続く文庫書下ろし第3弾。

大井競馬最高配当.jpg 綿密な取材に基づいたディテールの正確な描写が効いていて、それでいて、書下ろしということもあってか、スイスイ読めました。地方競馬業界の実態や、そこでどういったことが行われているかが分かり、興味深かったです(そう言えば、大井競馬場で、指定された3つのレースの1、2着馬を順番通りに当てる3重勝2連勝単式馬券、『トリプル馬単』で今日['21年6月10日]地方競馬史上最高となる(購入金額50円が)2億2813万165円(1口当たり4562万6033円)となる配当が出たというニュースがあった。因みに、今年['21年]の3月14日の中央競馬では、(購入金額100円が)5億5444万6060円になる史上最高配当が出ている)。

 ただ、ノンフィクション調でありながら、作者がどれくらい実際にあった事件を参照にしているのかよく分からず、なんとなく隔靴掻痒感がありました。

 それと、口上に「競馬に関する描写のリアルさと、ミステリーとしての切れ味に思わず息をのむ衝撃の作品」とありますが、「競馬に関する描写のリアルさ」は分かりますが、「ミステリーとしての切れ味」はどうかなあと思いました。

 結局、純也と沙耶香の推理は正確な結論に行き着かないまま、最後は警察による事件解決になってしまうし、その間に純也は沙耶香を守り切れていないので、「探偵」としても「ヒーロー」としても欠格しているような気がして、若干カタルシス不全を覚えました。

 その結末も、容疑者が数多くいて、実際に多くの人物が関与している事件であった割には、最後ばたばたばたっというかなり大雑把な畳み方で、結局何がどうなっていたのか今一つ分かりにくかったです。

 Amazon.com のコメントに「島田明宏さんのファンとしては4作目を期待せずにはいられません」というのがありますが、第4弾の『ノン・サラブレッド』('20年/集英社文庫)がもう刊行されているのだなあ。

 でも取り敢えず自分としては、競馬における同じように薬物疑惑問題を扱ったディック・フランシスの『興奮』('76年/ハヤカワ・ミステリ文庫)を読み返してみようかな。

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