【3029】 ○ 重松 清 『ビタミンF (2000/08 新潮社) ★★★★ (◎ 「セッちゃん ★★★★☆)

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子育て経験を経て読むと尚の事ぐっとくるものなのかも。「セッちゃん」は傑作。

ビタミンF』80万部突破 - コピー.jpgビタミンf bunko.jpgビタミンf bunko obituki.jpg  ビタミンf 単行本.jpg
ビタミンF(新潮文庫)』['03年]『ビタミンF』['00年]

 2000(平成12)年下半期・第124回「直木賞」受賞作。

 「ゲンコツ」「はずれくじ」「パンドラ」「セッちゃん」「なぎさホテルにて」「かさぶたまぶた」「母帰る」の7篇を収録。『ビタミンF』のタイトルの由来は、著者によれば、Family、Father、Friend、Fight、Fragile、Fortune...で始まるさまざまな言葉を、個々の作品のキーワードとして埋め込んでいったつもりであるためとのことです。ネット情報等によれば、この18年前の直木賞作は、新潮社営業部員のプロモートによって今また人気再燃しているとのことです。

「ゲンコツ」 ... 同期で会社に入社した雅夫と吉岡も、今は主任を務める38歳の中年になり、次第に年齢が気にかかり出す。飲み会の席で仮面ライダーを演じてはしゃぐ吉岡とは対照的に、若い頃のようにいかない自分を悲嘆する雅夫。そんなある日、雅夫は、街でイタズラを繰り返す少年グループを注意するために闘いを挑む―。真面目で正義感の強い主人公に共感が持てました。ラストの不良少年とその父との会話も良かったです。主人公の雅夫自身も、自信を取り戻したという爽やかなラストでした。(評価★★★★)

「はずれくじ」 ... 妻の淳子が手術で入院することになり、今まであまり話をしてこなかった息子の勇輝と二人きりになることに不安を覚える修一。そんな彼がたまたま道端で「宝くじ売り場」を見かけ、、自分の父親との過去に思いを馳せていく―。最初読んだ時は、父親が昔買ってた宝くじの思い出が印象的で、ほかはあまり印象に残らなかったが、読み直してみると2つの「父と息子の関係」が対比して描かれているのが、なかなかいいと思いました。(評価★★★★)

「パンドラ」... 孝雄は、かつて優等生だった娘の奈穂美が万引きをしたことで警察に補導され、さらに彼女が年上の男と一緒にいたと聞き、気を揉む。そんな娘の知りたくなかった側面、所謂パンドラの箱を開けてしまった孝夫は、その件がきっかけで、妻が最初に抱かれた男が自分でなかったことや、自分が最初に付き合った女性のことなど、開いてはいけない秘密の箱に次々と手を出してしまう―。あまり主人公に共感できないですが、どこか読んでいて身につまされるというのもあったかも。最後にオルゴールとともに過去の秘密を封印したことが救いか。(評価★★★☆)

「セッちゃん」 ... 娘の加奈子が突然、クラスのみんなにいじめられているという「セッちゃん」という女の子のことを話題にする。やがて父親の雄介は、その背後に隠された事実を知ることになる―。これ以上書くとネタバレになるので止めますが、たいへん良かったです。娘の加奈子は人一倍プライドが高く、生徒会長に立候補してみんなのリーダーを務めるような女の子ということで、まさかこんあ展開だとは思わなかったです。ラストで「流し雛」の話に繋げるのも上手いです。(評価★★★★☆)

なぎさホテル.jpg「なぎさホテルにて」... 達也が17年ぶりに家族と訪れた海の近くのなぎさホテルは、実は彼がかつての恋人・有希枝と一緒に泊まって二十歳の誕生日を祝った思い出のホテルだった。当時、ホテルでは、未来の指定した日に手紙が届く"未来ポスト"というサービスがあり、達也と有希枝はそれを使って17年後の自分たちに向けて手紙を書いていた―。最後は、今の自分の幸せを有り難く思うわけですが、昔の恋人との思い出の場所に、今の妻子を連れていく主人公のメンタリティがちょっと理解できませんでした(伊集院静に『なぎさホテル』という作品があるが、同じホテルがモデルなのだろう)。(評価★★☆)

「かさぶたまぶた」...政彦は、娘・優香が落ち込んでいることに妻・綾子とともに心配を抱く。そんな優香が、自身の心の闇を象徴するかのように、学校から課題として出されていた自画像に、邪悪な仮面のような顔と雪だるまみたいなからっぽな顔を描く―。「セッちゃん」と少し似ている気がしました。この子も、親の期待に応えようと頑張ってきた優等生なのだろなあ。自らの「弱さ」を子どもたちの前にさらけ出すことで、傷の入ってしまった親子の関係の修復を図る父・政彦がいいです。(評価★★★☆)

「母帰る」...母は、今37歳の「僕」が結婚したすぐ後に父と離婚し、別の男と一緒に住んでいた。最近その男が亡くなって一人暮らしになったと人伝に聞いた父が、母に一緒に住まないかと持ちかけた。僕と姉は反対で、父の説得に当たろうと帰郷する途中で、姉の元夫と一緒の飛行機に乗り合わせる。その元兄との話で、僕の気持ちの変わる―。「普通、家庭とは帰るところ」と考えられているところを、「家庭とは、本来そこから出ようとするところ」ではないのかというのが、この小説の問いかけのようです。結局、母が帰って来るというのはタイトルで分かってしまいますが(笑)、「僕」が、それまで恨んでいた母に「帰ってきてほしい」と電話をするようになる心境の変化が、作品の肝であるように思いました。 (評価★★★★)


 主に「父親」の目から妻や子どもを見た家族についての短編集ですが最後の「母帰る」だけ少し違ったか(でも、これも「父」がモチーフになっていることには変わりない)。一番良かったのは「セッちゃん」で、直木賞の選考でも、田辺聖子(1928-2019)がその「哀憐」を讃え、津本陽(1929-2018)も「『セッちゃん』が図抜けていい」としています。あと、黒岩重吾(1924-2003)がやはり、「『セッちゃん』が最も優れていた。(中略)加奈子なる少女が憐れで、とどまることのないこの病弊に憤り、無力な対策にうちのめされた」としています(一歩間違えると、「あれが自殺の予兆だった」的な話になりかねない)。

 こうした作品は、子育ての経験がなくて読むのと、そうした経験を経て読むのとではかなり印象が違ってくるかもしれません。再ブレイクのきっかけとなった、新潮社営業部員(40歳・男性)の弁―「入社当初、20代の頃に『ビタミンF』を初めて読んだ時は、正直あまりピンと来なかったのですが、40歳を迎えて改めて読むと、涙が止まりませんでした。それは主人公が今の私と同年代だからです。仕事も家庭もピリッとせず、何とも中途半端な年代。コロナによる閉塞感も重なったのかもしれません。今の自分と重なる部分ばかりで、気が付くと山手線を一周して涙が頬を伝っていました。この気持ちを誰かと共有したいと思い立ち、もう一度拡販することを提案したんです」。なるほど。子育ての経験を経て読むと尚の事ぐっとくるものなのかも。

衛星ドラマ劇場 ビタミンF.png 個人的には未見ですが、'02年7月1日から7月5日まで衛星ドラマ劇場 ビタミンF.jpgNHKBS-2でドラマ化作品が放送されています。一話完結・全6章(最終日のみ二話連続放映)のラインアップは以下の通りで(原作からは「かさぶたまぶた」だけが外れている)、やはり「セッちゃん」を最初にもってきたか。

第1章 セッちゃん(脚本:荒井晴彦/出演:役所広司・森下愛子・谷口紗耶香)
第2章 パンドラ(脚本:水谷龍二/出演:温水洋一・内田春菊・利重剛)
第3章 はずれくじ(脚本:犬童一心/出演:大杉漣・りりィ・市原隼人)
第4章 ゲンコツ(脚本:森岡利行/出演:石橋凌・小島聖・大江千里)
第5章 なぎさホテルにて(脚本:岩松了/出演:光石研・洞口依子)
最終章 母帰る(脚本:加藤正人/出演:三上博史・渡辺文雄・李麗仙)

[2003年文庫化[新潮文庫]]

 



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和田泰明

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This page contains a single entry by wada published on 2021年5月 5日 00:11.

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