【3025】 ○ アキ・カウリスマキ 「ルアーヴルの靴みがき」 (11年/フィンランド・仏・独) (2012/04 ユーロスペース) ★★★★

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こんな結末でいいのかなと思ったりもするが、この監督の場合あまり気にならないのが不思議。

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ル・アーヴルの靴みがき [DVD]
アンドレ・ウィルム/カティ・オウティネン
「ルアーヴルの靴磨き」01.jpg 北フランスの大西洋に臨む港町ル・アーヴル。ここに暮らすマルセル・マルクス(アンドレ・ウィルム)は、かつてパリでボヘミアン生活を送っていたが、今はル・アーヴルの駅前での靴磨きを生業としている。ベトナム移民のチャング(クォック=デュン・グエン)と共に日々靴磨きに精を出し、夕暮れともなると微々たる儲けながら代金を持ち帰り、献身的な妻・妻のアルレッティ(カティ・オウティネン)に迎えてもらうのを楽しみにしていた。ずっと苦労をかけてきた妻は、マルセルアーヴルの靴磨きges.jpgルにしてみれば勿体ないくらいの女房と感じられてならなかった。そんなある日、アルレッティは病に倒れ、医師から治る見込みはない、余命も長くないと宣告されるが、彼女はマルセルには絶対にこのことは言わないで欲しいと医師に頼む。一方、港にアフリカのガボンからの不法移民が乗った船が漂着し、密航者らのコンテ「ルアーヴルの靴磨き」02.jpgナから逃げ出し、警察の検挙をすり抜けた一人の少年イドリッサ(ブロンダン・ミゲル)にマルセルは偶然出くわす。警視のモネ(ジャン=ピエール・ダルッサン)はマルセルを尋問し、不審者を見なかったかと訊ねるが、少年を見捨てられないと考えたマルセルは、街の一同と共に少年を庇う。ところが隣の住人(ジャン=ピエールルアーヴルの靴磨き3.jpg・レオ)が、黒人の少年が出入りするのを目撃し、警察に通報してしまう。モネ警視はマルセルに付きまとい馬鹿な真似はするなと忠告する。マルセルは収監されたイドリッサの祖父に会いに行き、ロンドンにイドリッサの母親がいて、自分は捕まってしまったが、イドリッサをロンドンに行かせてほしいと頼まれる。マルセルは密航に必要ま300ユーロを集めるため、人気ロックスターのリトル・ボブ(ロベルト・ピアッツァ)にチャリティコンサートを依頼する。資金が集まって、いよいよ密航の日、イドリッサを港まで運び船に乗せることがたが、そこに警視モネがやって来る―。

 フィンランドのアキ・カウリスマキ監督・脚本による2011年の映画で、フランスの港町のル・アーヴルを舞台にしたフランス語映画です。第64回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門でプレミア上映され、FIPRESCI賞を獲得しています。

 移民問題というやや重のテーマを扱いながら、どことなくユーモアも漂い(資料によってはコメディ映画として紹介されていたりする)、映画に出てくる人々も皆、質素ながらも互いに支え合って生きていて、日本映画でよく描かれる下町の人情のようなものに通じるところがあります。

 マルセルの妻が倒れるとご近所さんは奥さん手を差し伸べるし、イドリッサが捜査対象になっていることを新聞で知ると皆で庇います。カフェの女主人や常連客、靴みがき仲間までもがマルセルに協力するのがいいです。マルセル自身も、イドリッサを母の元に届けるために奮闘し、最後はイドリッサを追う警視モネまでも、実は人情味ある人間だったとは! 

 加えて、アルレッティにも奇跡が起きるとなると、こんなハッピーな結末にしてしまっていいのかなと思ったりもしますが、この監督の場合、この作り方があまり気にならない、不思議な作品です。多分、作為的に盛り上げるような作り方をしていないため、かえって受け入れやすいのではないかと思います。

ルアーヴルの靴みがき 01.jpg 主人公のマルセル・マルクスという名前はカール・マルクスにインスパイアされたそうで、また、モネ警視はフョードル・ドストエフスキーの小説『罪と罰』に登場する、ラスコーリニコフを疑い心理面から追い詰める捜査官ポルフィーリー・ペトローヴィチにインスパイアされているそうです。

「ルアーヴルの靴磨き」con.png マルセルの頼みでチャリティ・コンサートをやってくれる人気ロックスターのリトル・ボブ(ロベルト・ピアッツァ)は実在のロックローラーで、つまり本人役で出ているわけです。カウリスマキ監督は、「ロケ地を探していたとき、リトル・ボブの存在がル・アーヴルを舞台に選んだ理由のひとつだった」と言い、「ル・アーブルはフランスのメンフィス、リトル・ボブはさながらそこのエルヴィス・プレスリー」と、その歌声を絶賛しています。

LE HAVRE Jean-Pierre Léaud.jpgJean-Pierre Léaud.jpg ジャン=ピエール・レオは、トリフォーやゴダールの映画によく出ていたヌーヴェルヴァーグ映画の代表的俳優ですが、まさかこんな密告者役で出ているとは思いませんでした(この密告者の男だけが映画の中で"嫌な奴"なのだが)。2016年には第69回カンヌ国際映画祭においてパルム・ドール・ドヌール(名誉パルム・ドール)を受賞しています。過去の同賞の受賞者は以下の通り錚々たる顔ぶれです。

パルム・ドール・ドヌール受賞者(※印は俳優としての受賞)
  1997年  イングマール・ベルイマン(スウェーデン)
  2002年  ウディ・アレン(米)
  2003年  ジャンヌ・モロー(仏)※
  2005年  カトリーヌ・ドヌーヴ(仏)※
  2007年  ジェーン・フォンダ(米)※
  2008年  マノエル・ド・オリヴェイラ(ポルトガル)
  2009年  クリント・イーストウッド(米)
  2011年  ベルナルド・ベルトルッチ(伊)
       ジャン=ポール・ベルモンド(仏)※
  2015年  アニエス・ヴァルダ(仏)
  2016年  ジャン=ピエール・レオ(仏)※
  2017年  ジェフリー・カッツェンバーグ(米)
  2019年  アラン・ドロン(仏)※

 また、この映画に出たカウリスマキ監督の愛犬"ライカ"は、2001年から始まったカンヌ国際映画祭で優秀な演技を披露した犬に贈られる賞「パルム・ドッグ賞」の「審査員特別賞」を受賞しています。

ルアーヴルの靴磨き 0.jpgルアーヴルの靴磨き8.jpg「ルアーヴルの靴みがき」●原題:LE HAVRE●制作年:2011年●制作国:フィンランド・フランス・ドイツ●監督・製作・脚本:アキ・カウリスマキ●撮影:ティモ・サルミネン●時間:93分●出演:アンドレ・ウィルム/カティ・オウティネン/ジャン=ピエール・ダルッサン/ブロンダン・ミゲル/エリナ・サロ/イヴリーヌ・ディディ/クォック=デュン・グエン/フランソワ・モニエ/ロベルト・ピアッツァ/ピエール・エテックス/ジャン=ピエール・レオ●日本公開:2012/04●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(18-12-04)(評価:★★★★)

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