【3020】 ○ ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ 「少年と自転車」 (11年/ベルギー・仏・伊) (2012/03 ビターズ・エンド) ★★★★

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カンヌでの5作品連続受賞作。格差社会をテーマにしたものがカンヌで賞を獲る傾向が強まった。

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少年と自転車 ps.jpg少年と自転車1.jpg 施設に預けられている11歳の少年シリル(トマ・ドレ)は、父親に捨てられたという現実を受け入れられず、孤独の中で反抗的な態度を取り続けている。そんなシリルと偶然知り合った美容師の独身女性サマンサ(セシル・ドゥ・フランス)は、シリルに週末の里親になって欲しいと頼まれると、それを受け入れたばかりか、シリルの父親の行方探しを手伝う。サマンサのおかげでようやく父ギイ(ジェレミー・レニエ)と再会できたシリルだったが、自分の生活で手一杯のギイは二度と会いに来るなとシリルを追い返す。ショックを受けたシリルだったが、それから後も週末はサマンサの家で過ごすようになる。サマンサの家で穏やかに過ごしていたシリルだったが、近所の不良少年ウェス(エゴン・ディ・マテオ)に気に入られたことから彼の言いなりになる。サマンサからウェスと付き合わないように言われても耳を貸さないばかりか、止めるサマンサにケガを負わせてまでウェスとの関係を優先したシリルは、ウェスに言われ少年と自転車2.jpgるまま強盗を働く。しかし、シリルが被害者に顔を見られたことを知ったウェスが激昂し、全ての罪をシリルになすりつけようとしたことから、シリルはようやくウェスがシリルを利用していただけだったことを知る。傷ついたシリルは父のもとに行き、盗んだ金を渡そうとするが、父からも見捨てられる。結局、シリルはサマンサの元に戻り、サマンサと警察に出頭する。事件は、サマンサが被害者に損害を賠償し、シリルが被害者に謝罪することで示談で収まる。サマンサと再び穏やかな生活を送るようになったシリルだったが、被害者の息子で自身もシリルに殴られた少年マルタンがシリルを見つけて襲いかかる。逃げ出したシリルは木に登って逃れようとするが、マルタンが投げた石が当たって地面に落ちて気を失う。慌てたマルタンとその父親はシリルが勝手に落ちたことにして、救急車を呼ぼうとするが、そこでシリルの意識が戻る。そして、シリルは自転車に乗ってその場を後にする―。

少年と自転車 w.jpg ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の2011年作品で、第64回カンヌ国際映画祭のグランプリ(審査員特別グランプリ)受賞作であり、タルデンヌ兄弟はこの作品で、「ロゼッタ」('99年)での最高賞のパルム・ドールと女優賞受賞、「息子のまなざし」('02年)での男優賞受賞、「ある子供」('05年)でのパルム・ドール受賞、「ロルナの祈り」('08年)での脚本賞受賞に次ぐ"カンヌでの5作品連続での主要賞の受賞"を達成し、これは史上初のことです。いずれも若者や少年少女の貧困を描いており、この頃から格差社会をテーマにしたものがカンヌで賞を獲る傾向が強まったように思います(是枝裕和監督の「万引き家族」('18年/ギャガ)、ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」('19年/韓国)がパルム・ドールを受賞したのもその流れか)。

少年と自転車es.jpg この作品は、ダルデンヌ監督が来日した際に日本で開催された少年犯罪のシンポジウムで耳にした育児放棄の実話("赤ちゃんの頃から施設に預けられた少年が、親が迎えに来るのを屋根にのぼって待ち続けていた"という話)に衝撃を受け、そこから着想したとのことで、親にも社会にも見捨てられた少年シリルが、初めて信用できる大人であるサマンサに出会うことで心を開き、人を信じ成長していく様が描かれています。11歳という年齢で、サマンサに「里親になってほしい」と自分か言うところに、彼の芯の強さと愛情への渇望の強さの両面を見たように思います。

少年と自転車3.jpg この作品の優れている点は、サマンサもまたシリルに愛情を与えることで自分の内にある母性に気づき、人を守ることの責任と喜びを知っていく、そのプロセスが描かれていることにもあります。サマンサにとってシリルは、診療所か何かの待合室で偶然出会っただけの少年だったはずなのに、彼の心の叫び声が聞こえたのでしょうか。シリルが再び罪を犯し、サマンサ自身の心身をも傷つけたにも関わらず、再び「いいわ」と彼を受け入れる場面は、考えさせられます。

少年と自転車 f.jpg 一方、自分の再就職と新しい恋人のためにシリルを捨て(シリルのために恋人と別れたサマンサと対照的)、それまで恐らくシリルを養育していたであろう母親が亡くなると、自分には子育てに自信が持てず、1か月生活が落ち着くまでの辛抱だからとシリルを児童養護施設に入れて姿をくらまし、その後はシリルが何とか会いにきても追い返してしまう父親は、実はシリルの少しでも父に接していたいという気持ちに気づいていながら、優柔不断のまま逃げまくているように見え、その背景には低賃金で子どを養っていけるまでには稼げないという、格差社会の問題があるように思えました。

少年と自転車 b.jpg この作品におけるシリルの自転車は、自分が外の世界と繋がるための手段としての象徴であるように思えました。以上述べてきたこれらをすべてを、説明的描写を排してドキュメンタリータッチで描いているところが、この作品に限らずタルデンヌ監督作品の特徴であり、どこに着眼するか観る人によって微妙に異なってくる作品かと思います。ただ、これまで、いきなり唐突に終わる(結果としてバッドエンドになる)作品が多かった中では、シリルが自分の信頼できて心休まる対象を獲得していく、ハッピーエンド的な作品だったかもしれません。

少年と自転車6.jpg「少年と自転車」●原題: LE GAMIN AU VELO●制作年:2011年●制作国:ベルギー・フランス・イタリア●監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ●製作:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ/ドゥニ・フロイド●撮影:アラン・マルコァン●時間:87分●出演:トマ・ドレ/セシル・ドゥ・フランス/ジェレミー・レニエ/ファブリツィオ・ロンジョーネ/エゴン・ディ・マテオ/オリヴィエ・グルメ●日本公開:2012/03●配給:ビターズ・エンド●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-12-03)(評価:★★★★)

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