【3017】 ○ レオ・マッケリー 「我輩はカモである」 (33年/米) (1934/01 パラマウント映画) ★★★★ (○ サム・ウッド 「オペラは踊る (マルクス兄弟 オペラは踊る)」 (35年/米) (1936/04 メトロ・ゴールドウィン・メイヤー) ★★★☆)

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再見で4人目の「マルクス兄弟」ゼッポ・マルクスを確認した「我輩はカモである」。

「我輩はカモである」d2.jpg 「我輩はカモである」d1.jpg 「オペラは踊る」2.jpg 「オペラは踊る」d1.jpg 地獄の観光船 (1981年).jpg
我輩はカモである [DVD]」「我輩はカモである [DVD]」「マルクス兄弟オペラは踊る 特別版 [DVD]」「マルクス兄弟 オペラは踊る [DVD]」小林 信彦 『『地獄の観光船 (1981年)

「我輩はカモである」gg.jpg フリードニア共和国は財政難に喘ぐ中、実力者のティーズデール夫人(マーガレット・デュモント)に援助を求めた。彼女はルーファス(グルーチョ・マルクス)を宰相にするという条件を出したうえで承諾し、かくしてルーファスは首相になる。一方、フリードニア共和国の乗っ取りを企てていた隣国シルヴェニアの大使トレンティーノ(ルイス・カルハーン)は、夫人に色仕掛けで接近する一方、スパイのチコリーニ(チコ・マルクス)とピンキー(ハーポ・マルクス)の二人組を送り込む。ところがルーファスは二人を側近にしたので、混乱に拍車がかかってしまい、ついにシルヴェニアと開戦、議会で首相と国民は「いざ開戦」と歌い狂う―。

 1933年のマルクス兄弟主演作で、監督は後に「聖メリーの鐘」('45年)や「めぐり逢い」('57年)を撮るレオ・マッケリー(全然、作風が違う)。末弟ゼッポ・マルクス最後の出演映画であるとのことですが、ゼッポ・マルクスって誰だっけ―と名前はすぐに浮かぶが顔は浮かばなかったのが、最近この作品を観直してみて、ルーファスの秘書官という地味な役で出ていたのが確認できました。

「我輩はカモである」th.jpg「我輩はカモである」b.jpg もう一度整理してみると、マルクス兄弟はチコ、ハーポ、グルーチョ、ガンモ、ゼッポの5人兄弟で、チコ・マルクス(1887-1961/74歳没)が「マルクス兄弟」における長男(実際には、1886年に誕生し同年に死去した長男マンフレッドがチコの上にいる)。古「我輩はカモである」hc.jpgぼけた服と、チロル帽で個性を出していて、この映画然り(マルクス兄弟はユダヤ系だが、彼は風貌もどこかイタリアンっぽい)。

ハーポ・マルクス.jpg 次男はハーポ・マルクス(1888-1964/75歳没)で、決して喋らないことで有名だったキャラクターで、大きなコートのポケットからハサミなど様々なアイテムを取り出すことで笑いを生むのが定番。得意のハープ演奏は映画でも定番で、殆どの作品でハーポの演奏シーンが用意されています。

「我輩はカモである」g1.jpg「我輩はカモである」g2.jpg 三男はグルーチョ・マルクス(1890-1977/86歳没)で、早口でまくしたてるのがトレードマークで、この作品でもそうですが、兄弟の中でも中心的な役回りを演じることが多かったです。喋りの才能が卓越していて、「マルクス兄弟」としての活動が終わった後も、ラジオ番組やテレビ番組のホストとしての活躍しました。

 四男はガンモ・マルクス(1893-1977/83歳没)で、第一次世界大戦の際に徴兵され役者としての活動を止め、退役後は実業家に転じているので、この人を映画では見かけないのも無理はないです。

「我輩はカモである」4.jpg そして、五男がゼッポ・マルクス(1901-1979/78歳没)。チコ、ハーポ、グルーチョ、ガンモの4人の兄が、音楽・喜劇グループとしてヴォードヴィルの舞台に立っていたところ、第一次世界大戦へとガンモが徴兵されたことで、それと入れ替わりで4人目の「マルクス兄弟」として参加。しかしながら、この映画でもそうですが、イケメンなのですが「フツーの人」っぽい役ばかりで、この作品が最後の映画出演作となりました。ミュージカル・シーンで群舞になると、大勢に中から3人ならぬ4人が前に出てきて、その内、端っこの方で一人まともな軍服を着て踊っているのがゼッポ・マルクス。グルーチョ演じる新宰相が、チコとハーポ演じるスパイを自ら側近してしまったのでこの3人が並ぶのは分かりますが、あと一人は誰だったけと思えばゼッポであり、宰相の秘書官役だから宰相や側近と並んで踊るのも、これはこれで整合性はとれているのかと。

 この作品は、グルーチョ演じるルーファスが独裁者に模されていて、ファシズムを痛烈に風刺した内容である一方、ひたすらナンセンスな笑いとアナーキーな風刺に徹したために(ギャクが当時としてしては先鋭的過ぎたのか)、後の高い評価とは裏腹に公開時には興行的に振るわず、そのため兄弟はパラマウントをクビになっています(グルーチョ・マルクス自身も、この作品は「狂気が過ぎている」と述べ、失敗作とみなしている)。

 その失業した4人を拾ったのが・スコット・フィッツジェラルドの遺作『ラスト・タイクーン』の主人公モンロー・スター(エリア・カザン監督による1976年の映画版では、ロバート・デ・ニーロがその役を演じた)のモデルとされる、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー社(MGM)の映画プロデューサー、アーヴィング・タルバーグです。

「オペラは踊る」1.jpg 4人がMGMに移籍して最初に撮ったのがサム・ウッド監督の「オペラは踊る」('35年)でした(ゼッポはもう出ていないが)。そのあらすじは―

イタリアのミラノで大富豪の未亡人(マーガレット・デュモント)をたらしこんで、オペラのアメリカ巡業の資金を手に入れた詐欺師のドリフトウッド(グルーチョ・マルクス)は、一座を率いて意気揚々と米国行きの船に乗り込んだが、そこには無名歌手のひと癖ありそうなマネージャーと助手が入り込んでいて大騒動に。一座は、ようやっと米国に到着し、公演の初日を迎える―。

小林信彦.jpg マルクス兄弟のパラマウント時代の代表作が「我輩はカモである」であるとすれば、MGM時代の代表作はこの「オペラは踊る」であるのが一般的な評価かと思われますが、マルクス兄弟のファンとして知られる小林信彦氏などは、パラマウント時代の作品は高く評価していて「我輩はカモである」などは「名作」としているものの、MGM時代の作品は、「オペラは踊る」を含め、あまり評価していないようです(『地獄の観光船』('81年/集英社)など)。小林氏は、グルーチョ・マルクスは「オペラは踊る」を撮り終えたあたりでもう仕事を"投げた"としていました。

「オペラは踊る」3.jpg 個人的には、強い風刺と強烈なギャグで突っ走った「我輩はカモである」が興行的にコケたので、「オペラは踊る」でマイルドな作りに方向転換したのかなあと。船室に数えきれない人間が入り込むシーンは、バスター・キートンのアイデアによるものだそうですが、笑いの性質も少し違っているように思います。

淀川長治.jpg さらに、淀川長治はマルクス兄弟について「映画ではなく舞台である」と喝破しており、実際、彼らの初期の傑作は、舞台でのヴォードヴィル・コメディをほぼそのまま映画で再現したものであったとのこと(当時、スラップスティック・サイレント・コメディの有名なスターたちは、ヴォードヴィルやミュージック・ホールに出演したのちに映画産業に入った。チャップリン然り)。それが、MGMに移って、フツーの映画の撮り方になり、それまでより洗練されているものの個性は弱まって、ともすると他の多くの映画の中に埋没してしまうような作品が多くなっていったということではないでしょうか(「オペラは踊る」はまだいい方か)。

 バスター・キートンが辿った道と似ている印象を受けます。バスター・キートンも、自身の撮影所で撮るのを止め、MGMに移ってから完全にダメになりました。サイレントからトーキーに変わってダメになったのではなく、MGMに移って、パターナルな撮影方法になってしまいダメになったのです。

「我輩はカモである」p2.jpg「我輩はカモである」p.jpeg「我輩はカモである」●原題:DUCK SOUP●制作年:1933年●制作国:アメリカ●監督:レオ・マッケリー●製作:ハーマン・J・マンキーウィッツ(クレジット無し)●脚本:アーサー・シークマン/ナット・ペリン●撮影:ヘンリー・シャープ●音楽:ジョン・レイポルド●時間:68分●出演:グルーチョ・マルクス/チコ・マルクス/ハーポ・マルクス/ゼッポ・マルクス/マーガレット・デュモント/ルイス・カルハーン/ラクウェル・トレス/エドガー・ケネディ/エドモンド・ブリーズ/エドウィン・マクスウェル/ウィリアム・ウォーシントン/チャールズ・ミドルトン●日本公開:1934/01●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:池袋文芸座ル・ピリエ(86-02-01)(評価:★★★★)●併映:「キートン 将軍」(バスター・キートン)

「オペラは踊る」4.jpg「オペラは踊る」p.jpg「オペラは踊る (マルクス兄弟 オペラは踊る)」●原題:A NIGHT AT THE OPERA●制作年:1935年●制作国:アメリカ●監督:サム・ウッド●製作:アーヴィング・タルバーグ(クレジット無し)●脚本:ジョージ・S・カウフマン/モリー・リスキンド●撮影:メリット・B・ガースタッド●音楽:ハーバート・ストサート●時間:96分●出演:グルーチョ・マルクス/チコ・マルクス/ハーポ・マルクス/キティ・カーライル/アラン・ジョーンズ/ウォルター・ウルフ・キング/シグ・ルーマン/マーガレット・デュモント●日本公開:1936/04●配給:メトロ・ゴールドウィン・メイヤー●最初に観た場所:ユーロスペース(84-01-29)(評価:★★★☆)●併映:「マルクスの二挺拳銃」(エドワード・バゼル)

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