【3009】 ○ 成瀬 巳喜男 (原作:井伏鱒二) 「秀子の車掌さん (1941/09 東宝) ★★★★ (○ 井伏 鱒二 「おこまさん」―『おこまさん』 (1941/06 輝文館) ★★★★)

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成瀬巳喜・高峰秀子初タッグ作品。やっとDVD化。原作に忠実。ユーモアの裏にペーソスも。

秀子の車掌さん vhs1.jpg 秀子の車掌さん vhs2.jpg 秀子の車掌さん dvd1.jpg 秀子の車掌さん dvd2.jpg おこまさん 井伏.jpg
日本映画傑作全集「秀子の車掌さん」 主演 高峰秀子 成瀬巳喜男監督作品 VHSビデオソフト (キネマ倶楽部) 」/「秀子の車掌さん 【東宝DVD名作セレクション】」高峰秀子/藤原鶏太(釜足)/『おこまさん』['41年]
秀子の車掌さん vhs3.jpg秀子の車掌さん dvd23.jpg バスの車掌・おこまさん(高峰秀子)が勤める甲府のバス会社は、古びたバスを1台所有するだけのボロ会社であり、バス10台を有する新興のバス会社に押され気味。社長(勝見庸太郎)も赤字続きの会社を売り払ってしまおうと考えている。おこまさんも、評判の悪いこんな会社などいつでも辞めてやると思いながら、一方ではせめて仕事に誇りを持ちたいと切に思い、バスの運転を生き甲斐とする園田運転手(藤原鶏太)と共に思案、ラジオで聞いた名所案内のバスガイドのアイデアを取り入れることを思いつく。そして、地元の旅館「東洋館」に東京から来て逗留中の作家・井川權二(夏川大二郎)に、沿線の案内記を書いてほしいと依頼する―。

1941年に公開の成瀬巳喜男(1905-1969/63歳没)監督作で、主演は高峰秀子で、これが後に「名コンビ」と謳われた両者の初タッグ作品です。原作は井伏鱒二が1940(昭和15)年1月1日発行号から6月1日発行号の「少女の友」に連鎖した「おこまさん」で(初出の表題脇には「長編少女小説」とあったが、実質"中編"である)、『おこまさん』('41年/輝文館)に収録されました。

秀子の車掌さん vhs4.jpg秀子の車掌さん dvd3.jpg 原作の主人公"おこまさん"は19歳で、映画出演時の高峰秀子は17歳ですが、原作は数え年なのでほぼ同じということになります。ただし、職業モノであるせいか、同じく「高峰秀子のアイドル映画」と言える前年の「秀子の応援団長」('40年/東宝動画)などよりもずっと大人びて見えます。いずれにせよ、今の日本で17歳でここまで演技できる子役はいないのではないかと思われます。

「秀子の車掌さん」に出てくるバス
IM秀子の車掌さん vhs2.jpg 高峰秀子と運転手(園田)の藤原鶏太(釜足)のユーモラスなやりとりが微笑ましいですが、セリフはほとんど原作通りであり、脚本家が要らないのではないかと思われるくらい(実際、成瀬巳喜男自身が脚色している)。監督がやったのは、舞台設定と演出だけか。でも、楽しい映画に仕上がっています。

1 有りがたうさん1936.jpg 1941年9月の公開ですが、この牧歌的雰囲気はとても戦局が差し迫っているような時期とは思えません(バスの運行に沿って話が進んでいく清水宏監督(原作:川端康成)の 「有りがたうさん」('36年/松竹大船)ものんびりした雰囲気ではあったが)。ただし、運転手役の藤原釜足の芸名が藤原鶏太になっているのは、当時(1940年)内務省から「藤原鎌足の同名異字とは歴史上の偉人を冒涜している」とクレームを受け、改名を余儀なくされていたことによるものであり、この辺りに時代が窺えるでしょうか(「鶏太(けいた)」は「変えた(けえた)」を転訛したもの)。

 長らくDVD化されず、ウキペディアにも「なお、本作はこれまでキネマ倶楽部においてビデオ化されたのみで、DVD化を含めて一般に市販されるソフト化は行われたことがない」とあり、個人的にも最初はVHSで観たのですが、昨年['20年]12月に遂にDVD化されました。

秀子の車掌さん 作家2.jpg秀子の車掌さん 作家.jpg 作家・井川權二のモデルは井伏鱒二自身であり、もともと高峰秀子主演と知りながら先に原作を読んだので、高峰秀子と井伏鱒二が話しているようなイメージが映画を観る前から先行してあったですが、改めて観ると、「井川權二」という作家を結構面白おかしくに描いていたなあ。原作者の遊び心を感じますが、一方でこの「井川權二」という作家には、おこまさんに沿線の案内記を書いてあげただけでなく、社長に無理難題を押し付けられた園田運転手の窮状を、知恵を働かせて救うというヒロイックな面もあり、それが映画ではちょっと分かりづらいので、原作も併せて読むといいと思います。

秀子の車掌さん 社長.jpg それにしても、作家・井川權秀子の車掌さん 足.jpg二を演じた夏川大二郎よりも、ラムネを氷にかけて飲んでばかりいる社長を演じた勝見庸太郎の方が井伏鱒二に似ていたかも(笑)。結局、この会社が「バス会社」であるというのは、裏でもろもろ危ういことをやるための「看板」に過ぎず、社長は今その看板のすげ替えを考えていて、おこまさんも園田も、会社の評判が良くないことはわかっていても、理想と希望に燃えているものだから、そこまで政略的なことには思い至らないという―ちょうど今で言えば、「ブラック企業」のもとで「やりがい詐欺」に遭っているのに、本人にはその自覚がない人と同じということになるかもしれません。革靴が会社から供給されず、下駄ばきのバスガイドというのもスゴイけれど、おこまさんの楽観的な健気さが映画での救いになっています(なにせアイドル映画だからなあ)。

 井伏鱒二のユーモアはペーソスとセットです。ラストでも、おこまさんがガイドし、園田運転手が悦に入って運転していますが、原作では、「しかしおこまさんも園田さんも、彼等の知らない間に彼等自身は雇主を失った雇人になっていた」とあります。「ただ彼らはそんなことなど知らないで、バスが進んで行くにつれ楽しい気持で息がつまりそうになっていたのである」と。要するに、この時点で、社長は会社を他に売り渡してしまっているわけで、映画ではそのト書き(解説)が無い分、注意して観る必要があるかもしれません。

 個人的評価は、「秀子の応援団長」は★★★☆でしたが、「車掌さん」の方は、原作のセリフを変えないで持ち味を活かしている技量を買って(さらにDVDD化記念?も考慮して)原作と同じく★★★★にしました。

『おこまさん』['41年]
おこまさん 井伏.jpg昭和1年7月 伊豆熱川にて(右より井伏鱒二、太宰治、小山祐士、伊馬春部)
井伏 太宰 s15.jpg

「秀子の車掌さん」●制作年:1941年●監督・脚本:成瀬巳喜男●製作:藤本真澄●撮影:東健●音楽:飯田信夫●原作:井伏鱒二「おこまさん」●時間:54分●出演:高峰秀子/藤原鶏太(釜足)/夏川大二郎/清川玉枝/勝見庸太郎/馬野都留子/榊田敬治/林喜美子/山川ひろし/松林久晴●公開:1941/09●配給:東宝(評価:★★★★)

        





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和田泰明

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