【3008】 ○ 樋口 一葉 「大つごもり」―『大つごもり・十三夜 他五篇』 (1979/02 岩波文庫) ★★★★

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結末は面白かった。石之助はどういう位置づけになるのか。

大つごもり・十三夜 (岩波文庫.jpgにごりえ・たけくらべ (新潮文庫).jpg 大つごもり 久我.jpg 大つごもり Kindle版.jpg
大つごもり・十三夜 (岩波文庫 緑 25-2)』/『にごりえ・たけくらべ (新潮文庫)』(にごりえ・十三夜・たけくらべ・大つごもり・ゆく雲・うつせみ・われから・わかれ道)/映画「にごりえ」('53年/松竹)第2話「大つごもり」久我美子/[Kindle版] 現代語訳『大つごもり
にごりえ 2.jpg 18歳のお峰が山村家の奉公人となってしばらくした後、暇が貰えたため、初音町にある伯父の家へ帰宅する。そこで病気の伯父から、高利貸しから借りた10円の期限が迫っているのでおどり(期間延長のための金銭)を払うことを頼まれ、山村家から借りる約束をする。総領である石之助が帰ってくるが、石之助と御新造は仲が悪いため、機嫌が悪くなり、お峰は金を借りる事が出来なかった。そのため、大晦日に仕方なく引き出しから1円札2枚を盗んでしまう。その後、大勘定(大晦日の有り金を全て封印すること)のために、お峰が2円を盗んだことが露見しそうになる。お峰はその時は自殺をする決心をするが、御新造が引き出しを開けると―。

 樋口一葉が、1894(明治27)年12月、「文學界」(菊池寛が創刊した今ある雑誌とは別の雑誌)に発表した作品で、一葉が下谷龍泉寺町(台東区竜泉)から本郷区丸山福山町(文京区西片)へ転居し、荒物雑貨・駄菓子店を営みつつ執筆に専念していた時期の作品です。今井正監督によりオムニバス映画「にごりえ」('53年/松竹)の第2話として映像化されています。

大つごもり 中谷.png仲谷昇2.jpg オチが面白かったです。原作を読んだ上で今井正監督の映画化作品を観ましたが、映画でも楽しめました。今井正監督はリアリズムにこだわる作風ですが、こうした話は、細部の描写がリアリであればあるほど、ラストが効いてくるように思いました。若き日の仲谷昇が、放蕩息子を好演しています(あれだけ出ているのに何とノンクレジット。'63年に、劇団の体質への不満から芥川比呂志、小池朝雄、神山繁らと文学座を脱退することになる。因みに、芥川比呂志はこの作品の第1部「十三夜」に、小池朝雄、神山繁は第3部「にごりえ」に出ているが、小池朝雄、神山繁は端役のためノンクレジット)。

大つごもり174.jpg 中編に見合った軽妙なオチであるし、作者はミステリ作家並みのストーリーテラーであるなあと思うのですが、一方で、このオチであるがゆえにこの掌編を人情小説の域を出ないものとして、文学作品としてとしてはあまり評価しない人もいるようです。確かにストーリー的に見ても、お峰が伯父(養父にあたる)のために金を工面することが出来たのには安堵させられますが、一時的解決にはなっていても根本的解決にはなっておらず、さらに言えば、お峰が金を結んだことで、罪人が一人誕生したとも言えます。

 この、お峰が金を結んだことは、そこからお峰の転落が始まるという暗い予兆とも取れ、なぜならば、おそらく一葉はそうした些細なことで、もとは真面目だった人が堅気を踏み外して転落していくケースを見てきていたと思われるからです。

にごりえ 大つごもり.jpg また、この作品を単純にコミカルなものとして捉えれば、石之助はお峰にとって救世主的な存在ということになるのかもしれませんが(実際、「山村家―富める世界への反逆者」とか「山村家の贖罪」の代行者とみる説がある)、それは偶然そういう結果になっただけで、別に石之助がお峰の側にいるわけではなく、彼はあくまでも「持てる側」にいて、その意味では「持たざる側」にいるお峰とは対峙的な存在ではないかと思います。
仲谷昇(山村家総領・山村石之助(ノンクレジット))
岸田今日子(山村家次女(ノンクレジット))
大つごもり 岸田.jpg この辺りは研究者の間でも議論が活発なようですが、一葉が書いているうちにお峰を救わずにはおれなくなったのではないかという説もあって、これ、何だか当たっていそうですが、こうなると結局本人に聞いてみないとわからないということになるのではないでしょうか(研究者もそれは分かった上で議論しているのだと思うが)。

「にごりえ」●制作年:1953年●監督:今井正●製作:伊藤武郎●脚本:水木洋子/井手俊郎●撮影:中尾駿一郎●音楽:團伊玖磨●原作:樋口一葉『十三夜』『大つごもり』『にごりえ』●時間:130分●出演:《十三夜》田村秋子/丹阿弥谷津子/三津田健/芥川比呂志/久門祐夫(ノンクレジにごりえ 映画 大つごもり.jpgット)《大つごもり》久我美子/中村伸郎/竜岡晋/長岡輝子/荒木道子/仲谷昇(山村石之助(ノンクレジット))/岸田今日子(山村家次女(ノンクレジット))/北村和夫(車夫(ノンクレジット))/河原崎次郎(従弟・三之助(ノンクレジット))《にごりえ》淡島千景/杉村春子/賀原夏子/南美江/北城真記子/文野朋子/山村聰/宮口精二/十朱久雄/加藤武(ヤクザ(ノンクレジット))/加藤治子/松山省二/小池朝雄(女郎に絡む男(ノンクレジット))/神山繁 (ガラの悪い酔客(ノンクレジット))●公開:1953/11●配給:松竹(評価:★★★★)

【1939年文庫化[岩波文庫(『大つごもり・ゆく雲 他二篇』)]/1949年文庫化・2003年改版[新潮文庫(『にごりえ・たけくらべ』)]/1979年再文庫化[岩波文庫(『大つごもり・十三夜』)]/1992年再文庫化・2008年改版[ちくま文庫(『ちくま日本文学013 樋口一葉』)]】

          [Kindle版]




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和田泰明

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