【2998】 ○ 中島 敦 『文字禍・牛人 (2020/11 角川文庫) ★★★★

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舞台は古代のギリシャ、ペルシャ(エジプト)、アッシリア、そして中国 & 自伝的中編、韓国と多彩。
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文字禍・牛人 (角川文庫)』/円城塔『文字渦』/『大人読み『山月記』

 1942(昭和17)2月「文学界」に「山月記」と共に発表された「文字禍」、同年7月「政界往来」に発表された「牛人」ほか、「狐憑」「木乃伊」「斗南先生」「虎狩」の6編を所収。

「狐憑」...... 「ネウリ部落のシャクに 憑きものがしたという評判である。色々なものが此の男にのり移るのだそうだ。鷹だの狼だの獺だのの靈が哀れなシャクにのり移つて、不思議な言葉を吐かせるということである。」―この書き出しだけですっと入っていける話。中島敦と言えば古代中国のイメージが強いですが、これは古代ギリシャ時代のスキタイ人を主人公にした話。でも、何となく現代的なブラックユーモアの香りがします(小説家の悲劇?)。

「木乃伊」(1942)...... ペルシャ王カンビュセスがエジプトに侵入した際、その麾下の武将パリスカスは墓地捜索隊に加わるが―。前世の自分のミイラと遭遇してそのミイラの生きていた時に転生し、さらにそれがまた前世の自分のミイラと遭遇し、というBC6世紀のペルシャ王朝並びに古代エジ『山月記・弟子・李陵ほか三編.jpgプトを舞台にしていながら、これも何だか現代SFみたいな話です。かつて『山月記・弟子・李陵ほか三編』(講談社文庫)で初読。個人的に好みで、すでに前項で「◎」をつけましたが、この角川文庫版の解説の池澤夏樹氏によれば、ヘロドトスの『歴史』にカンビュセスのエジプト遠征の話があってもパリスカスの名はないことから、作者の創作ではないかとのことです。

「文字禍」(1942)...... 古代アッシリヤの大王は、毎夜図書館に出没すると噂される「文字の霊」について、老博士に調査を命じる。博士は万巻の書に目を通すがそれらしい説はない。ある日、ひとつの文字を終日凝視していると、いつしかその文字が解体し、意味の無いひとつひとつの線の交錯としか見えなくなった。この発見を手初めに、文字の霊の性質が次第に判って来たのだが―。BC7世紀新アッシリア時代の帝国図書館の話。だんだん形而上学的になってくるなあと思ったら、最後は笑ってしまう悲喜劇でした。作家の円城塔氏が、この作品へのオマージュを込めた同名の「文字禍」という短編を書いて2017年・第43回「川端康成文学賞」を受賞しています(舞台は中島敦が得意とした古代中国になっている)。

「牛人」(1942)...... 魯の叔孫豹が若い頃、亡命先の斉で美女と野合してそのまま故国に帰ったが、そのとき生まれた子であるとして、「牛」のような容貌を持った男が名乗り出てくる。叔はこの「息子」が気に入り、早速側近として取立て、牛は側近として活躍するが、側近として重用されればされるほど、牛の思う壷になっていく―。やっと中国もので、しかもホラー(笑)。時代は春秋時代で、魯の叔孫僑如の弟・叔孫豹の話ですが、本当にこんな末路だったの? 後世に宦官がよく行った「情報の壟断」がモチーフになっていような印象も受けました。

「斗南先生」(1942)... 作者の伯父を描いた大学時代の創作で、しかもその死の前後のみを、自然現象を徹底して「観察」するかのような筆致で描かれています。執筆して10年の歳月を経て世に出たものだそうですが(作者がすでに作家として世評を得た時期になる)、中島敦文学の実質的な出発を示す作品として位置づけられています。

「虎狩」(1934)... 大正時代の京城(現ソウル)近郊で、少年である主人公が、親に内緒で友人の趙大煥の家族と虎狩りに参加する話。作者が24歳の時に書いた「中央公論」の懸賞小説応募作です。11歳から5年ほど韓国で少年時代を送った作者の経験がもとになっている、これも自伝的要素のある作品かと思いますが、15,6年後に趙大煥に再開する後日談も含め、どこまでが事実でどこまでが創作か分かりせん。

 『大人読み「山月記」』('09年/明治書院)という本を読むと、中島敦という人は、「山月記」にしても「名人伝」にしても、また「弟子」にしても「李陵」にしても、原典にどこか手を加えているようです。そして、その手の加え方に、作者としてのテーマ性が込められていることが多いようです。本書のこれらの作品も、どこが作者の創作なのか、楽しみながらも考えてしまいました。

 「文豪ストレイドッグス」タイアップカバーですが、作品の舞台が古代のギリシャ、ペルシャ(エジプト)、アッシリア、そして中国に広がり、さらに自伝的中編もあって、韓国も舞台だったりして多彩で(自分だけnの思い込みかもしれないが、中島敦って何となく中国のイメージしかなかったりする)、加えて、池澤夏樹氏のほとんど書き下ろしの解説があり、詳細な年譜も付されていて、これで実質ワンコイン本であるというのは、コスパはかなり良かったと思います。

    



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和田泰明

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This page contains a single entry by wada published on 2021年2月22日 00:21.

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