【2997】 ○ チャールズ・ブコウスキー (柴田元幸:訳) 『パルプ (1995/11 新潮社) 《(2016/06 ちくま文庫)》 ★★★★

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ニック・ビレーンがずっこけることで、そのキャラを逆に好きになってしまう。

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パルプ』['95年]/『パルプ (ちくま文庫)』['16年](カバーイラスト:
サヌキナオヤ)/チャールズ・ブコウスキー(1920-1994)
パルプ (新潮文庫)』['00年](カバーイラスト:ゴッホ今泉)

パルプ チャールズ ブコウスキー6.jpg バーと競馬場に入りびたり、ろくに仕事もしない史上最低の私立探偵ニック・ビレーンのもとに、死んだはずの作家セリーヌを探してくれという依頼が来る。早速調査に乗り出すビレーンだが、それを皮切りに、いくつもの奇妙な事件に巻き込まれていく。死神、浮気妻、宇宙人等が入り乱れ、物語は佳境に突入する―。

 『パルプ』は、詩人・作家であるチャールズ・ブコウスキー(1920-1994)が最後に執筆した小説で、ブコウスキーの死の直前、1994年に出版されています。日本では'95年に単行本が刊行され、2000年に新潮文庫で文庫化されましたが、その後、2016年に同じ訳者のものがちくま文庫で文庫化されました。背景として、近年ブコウスキーが見直されていてちょっとしたブームになっているということがあるようです。

 ハードボイルド探小説の体裁をとっていますが、話はもうはちゃめちゃで、このはちゃめちゃぶりが楽しいです。ハードボイルド小説の定型をパロディ化した、メタハードボイルド小説と言えます。それと、ブコウスキーはこの小説を"悪文"に捧げていて、小説に登場するエピソードやアイテムはいわゆる「パルプ・マガジン」に見られるような意図的な悪文や、それに付きものの安っぽい要素(キッチュ感)を彷彿とさせ、それらへのオマージュともなっています(訳者は、クエンティン・タランティーノ監督の映画「パルプ・フィクション」('94年/米)と対比させている)。

東山 彰良.jpg 自分では「LA一の名探偵」「スーパー探偵」と称し、依頼料は1時間6ドル、飲んだくれ(日本酒をよく呑む)で競馬が趣味だという主人公・ニック・ビレーンという男(55歳)のキャラが最高に面白く、ちくま文庫解説の直木賞(『』)作家の東山彰良氏が述べているように、ミステリの部分は読者にページをめくらせるための推進力に過ぎず、作者が描きたかったのは、このダメ探偵の厭世的な人生観かもしれません。そのことは、冒頭から「セリーヌ」の名が出てくることなどとも符合するように思えます(そう言えば、ブコウスキーはルイ=フェルディナン・セリーヌと雰囲気的に似ている)。

橋 源一郎.jpg翻訳夜話.jpg 帯の推薦文で高橋源一郎氏が、「日本翻訳史上の最高傑作だと思います」と述べていますが、どう訳すか翻訳者の腕にかかっている小説とも言え、その翻訳者が、村上春樹氏との間に『翻訳夜話』('00年/文春新書)という共著もある柴田元幸氏であるというのも分かる気がします。

小鷹信光.jpg斎藤美奈子.jpg 「ハードボイルド小説は男のハーレクインロマンスである」と言ったのは斎藤美奈子氏ですが、それに対してハードボイルドの御大であった故・小鷹信光氏も、「何だか少し違う気がする」と言って苦笑いしたたとか。斎藤美奈子氏の言葉もある程度は本質を突いているのかもしれませんが、言われた方も、別に自分が登場人物のようになれると思って読んでいるわけではなく、そのギャップを十分衣自覚し、憧憬の対象は憧憬の対象として、現実は現実としてとらえ、時にはギャップを楽しんでいる部分もあるように思います。

 この『パルプ』は、ニック・ビレーンがずっこけることで、そのキャラを逆に好きになってしまうという、不思議な吸引力を持った小説ですが、ニック・ビレーンが一人で、ハードボイルドな男とずっこけ男の両方をやってのけているところが、なかなかのミソではないかと思いました。

 因みに、ニック・ビレーンという名は、映画「カサブランカ」におけるハンフリー・ボガートの役名「リック・ブレイン」のもじりだとか。「マイク・ハマー」シリーズの原作者であるミッキー・スピレインとも少し似ているけれど(この人、「刑事コロンボ」に殺害されるベストセラー作家の役で出演していた(「第22話/第三の終章」))。

      

    

  




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和田泰明

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