2021年2月 Archives

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読みやすいし、楽しく読めるコラム集。甦る70年代後半の洋画全盛期の息吹。

地獄の観光船 (1981年).jpg地獄の観光船 (集英社文庫).jpg1『地獄の観光船』.jpg コラムは踊る―エンタテインメント評判記.jpg
地獄の観光船―コラム101 (集英社文庫)』['84年](装丁:平野甲賀+小島武)/『コラムは踊る―エンタテインメント評判記 1977~81 (ちくま文庫)』['89年](カバーイラスト:和田誠)
地獄の観光船―コラム101 (1981年)』['81年](装丁:平野甲賀(1938-2021.03)+小林泰彦)

 本書は、著者が1977年から1981年春まで「キネマ旬報」に連載した「小林信彦のコラム」をまとめたもので、単行本にする際に70年代後半のクロニクル的側面を打ち出すため、相倉久人氏の「大洪水のあとの70年代はビートルズの解散に始まり、地獄の観光船となって80年代に向かう」というエッセイのタイトルから引いて、このタイトルに改めたとのこと。1984年に集英社文庫で文庫化された後、1989年にちくま文庫で『コラムは踊る―エンタテインメント評判記 1977~81』と改題されて再文庫化されました。

 夥しい数の洋画と邦画(巻末に題名索引が付されている)を紹介し、日活アクション、ヒチコック、マルクス兄弟(単行本表紙)、B級映画などを論じるとともに、漫才ブームやタモリといったタレントにも言及していて、娯楽メディア全般を対象としているので、改題後のサブタイトルがむしろ内容紹介的には分かりやすいかもしれません(ただ、インパクトは「地獄の観光船」の方がある)。年代別に印象に残ったところを一部拾っていくと―(以下、#はコラムの通し番号。ページ数は集英社文庫)。

1977年
タクシードライバー パンフレット.jpgタクシードライバー 映画館.jpg#2.タクシードライバーで、主人公のトラヴィスが初デートでポルノ映画を観に行く件りがあり、あれは日本ではトラヴィスが非常識だということで片付けられるが、映画に出てくるポルノ映画ををやっていた小屋は、高級な映画館なのだそうです(17p)。トラヴィスなりに奮発したということか。そんなの、予備知識なしにフツーに観ている分には分からなかったなあ。単にこの男"狂っている"と思ってしまう。

ネットワーク 1976 ちらし.jpgネットワーク ロバート・デュヴァル2.jpg#9.ネットワークを、わくわくするほど面白い設定なのに、ラストの一発で、すべてが嘘くさくなったケースであり「惜しい」としています(35p)。フェイ・ダナウェイが、テレビ番組の視聴率アップのためにテロリストを利用したことを指しているのでしょう。確かにあのラストでリアリティが無くなったようにも思えますが、個人的には、ある種の"寓話"として敢えてリアリティを度外視して、ああいう風なラストにしたのではないかと思います。

ROLLERCOASTER 1977.jpgROLLERCOASTER 19772.jpg#16.「ジェット・ローラー・コースター」は集団捜査劇めかしているが、保安基準局役人のジョージ・シーガルと爆発狂のティモシイ・ボトムズの対決であるとしています(53p)。この点においては「真昼の決闘」や「ジャッカルの日」などと同系譜で、特徴的なのは、敵味方がモノマニアックである点だと。なるほど。アメリカ人は大体「個対組織」より「個対個」の対決が好きなのかも。著者はこの映画のジョージ・シーガルの演技を絶賛しています。個人的には、パニック映画としては懐かしい作品ですが、「ポセイドンアドベンチャー」のような先行する巨大スケールのパニック映画があるので、スケール面でどうしても弱いかなあというのはありました。因みに、この映画の脚本は、「刑事コロンボ」でお馴染みのリチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンクでした。リチャード・ウィドマーク、ハリー・ガーディノ、スーザン・ストラスバーグなども出ていて、(観た当時の評価は★★★だが)これをB級パニック映画なんて言うと失礼にあたる?

アニー・ホール poster.jpgANNIE HALL.jpg#24.アニー・ホールは、ウディ・アレンとダイアン・キートンの実生活がベースになっているらしいとし(アニー・ホールがダイアン・キートンの本名であることには触れていない)、ウディ・アレンの映画を観ることは、「日本語のよく気きとれない外人さんが寅さん映画を観るようなもの」だとしています(72p)。個人的には、有楽町の「ニュー東宝シネマ2」というマイナーなロードショー館に観に行った際に、外国人の観客が結構多く来ていて、笑いの起こるタイミングが字幕を読んでいる日本人はやや遅れがちで、しまいには外国人しか笑わないところもあったりした記憶があります。また、会話が早すぎて、訳を端折っている感じもしました。当時は"入れ替え制"というものが無かったので、同じ劇場で2度観ました(個人的には当時、英会話学校に通っていた)。
          
1978年
ミスター・グッドバーを探して1.jpg#32.ミスター・グッドバーを探して(これもダイアン・キートンだが)を著者は大力作であると絶賛し、ショックで体調がおかしくなったくらいだとしています(93p)。当時の日本人の批評は、男が描けていないとかボロクソだったようで、著者は作品の魂が分かっていないと憤慨し、「リチャード・ブルックス老にこれほどの現代性とスタミナがあるとは、思ってもみなかった」とまで述べていますが、自分の評価も実はそう高くはなかったです(作品の魂が分からなかった?)。 そう言えば、同じ英会話学校に通っていたアメリカ帰りの友人が、この「ミスター・グッドバーを探して」を、「アニー・ホール」と共に絶賛し、ペーパーバックを読んでいました(自分も買ったと思うが、読み終えた記憶はない)。

スター・ウォーズ エピソード4.jpgスター・ウォーズ 1977 sabaku.jpg#32.「スター・ウォーズ」で、「二つのロボットが砂漠をとぼとぼ行く場面で、こんなシーンを観たことがあったな、と思った。黒澤明の「隠し砦の三悪人」のオープニング―千秋実と藤原釜足が腹をへらして歩いているシーンと同じ撮り方だ、とすぐに気づいた」とのこと(94p)。後にジョージ・ルーカス自身が黒澤明からの"頂き"だと白状しており、著者は1998年のエッセイ(『人生は五十一から』)でも「ぼくが見つけた」と書いています(自慢?)。個人的にはこの映画、周りが大騒ぎした分あまり乗り切れず、だいぶ遅れて'82年に飯田橋の佳作座で「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」との併映で、日本語吹き替え版を観ました(ハン・ソロ役の森本レオは雰スター・ウォーズ 1977 ハンソロ2.jpg囲気出ていた。ルーク役は奥田瑛二!)。悪くはないけれど、十分満足したかと言うとイマイチだったというのが当時の印象で(評価★★★☆)、前年公開の「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」とどっこいどっこいか、やや「レーダース」の方が面白かったくらいでしょうか。やっぱりこういうのは中身云々もさることながら、"旬"の内に観ないと気分的に"乗れない"のかもしれません。そう言えば、ハリソン・フォード来日の際の記者会見で、質疑応答の際に「インディー・ショーンズ」のことは訊いてもいいけれど、「スター・ウォーズ」のことに触れるのはご法度であったとか。ハリソン・フォードの中では、ジョーンズ博士はインテリで、ハン・ソロはお馬鹿キャラとの意識があるようです。

1979年「二人でヒッチコック映画の魅力を語ろう」―和田誠氏との対談
引き裂かれたカーテン1.jpg引き裂かれたカーテン2.jpg 「引き裂かれたカーテン」('66年)を、著者は、作品は失敗だったけれど、ヒッチコック好みの俳優を使ったという意味では、この作品のポール・ニューマンがそうだとしているのに対し、和田誠は、この作品を好きだとし、ポール・ニューマンには「逆転」('63年)などのようにスリラーが似合うと言っています(143p)(「動く標的」('66年)などもそうかも。2011年にやっとDVD化された作品だが)。「引き裂かれたカーテン」の日本での低評価は、ポール・ニューマンに理論物理学者の役は似合わないという先入観によるところが大きいのではないかと思われます(東側の物理学者の前で黒板に物理方程式を書いてみせる場面がある)。また、和田誠が、ヒッチコック映画のヒロインでは「北北西に進路を取れ」('59年)のエヴァ・マリー・セイントが印象的だったと言うと、著者も、「あれは最高です」と。著者が、「引き裂かれたカーテン」のジュリー・アンドリュースを指し、色っぽくない女優を色っぽく見せることにおいてヒッチコックの独壇場だと(笑)。一方で、ファッションモデルみたいな美人も好んで使うと言っているのは確かに。その代表格が「裏窓」('54年)のグレース・ケリーということになるのでしょう(144p)。
      
1979年
ナイル殺人事件 DVD.jpgナイル殺人事件 スチール.jpg#49.ナイル殺人事件」のピーター・ユスチノフのポワロは良かったと。身体がでか過ぎるのが次第に気にならなくなったのは、彼の演技力の賜物だとしています(ピーター・ユスティノフ はその後「地中海殺人事件」('82年)、「死海殺人事件」 ('88年)でもポアロを演じることになる)。クリスティが自作「カーテン」でポワロを殺してしまったのは、こうすれば誰かが著作権者に金を払ってポワロ物の続きを書くといったことが出来ないからだということで、なるほどなあ。007が登場する小説を書こうと思ったら著作権者に金を払わなければならないわけだ(164p)。これがジェフリー・ディーバーやアンソニー・ホロヴィッツぐらいになるとと、逆にイアン・フレミング・エステートからのオファーを受けて書くことになるわけか。

麦秋 dvd V.jpg麦秋 sugimura.jpg#52.麦秋('51年、小津安二郎監督)を正月にNHKで観て(この辺りからテレビで観たものも入ってくる。今の著者の「週刊文春」の連載のエッセイ「本音を申せば」(旧題は「生は五十一から」)がこのパターンだなあ)、石堂淑朗(1932年生まれ「怪奇大作戦/呪いの壷呪いのツボ」('69年)の脚本)、笠原和夫(1927年生まれ・「仁義なき戦い」('73年)の脚本)など著者の多くの知人がしゅんとしたそうな(173p)。著者自身、「封切当時は、古い映画、死ね、とった気持ちで観ていた」とのことで、それを今観て粛然とした気持ちになるのは、「要するに、ぼくらの世代はトシをとったのだ、ということでしょうがねえ」と。これを書いている時点で著者は45歳くらいのはずですが...。

ビッグ・ウェンズデー dvd.jpgビッグ・ウェンズデー 1.jpg#53.ビッグ・ウェンズデーを、脚本・監督のジョン・ミリアスの、自伝的と言うより、私小説ならぬ私映画の秀作としていて、なるほどね。日本ではサーフィン・ブームが始まったところなので、「若い観客を動員できれば、アタると思うのですが」と(実際、そこそこヒットしたのでは)。「これは、もう、浦山桐郎さんの世界ですね」と言っているのが面白いです(176p)。「アメリカン・グラフィティ」などと同じノスタルジー映画の系譜ということでしょうか。

エノケンの近藤勇2.bmp#55.エノケンの近藤勇 「エノケンの頑張り戦術」などエノケン映画を、久々に上京してきた筒井康隆氏と二日間にわたり4本観たと(179p)(この辺りからエノケンの頑張り戦術 1.jpg日記風の話も多くなり、この様式も「週刊文春」の連載のエッセイ「本音を申せば」に受け継がれている)。二日目から色川武大氏が加わったというからスゴイ面子。それにしても「エノケンの頑張り戦術」を「博覧強記の色川さんが、題名さえも知らなかった」とは意外。そう言う著者も、「頑張り戦術」は知らなかったとのこと。按摩に化けたエノケンが如月寛多を「もみくちゃ」にし、取っ組み合いになるところを、カメラ据えっぱなしのワンショットで撮っているいるところが飛びぬけて面白かったとしていますが、「エノケンの近藤勇」にもそうした撮り方をしている場面があります。

料理長殿、ご用心 p1.jpg料理長シェフ殿、ご用心 02.jpg#58.料理長(シェフ)殿、ご用心を「さいきん、数少ない〈小品佳作〉であった」と。〈小品佳作〉というのは、戦前から戦後にかけてよく使用された言葉で、出演者のランクを認めた上での言葉で、「料理長殿、ご用心」で言えば、ジャクリーン・ビセットが素晴らしく、一人で全編を支えているとしています。そう言えば、和田誠も『お楽しみはこれからだ PART3―映画の名セリフ』('80年)でこの映画を評価していましたが、あれもこのコラムと同時期の「キネマ旬報」の連載コラムでした。

復讐するは我にあり dvd7.jpg復讐するは我にあり  04 .jpg#61.復讐するは我にありを、面白かったとして取り上げています(193p)。「前半の屋外場面は冴えないが、後半、浜松の旅館に移ってから、今村昌平調の屋内ドラマが溌溂とする。緒形拳がシャニムニという力演で、よろしかった」と。但し、「犯罪者の〈内面の追究〉というのは、あまり、意味がないと思う」とも。著者は邦画も数多く観ていますが、かなり厳しめの評価になるのは、常に洋画と比較しているからではないかと思ったりもしました。

エイリアン DVD.jpgエイリアン ジョンハート.jpg#62.エイリアンをFOXで観せてもらった(195p)とのことで、試写会でしょうか。「宇宙船内のわりにリアルな描写」を良いとし、着陸する変な惑星は、1950年代の「禁断の惑星」風であると。そっかあ。この映画を観た時、「禁断の惑星」はまだ観ていなかったので気がつきませんでした。「要するに、これは、SFに形を借りた恐怖映画」なのだと。そう言えば、内田樹氏が『映画の構造分析』(晶文社)の中で、妊娠と出産に対する女性の側の恐怖の暗喩だと言っていたのを思い出しました。

人情紙風船2.jpg人情紙風船 dvd1.jpg #63.人情紙風船('37年・山中貞雄監督)を、機会があって観たとあります(200p)。邦画に厳しいと書きましたが、この映画に関しては「もう、よくって、よくって。だまされたと思って、観てごらんなさい。こんな映画も、めったにないよ」とべた褒めです。でも、実際、いい映画なのです(かなり暗い話だけれど)。

 
 
1980年
二百三高地 dvd.jpg#90.二百三高地を、「もっとも不足しているのは〈ふつうの描写〉である」と(267p)。「人間がメシを食うとか、そういう描写が下手、というより、まるで無い」のがだめで、観客は大戦争とかを常に観たいと思うのではなく、ときどき〈ふつうの描写〉も眺めたいと思うもので、「クレーマー、クレーマー」などは、その欲求にぴしりとはまったからヒットしたのだと。個人的にも、「二百三高地」はいいと思わなかったけれど、それは乃木希典の描き方に不満を感じたりしたからで、一方で、こうした見方もあるのだなあと。著者は、「小津安二郎的なものに、心を惹かれるきょうこのごろで、要するに、トシですわな」とも言ってはいますが。

殺しのドレス.jpgDRESSED TO KILL Angie Dickinson.jpg#95.殺しのドレス(ブライアン・デ・パルマ監督)を絶賛(279p)。「二度見た。あまりに面白かったからだが、とにかく、アタマが白紙の状態だったからこそ、最高に楽しめたのだ」と。こういうのは、「いっさい、何も知らないみなければならない」とし、リポーター(しばしば映画評論家という肩書がつく)が映画の内容をばらしてしまう風潮を痛烈に批判しています。思うに、最近の日本映画などは、もう観る前に大体の内容はわかっていて、若い人などは、描かれ方を確認するような鑑賞スタイルになってきているのではないでしょうか。
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 先にも書いた通り、連載の後の方では、漫才ブームやタレントの話もあって、映画に限っても、話題は、作品観賞から、映画館について、字幕の話など多岐にわたり、80年代に入ってからは、すでに世に出始めたビデオで映画を観るということについても触れています(まだVHSとベータがシェア争いをしていた頃だが)。

 この著者のコラムは、読みやすいし、また楽しく読めますが、著者のあとがきによれば、「キネマ旬報」という映画専門誌に連載しながら(「だからこそ」とも言えるが)、敢えて映画評とはなるべく離れた内容の方がいいと言う編集部の意向に、著者自身も沿ったものだとのこと。個人的は、70年代後半の洋画全盛期の息吹がリアルタイムで甦ってくるようなコラム集であったし、当時の自分の評価の振り返りにもなりました。「ジェット・ローラー・コースター」などは、観た当時は「B級」と思いましたが(これ、著者に言わせれば差別用語になるらしい)、著者が言うところの〈小品佳作〉だったかもしれないと思います。観直していないので評価は★★★のまま修正はしませんでしたが、機会があれば観直してみたいと思います(2017年にHDリマスター版Blu-rayがリリーズされている)。

    
タクシードライバー」01.jpgタクシー・ドライバー チラシ.jpg「タクシードライバー」●原題:TAXI DRIVER●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・スコセッシ●製作:マイケル・フィリップス/ジュリア・フィリップス●脚本:ポール・シュレイダー●撮影:マイケル・チャップマン●音楽:バーナード・ハーマン●時間:114分●出演:ロバート・デ・ニーロ/シビル・シェパード/ジョディ・フォスター/ハーヴェイ・カイテル/ピーター・ボイル/アルバート・ブルックス/マーティン・スコセッシ/ジョー・スピネル/ダイアン・アボット/レナード・ハリス/ヴィクター・アルゴ/ガース・エイヴァリー/リチャード・ヒッグス/ロバート・マルコフ、/ハリー・ノーサップ/スティーブン・TAXI DRIVER.PETER BOYLE AND ROBERT DE NIRO.jpgプリンス●日本公開:1976/09●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:早稲田松竹(77-11-05)●2回目:池袋文芸坐(79-02-11)●3回目:三鷹オスカー(81-03-18)●4回目:早稲田松竹(85-03-23)(評価:★★★★★)●併映(1回目):「アメリカングラフィティ」(ジョージ・ルーカス)●併映(2回目):「ローリング・サンダー」(ジョン・フリン)●併映(3回目):「アリスの恋」(マーティン・スコセッシ)/「ミーン・ストリート」(マーティン・スコセッシ)●併映(4回目):「ミッドナイト・エクスプレス」(アラン・パーカー)


ネットワーク 1976 11.jpgネットワーク [DVD].jpg「ネットワーク」●原題:NETWORK●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:ハワード・ゴットフリード●脚本:パディ・チャイエフスキー●撮影:オーウェン・ロイズマン●音楽:エリオット・ローレンス●時間:121分●出演:フェイ・ダナウェイ/ウィリアム・ホールデン/ピーター・フィンチ/ロバート・デュヴァル/ベアトリス・ストレイト/ウェズリー・アディ/ネッド・ビーティ/ジョーダン・チャーニー/コンチャータ・フェレル/レイン・スミス/マーリーン・ウォーフィールド●日本公開:1977/01●配給:ユナイト映画●最初に観た場所:池袋・文芸坐(78-12-13)(評価:★★★★)●併映:「カプリコン・1」(ピーター・ハイアムズ)
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ジェット・ローラー・コースター -HDリマスター版- [Blu-ray]
ジェット・ローラー・コースター dvd.jpg「ジェット・ローラー・コースター」●原題:ROLLERCOASTER●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督:ジェームズ・ゴールドストーン●製作:ジェニングス・ラング●脚本:リチャード・レヴィンソン/ウィリアム・リンク●撮影:デヴィッド・M・ウォルシュ●音楽:ラロ・シフリン●時間:119分●出演:ジョージ・シーガル/ヘンリー・フォンダ/リチャード・ウィドマーク/ティモシー・ボトムズ/ハリー・ガーディノ/ハリー・デイビス/スーザン・ストラスバーグ/ヘレン・ハント/スティーヴ・グッテンバーグ●日本公開:1977/06●配給:CIC●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(78-01-21)(評価:★★★)●併映:「新・猿の惑星」(ドン・テイラー)/「ローラーボール」(ノーマン・ジュイソン)/「世界が燃えつきる日」(ジャック・スマイト)(オールナイト)

ANNIE HALL .jpg「アニー・ホール」●原題:ANNIE HALL●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督:ウディ・アレン●製作:チャールズ・ジョフィ/ジャック・ローリンズ●脚本:ウディ・アレン/マーシャル・ブリックマン●撮影:ゴードン・ウィリス ●時間:94分●出演:ウディ・アレン/ダイアン・キートン/トニー・ロバーツ/シェリー・デュバル/ポール・サイモン/シガニー・ウィーバー/クリストファー・ウォーケン/ジェフ・ゴールドブラム/ジョン・グローヴァー/トルーマン・カポーティ(ノンクレジット)●日本公開:1978/01●配給:オライオン映画●最初に観た場所:有楽町・ニュー東宝シネマ2(78-01-18)●2回目:有楽町・ニュー東宝シネマ2 (78-01-18)(評価:★★★★)


映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」.jpg「ミスター・グッドバーを探して」●原題:LOOKING FOR MR. GOODBAR●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督・脚本:リチャード・ブルックス●製作:フレディ・フィールズ●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:アーティ・ケイン●原作:ジュディス・ロスナー「ミスター・グッドバーを探して」●時間:135分●出演:ダイアン・キートン/アラン・フェインスタイン/リチャード・カイリー/チューズデイ・ウェルド/トム・ベレンジャー/ウィリアム・アザートン/リチャード・ギア●日本公開:1978/03●配給:パラマウント=CIC●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(79-02-04)(評価:★★☆)●併映:「流されて...」(リナ・ウェルトミューラー)
映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」出演ダイアン・キートン


昭和外国映画史―「月世界探検」から「スター・ウォーズ」まで「別冊1億人の昭和史」』('78年6月/毎日新聞社)
0昭和外国映画史.jpgスター・ウォーズ 1977 ハンソロ1.jpg「スター・ウォーズ(「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」)」●原題:THE STAR WARS●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジョージ・ルーカス●製作: ゲイリー・カーツ●撮影:ギルバート・テイラー●音楽:ジョン・ウィリアムズ●時間:121分(特別編:125分)●出演:マーク・ハミル/ハリソン・フォード/キャリー・フィッシャー/デヴィッド・プラウズ/ジェームズ・アール・ジョーンズ(声)/アレック・ギネス/アンソニー・ダニエルズ/ケニー・ベイカー/ピーター・メイヒュー/ピーター・カッシング/フィル・ブラウン/シラー・フレイザー/ジェレミー・ブロック/ポール・ブレイク/ローリー・グード/アンソニー・フォレスト/ドリュー・ヘンレイ/アンガス・マッキネ/デニス・ローソン/ギャリック・ヘイゴン/ローリー・グード/パム・ローズ/リチャード・ルパルメンティエ/デレック・ライオンズ●日本公開:1978/06●配給:20世紀フォックス映画●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(82-07-11)(評価:★★★☆)●併映:「レイダース 失われた《聖櫃》」(スティーブン・スピルバーグ)


引き裂かれたカーテン 1966.jpg引き裂かれたカーテン5.jpg「引き裂かれたカーテン」●原題:TORN CURTAIN●制作年:1966年●制作国:アメリカ●監督・製作:アルフレッド・ヒッチコック●ジェニングス・ラング●脚本:ブライアン・ムーア/ウィリス・ホール/キース・ウォーターハウス●撮影:ジョン・F・ウォーレン●音楽:ジョン・アディソン●時間:128分●出演:ポール・ニューマン /ジュリー・アンドリュース/ハンスイェルク・フェルミー/ギュンター・シュトラック/ルドウィヒ・ドナート/ヴォルフガン「引き裂かれたカーテン」ヒッチカメオ.pngグ・キーリング/リラ・ケドロヴ/モート・ミルズ/ギゼラ・フィッシャー/デヴィッド・オパトッシュ/タマラ・トゥマノワ/モーリス・ドナー/ロバート・ブーン/ノーバート・シラー/ハロルド・ディレンフォース/アーサー・グールド=ポーター/ピーター・ローレ・Jr/アンドレア・ダルビー/エリック・ホランド/レスター・フレッチャー●日本公開:1966/10●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ.(評価:★★★★)
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「ナイル殺人事件」映画パンフレット
ナイル殺人事件 パンフレット.jpgナイル殺人事件 オリヴィア・ハッセー.jpgナイル殺人事件 べティ・デイヴィス.jpgミア・ファロー_3.jpg「ナイル殺人事件」●原題:DEATH ON THE NILE●制作年:1978年●制作国:イギリス●監督:ジョン・ギラーミン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:アンソニー・シェーファー●撮影:ジャック・カーディフ●音楽:ニーノ・ロータ●原作:アガサ・クリスティ「ナイルに死す」●時間:140分●出演:ピーター・ユスティノフ/ミア・ファローベティ・デイヴィス/アンジェラ・ランズベリー/ジョージ・ケネkinopoisk.ru-Death-on-the-Nile-1612353.jpgディ/オリヴィア・ハッセー/ジョン・フィンチ/マギー・スミス/デヴィッド・ニーヴkinopoisk.ru-Death-on-the-Nile-1612358.jpgン/ジャック・ウォーデン/ロイス・チャイルズサイモン・マッコーキンデール/ジェーン・バーキン/サム・ワナメイカー/ハリー・アンドリュース●日本公開:1978/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:日比谷映画劇場(78-12-17)(評価:★★★☆)

  

麦秋 1.jpg「麦秋」●制作年:1953年●監督:小津安二郎●製作:山本武●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田麦秋 1951  .jpg雄春●音楽:伊藤宣二●時間:124分●出演:原節子/笠智衆/淡島千景/三宅邦子/菅井一郎/東山千栄子/杉村春子/二本柳寛/佐野周二/村瀬禪/城澤勇夫/高堂国典/高橋とよ/宮内精二/井川邦子/志賀真津子/伊藤和代/山本多美/谷よしの/寺田佳世子/長谷部朋香/山田英子/田代芳子/谷崎純●公開:1951/03●配給:松竹(評価:★★★★☆)


ビッグ・ウェンズデー  ps.jpgBig Wednesday (1978).jpgBIG WEDNESDAY .jpg「ビッグ・ウェンズデー」●原題:BIG WENSDAY●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・ミリアス●製作:バズ・フェイトシャンズ/アレクサンドラ・ローズ●脚本:ジョン・ミリアス/デニス・アーバーグ●撮影:ブルース・サーティース●音楽:ベイBIG WEDNESDAY.jpgジル・ポールドゥリス●時間:119分●出演:ジャン=マイケル・ヴィンセント/ウィリアム・カットBIG WEDNESDAY   .jpg/ゲイリー・ビジー/リー・パーセル/サム・メルヴィル/パティ・ダーバンヴィル/ダレル・フェティ/ジェフ・パークス/レブ・ブラウン/デニス・アーバーグ/リック・ダノ/バーバラ・ヘイル/ジョー・スピネル/ロバート・イングランド●日本公開:1979/04●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:テアトル吉祥寺(82>-03-13)(評価:★★★☆)●併映:「カッコーの巣の上で」(ミロシュ・フォアマン)


エノケンの近藤勇1.jpg「エノケンの近藤勇」●制作年:1935年●監督:山本嘉次郎●脚本・原作:ピエル・ブリヤント/P.C.L.文芸部●撮影:唐沢弘光●音楽:栗原重一●時間:81分●出演:榎本健一/二村定一/中村是好/柳田貞一/如月寛多/田島辰夫/丸山定夫/伊藤薫/花島喜世子/宏川光子/北村季佐江/エノケンの頑張り戦術 vhs.jpg千川輝美/高尾光子/夏目初子●公開:1935/10●配給:P.C.L.(評価:★★★)
「エノケンの頑張り戦術」●制作年:1939年●監督:中川信夫●脚本・原作:小国英雄●撮影:伊藤武夫●音楽:栗原重一●時間:74分●出演:榎本健一/宏川光子/小高たかし/如月寛多/渋谷正代/川童/柳田貞一/柳文代/音羽久米子/北村武夫 /金井俊夫/南光司●公開:1939.09●配給:東宝東京(評価:★★★)


01料理長(シェフ)殿.jpg02料理長(シェフ)殿1.jpg「料理長(シェフ)殿、ご用心」●原題:SOMEONE IS KILLING THE GREAT CHEFS OF EUROPE●制作年:ヴァン・ライアンズ/ナン・ラ1978年●制作国:アメリカ●監督:テッド・コチェフ●脚本:ピーター・ストーン●撮影:ジョン・オルコット●音楽:ヘンリー・マンシーニ●原作:アイヴァン・ライアンズ/03料理長(シェフ)殿.pngナン・ライアンズ●時間:112分●出演:ジャクリーン・ビセット/ジョージ・シーガル/ロバート・モーレイ/ジャン=ピエール・カッセル/フィリップ・ノワレ/ジャン・ロシュフォール/ルイージ・プロイェッティ/ステファノ・サッタ・フロレス●日本公開:1979/05●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:五反田TOEIシネマ(80-02-18)(評価:★★★)●併映「セント・アイブス」(J・リー・トンプソン)/「クリスチーヌの性愛記」(アロイス・ブルマー)

Fukushû suru wa ware ni ari (1979)
Fukushû suru wa ware ni ari (1979) .jpg復讐するは我にありC2.jpg「復讐するは我にあり」●制作年:1979年●監督:今村昌平●製作:井上和男●脚本:馬場当/池端俊策●撮影:姫田真佐久●音楽:池辺晋一郎●原作:佐木隆三●時間:140分●出演:緒形拳/三國連太郎/ミヤコ蝶々/倍賞美津子/小川真由美小川真由美 復讐するは我にあり2.jpg清川虹子/殿山泰司/垂水悟郎/絵沢萠子/白川和子/フランキー堺/北村和夫/火野正平/根岸とし江(根岸李江)/河原崎長一郎/菅井きん/石堂淑郎/加藤嘉/佐木隆三●公開:1979/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-23)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-17)(評価:★★★★☆)


エイリアン 1979.jpgエイリアン スタントン.jpg「エイリアン」●原題:ALIEN●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:ゴードン・キャロル/デヴィッド・ガイラー/ウォルター・ヒル●脚本:ダン・オバノン●撮影:デレク・ヴァンリント●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:117分●出演:トム・スケリット/シガニー・ウィーバー/ヴェロニカ・カートライト/ハリー・ディーン・スタントン/ジョン・ハート/イアン・ホルム/ヤフェット・コットー●日本公開:1979/07●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三軒茶屋東映(84-07-22)(評価:★★★★)●併映:「遊星からの物体X」(ジョン・カーペンター)


人情紙風船 kawarazaki.jpg人情紙風船 01.jpg「人情紙風船」●制作年:1937年●監督:山中貞雄●製作:P.C.L.●脚本:三村伸太郎●撮影:三村明●音楽:太田忠郎●美術考証:岩田専太郎●原作:河竹黙阿弥(『梅雨小袖昔八丈』、通称『髪結新三』)●時間:86分●出演:河原崎長十郎(海野又十郎)/中村翫右衛門(髪結新三)/山岸しづ江(又十郎の女房おたき)/霧立のぼる(白子屋の娘お駒)/助高屋助蔵(家主長兵衛)/市川笑太朗(弥太五郎源七)/中村鶴蔵 (金魚売源公)/市川莚司[加東大介])(猪助)/橘小三郎[藤川八蔵](毛利三左衛門)/御橋公(白子屋久左衛門)/瀬川菊乃丞(忠七)/市川扇升(長松)/原緋紗子(源公の女房おてつ)/坂東調右衛門/市川樂三郎/市川菊之助/岬たか子●公開:1937/08●配給:東宝映画●最初に観た場所:早稲田松竹(07-08-12)(評価:★★★★☆)●併映:「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」(山中貞雄)


7二百三高地 丹波哲郎 dvdジャケット1.jpg「二百三高地」●制作年:1980年●監督:舛田利雄●脚本:笠原和夫●撮影:飯村雅彦●音楽:山本直純●主題曲:さだまさし●時間:181分●出演:仲代達矢/あおい輝彦/新沼謙治/湯原昌幸/佐藤允/永島敏行/長谷川明男/稲葉義男/新克利/矢吹二朗/船戸順/浜田寅彦/近藤宏/伊沢一郎/玉川伊佐男/名和宏/横森久/武藤章生/浜田晃/三南道郎/二百三高地 丹波哲郎.jpg北村晃一/木村四郎/中田博久/南廣/河原崎次郎/市川好朗/山田光一/磯村健治/相馬剛三/高月忠/亀山達也/清水照夫/桐原信介/原田力/久地明/秋山敏/金子吉延/森繁久彌/天知茂/神山繁/平田昭彦/若林豪/野口元夫/土山登士幸/川合伸旺/久遠利三/須藤健/吉原正皓/愛川欽也/夏目雅子/野際陽子/桑山正一/赤木春恵/原田清人/北林早苗/土方弘/小畠絹子/河合絃司/須賀良/石橋雅史/村井国夫/早川純一/尾形伸之介/青木義朗/三船敏郎/松尾嘉代/内藤武敏/丹波哲郎●公開:1980/08●配給:東映●最初に観た場所:飯田橋・佳作座 (81-01-24)(評価:★★)●併映:「将軍 SHOGUN」(ジェリー・ロンドン)


『殺しのドレス』(1980) 2.jpg「殺しのドレス」●原題:DRESSED TO KILL●制作年:1980年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ブライアン・デ・パルマ●製作:ジョージ・リットー●撮影:ラルフ・ボード●音楽:ピノ・ドナッジオ●時間:114分●出演:マイケル・ケイン/アンジー・ディキンソン/ナンシー・アレン/キース・ゴードン/デニス・フランツ/デヴィッド・ マーグリーズ/ブランドン・マガート●日本公開:1981/04●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(81-04-03)●2回目:テアトル吉祥寺 (86-02-15)(評価:★★★★)●併映(2回目):「デストラップ 死の罠」(シドニー・ルメット)/「日曜日が待ち遠しい!」(フランソワ・トリュフォー)/「ハメット」(ヴィム・ヴェンダース)

【1984年文庫化[集英社文庫]/1989年再文庫化[ちくま文庫(『コラムは踊る―エンタテインメント評判記 1977~81』)]】


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〈地獄〉と言うくらいの思いをしないとこれだけの本は読めないのだろなあ。感服させられる。

地獄の読書録 tannkoubon.jpg地獄の読書録 bunko.jpg  地獄の読書録 ちくま文庫.jpg
地獄の読書綠』['80年]/『地獄の読書録 (集英社文庫)』['84年]/『地獄の読書録 (ちくま文庫)』['89年]

地獄の読書録 syuueisya bunko.jpg 1958年のある日、著者・小林信彦は翻訳ミステリーの全巻読破・紹介を雄々しく決意する。それから10年、本格推理からハードボイルド、サスペンス、スパイ・スリラー、冒険小説、SF、日本の作家の作品...と、"読み"の対象は広がり、膨大な量の"活字の地獄"との血みどろの戦いは続いた。755冊を俎上にあげ、激動と混乱の60年代の語り部となった著者の毒舌が冴える大河ブック・ガイドの名篇。(本書紹介文より)

 具体的には、本書の第1部「本邦初訳ミステリ総まくり」は座視「宝石」の1959年1月後から63年12月号まで連載された「みすてりい・がいど」の完全収録であり、第2部「スパイ小説とSFの洪水」は、隔月刊「平凡パンチ・デラックス」の1965年9月号から69年9月号に連載されたもので、そのことにより'59年から'69年の、つまり概ね60年代のブックガイドとなっています(巻末に著者索引・書名索引が付されている)。

 とにかくすごい量です。これだけ本を読みながら、同時に映画なども多く観ているわけであり、この時分の著者のパワーと執念を感じます。著者によれば、、あくまで一ファンとして、楽しい作品を少しでも多く読みたい、との熱い想いを抱いて本の山に挑戦していったとのことで、ある種〈闘いの記録〉であるとも言えます。

 気に入った作品は、一作に複数ページを費やして内容紹介・論評することもある一方で、凡作はほとんど一文で片付けていたりもしますが(総じて短いものが多いが、このあたりのメリハリが明確)、今日"傑作"とされているものでも当時はまだ新鋭作家の評価が確定していない作品だったりして、それをきっちり評価し切っているところがスゴイです。年代別に見て、前半の方でいくつか印象に残ったのは―(以下、ページ数は集英社文庫)。

1959年
魔術の殺人 (1958年).jpg チャンドラーの『長いお別れ」でスタートしたこの年は、「魔術の殺人」(早川書房170円)をクリスティーの52年の作品だが、「凡作」と一言で切り捨てています(28p)。

血の収穫 創元推理文庫.jpg 創元推理文庫の新刊8冊『グリーン家殺人事件」』(ヴァン・ダイン、130円)、『血の収穫』(D・ハメット、100円)、『ABC殺人事件」(A・クリスティー、100円)、『かわいい女』(R・チャンドラー、110円)など紹介し(55p)、この中で『血の収穫』は名訳(田中西二郎)として定評があるのでと一読を勧めています。やはり1つ選ぶとすればこれでしょうか('56年6月に 田中西二郎訳が創元推理文庫から出て、すぐに名訳との評価が固まったということか)。

1960年
気ちがい〔サイコ〕.pngPSYCHO2.jpg ロバート・ブロックの『気ちがい』(早川書房・160円)を、ヒッチコックが来日の際に大いに宣伝していった映画「サイコ」の原作として紹介していますが(114p)、原作の翻訳刊行はこPSYCHO 31.jpgの年の4月、映画の公開は9月でした。原作のあらすじを紹介しながらも、面白くない、凄味がないとの低評価です。映画の方は後の方で、大当たりしているけれど、話がモーテルに入るまでが冴えないと。ただし、殺しの場のショッキングなことは無類であり、パーキンスのサイコぶりがいいとのことで(137p)、原作がイマイチで、映画は原作を超えているというのは、衆目の一致するところかと思います。

Alfred Hitchcock 女主人01.jpg この年のエドガー賞(アメリカ探偵作家クラブ賞)受賞作を取り上げる中で、短編賞を受賞したロアルド・ダールの「女主人」(作者の第三短編集『キス・キス』所収)を取り上げ(118p)、そのあらすじを3ページにわたって詳しく紹介しています(ネタバレはしていないけれどほとんど全部(笑))。個人的にも傑作だと思い、読者に伝えたくなる気持ち、理解できます。これ、「ヒッチコック劇場」(「ロンドンから来た男」(1961))や「ロアルド・ダール劇場 予期せぬ出来事」(「女主人」(1979))で映像化されています(この作品、「サイコ」とモチーフ的に似たところがある)。
Alfred Hitchcock Presents - Season 6 Episode 19 #210."The Landlady"(1961)(「ロンドンから来た男」)

1961年
パディントン発4時50分 (1960年).jpg鳩のなかの猫 ポケミス.jpg アガサ・クリスティーの『パディントン発4時50分』(早川書房200円)の評価を☆☆☆☆と(このあたりから星評価を導入し、☆1つ20点、、★が5点とのこと)。本格ファンは、久しぶりに良い気分になれる作品であるとしています(150p)。それから『鳩の中の猫』(早川書房220円)にも☆☆☆☆の評価をしています(158p)。女子パブリック・スクールにおける殺人という「本格」に、中近東の某国における革命と宝石紛失という「スリラー」の掛け合わせを、マープル物とトミー・タペンス物をカクテルにしたみたいで、こんがらがったところへ登場するのがポワロであるというサービスぶりと絶賛しています。

 ロアルド・ダールの第三短編集『キス・キス』早川書房360円)そのものも取り上げ、「女主人」を最高としながらも、「天国への道」が好きだと。第二短編集『あなたに似た人』よりレベルは落ちるが、風変わりな短編集としてお奨めでき、ただし、値段の高いのが玉にキズであるとしています(360円だが)。

 後半は、「スパイ小説とSFの洪水」と題されているように、スパイ小説、冒険小説やSF、さらに文学作品にまで言及が及んでいて、日本人作家の作品も多く出てきます。例えば、1965年では、「筒井康隆という新人」の『48億の妄想』(早川書房・340年)であったり、「露悪的なテレビ・タレントとして有名な野坂昭如」の『エロ事師』(講談社・270年)であったりとか。

 著者が翻訳ミステリーの全巻読破を決意したのは失業していた時で、雑誌の編集長になってからは「翻訳もの全完読破」は地獄であり、狂気の沙汰であったとのことで、映画「地獄の黙示録」('79年/米)のもじりであるとは思いますが、すんなり(笑)このタイトルになったとのことです。地獄かあ。そうだろうなあ。それくらいの思いをしないとこれだけは読めないだろうなあ。ただただ感服させられるばかりです。

 本書は、1980年代のミステリ評も加えた〈定本版〉として、ちくま文庫で再文庫化されました。

【1984年文庫化[集英社文庫]/1989年再年文庫化[ちくま文庫]】

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舞台は古代のギリシャ、ペルシャ(エジプト)、アッシリア、そして中国 & 自伝的中編、韓国と多彩。
IMG_文字禍・牛人.jpg文字禍・牛人.jpg   文字禍 円城.jpg  大人読み『山月記』.jpg
文字禍・牛人 (角川文庫)』/円城塔『文字渦』/『大人読み『山月記』

 1942(昭和17)2月「文学界」に「山月記」と共に発表された「文字禍」、同年7月「政界往来」に発表された「牛人」ほか、「狐憑」「木乃伊」「斗南先生」「虎狩」の6編を所収。

「狐憑」...... 「ネウリ部落のシャクに 憑きものがしたという評判である。色々なものが此の男にのり移るのだそうだ。鷹だの狼だの獺だのの靈が哀れなシャクにのり移つて、不思議な言葉を吐かせるということである。」―この書き出しだけですっと入っていける話。中島敦と言えば古代中国のイメージが強いですが、これは古代ギリシャ時代のスキタイ人を主人公にした話。でも、何となく現代的なブラックユーモアの香りがします(小説家の悲劇?)。

「木乃伊」(1942)...... ペルシャ王カンビュセスがエジプトに侵入した際、その麾下の武将パリスカスは墓地捜索隊に加わるが―。前世の自分のミイラと遭遇してそのミイラの生きていた時に転生し、さらにそれがまた前世の自分のミイラと遭遇し、というBC6世紀のペルシャ王朝並びに古代エジ『山月記・弟子・李陵ほか三編.jpgプトを舞台にしていながら、これも何だか現代SFみたいな話です。かつて『山月記・弟子・李陵ほか三編』(講談社文庫)で初読。個人的に好みで、すでに前項で「◎」をつけましたが、この角川文庫版の解説の池澤夏樹氏によれば、ヘロドトスの『歴史』にカンビュセスのエジプト遠征の話があってもパリスカスの名はないことから、作者の創作ではないかとのことです。

「文字禍」(1942)...... 古代アッシリヤの大王は、毎夜図書館に出没すると噂される「文字の霊」について、老博士に調査を命じる。博士は万巻の書に目を通すがそれらしい説はない。ある日、ひとつの文字を終日凝視していると、いつしかその文字が解体し、意味の無いひとつひとつの線の交錯としか見えなくなった。この発見を手初めに、文字の霊の性質が次第に判って来たのだが―。BC7世紀新アッシリア時代の帝国図書館の話。だんだん形而上学的になってくるなあと思ったら、最後は笑ってしまう悲喜劇でした。作家の円城塔氏が、この作品へのオマージュを込めた同名の「文字禍」という短編を書いて2017年・第43回「川端康成文学賞」を受賞しています(舞台は中島敦が得意とした古代中国になっている)。

「牛人」(1942)...... 魯の叔孫豹が若い頃、亡命先の斉で美女と野合してそのまま故国に帰ったが、そのとき生まれた子であるとして、「牛」のような容貌を持った男が名乗り出てくる。叔はこの「息子」が気に入り、早速側近として取立て、牛は側近として活躍するが、側近として重用されればされるほど、牛の思う壷になっていく―。やっと中国もので、しかもホラー(笑)。時代は春秋時代で、魯の叔孫僑如の弟・叔孫豹の話ですが、本当にこんな末路だったの? 後世に宦官がよく行った「情報の壟断」がモチーフになっていような印象も受けました。

「斗南先生」(1942)... 作者の伯父を描いた大学時代の創作で、しかもその死の前後のみを、自然現象を徹底して「観察」するかのような筆致で描かれています。執筆して10年の歳月を経て世に出たものだそうですが(作者がすでに作家として世評を得た時期になる)、中島敦文学の実質的な出発を示す作品として位置づけられています。

「虎狩」(1934)... 大正時代の京城(現ソウル)近郊で、少年である主人公が、親に内緒で友人の趙大煥の家族と虎狩りに参加する話。作者が24歳の時に書いた「中央公論」の懸賞小説応募作です。11歳から5年ほど韓国で少年時代を送った作者の経験がもとになっている、これも自伝的要素のある作品かと思いますが、15,6年後に趙大煥に再開する後日談も含め、どこまでが事実でどこまでが創作か分かりせん。

 『大人読み「山月記」』('09年/明治書院)という本を読むと、中島敦という人は、「山月記」にしても「名人伝」にしても、また「弟子」にしても「李陵」にしても、原典にどこか手を加えているようです。そして、その手の加え方に、作者としてのテーマ性が込められていることが多いようです。本書のこれらの作品も、どこが作者の創作なのか、楽しみながらも考えてしまいました。

 「文豪ストレイドッグス」タイアップカバーですが、作品の舞台が古代のギリシャ、ペルシャ(エジプト)、アッシリア、そして中国に広がり、さらに自伝的中編もあって、韓国も舞台だったりして多彩で(自分だけnの思い込みかもしれないが、中島敦って何となく中国のイメージしかなかったりする)、加えて、池澤夏樹氏のほとんど書き下ろしの解説があり、詳細な年譜も付されていて、これで実質ワンコイン本であるというのは、コスパはかなり良かったと思います。

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ニック・ビレーンがずっこけることで、そのキャラを逆に好きになってしまう。

パルプ チャールズ ブコウスキー 新潮文庫.jpgパルプ チャールズ ブコウスキー.jpg パルプ チャールズ ブコウスキー ちくま.jpg   チャールズ・ブコウスキー.jpg
パルプ』['95年]/『パルプ (ちくま文庫)』['16年](カバーイラスト:
サヌキナオヤ)/チャールズ・ブコウスキー(1920-1994)
パルプ (新潮文庫)』['00年](カバーイラスト:ゴッホ今泉)

パルプ チャールズ ブコウスキー6.jpg バーと競馬場に入りびたり、ろくに仕事もしない史上最低の私立探偵ニック・ビレーンのもとに、死んだはずの作家セリーヌを探してくれという依頼が来る。早速調査に乗り出すビレーンだが、それを皮切りに、いくつもの奇妙な事件に巻き込まれていく。死神、浮気妻、宇宙人等が入り乱れ、物語は佳境に突入する―。

 『パルプ』は、詩人・作家であるチャールズ・ブコウスキー(1920-1994)が最後に執筆した小説で、ブコウスキーの死の直前、1994年に出版されています。日本では'95年に単行本が刊行され、2000年に新潮文庫で文庫化されましたが、その後、2016年に同じ訳者のものがちくま文庫で文庫化されました。背景として、近年ブコウスキーが見直されていてちょっとしたブームになっているということがあるようです。

 ハードボイルド探小説の体裁をとっていますが、話はもうはちゃめちゃで、このはちゃめちゃぶりが楽しいです。ハードボイルド小説の定型をパロディ化した、メタハードボイルド小説と言えます。それと、ブコウスキーはこの小説を"悪文"に捧げていて、小説に登場するエピソードやアイテムはいわゆる「パルプ・マガジン」に見られるような意図的な悪文や、それに付きものの安っぽい要素(キッチュ感)を彷彿とさせ、それらへのオマージュともなっています(訳者は、クエンティン・タランティーノ監督の映画「パルプ・フィクション」('94年/米)と対比させている)。

東山 彰良.jpg 自分では「LA一の名探偵」「スーパー探偵」と称し、依頼料は1時間6ドル、飲んだくれ(日本酒をよく呑む)で競馬が趣味だという主人公・ニック・ビレーンという男(55歳)のキャラが最高に面白く、ちくま文庫解説の直木賞(『』)作家の東山彰良氏が述べているように、ミステリの部分は読者にページをめくらせるための推進力に過ぎず、作者が描きたかったのは、このダメ探偵の厭世的な人生観かもしれません。そのことは、冒頭から「セリーヌ」の名が出てくることなどとも符合するように思えます(そう言えば、ブコウスキーはルイ=フェルディナン・セリーヌと雰囲気的に似ている)。

橋 源一郎.jpg翻訳夜話.jpg 帯の推薦文で高橋源一郎氏が、「日本翻訳史上の最高傑作だと思います」と述べていますが、どう訳すか翻訳者の腕にかかっている小説とも言え、その翻訳者が、村上春樹氏との間に『翻訳夜話』('00年/文春新書)という共著もある柴田元幸氏であるというのも分かる気がします。

小鷹信光.jpg斎藤美奈子.jpg 「ハードボイルド小説は男のハーレクインロマンスである」と言ったのは斎藤美奈子氏ですが、それに対してハードボイルドの御大であった故・小鷹信光氏も、「何だか少し違う気がする」と言って苦笑いしたたとか。斎藤美奈子氏の言葉もある程度は本質を突いているのかもしれませんが、言われた方も、別に自分が登場人物のようになれると思って読んでいるわけではなく、そのギャップを十分衣自覚し、憧憬の対象は憧憬の対象として、現実は現実としてとらえ、時にはギャップを楽しんでいる部分もあるように思います。

 この『パルプ』は、ニック・ビレーンがずっこけることで、そのキャラを逆に好きになってしまうという、不思議な吸引力を持った小説ですが、ニック・ビレーンが一人で、ハードボイルドな男とずっこけ男の両方をやってのけているところが、なかなかのミソではないかと思いました。

 因みに、ニック・ビレーンという名は、映画「カサブランカ」におけるハンフリー・ボガートの役名「リック・ブレイン」のもじりだとか。「マイク・ハマー」シリーズの原作者であるミッキー・スピレインとも少し似ているけれど(この人、「刑事コロンボ」に殺害されるベストセラー作家の役で出演していた(「第22話/第三の終章」))。

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作者の作品の中では純文学に近い部類?「倉庫作業員」が一番すっきりして気持ちいい。

IMG_20210224_063002.jpgハマボウフウの花や風200_.jpg  『息子』1991.jpg
ハマボウフウの花や風』  山田洋次監督「あの頃映画 「息子」 [DVD]

 作者が'89年から'90年くらいにかけて発表した短編を集めたもので、表題作の「ハマボウフウの花や風」のほか、「倉庫作業員」「皿を洗う」「三羽のアヒル」「温泉問題」「脱出」の全6編を収録。作者の若い頃の経験も含め、いろいろな仕事に携わる人、いろいろな生き方を選ぶ人が描かれていたように思います。
山田 洋次 (原作:椎名 誠)「息子
」 (1991/10 松竹) ★★★☆
映画 息子.jpg 「倉庫作業員」...... 大学を中退した浅野は、まとまった金を作るために日雇い労働をしていたが、より安定した仕事を求めて「紅谷金属」という伸銅品問屋に臨時社員として就職する。そこには、倉庫長の20代後半位の成田、16歳の若さのアキ、おっさんこと辻村、浅野と同い年位の三沢などの面々がいた。ある日浅野は、運送会社の運転手タキさんと取引先の「新光プラス」へ納品に行った際に、その会社の事務員の美しさに惹かれ、誘うが笑うだけで返事がない。そこで、彼女に手紙を書いて渡す。後で分かったことだが、彼女の名前は川島征子、彼女は話したり聴いたり出来ない聾唖者だった―。すっきりとして気持ちのいい短編(評価:★★★★)。山田洋次監督がこの作品をもとに永瀬正敏、和久井映主演で映画「息子」('91年/松竹)を撮っています(いや、あの映画、主演は浅野の父親を演じた三國連太郎だったか。おっさんをいかりや長介、タキさんを田中邦衛が演じている)。

 「皿を洗う」...... 写真学校に通う21歳の僕はイタリアンレストランで皿洗いのアルバイトをしている。そこには、学生の竹本と辻田、ミュージシャン志望の通称ジャム、司法書士めざす田津浜、四十代半ばイタリア人の調理人パウロ、三十才前後で菓子作り担当のパウロの日本人妻ヨーコなどがいた。ぼくは、一つ年上の女・直子と付き合っている。ある日、ヨーコと田津浜が駆け落ちしたようだ。店に三島由紀夫を来たのを覗き見し、その後三島は割腹自決することに―。東京写真大学(現・東京工芸大学)の学生だった作者自身が20歳の頃、六本木のイタリアンレストランで皿洗いのアルバイトをしていた時の経験が元になっているようです。ノスタルジー小説か(★★★☆)。

あひるのうたがきこえてくるよ。 [VHS]」「あひるのうたがきこえてくるよ。 オリジナル・サウンドトラック
あひるのうたがきこえてくるよ。.jpgあひるのうたがきこえてくるよ。cd.jpg 「三羽のアヒル」... 都内の中学で国語教師をやってた梶良介(45才)は、当時流行ったブラックバス釣りのため山上の湖に住みついた。家賃1万円、生活費1万円の暮らしだが、田舎暮らしというのは、のんびりしていそうで結構忙しいということを知る。野菜を作ってもそれが大きくなることに感動し、楽しい楽しいと言っている内に花が咲いて食べる時期を逃してしまう。ボートで釣りをするのが日常だったある日、世話人から三羽のアヒルの子を貰い受けるが、アヒルの子たちは水に入ろうとしないし、自分で餌を獲ることも知らない。こうして自分のことを親だと思うアヒルたちを躾ける生活が始まる―。カヌーイストの野田知佑氏が作者に話した話がベースになっているようで、作者自身が監督し、柄本明主演で「あひるのうたがきこえてくるよ。」という映画になっているようですが未見。でも、何となくしみじみとしたいい話でした(★★★☆)。

 「ハマボウフウの花や風」...... 水島圭一は、昔ケンカに明け暮れていた故郷の舞浜を19年ぶりに訪れ、かつて想いを寄せた同級生・吉川美緒と再会する。小さな海辺の町で水島らが虚しく熱く暴れ回っていた、忘れられない青春時代の記憶だった。当時たくさんの味方があり敵があった。味方の赤石哲夫、吉野耕三、左眼が義眼のビーズ屋・仙一、対峙する敵方の首領はダボ常。昔話と彼らのその後について話しが続く。皆に今は今の暮らしがあり、美緒と付き合っていた赤石は今は日本にはいない―。これものノスタルジー小説で、表題作であると同時に作者唯一の直木賞候補作ですが、選考委員の多くが指摘したように、回想譚に(しかも、後日譚があるため二重の過去形に)なっている分インパクトが弱く、モチーフも既存小説にありがちなパターンで、群を抜くほどの作品でもないと思いました(評価:★★★)。

 「温泉問題」...... ライターの西田は写真家のつるさんとが八丈島に取材に行く。そこでいろいろな人に会い、いろいろな経験をする―。紀行文みたいな小説ですが、小説の中にあるもう一つの温泉の話が面白かったです。東北花巻に近い山の温泉宿での話で、混浴温泉に身体つきから30代くらいと思わる女性が入ってきたが...。あり得る話かもなあ。でも、これも物語の中で話になっているので、ややインパクトが弱かったかも。作者は同じモチーフでSFも書いたりしますが、じれもSF版があったように思います(★★★☆)。

 「脱出」...... 大学受験浪人生の信二には思うところがあり、暫く一人で自活しながら受験勉強したいと家を飛び出す。偽名を使って芦ノ湖の旅館相手の雑貨店での住み込みの仕事に就き、仕事が慣れるまではつらかったものの耐え、仕事のために運転免許を取得しようとした。ところが―。'70年の大阪万博の頃の話で、当時の地方都市でありそうな話。これもちょっと地味かなあ(★★★)。

 作者の作品の中では純文学に近い部類かも。全体にそう悪くはないのですが、経験に即して描こうとしているのか、リアリティはあるけれどドラマ性が薄いかもしれません。そうした中、冒頭の「倉庫作業員」が、一番良かったように思うし、山田洋次監督が選びそうな作品だなあという感じもしました。

【1994年文庫化[文春文庫]】

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吉行淳之介の文学世界観、性に対する探究者的な姿勢を映像化。DVDリリースを望む。

砂の上の植物群 ps.jpg西尾三枝子 砂の上の植物群9.png 砂の上の植物群 稲野.jpg
【発売延期・発売日未定】砂の上の植物群 [DVD]」['14年]西尾三枝子/中谷昇

砂の上の植物群221.jpg 化粧品セールスマン伊木一郎(仲谷昇)は、ある夜マリンタワーの展望台で見知らぬ少女(西尾三枝子)に声をかけられた。真赤な口紅が印象的だった。少女は自ら伊木を旅館に誘う。裸身の少女は想像以上に熟れていたが、いざとなると拒み続けた。二人は名も告げずに別れるが、一週間後再び展望台で出逢う。今度は伊木が少女を誘った。少女は苦痛を訴えながらも、伊木の身体を受け入れた。その夜初めて名乗った少女の名は津上明子、高校三年生だった。明子の姉・京子(稲野和子)は、バー「鉄の槌」のホステスをしていた。親代りの姉は、明子に女の純潔についてうるさかったが、自らは昼日中から男とホテルに入り浸っていた。明子はそんな京子を激しく憎み、伊木に姉をひどい目に遭わせてくれと頼む。伊木はそんな京子に興味を感じ、バー「鉄の槌」を訪ねる。その夜、伊木は京子を抱き、京子は、マゾヒスティックな媚態で伊木に応える。伊木と京子の密会は続き、京子のマゾヒスティックな欲望は募る一方だった。伊木も京子との異常な情事に流されていったが、一方、伊木は父と妻・江美子(島崎雪子)の関係を訝り、父の旧知の散髪屋(信欣三)から、妻の秘密を探っていた。散髪屋は父と妻との関係は否定したが、父と芸者との間に生まれた腹違いの妹がいると言う。その名は京子といった。しかも明子は、姉妹は父違いだと言う。伊木は重苦しい疑惑に苛まされる。そんなとき、明子から姉のことを知りたいと電話があった。伊木は京子を旅館の一室にあられもない姿のまま閉じ込め、明子の前に晒した。散髪屋が言う京子は別人だった。全てが終ったと思ったが、数日後再び会った伊木と京子は、夕日に染まる海岸通りにその影が消えていく―。 

中平康.jpg砂の上の植物群.jpg 1964年3月公開の「月曜日のユカ」(日活)の中平康(なかひら こう、1926-1978/52歳没)監督の、同じく'64年の8月公開作です。原作の吉行淳之介の『砂の上の植物群』は、'63年に雑誌「文学界」に連載され、'64年3月に単行本刊行されていて、単行本が出てすぐに映画化されたことになり、原作が当時世間に注目されたことが窺えます。

中平康(1926-1978)/吉行淳之介『砂の上の植物群 (新潮文庫)
  
砂の上の植物群bs.jpg 当時はともかく、今ではそれほどセンセーショナルとも言えない内容ではないかと言われながらもなかなかソフト化されず、2014年にやっとDVD化されたと思ったら、発売延期になり、その後、発売日未定のままとなって「砂の上の植物群」 pc.jpgいます(DVD化される数年前くらいにNHK⁻BS2で放映されていたのを観たのだが)。個人的には、神保町シアターで、なぜか「生誕135年 谷崎潤一郎 谷崎・三島・荷風―耽美と背徳の文芸映画」企画の1本として再見しました。映画は、オープニング・クレジットをはじめ、本編の途中に挿入される、原作のタイトルの元となったパウル・クレーの絵が出てくるシーンのみカラーで、本編のドラマ部分はモノクロとなっています。

 原作は、表面的には、今で言えば、援助交際、SM、コスプレなどの言葉に置き換えられる状況設定が描かれていて、それが世間で話題を呼んだ最大の要因かと思われますが、小説としては根本的には「心理小説」と言うべきものであると思います。これを、このまま映像化してしまうと、単なる通俗ドラマになりかねないところですが、「テクニックの人」と呼ばれた中平康監督は、登場人物のアップシーンを繰り返すことで、通俗に陥ることを巧みに回避しているように思われました。

砂の上の植物群7.jpg そのやり方は徹底していて、冒頭の横浜マリンタワーで伊木と明子が初めて出会うシーンからして、マリンタワーや展望台のすべてを映すことはせず(原作でも「マリンタワー」と特定しているわけではない)、エレベータ内ですらその全部は映さず、エレベーターガールの唇をアップで映してばかりいるといった具合です。従って、あとから出てくるいくつかの濡れ場シーンも、顔や身体の一部しか映さず、肉体はオブジェのように扱われると同時に感情の表象でもあり、そのことで、ある種〈抽象化〉を行っているように思われました(時にシュールなシーンもあったりした)。

 ストーリー的には比較的原作に沿って作られているように思われ、個人的には吉行作品が好きなので良かったと思います。伊木がなぜ今化粧品セールスマンなどやっているかということは省かれていましたが(以前定時制高校の教師をしていたが、教え子の女生徒が働く酒場へ何度か通ったことが人の噂になり、高校を辞めることになった)、父親(原作者の父・吉行エイスケが意識されていると言われている)と妻を巡るしこりのような疑惑は生かされていました。

砂の上の植物群892.png 伊木が友人二人といると、一人が「痴漢」に間違えられそうになった話をしますが、実際やっていることはほぼ痴漢か、また今でいうストーカーに近かったりもし、もう一人の立派な紳士に見える友人の方は、二人を女性が「気を遣る」見世小池朝雄.jpg高橋昌也.jpg物(今で言えば「覗き部屋」みたいなものか)に連れて行ったりと、このあたりも原作通りかと思いますが、実際に演じているのがそれぞれ小池朝雄と高橋昌也で、共にちょっと怪演っぽい印象でした(笑)。

 しかしながら映画全体としては、吉行淳之介の文学的世界観を、もっと言えば性に対する探究者的な姿勢を、先駆的映像表現でとらまえていたように思われ、ソフトリリースへの期待も込めて星4つの評価としました(中平康は再評価されつつあると思うが、作品を観られないのではどうしょうもないではないか)。

 伊木を演じた中谷昇(なかや のぼる、1929-2006)は、中央大学法学部中退後、文学座、劇団「雲」を経て、演劇集団「円」に所属していた役者で、ちょうどこの作品の頃は、芥川比呂志、神山繁、小池朝雄らと文学座を脱退し、福田恆存を中心とした劇団「雲」に移籍した頃になります(岸田今日子と1954年に結婚、一女をもうけるも1978年に離婚)。テレビドラマでは、教授役・首相役・組織の長などの中谷昇 砂の上の植物群9.png地位の高い役を担当することが多く、「キイハンター」('68年~'73年)の村岡・国際警察特別室長役、「カノッサの屈辱」('90-91年)の教授役などもそうでした(松本清張原作、野村芳太郎監督の「疑惑」('82年/松竹)では桃井かおりに振り回される男の役で出ていた)。

 明子役の西尾三枝子は、1947年7月生まれなので、この作品に出た時は17歳になる少し前ぐらいでしょうか。同年2月公開の三田明のデビュー曲をモチーフにし、三田明自身も出演した所謂"昭和青春歌謡映画"「美し美しい十代.jpgい十代」('64年/日活)で主役デビューしていますが、当初から、まだ現役の女子高校生とは思わせないほどの演技ぶりを見せていました。'66年に日活を退社。その後、徐々にヌード、セクシー路線への出演を要求されるようになったことも伴い、活動の場をテレビドラマへ移行し、個人的には「サインはV」(1970)や「プレイガール」(1970-74)などに出ていた記憶があります(今は赤坂のTBS近くでカラオケスナックを経営している)。

「美しい十代」('64年/日活)

中谷昇 in「キイハンター」('68-73年)/「疑惑」('82年)/「カノッサの屈辱」('90-91年)
仲谷昇 キイハンター.jpg 中谷昇 疑惑.png 仲谷昇 カノッサの屈辱.jpg

西尾三枝子(1947年生まれ)in「恐怖劇場アンバランス(第9話)/死体置場(モルグ)の殺人者」('73年('69年制作))/「サインはV」('70年)/「プレイガール」('70年-'74年)
第9話 死体置場(モルグ)の殺人者 0.jpg 西尾三枝子 サインはv.jpg プレイガール nisiuo.jpg


砂の上の植物群 p0ster.jpg砂の上の植物群5.jpg砂の上の植物群m.jpg「砂の上の植物群」●制作年:1964年●監督:中平康●脚本:池田一朗/加藤彰/中平康●撮影: 山崎善弘●音楽:黛敏郎●原作:吉行『砂の上の植物群』.jpg淳之介●時間:95分●出演:仲谷昇/伊木江美子/稲野和子/西尾三枝子/島崎雪子/信欣三/小池朝雄/高橋昌也/福田公子/岸輝子/須田喜久代/雨宮節子/浜口竜哉2021年02月12日 神保町シアター.jpg/藤野宏/有田双美子/葵真木子/小柴隆/谷川玲子●公開:1964/08●配給:日活●最初に観た場所(再見):神保町シアター(21-02-12)(評価:★★★★)

2021年2月12日 神保町シアター「生誕135年 谷崎潤一郎 谷崎・三島・荷風――耽美と背徳の文芸映画」

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ビフォア・アフターの表情を演じ分ける藤山直美が上手い。存在感が断トツの大楠道代。

『顔』1999.jpg顔 (2000年の映画).jpg 顔 (2000年の映画)3.jpg
あの頃映画 「顔」 [DVD]」大楠道代/藤山直美/牧瀬里穂
「顔」1.jpg「顔」2.jpg「顔」22.jpg 吉村正子(藤山直美)は尼崎の実家のクリーニング屋の二階でかけはぎの仕事をしている。妹の由香里(牧瀬里穂)は、正子とは性格も顔も真逆で、引き籠もりの正子に皮肉を言い馬鹿にする。ある日、正子の母・常子(渡辺美佐子)が仕事中に倒れ、急死する。ショックで葬儀の日も二階に籠りきりの正子に由香里の怒りは爆発し、正子を突き飛ばして「顔」 kannkurou.pngずっと正子のことを恥ずかしいと思っていたと言う。翌日、風呂に浸かる正子。部屋には由香里の死体が転がっている。昨夜、言い争いの末、正子が殺してしまったのだ。香典を鞄に入れ、正子は家から逃げ出す。数日後の'95年1月17日、野宿する正子「顔」311.jpg「顔」321.jpgを阪神・淡路大震災が襲う。離れて暮らす父親のもとへ向かうことにした正子は、道中、見知らぬ男(中村勘九郎)に襲われレイプされる。疲れ果てた正子は、行き着いたラブホテルで「顔」4sato.jpg支配人(正司照枝)に拾われ、そこで働くことになる。ラブホテルのオーナー・花田英一(岸部一徳)は正子を可愛がり、正子は仕事に馴染み始めが、ある日、英一は首を吊って死んでいた。警察を恐れた正子は逃げ出し、マスクで顔を隠して電車に乗る。その車中で池田(佐藤浩市)という男と同席、池田は正子に話しかけ、二人は楽しく会話する。池田はリストラされて実家に帰るのだと言う。別府駅で降りた池田を、妻と子供が待っていた。終点の大分まで行く予定だった正子も別府駅で降りる。そこで自殺を図ろうとしたが失敗し、中上律子(大楠道代)という女性に助けられる。律子はスナックのママで、正子を「顔」51oogusu.png「顔」52 hujiyama.jpg「顔」5toyokaw.jpgそこでホステスとして働かせる。内気な正子だったが、働くうちに外交的になっていく。店からの帰途、正子は律子の弟・洋行(豊川悦司)と遭遇する。洋行は正子に、律子のことを頼むと言う。ある日、律子が同窓会で店にいない隙に、洋行は客の狩山(國村準)から金を得て、何も知らない正子の体を売る。正子は必死に抵抗するも、やがて諦め受け入れる。その後、何もなかったように働く正子。洋行が正子の部屋を訪れ、ヤクザは辞めたつもりだったのだがと呟き、彼はいなくなる。ある日、町中で正子は池田に再「顔」711.jpg会する。池田は辞めた会社の顧客データを抜き取っていて、それを脅しに会社から金を取ろうとしていた。そして、妻には逃げられ、息子と二人で暮らし「顔」721.jpgていた。それを聞いた正子は、それでも池田のことが好きだった。ある日、洋行がヤクザに殺される。店を来た警察を見て、正子は逃げ出す。正子は池田に別れを告げ、電話で律子にも別れを告げる。心配する律子に、私の名前は吉村正子だと告げる。弟を亡くした律子は、それを聞いてもまだ正子のことを心配し、会いたいと言う。しかし、正子は別れを告げて話を切る。正子は離島へと逃げ、そこで暮らし始めるが、すでに追っ手は近くまで迫っていた―。

「顔」2000 fujiyama.jpg 「どついたるねん」(1989)で「芸術選奨新人賞」を受賞した阪本順治監督の2000年作で、2000年度の日本国内の映画賞を多数受賞し、第46回「キネマ旬報日本映画ベスト・テン」では、日本映画ベスト・テン1位、読者選出日本映画ベスト・テン1位、監督賞(阪本順治)、主演女優賞(藤山直美)、助演女優賞(大楠道代)、脚本賞(阪本順治、宇野イサム)を獲得しています(第55回「毎日映画コンクール 日本映画大賞」、第25回「報知映画賞 作品賞」、第22回「ヨコハマ映画祭 作品賞」も受賞)。また、藤山直美はこの映画初主演であった「顔」の演技で、「キネマ旬報」主演女優賞のほか、「毎日映画コンクール」女優主演賞、「報知映画賞」最優秀主演女優賞、第22回「ヨコハマ映画祭」主演女優賞などを受賞しています。

顔 (2000年)4.jpg 逮捕されるまでの約15年に及ぶ逃走劇で知られる福田和子の事件をベースにしているとのことですが、福田和子は逃亡中に顔を整形していたことでも知られています。「顔」というタイトルから、藤山直美演じるこの映画の主人公も整形するのかなと思われがちですがそうではなく、事件と映画は別として捉えた方がいいかもしれません。

 主人公は、まさに存在自体が澱み切ってしまっているような引き籠り状態にありましたが、自分のことをずっとそんな風に生きていくのかと侮蔑した妹を殺害してしまったとことで家を出て、皮肉なことに逃亡生活の中で今まで経験しなかった人との交わりを経験し、徐々に明るい感情豊かな女性へと変わっていきます。

「顔」6 fujiyama.jpg この彼女の変化が最も表れるのが彼女の表情であり(このビフォア・アフターの表情を演じ分ける藤山直美が上手い)、それゆえにこの映画のタイトルは「顔」なのではないかと思います。でも、整形しているわけではないので、その「顔」によって彼女は次第に迫る警察の捜査から逃げ続けなけらばならないのす。彼女が逃亡の過程で出会う人間が皆、誰も彼も一癖も二癖もあったり訳ありであったりして、ストーリー的には飽きさせません。コミカルな要素も多分に含まれていますが、藤山直美を使いつつ、コメディ映画にはならないようにしているという印象です(むしろ"重い"と言える)。

「顔」sokan.jpg そもそも、彼女の妹役で序盤から登場の牧瀬里穂も、JR東海「クリスマスエクスプレス」(1989)や「東京上空いらっしゃいませ」(1990)の頃とはがらっと違った〈嫌な女〉役で、しかも早々に殺されます。歌舞伎界の貴公子と言われた中村勘九郎は主人公をレイプにする役だし。喫茶店の女は内田春菊だったのかあ。ラブホテルの受付にいた正司照枝は、松竹新喜劇で藤山寛美に鍛えられた繋がりから出ているのでしょうか。岸部一徳はそのラブホの経営者で、佐藤浩市は退職させられた会社を恐喝する男、トヨエツこと豊川悦司は堅気に戻れない元ヤクザで、國村隼はカラオケでシャ乱Qを唄いつつ、これも主人公に手を出そうとする中年男―といった具合です。これらの役者の演技を観ているだけでも楽しめます。

大楠道代0.jpg「顔」8ogusu.jpg こうした中、断トツに存在感があったと思えたのは、スナックのママ役の大楠道代で、この映画で言えば渡辺美佐子に次ぐべテランであるだけのことはあります。別れを告げようとする主人公に、彼女が置かれている状況を察してか、「おなかが減ったらご飯食べて、またおなかが減ったらご飯食べて、遠くを見らんでいいの」と語りかけ、生き続けよと勇気づける場面は泣けました。電話で語るシーンでこれだけ観る側を引きこませるのはさすがです。

福田和子.jpg 警察の捜査を巧みにかわし続けて15年間逃げ延びた福田和子は、石川県・能美市の和菓子屋の後妻の座に納まっていて、家が近所で当時小学生だった松井秀喜も客としてよく菓子を買いに来ていて、福田逮捕後のインタビューで「綺麗で愛想のいい奥さんだった」と語っているくらいですが(素性を知られないようにするため入籍を断り、事実上の内縁関係だったことで疑われることになった)、それに比べればこの映画の主人公はずっと"どんくさい"かもしれません(福田の逃亡劇は、2020年まで主だったものだけで6回テレビで〈実録ドラマ化〉乃至〈再現映像化〉され、大竹しのぶや寺島しのぶら"演技派"女優が福田を演じている)。

「顔」図51.jpg この映画を観ている時は、ラストは「太陽がいっぱい」的な終わり方になるのかなと思ったりもしたもので、最初観たときは「それにしてもこのラストはちょっとねえ」というのも正直ありましたが、ある意味「象徴的な終わり方」にしたということなのでしょう。乗れなかった自転車に乗れるようになった、というのとのリフレインだったと思います。これはこれでいいのかもしれないということで、評価は◎にしました。

「顔」●制作年:2000年●監督:阪本順治●製作会社:松竹/衛星劇場/毎日放送/セディック・インターナショナル/キノ●脚本:「顔」soka.jpg阪本順治/宇野イサム●撮影:笠松則通●音楽:coba●時間:123分●出演:藤山直美/佐藤浩市/豊川悦司/大楠道代/國村準/牧瀬里穂/渡辺美佐子/中村勘九郎/岸部一徳/早乙女愛/内田春菊/中島陽典/川越美和/水谷誠伺/中沢青六/正司照枝/九十九一/黒田百合●公開:2000/08●配給:松竹(評価:★★★★☆)
     
《読書MEMO》
●福田和子を演じた女優
大竹しのぶ -「実録 福田和子」 (フジテレビ、2002年8月2日)
藤澤オリエ -「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ、2009年12月30日)
鈴木ひろみ -「ブラマヨ衝撃ファイル 世界のコワ〜イ女たち」(TBS、2011年2月1日(SP#6)、10月25日)
河合美智子 -「日曜ビッグバラエティ ニッポン事件簿~犯人はなぜ逃げるのか~」 (テレビ東京、2012年3月18日)
寺島しのぶ - 実録ドラマスペシャル 女の犯罪ミステリー「福田和子 整形逃亡15年」(テレビ朝日、2016年3月17日)
佐藤仁美 - 直撃!シンソウ坂上「母・福田和子」(フジテレビ、2018年8月2日)

「福田和子 整形逃亡15年」('16年/テレビ朝日)寺島しのぶ 「母・福田和子」('18年/フジテレビ)佐藤仁美
福田和子 整形逃亡15年.jpg母・福田和子.jpg

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東京オリンピックポスターのグラフィックデザイナーは、ただならぬ文筆家でもあった。

亀倉雄策の直言飛行0.jpg亀倉雄策の直言飛行 新装版.jpg 亀倉雄策の直言飛行00.jpg 亀倉雄策.jpg
亀倉雄策の直言飛行』亀倉雄策(1915-1997/82歳没)

亀倉雄策の直言飛行4c.jpg亀倉雄策の直言飛行1.jpg 日本のデザイン界を創ったとも言われるグラフィックデザイナーで、1964年東京オリンピックのポスターや、日本電信電話(NTT)のマークなどで知られる亀倉雄策(1915-1997/82歳没)によるエッセイ集で、1991年に刊行されたものを、2012年に新装版で復刊したものです。
亀倉雄策の直言飛行』['91年]

 A、B、C、Dの4章から成り、最初の「A」は何と追悼文集ですが、写真家・土門拳、彫刻家・イサム・ノグチ、装幀家・原弘、建築家・前川國夫、画家・有元利夫、詩人・草野心平といった錚々たる人々への追悼文を通して、それらの人々との交友が浮き彫りにされ、面白く読める分、亡くなった人への哀惜の気持ちがじわっと伝わってきます。この追悼文を読むだけでも、著者が、著名なデザイナーであったばかりでなく、ただならぬ文筆家でもあったことが窺えます。

 「B」は作家論で、カッサンドル、サヴィニャック、ウォーホル、ドーフスマンから丹下健三、瀧口修造、いわさきちひろ、永井一正、原田泰治、佐藤晃一まで、内外の作家を論じています。これも読ませますが、著者自身は、「どうせデザイン屋風情が書いたものですから、ボキャブラリーが貧しいんですね」と述べており、随分と謙虚です(全然そんなことはない)。

 「C」は、日本と西洋の文化について各所で論じたもので、前振りでいきなり「かなり憤慨している」とあるように、全体を通して、日本人の美意識の後退を嘆き、また、業界の風潮に対する批判が込められたものとなっています。

 最後の「D」は、タイトルにもなっている、モリサワという写真会社のPR誌「たて組ヨコ組」に連載した「直言飛行」というエッセイで、著者がインタビューに応え、その速記録を著者自身が筆入れしたものですが、1回につき二百字詰原稿用紙で40枚以上書き、4日くらいは潰したそうで、なかなかの労作のようです。

 内容は、引く続きデザイン業界の風潮に対する批判であったりしますが、この章がいちばん言いたいことを言っている感じで、面白かったです。黒澤明の「夢」などを真っ向から批判している一方で、そんな尖がった話ばかりでなく、生活雑感をユーモラスに描いていたりもし、肩の凝らないエッセイとなっています。

亀倉雄策の直言飛行4.jpg亀倉雄策の直言飛行2.jpg また、「直言飛行」連載時に毎回掲載された著者の似顔絵がカラー再録されていて、描いているのは下谷二助、安西水丸、秋山育、灘本唯人、木田安彦、古川倬、山口はるみ、空山基、そして最後が和田誠です。それらの似顔絵を、連載の最終回で著者自身が論評したりしていますが、東京オリンピックのポスターをパロディ化した和田誠のものを、「驚いたねえ」と絶賛しています。それが、この本の表紙になっているわけで、なぜ亀倉雄策に本なのに和田誠の表紙なのかと思ったら、そういうことだったのか。でも、確かに和田誠、上手いと言うか、着想がスゴイなあと思います。

1964 東京オリンピックポスター デザイン:亀倉雄策
1964 東京オリンピック 亀倉雄策.jpg
 

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連載最初期分。複数トピックスの〈結び付け〉の力がスゴイ。この頃が一番尖がっていたかも。

山藤章二のブラック=アングル.jpg山藤章二のブラック=アングル1.jpg  山藤章二のブラック=アングル03.jpg
山藤章二のブラック=アングル』 「19歳山下、初優勝」('78年,5.20号)

 1976年から「週刊朝日」に連載されている「山藤章二のブラック=アングル」(後に「山藤章二のブラック・アングル」)の最初期にあたる'76年と'77年掲載分をまとめたものです。作者が「週刊朝日」の仕事に関わるようになったのは'72年からで、初仕事は表紙イラストだったのでですが、これが読者には不評で、'74年に終了の憂き目に。とは言え、一方で惜しむ声もあったため、巻末ページにイラストを持っていくという形で継続された途端に人気が出て、「週刊誌を裏から開かせる男」の異名をとるまでになったわけです。でも、確かにこのスタイルで行くなら巻末向きだろうなあと思います。

「週刊朝日」2020年9月18日号(連載2202回)
「山藤章二のブラック・アングル 2020年9月18日号.jpg 時事ネタで長く続けていくというのもスゴイことです。「週刊文春」連載の林真理子氏の時事エッセイ「夜ふけのなわとび」が'83年より続いていて、一昨年['19年]連載1,615回を突破し、それまで最多とされてきた「週刊新潮」の山口瞳の「男性自身」を抜いたのを機にギネス世界記録に認定申請、昨年['20年]10月に「同一雑誌におけるエッセイの最多掲載回数」としてギネス公式認定されましたが、回数だけで言うと、それよりすっと多いことになります(昨週刊文春 2021年2月11日号.jpg年['20年]9月には連載2,200回を超えた)。ただし、成人向け週刊誌連載の「漫画」も含めると、東海林さだお氏が「週刊文春」に'68年から「タンマ君」を、「週刊現代」に'69年から「サラリーマン専科」をダブルで連載していて、これが最長かと思います(東海林さだお氏は、「週刊朝日」のイラスト付きコラム「あれも食いたい これも食いたい」の連載も'87 年から続いている)。手元にある「週刊文春」2021年2月11日号の段階で「夜ふけのなわとび」が連載1,684回に対し「タンマ君」は連載2,421回となっています。連載回数で言うと、「ブラック・アングル」は「夜ふけのなわとび」を大きく上回るが、「タンマ君」にはちょと及ばないということになります。

 本書は、見開きの片側左ページに原寸版で掲載分を再現し、右ページに関連する記事ネタが載った新聞の切り抜きを配しているので、イラストの意味しているところが理解しやすくなっています。こうして見ると、2以上のトピックスを組み合わせてイラストにしているパターンが多いのが分かります。

山藤章二のブラック=アングル2.jpg山藤章二のブラック=アングル02.jpg週刊朝日 1976年8月13日.jpg 例えば、'76年分と'77年分を見て、この頃の世を騒がせた最大の出来事はロッキード事件とその中での田中角栄前首相の逮捕だったと思うのですが、'76年に武者小路実篤が死去した際、武者小路実篤がよく書いていた色紙「仲良き事は美しき哉」をパロディにして、野菜の絵をロッキード事件の主役の田中角栄、児玉誉士夫、小佐野賢治の顔に変えたりしています(4.30号)。過去の作品の中でも傑作とされるものですが、これも、ロッキード事件と武者小路実篤の死という複数トピックスの組み合わせです。この〈結び付け〉の力がスゴイなあと改めて思います。

山藤章二のブラック=アングル3.jpg '77年には、当時の環境庁長官だった石原慎太郎の舌禍問題について、研ナオコが出演した「キンチョール」(大日本除虫菊)のCM「トンデレラ、シンデレラ」にかけた絵を掲載し(5.13号)。石原慎太郎を蝿に見立て、石原蝿が暴言を吐くと研が「あっ、またまた言ッテレラ!」、石原蝿が落っこちると「あっ、慎(シン)デレラ!!」と。権力者をここまでコケにするには覚悟もいると思ますが、作者本人は「失言放言は漫画にとって絶好の材料になる」(『山藤章二のブラックアングル25年 全体重』)と語っていて、根っからこういう尖がったのが好きなのかも。

山藤章二のブラック=アングル4.jpg 同じく、'77年に井上陽水が大麻取締法違反(大麻所持)容疑で逮捕された際には、サイケデリックな井上の似顔絵を描き、当人の代表曲「心もよう」をドラッグ・ソングに改作しています(9.30号)。この人、この頃はばんばん芸能人やミュージシャンを叩いていたけれど(先に挙げた研ナオコについても、薬物違反逮捕に触れている)、最近になればなるほど毒は弱まり、とりわけ芸能ネタやミュージシャンネタは減っているのではないでしょうか(不祥事は依然として結構起きているにもかかわらず)。名を成すにつれ「絆(ほだ)し多かる人」になっちゃったのかなあ。井上陽水だって研ナオコだって今もその世界にいるわけだし。

 今も「ブラック」であり続けてはいると思いますが、この頃が一番尖がっていたかもしれないと思わせる一冊です。

■山藤章二カバーイラスト文庫
筒井 康隆『にぎやかな未来』('72年/角川文庫)/安岡 章太郎『なまけものの思想』('73年/角川文庫)/筒井 康隆『乱調文学大辞典』('75年/講談社文庫)/三田 誠広『僕って何』('80年/河出文庫)/
 にぎやかな未来 kadokawabunko.jpg ななけものの思想角川.png 乱調文学大辞典2.jpg 0僕って何 (1980年) (河出文庫).jpg

「週刊朝日」1976年8月13日号目次
週刊朝日 1976年8月13日2.jpg

【1981年文庫化[新潮文庫(『山藤章二のブラック=アングル〈1976〉』『山藤章二のブラック=アングル'77』)]】

「●ほ アンソニー・ホロヴィッツ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ アンソニー・ホロヴィッツ『その裁きは死
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2年連続での年末ミステリランキング4冠に相応しい、安定した力量を見せた。

メインテーマは殺人1.jpgメインテーマは殺人2.jpg  カササギ殺人事件.jpg
カササギ殺人事件 上 (創元推理文庫)』『カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)
メインテーマは殺人 ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ (創元推理文庫)

The Word Is Murder.jpg 売れっ子作家のアンソニー・ホロヴィッツは、知り合いで元刑事のダニエル・ホーソーンから今捜査している事件をもとにホーソーン自身の本を書いてほしいと依頼される。事件とは、自分の葬儀を手配したダイアナ・クーパーが、その6時間後に殺害され、死の直前に「損傷の子に会った、怖い」というメールを息子のダミアンに送っていたというものだ。ダイアナは、かつて、道に飛び出してきた幼い少年ティモシーを事故で死なせ、その兄弟ジェレミーに重い障害を負わせていた。ダミアンは、10年前の交通事故のことを聞かれて激怒。ダイアナがハンドルを握らなくなったこと、住み慣れた家を売り転居したことなどを挙げ、まるで自分が被害者だという顔をして話す。ホーソーンは仕事でスティーヴン・スピルバーグと打ち合わせ中のアンソニーを強引に連れ出し、無理やりダイアナの葬儀に出席させる。その葬儀で、埋葬の際に柩を下ろした瞬間、ティモシーお気に入りの童謡が流れ出し、取り乱したダミアンは顔色を変え一人帰ってしまうが、やがて自宅で惨殺死体で発見される。アンソニーとホーソーンは、葬儀屋のロバート・コーンウォリスを訪ね、ティモシーの父親アランから葬儀の日程の確認の電話があったという情報を得る。勝手に執筆を始めたことを著作権エージェントのヒルダに責められたアンソニーだったが、秘密裡にアランを訪ねるために出かけてく―。

メインテーマは殺人0.png 2017年8月刊行の原著タイトルは"The Word Is Murder"。作者の『カササギ殺人事件』が年末ミステリランキング4冠を達成したのに続いて、この作品もまた「週刊文春ミステリーベスト10」(2019)、「ミステリが読みたい!」(2020)、「本格ミステリ・ベスト10」(2020)、「このミステリーがすごい!」(2020)、のそれぞれの海外部門で1位を獲得して年末ミステリランキング4冠を達成しており、同じ作家の作品が2年連続で4冠となるのは史上初とのことです(結局、次回作『その裁きは死』で3年連続での年末ミステリランキング4冠を達成することになるのだが)。

 前作は、上巻の作中作の事件と、下巻の今起きている事件と絡み合っていて、上下巻で二度楽しめました。今回もちょっと変わっていて、アンソニー・ホロヴィッツ自身が、ホーソーンという探偵役の元刑事にくっついていき、事件が解決に至るまでを小説に書くという、前作とは少し違ったタイプの"入れ子"構造になっています。

 解決できるかどうか分からない事件についてミステリを書こうとする作家がいるだろうかという疑問は自ずと湧くかと思いますが(実際、アンソニーも時々疑心悪鬼になる)、ホーソーンがこの物語におけるホームズ役であり、最後に事件を解決するのはいわばお約束事であって、どうやって事件を解決するのかということに関心を持っていくため、あまりその辺りは気になりませんでした。後で考えればかなり強引な虚構ですが、そんなことを考えさせない話の展開の旨さ、スピード感があります。

 ホーソーンがホームズならば、アンソニーはワトソンといった役回りでしょうか。ただし、前作からもそれを感じましたが、やはり作者はアガサ・クリスティの影響をかなり受けているように思いました。終盤にきて、もう登場人物の誰も彼もが容疑者たり得るという状況になるのは、クリスティの得意なパターンでもあったように思います。

 出来としては星5つとしてもいいのですが、どうしても"二度おいしかった"前作と比べてしまい、星4つとしました。最初に怪しいと思われた人間は、だいたいにおいて犯人ではないというのは、作者が脚本を手掛ける刑事ドラマの「バーナビー警部」などでよくあったパターンのように思います。でも、2年連続での年末ミステリランキング4冠に相応しい、安定した力量を見せてくれたと思います。

 ホーソーンという元刑事の、個人的な話や世間並みの挨拶は一切抜きで、一度口を閉じたら黙り続け、いつも単独で勝手な捜査をするため昔から相棒がおらず、裡に暴力性や同性愛者や小児性愛者に見せる憎悪を秘める一方で、子どもにシンパシーを寄せる―といったキャラクターが興味深く、作者はこのキャラクターでのシリーズ化を表明しています(その結果、「ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ」としてシリーズ第2作『その裁きは死』が誕生することとなった)。

 ホーソーンが、アンソニーがこれから書こうとする小説は、『ホーソーン登場』という題名が相応しいと主張するのが可笑しいです(まだ事件に着手して間もない時からそう言っている(笑)のだが、実質、「ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ」の第1作なので、サブタイトルでそう入ってもおかしくないわけだ)。そう言えば、前作では、作中作であるアラン・コンウェイ作『カササギ殺人事件』について、版元の社長が『カササギ殺人事件(マグパイ・マーダーズ)』というタイトルは『バーナービー警部(ミッドサマー・マーダーズ)に似すぎているので変えた方がいいと意見する場面がありました(結局、"Magpie Murders"のままでいったわけだが)。こうした「遊び」は楽しめます。

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