【2989】 ○ 星 新一 『きまぐれロボット (1972/01 角川文庫)《気まぐれロボット (1966/07 理論社)》 ★★★☆

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子ども向けだが、時に大人向けの含意もあって大人もそこそこ楽める(和田誠の絵とセットで)。

きまぐれロボット250.jpg「きまぐれロボット」kadokawa bunjko.jpg「博士とロボット」
きまぐれロボット (角川文庫 緑 303-3)』(旧カバー版(イラスト:和田 誠))
Iきまぐれロボット 3.jpg 金持ちのエヌ氏は博士から、これが私の作った最も優秀なロボットですとの説明を受け、そのロボットを買って、離れ島の別荘で1カ月休むことにした。ロボットは料理やあとかたづけ、部屋のそうじ、古時計の修理までしてくれて、面白い話も次々喋ってくれた。しかし、2日ほどするとロボットは故障し、逃げだしたり、エヌ氏を追いかけたりして、毎日何かしら事件を起こす。1カ月が経ち、島に迎えの船が来て都会に戻ったエヌ氏は、博士に文句を言うが、博士は「それせいいのです」と落ち着いて答えた―。(「きまぐれロボット」)

 エフ博士はロケットに乗って、宇宙の旅を続けていた。文明の遅れている住民の住む星を見つけると、そこに着陸し、いろいろ指導するのが目的だった。大変な仕事だが、博士が自分で作ったロボットをひとり連れていて、博士は力が強く何でもできるロボットにいろいろ命令して仕事をさせていた、ロボットは、地面を耕し、種をまき、川ふちに水車をつくり、おかげで住民たちの生活はよくなった。勉強することを知り、文明も順調に育っているので、博士はこの星を去ることにした。出発の日、住民たちは口々にお礼を言い、感謝の気持ちを込めて像を作ったという。博士もやりがいを感じ「喜んで拝見しましょう」と言って像を見に行くが、そこにあったのはエフ博士の像ではなく―。(「博士とロボット」)

『気まぐれロボット』['66年/理論社](31編所収)    「地球のみなさん」
「きまぐれロボット」理論社.jpg 作者のショートショート36編を所収。谷川俊太郎氏の文庫解説によれば、収められた作品の大部分は、はじめ朝日新聞の連載のために書かれ、「花とひみつ」以下の5編を除く31編が同じ『きまぐれロボット』のタイトルの下、和田誠の挿絵入りで、子どものための本として刊行されたことがあるとのことです。これは児童向け出版を手掛ける理論社版の『気まぐれロボット』('67年)のことで、この理論社版は、愛蔵版として'99年に復刻されています。

まぐれロボット 映画.jpgきまぐれロボット 映画.jpgレッツゴー三匹のじゅん.jpg 表題作の「きまぐれロボット」は、映像作家の辻川幸一郎氏が'04年に映像化しており(モノクロ・40分)、「エヌ氏」を浅野忠信、「博士」をレッツゴー三匹の"じゅん"こと逢坂じゅんが演じているとのことですが、個人的には未見です(レッツゴー三匹は2014年に"じゅん"が、2018年に"長作"が亡くなり、昨年['20年]ついに"正児"も亡くなってしまった)。

 全体に発明家の博士やロボットが出てくる話が多く、作者自身が〈馴れない童話を書く〉と述べているように、このシリーズは確かに子ども向けではありました。しかしながら、同時に大人でもそこそこ楽しんで読めるのがこの人の作品の特徴であり、そのことは谷川俊太郎氏も指摘していました。「きまぐれロボット」などは、博士やロボットが出てくるのと同時に、大人向けの含意もあったように思われ、それらの要素を満たす典型と言えます。

和田誠 2.jpg20120128 週刊文春.jpg もう一つ、この作品シリーズは、は和田誠(1936-2019)が表紙だけでなく、挿画も担当していて、和田誠の絵とともに楽しめるというメリットもあるかと思います。星新一が亡くなったのは1997(平成9)年12月30日で、71歳でした。「週刊文春」の表紙イラストを担当していた和田誠は、すぐに追悼の絵を描こうと思ったものの、あまりに親しくしていたため亡くなった実感が湧かず、葬儀に参列した後になって、やっぱり描かねばという気持ちになったことです。

 その和田誠も2019年10月7日に83歳で亡くなり、「週刊文春」は、2017年7月以降現在('21年2月)に至るまで、過去に表紙を飾った和田誠の絵を再び表紙にするアンコール企画を継続していますが、今年['21年]の1月28日号に、その星新一追悼イラスト〈夜空のムコウ〉が再登場しました(巻末「表紙はうたう」に「1998年2月5日号より」とある)。

 絵は星をモチーフにしたもので、「星新一」の「星」に夜空の「星」を懸けたのでしょうか。真ん中にある赤い星が〈火星模様〉であることから、ここでの「星」は「惑星」を表していると思われます。これを描いた和田誠も「星」になってしまったのかと思うと、ちょっとしんみりさせられます。

きまぐれロボット2.jpg【1972年文庫化・2006年新装版[角川文庫]/2014年文庫化[角川つばさ文庫]】

きまぐれロボット (角川文庫)』2006年新装版

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【2990】 ○ 野村 芳太郎 (原作:松本清張) 「疑惑」 (1982/09 松竹=富士映画) ★★★★ is the next entry in this blog.

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