【2969】○ 増村 保造 (原作:谷崎 潤一郎/脚本:新藤兼人)「刺青(いれずみ) (1966/01 大映) ★★★☆ (○ 谷崎 潤一郎 「刺青(しせい)」―『刺青・秘密』 (1969/08 新潮文庫) 《「刺青」―『刺青』 (1911/12 籾山書店)》 ★★★★)

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原作を新藤兼人がサスペンス時代劇風に。宮川一夫のカメラが映す肌が4Kで映えた。

刺青(1966).jpg刺青1966.jpg 刺青 4K デジタル修復版.jpg 刺青 若尾.jpg
「刺青」チラシ/「刺青 [DVD]」/「刺青 4K デジタル修復版 [Blu-ray]」若尾文子

刺青 satou1.jpg 質屋の娘・お艶(若尾文子)は、ある雪の夜、手代の新助(長谷川明男)と駈け落ちした。この二人を引き取ったのは、店に出入りする遊び人の権次夫婦(須賀不二男・藤原礼子)だった。優しい言葉で二人を迎え入れた夫婦だったが、権次は実は悪党で、お艶の親元へ現われ何かと小金を巻きあげた挙句に、お艶を芸者として売り飛ばし、新助を殺そうとしていた。そんなこととは知らないお艶と新助は、互いに求め合うまま狂おしい愛欲の日々を送っていた。しかし、そんなお艶の艶めかしい姿を、権次の下に出入りする刺青師の清吉(山本學)は焼けつくような眼差しで見ていた。ある雨の夜、権次は計画を実行に移し、殺し屋・三太(木村玄)を新助にさし向けるが、必死で抵抗した新助は、逆に三太を短刀で殺してしまう。同じ頃、土蔵に閉じこめられていたお艶は、清吉に麻薬をかがさ刺青 1966es.jpgれて気を失い、その白い肌に巨大な女郎蜘蛛の刺青を施される。やがて眠りから醒めたお艶は、刺青によって眠っていた妖しい血を呼び起こされたように瞳が熱を帯びて濡れていた。それからというものお艶は辰巳芸者・染吉と名を改め、次々と男を酔わせてくが、お艶を忘れ切れない新助は嫉妬に身を焦がし、お艶と関係を持った男を次々と殺害、遂にある晩、短刀を持ってお艶に迫る。だが新助にはお艶を殺せず、逆にお艶が新助を刺す。一部始終を垣間見ていた清吉は、遂に耐え切れず自らが彫った女郎蜘蛛を短刀で刺し、自らも命を絶つ―。

刺青 籾山書店.jpg 原作「刺青(しせい)」は、1910(明治43)年11月、同人誌の第二次『新思潮』に発表された谷崎潤一郎の短編小説で、作者本人が処女作だとしていたという作品です(単行本は、翌1911(明治44)年12月に籾山書店より刊行)。皮膚や足に対するフェティシズムと、それに溺れる男の性的倒錯など、その後の谷崎作品に共通するモチーフが見られます。

『刺青』[1911年/復刻版](刺青/少年/麒麟/幇間/秘密/象/信西)

刺青・秘密 (新潮文庫).jpg刺青・秘密 (新潮文庫)』[1966年](刺青/少年/幇間/秘密/異端者の悲しみ/二人の稚児/母を恋うる記)

 原作は文庫で十数ページしかなく、主人公の清吉が少女に刺青を施すことで宿願を果たし、「男と云う男は、みんなお前の肥料(こやし)になるのだ」という清吉の予言通り、少女がこれから多くの男を酔わせるであろう妖艶な女に変身したところで終わっています(少女は清吉に「お前さんは真先に私の肥料になったんだねえ」とも言っている)。この少女が刺青を施されたことで劇的な変化を遂げたところですぱっと終わっている、この終わり方が作品の印象を非常に強いものにしているように思います。

増村保造(1924-1986)/新藤兼人(1912‐2012/享年100)
刺青 若尾 映画祭.jpg増村保造.jpg新藤兼人2.png 一方、増村保造監督の映画「刺青(いれずみ)」は、「刺青」の他に同じ谷崎の短編小説「お艶殺し」も基にしていて、映画の方で展開されるサスペンス時代劇風のストーリーは、「お艶殺し」に拠るか、または脚本家としての新藤兼人(1912-2012)のオリジナルということになります。強いて言えば、谷崎の原作における刺青を施され魔性を覚醒された少女がその後どうなったかを、イメージを膨らませて描いた後日譚ともとれます。ただし、映画で、若尾文子演じるお艶が山本學演じる清吉に刺青を掘られるのは物語の中盤なので、10ページほどしかない谷崎の原作に、プロローグとエピローグの両方を足したという感じでしょうか。

 とは言え、そのプロローグとエピローグで大方を占めるので(黒澤明の「羅生門」が、芥川の「羅生門」を基にしているのは冒頭部分くらいで、あとはほとんど芥川の「藪の中」を基にしていたのを想起させる)、原作の「刺青」とは別物という見方もできます。となると、あとは、「お艶殺し」に拠った新藤兼人の脚本が、どれだけ谷崎の耽美主義的な世界を表現することが出来ているかということになりますが、ちょっとストーリー性があり過ぎて、テレビの時代劇ドラマみたいになった印象もなくもないです。それでも最後まで見せるのは、増村保造の演出と宮川一夫のカメラのお陰でしょうか。

 このパターンでいく場合、大概のケースでは原作の雰囲気をぶち壊してしまうものですが、原作を超えたとは言わないまでも、何とか持ちこたえたような気がします。実際、谷崎作品の映画化ということを考えず、若尾文子の映画という風に見れば、まずまずであったように思います。

角川シネマ有楽町200306_0216.jpg刺青 映画&文庫 2.JPG 角川シネマ有楽町での「若尾文子映画祭2020」で観ましたが、全41作品を上映する中で、この「刺青」の4K修復版が世界初上映されることが映画祭の最大の目玉であったようです。率直な感想として、映像のきめ細やかさは予想していた以上でした。宮川一夫のカメラが映す若尾文子の肌が4Kで映え、彼女が動くと背中の蜘蛛も妖しく蠢くという、映画祭の目玉として打ち出すだけのことはあるものでした。

「若尾文子映画祭」@角川シネマ有楽町(同館公式Twitterより)
「若尾文子映画祭」@角川シネマ有楽町.jpg刺青 1966 4.jpg「刺青(いれずみ)」●制作年:1966年●監督:増村保造●脚本:新藤兼人●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:谷崎潤一郎「刺青(しせい)」「お艶殺し」●時間:86分●出演:若尾文子/長谷川明男/山本學/佐藤慶/須賀不二男/内田朝雄/刺青_143716.jpg藤原礼子/毛利菊枝/南部彰三/木村玄/岩田正/藤川準/薮内武司/山岡鋭二郎/森内一夫/松田剛武/橘公子●公開:1966/01●配給:大映●最初に観た場所:角川シネマ有楽町(20-03-24)(評価:★★★☆)


2刺青810.jpg 刺青 satou1.jpg 佐藤慶

【1950年文庫化[新潮文庫(『刺青』)]/1969年文庫化[新潮文庫(『刺青・秘密』)]/2012年再文庫化[集英社文庫(『谷崎潤一郎フェティシズム小説集』)]/2021年再文庫化[文春文庫(『刺青 痴人の愛 麒麟 春琴抄―現代日本文学館』)]】

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This page contains a single entry by wada published on 2020年12月 5日 14:07.

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