【2965】 ○ 増村 保造 「からっ風野郎 (1960/03 大映) ★★★☆

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三島の演技は言われているほどに酷いものでもない。演技を見られるだけも貴重。

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からっ風野郎 [DVD]」若尾文子/三島由紀夫
からっ風野郎』 mishima.jpg 刑務所内の庭での111番の出所祝いのバレーボール大会の最中、試合に熱中している111番囚人・朝比奈武夫(三島由紀夫)に面会の知らせがあり、別の囚人が代わりに武夫の上着を着て面会に行く。面会の男は名札を確かめ拳銃を発砲、彼は別人を殺したのだ。朝比奈一家二代目の武夫は、何とからっ風野郎 水谷.jpgか予定どおり出所。殺し屋を仕向けたのは一家と反目する新興ヤクザ・相良商事の社長・相良雄作(根上淳)で、武夫が服役したのも、父の仇で相良の脚を刺したためであり、後遺症を負った相良は武夫を恨んでいる。武夫は、情婦のキャバレー歌手・昌子(水谷良重)と映画館の2階の部屋で落ち合い、抱き終わると彼女と手を切る。命を狙われている武夫に女はお荷物だからだ。映画館は朝からっ風野郎』 wakao.jpg比奈一家が支配人で、2階は武夫の隠れ家だった。映画館には武夫が初めて見るもぎりの女・小泉芳江(若尾文子)がいて、武夫は芳江から「親分なのにちっとも怖くない」と言われる。ある日、芳江は町工場に勤める兄・正一(川崎敬三)に弁当を届けに行ってスト騒動に巻き込まれる。武夫は叔父・吾からっ風野郎 志村 .jpg平(志村喬)から相良を殺して来いと拳銃を渡され、大親分・雲取大三郎(山本禮三郎)から法事の招待が両者にあり、その機会が訪れる。ところが当日相良は来ず、武夫は帰り際に、殺し屋ゼンソクの政(神山繁)の銃弾に見舞われる。しかし、政がゼンソク発作を起し、武夫は左腕を射たれただけで済む。映画館を解雇されていた芳江は、再び雇うよう頼むが、武夫が断ると居場所をバラすと脅す。怒った武夫は芳江を手籠めにし、「こうなったのもお前が好きだったからさ」と言って、それから2人は付き合うように。ある日、二人が遊園地から出たとき、武夫は相良の幼い娘を偶然見つけ誘拐、相良らが製薬会社から金をゆすろうと入手した、治験で死者が出た新薬をよこせと相良に要求する。しかし取引場所の東京駅八重洲口からっ風野郎 ラス前.jpg構内に雲取が仲介で登場し、儲けは折半し手打ちにしろと命ずる。両者は一旦収めるが、相良は雲取に更に半分仲介料を取られることに。芳江は妊娠し、武夫は、命を狙われている自分に赤子がいると面倒だから堕ろせと言うが芳江はきかない。産婦人科に連れて行くが抵抗され、帰途に昌子と鉢合わせする。芳江との事を昌子が相良に密告すると察した武夫は、芳江を隠れ家に匿う。芳江に根負けした武夫は、彼女と世帯を持つ決意をする。そんな折、相良が芳江の兄を監禁して、朝比奈一家が取引で得た金からっ風野郎 神山.jpgで始めたトルコ風呂の権利を要求してくる。芳江の身を案じた武夫は、九州の芳江の田舎へ身を隠すよう言う。武夫は舎弟で親友の愛川(船越英二)にトルコ風呂の権利をくれと相談、愛川が断ると相良商事に単身乗り込もうとするため、愛川は権利書を相良に渡し芳江の兄を救う。愛川の勧めで彼と一緒に大阪で堅気になると決めた武夫は、出産で里帰りする芳江を東京駅まで見送りに。発車直前に、生まれてくる赤ん坊の産着を買いに、構内のデパートに走るが、待ち伏せしていたゼンソクの政に拳銃を突き付けられる―。

からっ風野郎 1960.jpgからっ風野郎 ラスト.jpg 1960公開の増村保造監督作。三島由紀夫が、ヤクザの跡取りながらどこか弱さや優しさを持ったしがない男を演じていますが、この作品で華々しく映画デビューしたものの、その大根役者ぶりを酷評され、興行的にはヒットしたようですが、三島自身は「俳優はもうゴメン」と言ったとか。

 もともと、『鏡子の家』を映画化する予定だったのが、三島主演の映画を作ろうという話が持ち上がってそちらを優先することになり(結局『鏡子の家』の映画化話は流れた)、それは、競馬騎手が主人公の「凄い名馬に乗る騎手が八百長やる話」で、三島も乗り気だったのが、当の映画製作会社・大映の永田雅一社長が中央競馬会の馬主会会長をしていて、「中央競馬が八百長だって、そんなの絶対できない!」と怒ってボツになり、そこでかつて菊島隆三が石原裕次郎を想定して書いたものの、ラストで主人公が死ぬのが裕次郎の「からっ風野郎」ges.jpgイメージに合わないとしてお蔵入りしていた脚本が再発掘されたとのこと。オリジナルは、凄く強いヤクザの二代目が最後に殺し屋に殺されてしまうというもので、三島はそれを読んで惚れ込んだものの、増村監督はその役柄を不器用な三島の演技に合わせ、「二代目だが気が弱く、腕力がなくて、組の存続も危ぶまれる、気がいい男」という性格に変えています。このように紆余曲折あったわけですが、三島自身は、そのように改変されたことで、「はじめてなんとか見られるやうになつた」(三島由紀夫「映画俳優オブジェ論」)という認識だったようです。

 撮影現場での増村保造監督(増村は三島と東大法学部で同級生だったが、会うのは15年ぶりだった)の三島に対する演出は苛烈を極め、殆どパワハラに近いものがあり、若尾文子などは見ていてはらはらしたそうですが、その甲斐あってか、三島の演技は言われているほどに酷いものでもないと思いました。演技のド素人が、いきなり志村喬や船越英二といった演技達者を相手にここまでやれれば、大したものと言ってもいいのではないでしょうか。この映画の三島が"大根"ならば、「幕末太陽傳」('57年)の石原裕次郎だって、三島と同じ程度に"大根"ではなかったかなあ。

「からっ風野郎」.jpg もともと脚本がB級っぽくて(純愛ヤクザ物語?)、映画としての個人的評価は△ですが、三島の熱演のせいで△にするには忍びなく(?)、また、三島由紀夫が出ずっぱりであり、ノーベル文学書候補にもなった大作家がスクリーンを動き回っているのを最初(冒頭のバレーボールシーンですぐに、いま跳ねたの三島だ!と分かった)から最後まで見られるだけでも貴重という見方をすれば、○にしておいていいのではと思った次第です。三島由紀夫が好きな人は必見です。

「からっ風野郎」ンロード.jpg 主人公の武夫が公園で相良の幼い娘を誘拐しようとするシーンで、武夫が子どもにウィンクするのですが、三島はウィンクをしようとすると両目を閉じてしまい、どうしてもウィンクができず、何度もリテイクになったそうです。三島自身は、自分は「何かの病気だろう」と思ったようですが、緊張していたかというと、それは否定しています。ただ、普通に考えればやはり緊張していたのだろうなあ(その前に美輪明宏の舞台に兵士たちの1人の役で出たときも、緊張のあまり「回れ右」の号令に1人だけ「回れ左」をしたというから)。結果、出来上がりはこわばった感じのウィンクになり、それが映画における状況設定や主人公の性格とマッチしているという、こうした偶然の妙もあったかと思います。

「からっ風野郎」680.jpgからっ風野郎 ラスト2 (1).jpg ラストの武夫がエスカレーターに倒れ込むシーンで、殺し屋役の神山繁が、「三島さんね、もっとパーンと派手に倒れなきゃ駄目だよ」と助言したのを素直に聞き入るあまり、本当に思いっきり倒れて足を踏み外してしまい、右後頭部をエスカレーターの段の角に強打し大ケガをし、虎の門病院に救急搬送されたというエピソードは有名です。ロケは西銀座デパートで行われましたが、自分がこの作品を劇場で初めて観たのが有楽町だったので、60年前、ここから歩いて5分もかからないところで、三島は後頭部を打って脳震盪を起こしたのだなあと思ったりしました。

 増村保造監督に言わせれば、「監督を引受けたからには、同級生の三島が世間から笑われないような芝居にしなければ駄目だと」という気持ちだったとのことですが(東大同級生として同じインテリ同士のライバル意識があったのだろうという人もいる)、この映画では、本人がたいへんな目に遭った割には批評家が結構厳しい評価をしたため、先述の通り、三島自身も暫くはもう映画は懲り懲りといった気持ちだったようです。ただ、後に五社英雄監督の「人斬り」('69年)に出てその演技が評価されたのは、この「からっ風野郎」での経験があってのことだと思うし、その前に「憂国」('66年)を監督し、主演もしているのも、映画というものがどういうものか要領が掴めたからであって、三島やはり、後々にこの映画出演の経験を活かしたように思います。

からっ風野郎 200306_0216.JPGからっ風野郎』.jpgからっ風野郎 若尾.jpg「からっ風野郎」●制作年:1960年●監督:増村保造●製作:永田雅一●脚本:菊島隆三/安藤日出男●撮影:村井博●音楽:塚原哲夫●時間:96分●出演:三島由紀夫/若尾文子/船越英二/志村喬/川崎敬三/小野道子/水谷良重/根上淳/山本禮三郎/神山繁/浜村純/三津田健/潮万太郎/倉田マユミ/小山内淳/守田学●公開:1960/03●配給:大映●最初に観た場所:角川シネマ有楽町(20-03-06)(評価:★★★☆)

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和田泰明

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