【2962】 ○ 坪内 祐三 『文庫本を狙え! (2016/08 ちくま文庫)《(2000/11 晶文社)》 ★★★★

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1冊1冊の読み込みが深い。本書を手に文庫探索してみるのもいいかも。

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文庫本を狙え! (ちくま文庫)』 坪内 祐三(1958-2020(61歳没))
カバーデザイン:南 伸坊

『文庫本を狙え!』(晶文社.jpg 今年['20年]1月に61歳で亡くなった評論家・坪内祐三(1958年生まれ)が、「週刊文春」誌上で亡くなる直前まで20年以上にわたって長期連載した「文庫本を狙え!」の第1回から171回分を1冊の文庫に纏めたものです。2000年11月に単行本『文庫本を狙え!』(晶文社)が刊行されていますが、第18回から第171回までが収録されていて、最初の17回分は著者の初の書評集『シブい本』('97年/文藝春秋)に掲載されたため、両方を纏めたものはこの文庫が初となります。第1回の高見澤潤子『のらくろひとりぼっち』の掲載は1996年8月で、171回の小林信彦『読書中毒』の掲載は2000年5月です。

 因みに、シリーズ第2弾『文庫本福袋』(2000年~2004年、194回分を収録)は先に文春文庫で文庫化されていて(したがって文春文庫内では『文庫本福袋』が"第1弾"とされている)、第3弾『文庫本玉手箱』(2004年~2009年、200回分を収録)は'09年に文藝春秋から、第4弾『文庫本宝船』(2009年~2016年、290回分を収録)は本の雑誌社から、それぞれ単行本が刊行されています。さらに、第5弾として、連載の第886回(2016年4月)~第1056回(2020年1月)を収めた『文庫本千秋楽』が先月['20年11月]本の雑誌社から刊行され、「文庫本を狙え!」の170回分と併せ、本の雑誌増刊「おすすめ文庫王国」に1999年から20年にわたって書き続けた「年刊文庫番」を1冊にしたものとなっています。

 1冊1冊の読み込みが深くて、よくこれだけ毎週毎週書き続けてきたものだなあと驚かされます。同じく「週刊文春」に'92年から「私の読書日記」を連載している立花隆氏が、「最後まで読まなければならない本」(推理小説など)、「速読してはいけない本」(文学作品など)は「タイムコンシューマー」(時間浪費)であるとして避けていたのに対し、著者も日本の現代小説や推理小説はほとんど選んでおらず、多くを読もうと思ったらやはり何らかの割り切りが必要なのかもしれません。因みに、本書では34の文庫レーベルが取り上げられていて、最多は岩波の15冊、ちくま、中公が続き、新潮と講談社文芸文庫が10冊で同数4位とのことです。

 村上春樹を取り上げていると思ったら『やがて哀しき外国語』('97年/講談社文庫)で、つまりエッセイでした(p85)。村上春樹はエッセイがいいね。

 小沼丹の『清水町先生』('97年/ちくま文庫)の井伏鱒二の将棋好きの様などは可笑しいです(p112)。太宰治との師弟の関係がどのようなものであったかも伝わってきます。

 「裸の大将」こと山下清の『日本ぶらりぶらり』('98年/ちくま文庫)というエッセイも紹介されていて(p201)、著者が「実は、山下清は、かなりの文章家なのだ」とするのに納得させられました。

 蛭子能収『エビスヨシカズの密かな愉しみ』('98年/講談社+α文庫)では、「蛭子能収ほど実物と作品のイメージが異なる人も珍しい」とし(p216)、「文筆家エビスヨシカズは、きわめて知的で論理的」としてその証左を示しています(そう言えば、先の立花隆氏は、蛭子能収氏の作品の方を評して、作者は「天才か狂人」と言っていた)。

 ノーマン・マルコム/板坂元訳『ウィトゲンシュタイン―天才哲学者の思い出』('98年/平凡社ライブラリー)などを取り上げてくれているのは嬉しいです(p247)。これ、絶版新書がライブラリーになったパターンです。すぐ後に続く岡井耀毅『瞬間伝説―歴史を刻んだ写真家たち』('98年/朝日文庫)にある新人カメラマンだった秋山庄太郎と大女優・原節子の出会いなども、いいところを拾ってくるなあと(p249)。

 水上勉『私版 東京図絵』('98年/朝日文庫)にある、水上勉が武者小路実篤から実篤自身の描いた絵を貰った話も、武者小路実篤の白樺派的な人柄が窺えるエピソードでいいです(p275)。吉行淳之介は、短編集『悩ましき土地』('99年/講談社文芸文庫)が取り上げられていますが(p306)、巻末の年譜が読みごたえがあったと(笑)。それだけの病歴ということでしょう。

 千葉伸夫『評伝山中貞雄―若き映画監督の肖像』 ('99年/平凡社ライブラリー)などを取り上げているのもシブいです(p357)。山中貞雄にとって小津安二郎がメンターだったのなあ。同じく映画関係で、殿山泰司『三文役者のニッポンひとり旅』('00年/ちくま文庫)なども読んでみたくなる紹介のされ方をしています。

 このように、文庫と言えども結構マニアックなものも多いです。その分、こんな本も文庫で読めるのだという新たな発見がありました。シリーズ第1弾なので、1996年から2000年刊と結構古い本ばかりになりますが、解説の平尾隆弘氏によれば、今はネットの古本市場でこれら全ての文庫が入手可能とのことで、しかも、一番高いものでも2,500円とのこと(最安値は1円)。本書を手に、文庫探索してみるのもいいかもしれません。

                 




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和田泰明


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This page contains a single entry by wada published on 2020年12月 1日 00:05.

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