【2948】 ○ 武者小路 実篤 『友情 (1947/12 新潮文庫)《(1920/04 以文社)》 ★★★★

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武者小路実篤 友情 2.jpg友情 (新潮文庫).jpg  友情 (岩波文庫).jpg
友情 (1949年) (新潮文庫)』(改装版・新装版)『友情 (岩波文庫)
『友情』(1920/04 以文社)

"高次の友情"を支えるものは何か。
旧装派(カバー・題字:武者小路実篤)
友情・愛と死・若き日の思い出.JPG 脚本家の野島は、作家の大宮と尊敬し合い、仕事に磨きをかけている。実績は大宮のほうがやや上だが、大宮はいつも野島を尊敬し、勇気づけてくれる。ある日、野島は友人の仲田の妹・杉子に恋をする。堅い友情で結ばれた大宮に包み隠さず打ち明けると、やはり大宮は親身になってくれた。杉子会いたさに仲田の家へ大宮と連れだって行くと、杉子はいつでも自分たちに無邪気な笑顔を向けてくる。野島は、杉子に大切にされている感覚を覚えた。しかし、大宮は杉子にはいつも冷淡だった。突然、大宮が「ヨーロッパに旅立つ」と野島に告げる。野島は友人と別れる寂しさと杉子を一人占めできる安心感とに悩む。それ以来、杉子とはあまり遊ばなくなる。大宮が西洋へ旅立って約1年後、思い切ってプロポーズをしたが断られる。さらに1年程後、杉子は突如ヨーロッパへ旅立ち、その後、大宮からは一通の手紙が届く。そこには「自分の書いた小説を見てくれればわかる」とあった。その小説は、大宮と杉子が抱き続けていた恋心と野島への思いを明かす内容だった―。

「友情」発表100年 作中の言葉をおみくじに.jpg 武者小路実篤(1885-1976)が1919(大正8)年10月から12月に「大阪毎日新聞」に連載した作品で、1920(大正9)年4月には以文社より単行本が刊行されています。後に書かれる「愛と死」「若き日の思い出」と併せて、武者小路文学の青春三部作と言われていますが、特にこの「友情」は「恋する人はすべからく読むべし」とまで言われるほど根強い人気があるようで、調布市にある武者小路実篤記念館では、昨年['19年]に「友情」の発表100年を記念して、作中の言葉を記した「おみくじ」を作成し、来館者に配布したくらいです。

武者小路実篤の「友情」と記念館が配布したおみくじ(毎日新聞 2019年8月17日 地方版)

 結論から言うと、大宮は野島との友情と引き換えに愛する人・杉子を得たが、野島は愛する人・杉子と友人・野島を一度に失ってしまうという話で、二人とも友を失っている話であるのに「友情」というタイトルであるのが興味深いです。

 大宮などは、杉子が自分のことを好きになり、野島のことは彼女は前から好いていなかったことを小説として描いて同人誌に発表したくらいで、大宮なりに悩んだのでしょうが、見方によっては野島に対して非常に惨酷な仕打ちをしていることになります。

 どうしてこの話が「友情」というタイトルになるかということを考えてみるに、この作品の趣意とする"友情"は、一般的なそれよりもひと際高いレベルにある(ということを作者が言いたい)ためではないかと思います。

 その証拠に、恋に破れた野島は、大宮への手紙の中で、「君よ、仕事の上で決闘しよう。君の惨酷な荒療治は僕の決心をかためてくれた。之は僕にとってよかった」と書いていて、この失恋も自分の成長の糧にしようという非常にポジティブな姿勢が窺え、むしろ野島の仕打ちに感謝すらしているように見えます。これは、やっぱり"高次の友情"ということになるのではないでしょうか。

 こうした"友情"を支えているものは何かというと、野島の大宮に宛てた手紙からも窺えるように、自分たちがこれからの文学界を引っ張っていくのだという気概のようなものではないかと個人的には思います。これを、一高的教養主義というか、(自分は世の中に資する仕事をすべき人間であり、世の中のために成長していかなければならないという)ある種エリート思想とみるのも、あながち全くの誤りではないように思います。

武者小路実篤 志賀直哉.jpg この小説のモデルは、野島が武者小路実篤自身で、大宮が志賀直哉だと言われています。実生活では、志賀直哉は武者小路実篤より2歳年上ですが、二人とも初等科から学習院に通っていて、武者小路実篤が中等科6年、17歳の時、二回落第した志賀が同級になったことから、以後親しくなっています。志賀直哉はビリから6番目、武者小路実篤はビリから4番目の成績で学習院を卒業し、揃って東京帝国大学に入学しています(成績の悪い者同士で仲が良かった?)。ただし、武者小路実篤と志賀直哉が一人の女性を巡って恋敵同士のような関係になったという事実は無いようです(若い頃の風貌を見ると、志賀直哉の方がモテそうだが)。

画:周剣石・清華大学美術学院副教授

 杉子に対する野島の恋心の一途さが非常に上手く描かれていて、野島が真実を把握できていなかった、いわば"恋は盲目"状態にあったということが、腑に落ちます。杉子が大宮にぐぐっと傾倒したのは、ピンポンでそれまで男たちを打ち負かしていた杉子が、大宮にはこてんぱに打ち負かされた時からではないでしょうか。大宮は、野島が杉子とピンポンの手合わせしなければならなくなった状況で、杉子や皆の前で野島に恥をかかせまいとして助太刀したのに、と思うと実に皮肉なことで、この辺りも上手いと思いました。随所に恋に落ちた者の心情の的確な描写があり、「おみくじ」になるのも分かる気がします(笑)。

【1947年文庫化・1967年改版[新潮文庫(『友情』)]/1965年再文庫化[旺文社文庫(『友情・愛と死―他一編』)]/1966年再文庫化[角川文庫(『友情・愛と死』)]/1970年再文庫化[ポプラ社文庫(『友情』)]/1992年再文庫化[集英社文庫(『友情・初恋』)]/2003年再文庫化[岩波文庫(『友情』)]】

        



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This page contains a single entry by wada published on 2020年10月 8日 16:33.

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