【2946】 ○ 井上 梅次 「江戸川乱歩 美女シリーズ(第13話)/魅せられた美女 (1980/10 テレビ朝日) ★★★★ (○ 江戸川 乱歩 『十字路』 (2018/12 江戸川乱歩文庫)《『十字路―江戸川乱歩全集 第19巻』 (2004/09 光文社文庫)》 ★★★☆)

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明智版「パイルD-3の壁」。リライト作品である原作を超えた面白さ。

魅せられた美女~江戸川乱歩の「十字路」dvd.jpg 岡田奈々の「魅せられた美女」2.jpg 十字路 (江戸川乱歩文庫).jpg 江戸川乱歩全集 第19巻 十字路 (光文社文庫).jpg
魅せられた美女~江戸川乱歩の「十字路」~ [DVD]」岡田奈々/『十字路 (江戸川乱歩文庫)』['18年]『江戸川乱歩全集 第19巻 十字路 (光文社文庫)』['04年]

13話)/魅せられた美女t.jpg 売り出し中のアイドル歌手・沖晴美(岡田奈々)は所属事務所の社長で不動産業も営む伊勢省吾13話)/魅せられた美女1.jpg(待田京介)に新しいマンションを購入して貰う。早くに両親を13話)/魅せられた美女2.jpg亡くした晴美は、将棋棋士の兄・沖良介(天知茂・二役)に育てられ、やっと掴んだ成功だった。晴美のマンションに伊勢が引っ越し祝いに訪れていたところへ、突然、夫の浮気を疑った伊勢の妻・友子(西尾三枝子)が現れ、ナイフを手に晴美に13話)/魅せられた美女3.jpg襲いかかる。揉み合ううち、知子はナイフを誤って友美に突き立ててしまい、彼女は斃れる。伊勢は、妻の死を自殺に見せかける工作を企て、晴美に友子の服を着させ、その日友子が自分が傾倒する新教宗教の用事で行く予定だった伊東へ行かせて13話)/魅せられた美女4.jpg、断崖で投身自殺したように見せかけるよう指示する。一方、自分はクルマのトランクに友子の死体を載せ、それを遺棄するため自分の会社の所有地がある多摩平へ向かうが、途中、調布市の交差点で接触事故を起こす。その交差点付近のバー「桃子」では、晴美のマネジャー・真下幸彦(中条きよし)と、晴美の兄・良介が飲んでいた。良介の婚約者でママの桃子(奈美悦子)の目の前で二人は口論にな13話)/魅せられた美女 .2.2.2.jpgり、揉み合いになる。突き飛ばされて頭を打った良介は、泥酔状態でふらふらと店を出て行き、ちょうど交番で調書を取られている最中でその場に不在だった伊勢のクルマの後部座席に乗り込んでぐったりしてしまう。クルマに戻った伊勢は、そうとは知らず多摩平の社有地にある「首なし沼」に到着、友子の死体を沼へ遺棄しようとしていると、目の前に良介が立っていたので、咄嗟に持っていたナイフで刺殺する。予期せぬことで、二人もの遺体を遺棄することになった伊勢だったが、それら始終を、自分が突き飛ばした良介のことが心配になって後をつけていた真下が見ていた―。

少年探偵江戸川乱歩全集〈39〉死の十字路』/映画「死の十字路」('56年/日活)
少年探偵江戸川乱歩全集〈39〉死の十字路.jpg映画 死の十字路ed.jpg 原作である江戸川乱歩作の「十字路」は1955(昭和30年)11月刊行の書下ろし小説で、文庫で240ページほどの長さ(2018年版「江戸川乱歩文庫」(春春堂))であり、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。渡辺剣次(1919-1976)による第一稿をリライトしたもので、トリック、プロットも渡辺剣次の案出です。従って、乱歩独特の怪奇風乃至エログロ風の雰囲気は全く無く、モダンで都会的な印象で、また、明智小五郎39死の十字路.jpgも出てこないため、これを松本清張とか笹沢佐保の作品だと言われて読んでも判らないかも。ただ、乱歩っぽくないことを気にしなければ、話そのものは一作品としてまあまあ面白かったように思います。井上梅次監督は、ドラマに先行して同じ原作で映画「死の十字路」('56年/日活)を撮っていて、この時は、晴美=新珠三千代、伊勢=三國連太郎、良介と探偵の二役で大坂志郎でした。ポプラ社の『少年探偵 江戸川乱歩全集』版のタイトルは映画と同じ「死の十字路」で、表紙('72年半)の探偵と思われる人物が大坂志郎に似ています(ゴーストライターの氷川瓏(ひかわ・ろう)(=渡辺祐一、渡辺剣次の実兄)によって内容は改変されていて、友子と晴美とはもともと仲のよい友だち同士だったが、晴美が友子に誘われて参加した「過激な思想を持つ研究会」に晴美は馴染めず脱会したため、友子は「裏切り者を制裁する」ということで晴美のアパートへ押しかけて襲いかかり、そこに居合わせた青年社長の伊勢省吾に殺害されてしまうという、昭和47年の年明けに起きた「あさま山荘事件」の影響がみられるものになっている)。

13話)/魅せられた美女422.40.2.2.2.jpg 原作では、商事会社の伊勢省吾と沖晴美は社長とその秘書兼愛人という関係で、一方、真下幸彦は商業美術家で、その恋人の相良芳江(ドラマには登場しない)の兄で画家の良介が事件に巻き込まれてしまうという設定になっています。ドラマでは、伊勢(待田京介)は不動産会社社長で芸能事務所も経営し、彼の事務所所属の売り出し中の歌手が沖晴美(岡田奈々)で、その兄が将棋棋士の良介(天知茂・二役)、晴美のマネージャーが真下幸彦(中条きよし)となっていて、原作の相良芳江のキャラクターを「沖晴美」に一本化した感じですが、これは結構大きな人物相関の改変かと思います。

13話)/魅せられた美女9.jpg 原作では、伊勢が妻・友子を揉み合いの末にほぼ事故的に刺殺するため、そもそもドラマのように秘蔵っ子アイドル歌手が人を刺してしまったのでそれを揉み消すという話ではないのですが、ドラマではさらに一捻り入れて、友子(西尾三枝子)が晴美と揉み合っているうちに肩にナイフが刺さるが、それは実は致命傷ではなかったということでした(事故的であるのは原作に通じる)。この点は、晴美が全てを打ち明けに明智の下へ来て、肩を抑えながら友子は「心臓にナイフが刺さって」死んでいたと言うのを聞いた明智がおかしいと思ったのが事実解明の糸口となりました。つまり、明美が気を失っている間に伊勢が改めて友子の心臓を刺したわけで、偶発事故に便乗したような形になっていて、その殺意は原作と異なり明確なものとなっています。

13mashiata.jpg 原作では、幸彦が前半部分の"素人探偵役"となり、後半部分では、良介の妹・芳江が相談した南探偵事務所の私立探偵・南重吉がより突っ込んだ調査をして(この南が良介と顔がそっくりであるという設定は、ドラマで明智が良介にそっくりであることに置き換えられて活かされている)、最後は警察の花田警部(ドラマの浪越警部より優秀?)が事件の全容を解明するようになっていますが、ドラマでは、幸彦が"探偵役"どころか、伊勢に13nami esuko.jpgよる友子および良介の死体遺棄現場を実際に目撃したのを機に、"恐喝者"になります(その結果、犯人に殺されてしまうという、よくある末路を辿る)。因みに、原作では、良介は伊勢のクルマの後部座席で、伊勢がその存在すら知らないうちに脳出血か何かで死亡しているため、伊勢が殺害したのは友子だけになっていますが、ドラマでは良介に加え、バー「桃子」(原作では「桃色」)のママ・桃子(奈美悦子)まで訳あって伊勢に殺されれています(今回の「浴室要員」は奈美悦子だった。岡田奈々は顔だけのシャワーシーンのみ)。

13話)/魅せられた美女8.jpg13話)/魅せられた美女10.jpg 遺体をトランクに載せた伊勢のクルマが、交差点で接触事故を起こすのは、原作では新宿のガード下ですが、ドラマでは、都心と多摩平の中間点の調布市のどこかになっています(因みにクルマは原作ではキャデラックルーチェ 1977-1978.jpgだが、ドラマではマツダ・ルーチェ)。ちょうど伊勢が足止めを食ったその交差点付近のバーで、そこで良介とその妹・晴美のマネージャーである幸彦が飲んでいるわけですが、伊勢と良介という「無関係な者同士」が出くわしたとする原作よりも、伊勢と良介が「共に晴美の関係者」であるドラマの方が、偶然度が高くなっていると言えます。

 原作では、花田警部の追及に追い詰められた伊勢は、最後に晴美に電話して拳銃自殺し、晴美も飛び降り自殺するという"遠隔心中"のような形になっていて(伊勢と晴美は純愛関係にあったことになる)、ちょっと笹沢佐保の「六本木心中」(1962)みたいな感じでした。これでいくと、「美女シリーズ」における美女は、最後、飛び降り自殺ではなく、明智の腕の中で死ぬのかなと思いましたが、人物相関が原作と違っていたので、そうはなりませんでした。

13話)/魅せられた美女5.jpg 原作では伊勢は遺体をダム建設の水没予定地の古井戸に遺棄しますが、ドラマでは沼に棄てます。原作との大きな違いは、伊勢が現場に再び行くのを文代らが尾行し、沼を突き止めますが、警察が沼を浚っても死体は見つからず、伊勢は勝ち誇って明智を痛罵するという展開。しかし、実は、尾行されているのを計算して、わざと遺留品を警察に見つけさせ、死体がこの沼にあると思わせる伊勢の作戦で、伊勢はその前に恐喝者である幸彦に手伝わせて遺体を沼から引き揚げ、警察の調べて何も無いという証左を得てから改めて死体をそこへ沈める作戦でした(そこが死体の隠し場所として最も安全な場所となる)。しかし、明BLUEPRINT FOR MURDER.bmpパイルD-3の壁.jpg智は、実はそこまで伊勢の作戦を読んでいました。ここまできて思い当たるのが「刑事コロンボ(第9話)/パイルD-3の壁」('72年)でした。そもそも倒叙的な展開からしてコロンボに似ていますが、プロット的には「パイルD-3の壁」からそのまま拝借したといってもいいかと思います。でも、ストーリーに上手く組み込まれていて、結果的にドラマは原作を超えた面白さだったと思います。
  
13話)/魅せられた美女 masuda.jpg ドラマでの天知茂演じる棋士・沖良介が挑んだ「王位戦」の対戦相手は升田幸三に似ていました。しかもその名が「大村誠」で、大山康晴、木村義雄、中原誠から一文字ずつとって13話)/魅せられた美女 masuda0.2.2.2.jpgいる(笑)。対局は伊東かどこかで行われたらしく、伊勢に言われた偽装工作を終えた晴美が兄の元へ立ち寄ります。一方、天知茂演じる明智の方は、文代、小林と伊東へ釣りに行って(社員良行?)晴美が残した自殺の痕跡を見つけ、地元の警察へ。そこへ良介が現れ、良介はアマ三段の警察署長の将棋の先生で、一緒に呑む約束をしていたとのことで、都合よく(笑)天知茂同士のご対面となります。良介が、「僕のやり方はね、相手の出方を見てこっちのやり方を決める」と言い、明智が「探偵と同じですね。そして最後は...」と言うと、良介が「逆手で勝負」と言って意気投合しており、これが「パイルD-3の壁」的やり方の伏線になっているので、シナリオ的にはこの「有名人対談」はどうしても入れたかったのでしょう(折角の一人二役でもあるし)。

魅せられた美女 okada.jpg13魅せられて.jpg 岡田奈々演じる売り出し中の歌手・沖晴美のステージ衣装は、ジュディ・オング(シリーズ第5話「黒水仙の美女」の「美女」役だった)の日本レコード大賞受賞曲「魅せられて」(1979年2月25日リリース)の衣装によく似ています(本ドラマの放映日は1980年11月1日)。ドラマのタイトルもこれに便乗した? ただし、岡田奈々がドラマ内で歌っている岡田奈々/静舞/江戸川乱歩の「十字路」.jpg曲は「静舞(クワイエット・ダンス)」で、ドラマのこの回のオリジナルテーマ曲として1980年10月21日にリリースされたものです。因みに、マネジャーの幸彦役の中条きよし(第12話「エマニエルの美女」、第21話「白い素肌の美女」にも出演。'78年から「必殺シリーズ」に出ていて、深田祐介原作のドラマ「炎熱商人」('84年/NHK)などにも出ていた)もデビュー曲「うそ」で日本レコード大賞の大衆賞を受賞したことがある元歌手であることはよく知られています。良介の婚約者・桃子役第9話 死体置場(モルグ)の殺人者.jpg奈美悦子(第7話「宝石の美女」にも「半裸の状態で遺体で発見される女医」役で登場)も、伊勢の妻・友子役の西尾三枝子(元「プレーガール」メンバー。「恐怖劇場アンバランス(第9話)/死体置場(モルグ)の殺人者」にこれも殺される役で出ていた)も、さらには伊勢役の待田京介(空手指導者でもあり、大山倍達の一番弟子だった)もそれぞれレコードを出したことがあるようです。天知茂もブルース曲集などのレコードを出していて、歌手や元歌手が集合したような回でもありました。
   
井上梅次監督映画「死の十字路」('56年/日活)三國連太郎  大坂志郎/新珠三千代
映画 死の十字路.jpg 死の十字路 s1.jpg

岡田奈々「警視庁南平班~七人の刑事8」(2015年・56歳)
警視庁南平班 岡田奈々.jpg岡田奈々魅せられた美女.jpg「江戸川乱歩 美女シリーズ(第13話)/悪魅せられた美女」●制作年:1980年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:成澤昌茂/井上梅次●音楽:鏑木創(オリジナルテーマ曲「静舞」(作詞:三浦徳子/作曲:佐藤健))●原作:江戸川乱歩「十13話)/魅せられた美女 amachi.jpg字路」●時間:90分●出演:天知茂(二役)/五十嵐めぐみ/柏原貴/荒井注/岡田奈々/奈美悦子/中条きよし/待田京介北町嘉郎/西尾三枝子/吉田良全/喜田晋平/松井紀美江/横山繁/小田草之助/今井健太郎/岡本正幸/城戸卓/沖秀一/小森英明/篠原靖夫/羽生昭彦/田中哲也/上地雄大/工藤和彦/加藤真琴/鈴木謙一/永妻晃/楢岡泉/酒井栄子/松尾友子●放送局:テレビ朝日●放送日:1980/11/01(評価:★★★★)

    

     

      


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