【2944】 ○ 井上 梅次 「江戸川乱歩 美女シリーズ(第7話)/宝石の美女 (1979/01 テレビ朝日) ★★★☆ (○ 江戸川 乱歩 『白髪鬼 (2018/12 江戸川乱歩文庫)《「白髪鬼」―『黄金仮面―江戸川乱歩全集 第7巻』 (2003/09 光文社文庫)》 ★★★☆)

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非探偵ものの原作を大幅アレンジしているのに、原作のテイストはよく残している。

宝石の美女 dvd.jpg 7話)/宝石の美女 1979.jpg 白髪鬼 乱歩文庫.jpg 黄金仮面 (光文社文庫).jpg
江戸川乱歩「白髪鬼」より 宝石の美女 [DVD]」田村高廣/金沢碧 『白髪鬼 (江戸川乱歩文庫)』['18年]『江戸川乱歩全集 第7巻 黄金仮面 (光文社文庫)』['03年]
7話)/宝石の美女 ×8.jpg 宝石窃盗犯・西岡三郎(睦五郎)が脱獄し、逃走中に仲間(沖秀一)を射殺して行方をくらます。撃たれた男の最期の言葉から、西岡は白髪の鬘を被って変装しているらしい。明智も事務所で文代(五十嵐めぐみ)、小林(柏原貴)とこのニュースを見ていた。西岡は10年前に盗んだ宝石の隠し場所である、富豪・大牟田の別荘にある墓所に行くが、盗品は全て無くなっていた。西岡の行方を追う波越警部(荒井注)に、大牟田家に痴漢が入7話)/宝石の美女1.jpgったという通報が入る。痴漢は白髪にサングラスの男とのことで、一同は大牟田家へ向かう。大牟田邸では、未亡人のルリ子(金沢碧)が、妹の豊子(田島はるか)と画家の川村(小坂一也)と3人で住んでいた。ルリ子は夫の財産が思ったより少なかったため、近くの別荘を売却するという。別荘には7話)/宝石の美女2-2.jpg川村が住んでいたが、ルリ子と川村は結婚することとなり一緒に住み始めたのだった。ルリ子は前夜、入浴中に白髪とサングラスの男に覗かれたという。すると、別荘の買い手と7話)/宝石の美女2-1.jpgして現れた、顔にアザがある白髪にサングラスの里見(田村高廣)という人物が、それは自分だと告白する。別荘の持ち主7話)/宝石の美女図3.jpgの家を捜しているうちに近くまで来て、庭から浴室を覗いてしまったのだという。西岡に関する情報もなく一同は大牟田邸を去る。里見が夫に似ているのを気味悪がるルリ子たち。実は大牟田(田村高廣、二役)はルリ子に唆された川村が断崖から突き落として殺害し、妹の豊子もこのことを知っていて、さらに、主治医の住田洋子(奈美悦子)を使って他殺と判らないように死亡診断書を書かせていた。里見は近くのホテル7話)/宝石の美女3.jpg7話)/宝石の美女4.jpgに宿泊していた。明智が大牟田家の墓へ来ると、散歩中の里見と会い、彼はルリ子を気に入って、彼女にプロポーズをするという。里見から宝石をプレゼントされ、欲深いルリ子の心は動く。ただ、里見のタバコを取り出す際の仕草やペンダントを振り回す癖が大牟田に似ているのが、夫の殺害に関与していたルリ子は気味が悪い。それでも、金に余裕がある里見へと関心がいくのだった―。

 原作は、江戸川乱歩が1931(昭和6)年4月から翌1932(昭和7)年4月まで「講談倶楽部」に連鎖した、文庫で約240ページ(2018年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))ほどの長編。英国の女流作家マリー・コレリ(1855-1924)の『ヴェンデッタ(復讐)』(1886)(『モンテ・クリスト伯』に大枠を依拠したストーリーとされる)を明治の作家・ジャーナリスト・翻訳家の黒岩涙香(1862-1920)が翻案した小説『白髪鬼』を更にリライトしたもので(それをドラマ化するということは、コレリ→涙香→乱歩→ドラマという三重の翻案ともいえる)、乱歩が海外の作家の作品を翻案、または翻案されたものをリライトした小説は6作品あり(その内、黒岩涙香の翻案小説のリライトは「白髪鬼」と「幽麗塔」)、その6つの中で「白髪鬼」は最初の翻案(リライト)小説になります。乱歩による原作は、殺害された後に埋葬された墓の中で蘇生し、恐怖のために白髪と化した一人の男の復讐譚で、怪奇譚と復讐譚を掛け合わせたようなものですが、主人公の「懺悔手記」というスタイルの非探偵小説であるため明智も登場せず、それをこのシーリーズの中に嵌め込むべきドラマとしてどうアレンジするかが、原作を読んだ人には見所になるかと思います。

7話)/宝石の美女 mutsu.png 改変のポイントは、窃盗犯・西岡(原作では「紅髑髏」ことシナ海の海賊王・朱凌谿)を里見こと大牟田が利用して、犯行時のアリバイ工作をすることで(最初は西岡の方が利用していたのだが、途中で立場が逆転する)、原作にはこうした話はありません(ドラマでは、犯人が誰か(WHO)ということより、犯人がどうやったか(HOW)がポイントになっている)。原作は、瑠璃子(ルリ子)、川村、里見の3人以外に主だった登場人物はいないシンプルな作りで、プロットよりも「怪奇・復讐譚」であることにウェイトが置かれていますが、ドラマでは、原作には無いルリ子の妹や主治医まで共謀者として登場させ、何れもが大牟田の復讐対象となっています。

7話)/宝石の美女 kanazawa.jpg 恒例の「浴室」要員は、風呂場で覗き被害に遭う「宝石の美女」ことルリ子を演じた金沢碧(1953年生まれ)で、本人と吹き替えを巧みに織り交ぜて(笑)、自然な感じで撮られていました。この「江戸川乱歩の美女シリーズ」は、1977年から1994年までテレビ朝日系「土曜ワイド劇場」で17年間放送されたテレビドラマシリーズですが、金沢碧はこの「土曜ワイド劇場」に1979年から2012年までの間、全部で27回出演していて、その中でこの「宝石の美女」が初登場でした。この「美女シリーズ」でも第15話「鏡地獄の美女」('81年)で再登場しますが、"天知茂版"の「美女シリーズ」で「美女」として2度出演したは叶和貴子(第17話「天国と地獄の美女」、第21話「白い素肌の美女」)と金沢碧だけで、この回が好評であったことを示すものかもしれません。

7話)/宝石の美女 tajima.jpg田島はるか.jpg ドラマで付け加えられたキャラクターのうち、田島はるか(1957年生まれ)演じる妹の豊子は、裸にされて逆さ吊りされた遺体で発見されますが、田島はるかはもともとロマンポルノの女優なので、これは吹き替え無しでしょうか(1976年の日活時代から1978年の「にっかつ」初年まで活動)。奈美悦子(1950年生まれ)が演じる死亡診断書において私利のために共謀する主治医の住田洋子も、半裸の状態で遺体で発見されますが、これは"全裸"ではなく"半裸"なので、岩場に逆さに奈美悦子.jpg7話)/宝石の美女 nami.jpg突っ立った脚はともかく、あとは奈美悦子本人でしょう(何だか、こんなことばかりにこだわっている(笑))。奈美悦子は第13話「魅せられた美女」でも、浴室で殺害される役で出ています。この人、最近は、通販番組に出ている人というイメージが強いですが、今年['20年]で満70歳、テレビに出続けているだけでもスゴイことなのかもしれません。

7話)/宝石の美女 amachi vs tamura.jpg 先にも述べた通り、原作が犯人の手記による叙述スタイルであるところに無理やり明智を絡ませているため、プロセスにおいて明智が事件に関与する部分は少な目で、文代や小林に至っては殆ど事務所内にいるだけという感じでした。そうした0田村高廣 宝石の美女.jpg物足りない面もありますが、探偵ものではない原作を大幅アレンジしているわりには、原作のテイストはよく残しているように思いました(田村高廣の演技が光り、天知茂と競演する形になっている)。

田村高廣/金沢碧/小坂一也

 例えば、ドラマでは犯人はルリ子を石棺に閉じ込めたものの、殺害する前に明智に正体を暴かれ、復讐が完遂できませんでしたが(ただし、ルリ子は助け出された時には発狂している)、原作では、犯人は瑠璃子を石棺に生き埋めにして洞窟を後にします。ところが、そこへすっ裸の瑠璃子がただれた赤ん坊を抱いて現れます。実は、瑠璃子と川村は大牟田の存命中も付き合っていて、二人の間に赤ん坊ができますが、不義を隠すために殺害、それ7話)/宝石の美女 ending.jpgを知った里見こと大牟田は、別の嬰児の屍体を入手し、川村や瑠璃子の恐怖を増すための演出に使ったのですが、この話はドラマでは割愛されています(気持ち悪すぎる?)。そして、語り手である人物は、今、十何年になる獄中生活にあるというオチです(終身刑に服していることを示唆)。原作で、閉じ込められたはずの瑠璃子が犯人の前に(おそらく幻影として)現れた時、彼女は、手に宝石をつかんで、それをサラサラと赤ん坊の上に砂遊びのようにこぼす仕草をし、この部分が原作の恐怖の最後のクライマックスになっていますが、ドラマでも、赤ん坊は出てこないものの、エンディングでその部分は活かしています。この辺りは、まずまず工夫されていたと思います。

7話)/宝石の美女 poe.jpg 江戸川乱歩には、アラン・ポーの「早すぎた埋葬」をモチーフにした作品が幾つかあり、この作品も、原作にも出てきたし、ドラマの方も明智がペーパーバック(英語版)を手にしています。しかし、この作品に関しては、埋葬された人物が墓所で甦るというのは、黒岩涙香版も、その元となったマリー・コレリの『ヴェンデッタ』も同じです。ウィキペディアによれば、江戸川乱歩版の原作・涙香版との主な相違点は、原作・涙香版ではあくまで妻と友人がしていたのは浮気のみで、主人公の死因は不測の事態であったのに対し、乱歩版は明らかの殺意が友人にある事。また、復讐方法も原作・涙香版では友人は衆人環視の拳銃による決闘で堂々と行っているのに対し、乱歩版は別荘におびき寄せてのからくり仕掛けによるじわじわした殺し方になっているなどより凄絶になっている点とのことです。また、法を無視しても復讐を肯定するか、それを犯罪者とするかは大きな違いで、乱歩版では終身刑になっている主人公が、原作・涙香版では復讐を果たした英雄のようになっているのは、マリー・コレリのオリジナルが、『モンテ・クリスト伯』や『巌窟王』など系譜の物語であることによるのでしょう。ドラマ版で明智などに出てこられると、復讐すら完遂できないというのは、まあ仕方がないのかもしれません。

「江戸川乱歩 美女シリーズ(第7話)/宝石の美女」●制作年:1978年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「白髪鬼」●時間:70 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/柏原貴/荒井注/金沢碧/田村高廣/小坂一也/奈美悦子/睦五郎/田島はるか/岡部正純/山本幸栄/羽生昭彦/山崎純資/沖秀一/託摩繁春(宅麻伸)/工藤和彦/加藤真琴/篠原靖夫●放送局:テレビ朝日●放送日:1979/01/06(評価:★★★☆)

    

     

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