【2929】 ○ 婁燁(ロウ・イエ) 「天安門、恋人たち」 (06年/中国・仏) (2008/07 タゲレオ出版) ★★★★

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(理想の)"愛"というものは存在せず、結婚も安定であっても"愛"ではないということか。

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天安門、恋人たち [DVD]」 郝蕾(ハオ・レイ)/郭暁冬(グオ・シャオドン)

 1987年、中国と北朝鮮国境の図們(トゥーメン)で父と暮らす余紅(ユー・ホン)(郝蕾(ハオ・レイ))は大学の合格通知を手にする。故郷を離れ、北京「北清大学」に進学する彼女は、恋人の暁軍(シャオ・ジュン)(崔林(ツイ・リン))との最後の夜に彼と初めて結ばれる。大学で寮生活を始めた余紅に、李緹(リー・ティ)(胡伶(フー・リン))という女友達ができ、彼女の年上の恋人・若古(ロー・グー)(張献民(チャン・シャンミン))から周偉(チョウ・ウェイ)(郭暁冬(グオ・シャオドン))という男子学生を紹介される。余紅は周偉と出会った瞬間、彼こそが探し求めていた理想の恋人だと感じ、二人は恋に落ちる。折しも学生たちの間に自由と民主化を求める嵐が吹き荒れる中で、二人は狂おしく愛し合うが、余紅は周偉にあまりに強く魅かれるあまり天安門、恋人たち2.jpg、いつか離れる日が来るのを恐れ、自ら別れを口にする。周偉は彼女の気持ちを理解できず、互いに求め合いながらも二人の心はすれ違う。学生たちの激しい抵抗活動の続くある夜、彼女を心配して北京にやって来た故郷の恋人・暁軍と共に余紅は大学から姿を消す。 一方、天安門事件後、軍事訓練に参加させられた周偉は、自由を求めて李緹、若古と一緒にベルリンへと移り住む。10年の月日が流れ、余紅は図們から深圳、武漢、重慶へと各地を転々としながら仕事や恋人を変えて生活している。既婚の男性と不倫をしたり、年下の恋人に求婚されても、胸の奥底では周偉を忘れられない。周偉もまた、外国暮らしの孤独の中、余紅のことを思い続ける。帰国した周偉は偶然に大学時代の友人に遭遇して余紅の居所を知り、北戴河に彼女に会いに行く―。

頤和園.jpgSummer Palace.jpg 婁燁(ロウ・イエ)監督による2006年の中国映画で、同年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作。原題の「頤和園(いわえん)」(英題 "Summer Palace"、仏題は "Une jeunesse chinoise"(中国の若者))は、清朝末に西太后の命で造られた人造湖のある庭園で、1998年にユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されていますが、北京大学や清華大学が近くにあり、学生のデートスポットでもあるよ天安門、恋人たちes.jpgうです。この映画でも、余紅(ユー・ホン)と周偉(チョウ・ウェイ)がこの公園でデートしますが、映画は次第にそうしたほんわかムードを通り越して、中国映画史上初と言われる全裸セックスシーンが何度も出てくるようになり、この映画が中国で上映禁止になっているのは、中国映画で初めて天安門事件を扱ったこともさることながら、その過剰とも言えるセックスシーンのせいもあるようです(政府当局から「技術的に問題がある」という理由で中国国内での上映禁止と監督の5年間の表現活動禁止という処分が言い渡されたが、「技術的に問題」と言っているとことがそれっぽい)。

郝蕾(ハオ・レイ)
郝蕾(ハオ・レイ).jpg天安門、恋人たち ハオレ2.jpg 主人公の余紅が恋人との性愛に溺れ(映画初主演の郝蕾(ハオ・レイ)はまさに体当たり演技だった)、さらにその後もニンフォマニアのように男性遍歴を重ねるのは、天安門事件(1987年)後の中国の閉塞的状況と無関係ではなく、むしろ深く関係していると思われます。但し、この映画では、政治的な部分はあくまでも背景として描かれているように思いました。李緹(リー・ティ)や若古(ロー・グー)といった主要登場人物も、政治より恋愛の方に熱心なタイプにとして描かれているし、周偉(チョウ・ウェイ)も、当局に追われているわけでもないのに、国を見放すかのように彼らにくっついてベルリンに行ったわけだし、「ベルリンの壁の崩壊」もたまたま「天安門事件」が同じ年の出来事だったので、映画の中で関連づけられているといった印象を持ちました。

「天安門、恋人たち」012.jpg 大学にいた頃からベルリン行きにかけて、この3人の関係が所謂"三角関係"化して複雑になりますが、自由恋愛主義の先駆的実践者と思われ「愛など共有すればいいじゃないの」と言っていた李緹(リー・ティ)がある日、ビルの屋上パーティの最中に何ら前兆無く投身自殺を遂げます。この自殺を単なる"謎"のままにしておくか、彼女の中で何かがバランスを欠いた結末と見るかは人それぞれだと思いますが、もしかしたら、彼女は(若古も周偉も手元に置いているわけだから)自分にとって一番いい時に自死したのかなあとも思いました。

「天安門、恋人たち」022.jpg この作品のテーマは、その李緹が独白で示唆しているように、愛の対象は、愛しているという自覚をもつその対象ではなく、その対象から受ける自らの心の傷の方であるということであり、それはある意味"自己愛"に過ぎず、したがって本来(理想の)"愛"というものは存在せず、その帰結として、「結婚」も「安定」であっても「愛」ではないということになるのかもしれません。実際、周偉が北戴河に会いに行った余紅は既に2年前に結婚していましたが、それが愛の無い結婚であることも示唆されています。と言って、二人が再会して愛が再燃するかというとそうはならないわけであり(ちょっと昔の日活の青春映画っぽいラストでもあった)、でも二人は互いに相手のことを10年間思い続けてきたわけで、そうなると、"理想の恋人"って一体何なのだろうと思ってしまいます。

149094_01.jpg天安門、恋人たち 女子寮.jpg 1989年の天安門事件が実写映像なども交え描かれていますが、むしろ個人的には、前半の「北清大学」(中国語版のQ&Aサイトに「北清大学在哪儿?」(北清大学はどこにある?)という問いがあって「在北京大学和清华大学之间」(北京大学と清華大学の間にある)という答えがあった(笑)。台湾版の字幕では「北京大學」になっている)の女子寮の様子などの、1987年当時の彼らの学生生活の描かれ方がシズル感があって良かったです(余紅の視点でみるとダンス、キス、寮内での秘密裏のセックス等々これも彼女の性遍歴の一環となっているのだが)。同監督の「ふたりの人魚」('00年)同様、ハンディカメラを駆使していると思われますが、「ふたりの人魚」の冒頭の上海市街の描写などとともに、この監督の才気を最も感じるパートでした。
       
天安門、恋人たち_002.jpg「天安門、恋人たち」●原題:頤和園((英)Summer PalaceUne、(仏)Une jeunesse chinoise)●制作年:2006年●制作国:中国・フランス●監督:婁燁(ロウ・イエ)●製作:耐安(ナイ・アン)/方励(ファン・リー)/シルヴァン・ブリュシュテイン●脚本:婁燁(ロウ・イエ)/梅峰(メイ・フグオ・シャオドンとハオ・レイ.jpgェン)/英力(イン・リー)●撮影:花清(ホァ・チン)●音楽:ペイマン・ヤズダニアン●時間:140分●出演:郝蕾(ハオ・レイ)/郭暁冬(グオ・シャオドン)/胡伶(フー・リン)/張献民(チャン・シャンミン)/崔林(ツゥイ・リン)/曾美慧孜(ツアン・メイホイツ)/白雪云(パイ・シューヨン)●日本公開:2008/07●配給:タゲレオ出版●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(20-03-03)(評価:★★★★)
郭暁冬(グオ・シャオドン)と郝蕾(ハオ・レイ)/2008年8月、中国本土上映禁止映画「天安門、恋人たち」を台湾でノーカット上映 (Record China)

天安門、恋人たち6.jpg

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