【2928】 ○ 婁燁(ロウ・イエ) 「ふたりの人魚」 (00年/中国・独・日本) (2001/04 アップリンク) ★★★★

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シズル感溢れる映像とミステリアスな展開。「物語になるに人間」と「物語を待つ人間」の違い。

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ふたりの人魚 [DVD]」['04年]賈宏声(ジア・ホンション)/周迅(ジョウ・シュン)[二役]
ふたりの人魚 [DVD]」['01年]
ふたりの人魚 2000.jpgふたりの人魚1.jpg 「俺」は、ビデオ出張撮を請け負うカメラマン。ある日、ナイトクラブに設けられた水槽の中を泳ぐ人魚を撮影する仕事が舞い込む。「俺」は人魚を演じる美美(メイメイ)(周迅(ジョウ・シュン))に一目惚れし、二人は付き合いはじめる。(話は過去に遡って―)馬達(マー・ダー)(賈宏声(ジア・ホンション))はバイクで何でも運ぶ運び屋。ある日、少女・牡丹(ムーダン)(周迅(ジョウ・シュン)二役)を運ぶ仕事が舞い込む。牡丹の父親は密輸酒で金を儲け、愛人がいる。牡丹の父親が愛人と密会する日、牡丹は馬達のバイクの後ろに跨り、叔母の家に届けられる。馬達に何度も送られて、牡丹は馬達を次第に好きになっていく。馬達のボス・老B(ラオB)(姚安濂(ヤオ・アンリェン))と馬達のかつての恋人の蕭紅(シャオホン)(耐安(ナイ・アン))は、馬達に、牡丹を誘拐して父親に身代金を払わせる計画に加担させようとする。当初は渋っていた馬達だが、遂には嫌々ながら牡丹を誘拐する。老Bと蕭紅が身代金を受け取った際に、老Bは蕭紅を殺害する。馬達は牡丹を家に送ろうとするが、牡丹はバイクを倒して駈け出し、馬達は後を追う。橋に辿り着いた牡丹は、蘇州河に飛び込み、馬達も河に飛び込むが牡丹は見つからない。馬達は逮捕され、刑務所送りになる。何年かして出所した馬達は、再び運び屋となり、牡丹を探す。ある日、馬達は美美に出会う。美美と牡丹はそっくりであり、馬達は美美が牡丹だと信じ込む―。

ふたりの人魚 vhs.jpg 2000年公開の婁燁(ロウ・イエ)監督の長編第3作(原題は「蘇州河))。婁燁監督は、賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督などと並ぶ第6世代監督の一人で、自身の出身地・上海を舞台にしたこの作品では、脚本も書いています(因みに、劇中で殺害される蕭紅(シャオホン)を演じた耐安(ナイ・アン)は製作者の一人)。この作品は、2000年・第29回「ロッテルダム国際映画祭」タイガー・アワード(最優秀作品賞)受賞作であり、2000年・第1回「東京フィルメック」の最優秀作品賞受賞作でもあります。

苏州河(ふたりの人魚).jpg 上海の裏町がシズル感溢れる映像で活写される中、ミステリアスな物語の展開で惹きつけ、独特の才気を感じました。物語はある種"入れ子"構造になっていて、「俺」が語る「馬達(マー・ダー)の物語」となっていますが、「俺」は"撮影者"として在り、自らの姿を見せず、それは、「俺」が馬達と出会ってからも(結局、最後まで)続きますが、この辺りも上手いと思いました。

 ラストシーンを観て、個人的には、「物語になる人間」(=馬達(マー・ダー)&牡丹(ムーダン))と「物語を待つ人間」、つまり自身が「物語になることはない人間」(=「俺」)との違いを描いた映画かなあと思いました。大方の人が「物語」になどなれないわけであって、だからこそ、馬達と牡丹が輝いて見えるのかもしれません。

ふたりの人魚2.jpgふたりの人魚 1.jpg 美美(メイメイ)・牡丹(ムーダン)の二役を演じた周迅(ジョウ・シュン)は、この作品で2000年・「パリ国際映画祭」最優秀主演女優賞を受賞し、その後も周迅(ジョウ・シュン).png戴思杰(ダイ・シージエ)監督の「小さな中国のお針子」('01年)などに出演、演技力が高く評価され、徐静中国の小さなお針子 dvd2.jpg小さな中国のお針子」 (02年/仏・中国).jpg周迅2.jpg蕾(シュー・ジンレイ)、趙薇(ヴィッキー・チャオ)、章子怡(チャン・ツィイー)と並ぶ四大名旦(中国四大女優)の一人として人気を博し、2014年に米国の中国系俳優アーチー・カオと結婚しています。
周迅(ジョウ・シュン)
                           賈宏声(ジア・ホンション)
Jia Hongsheng.jpg賈宏声(ジア・ホンシャン).jpg 一方の馬達(マー・ダー)を演じた賈宏声(ジア・ホンション)は、この作品に出演後、周迅と意気投合し、恋愛関係を持ったことも知られていますが(1年以上の交際を続けた後に二人は別れた)、2010年にビル14階から転落して43歳で死亡し、自殺とみられています(彼はこの作品に出る前も、90年代にアイドル俳優として活躍していたが、麻薬に手を染め芸能界を一時追放されたという過去がある)。

第20回「東京フィルメックス」ふたりの人魚.jpg 昨年['19年]11月の第20回「東京フィルメックス」で、歴代の最優秀作品賞受賞作の人気投票で上位に選ばれ、この作品が上映されることになったのに合わせ婁燁(ロウ・イエ)監督が来日し、公開インタビューに答えていますが、観客から「ロウ・イエ監督の作品は被写体にカメラが近く、主観性が強いと感じる」と意見が飛ぶと、ロウ・イエは「カメラは撮影のツールではなく"目"です。近い距離で撮ることによってエモーションが生み出せます」と述べ、「映画は人を騙せません。カメラマンの思い、俳優たちの思いを撮影によって表現することにより、真実の映画を撮ることができると思います」「ほかの撮影方法で撮ろうと思ったこともありますが、僕が好きなのはドキュメンタリータッチで撮るということなんです」と語っています。

 また、馬達(マー・ダー)を演じたジア・ホンションとの思い出を聞かれ、「彼はこの作品に出演する前、しばらく役者業から遠ざかっていました。精神状態が悪く病院にいたんです」と回想し、「しかし撮影に入ると以前の雰囲気が戻ってきました。僕が表現したいことを十分に表現してくれたんです。彼の目はとても素晴らしい」と絶賛、「すでに亡くなった彼をこのようにスクリーンで観られることは、ファンにとって慰めになると思います」と述べています。惜しい俳優を亡くしたものだと思います。

ふたりの人魚ges.jpgふたりの人魚ド.jpg「ふたりの人魚」●原題:蘇州河(英:Suzhou River)●制作年:2000年●制作国:中国・ドイツ・日本●監督・脚本:婁燁(ロウ・イエ)●製作:フィリップ・ボバー/耐安(ナイ・アン)●撮影:王昱(ワン・ユー)●時間:83分●出演:周迅(ジョウ・シュン)/賈宏声(ジア・ホンション)/姚安濂(ヤオ・アンリェン)/耐安(ナイ・アン)●日本公開:2001/04●配給:アップリンク●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(20-02-14)(評価:★★★★)

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