【2930】 ○ 婁燁(ロウ・イエ) 「スプリング・フィーバー」 (09年/香港・中国・仏) (2010/11 アップリンク) ★★★☆

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ゲイ・バーの様子などにシズル感と鬱屈感。中華系監督の撮るゲイ・ムービーの系譜。

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スプリング・フィーバー [DVD]
プリング・フィーバー1.jpg 南京の女教師・林雪(リン・シュエ)(江佳奇(ジャン・ジャーチー))は、夫・王平(ワン・ピン)(呉偉(ウー・ウェイ))の浮気を疑い、羅海濤(ルオ・ハイタオ)(陳思成(チェン・スーチェン))に探偵を依頼、羅が王を尾けると、相手は江城(ジャン・チョン)(秦昊(チン・ハオ))という青年で、2人の仲睦まじい証拠写真を見せられ林雪は絶句する。王は妻・林雪に江を"友達"として紹介するが、江は自分を見る林雪の目に不安を覚える。妻の携帯に件の証拠写真を見つけた王は「尾行したのか」と怒鳴り、林雪も「変態!」と叫んで修羅場に。更に林雪は江が勤める旅行代理店に乗り込み、社員らの前で騒ぐ。江は会社を飛び出し馴染みのゲイバーのステージで女装して歌うが、尾行しているうちに江に惹かれた羅がそれを見ていた。羅は客とトラブルになった江を助けて逃げ、ホテルで一夜を過ごす。羅には李静(リー・ジン)(譚卓(タン・チュオ))というコピー商品の洋服の縫製工場に勤める恋人がいたが、工場に警察の立ち入り調査が入り、彼女は不倫関係にあった工場長(張頌文(チャン・ソンウェン))から裏金を持って逃げるよう指示される。李静は羅に電話し、羅は江のアパスプリング・フィーバー669.jpgートに李静と2人で泊めて貰う。李静が帰った後、江と羅は喧嘩しては仲直りを繰り返す。工場長は不正がばれて逮捕され、李静は取引先の男にキスをして「警察に働きかけて彼を助けて」と懇願する。一方、王は江に連絡を取るが拒絶され、妻・林雪とは別居状態で、絶望し自殺する。王の死を知った羅が江を探すと、江はゲイ・バーのトイレで女装姿のまま泣いていた。会社を辞めた江は、羅と一緒に車で小旅行に出かけることに。李静は保釈される工場長を迎えに行くが、既に心は離れていて、工場スプリング・フィーバー5.jpg長を残して立ち去り、羅に「会いたい」と電話する。江と出発するところだった羅は、彼女も旅行に誘い、3人は車を走らせ、ホテルの一室に泊まる。買い物から戻った李静は江と羅がキスしているのを見るが、見なかったふりする。夜中に李静がカラオケルームで独り涙を流しながら歌っていると、江がやって来る。江が李静の手を握ると、彼女は「彼ともこうして手を?」と聞く。そこへ羅も来て、同じ歌を歌う。翌日3人はプールではしゃぐが、雨が降り出スプリング・フィーバー 9.jpgし、いつしか3人とも黙り込む。帰宅途中で店に寄った男2人が車に戻ると、李静は姿を消していた。羅が「君について来るんじゃなかった。李静は尚更...」と言うと、「じゃあ、行けばいい」と江は突き放し、羅は泣きながら去る。南京へ帰った江は、道で林雪に襲われる。林は妊娠していた。江は彼女に剃刀で首を切られて血まみれで倒れるが、道行く人は無関心に通り去る。病院に搬送され治療を受けた江は、退院後首の傷の上にタトゥーを入れる。アパートに帰ると若い男が待っていた。彼と抱き合う江の脳裏に、自殺した王がかつて朗読した郁達夫「春風沈酔の夜」の一節が浮かんでいた―。

スプリング・フィーバー ロウ・イエ.jpg 婁燁(ロウ・イエ)監督による2010年の中国映画で、「天安門、恋人たち」('06年)で中国当局から5年間の映画製作禁止処分を受けた監督が、その通告を無視して家庭用ハンディカメラでゲリラ的に撮り上げ、カンヌ映画祭で脚本賞を受賞した作品です。原題の「春風沉醉的晚上」は、中国で高校の国語の教材にもなっている中国の小説家・詩人の郁達夫(いく・たっぷ、1896-1945)の代表作で、郁達夫は蘇州出身、日本に留学後、上海・北京・広東など中国各地や香港、シンガポール、スマトラなどに移り住んでいたといいいます。この「春風沉醉的晚上」の一部が映画の中で繰り返し引用されており、映画のモチーフにもなっています。

スプリング・フィーバー春风沉醉的夜晚.jpg 婁燁監督はインタビューで、「パーソナルなもの、日常の中にあるものを描いた。何かを強く求めようとすれば失うものも大きい」と語っていますが、郁達夫は中国最初の私小説作家と言われており、その辺りも繋がりがあるのかも。そう言えば、同監督の「天安門、恋人たち」も、邦題が示すように天安門事件を背景にしながら、基本的に4人緒の男女の青春と恋愛を描いたものでした。ただし、天安門事件が彼らの運命に色濃く影を落としているのは間違いなく(最も端的なのはニンフォマニアのように男性遍歴を重ねる女性主人公)、すると、5人の男女の人間模様を描いたこの「スプリング・フィーバー」についても、「天安門、恋人たち」ほどポリティカルには見えないものの、彼らの極私的状況における閉塞感は、中国の国家としての圧力が影を落としているのかもしれません。ゲイ・バーの様子などにシズル感はこの監督ならではのものであると共に、中国の若者の鬱屈感のようなものが反映されているように思いました(最も端的なのは他人を傷つけてしまってばかりいて最後は自分も傷つける女装嗜好の男性主人公の江(ジャン)か)。

 もう一つの特徴は、5人の軸となる主人公をゲイとして描いていることで、この男がなぜか魅力があるようで、他の男を惹きつけ、結局、二組の男女の関係を破局させてしまうことになっている点かと思います。二つ目の、江・羅・李静(ジャン、ルオ、リー・ジン)の三角関係は、何だかフランソワ・トリュフォーの「突然炎のごとく」('62年)を想起しなくもなかったですが(「天安門、恋人たち」にも同じような関係が出てくる)、「スプリング・フィーバー」の場合はゲイの要素を含んでいることで、むしろ、アン・リー(李安)監督の「ブロークバック・マウンテン」('05年)に近いかも。そう思うと、中華系監督の撮る映画にも、陳凱歌(チェン・カイコー)監督の「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年)から始まって、ウォン・カーウァイ(王家衛)監督の「ブエノスアイレス」('97年)など経てその後も続々と連なるゲイ・ムービーの系譜があることが思い浮かばれ、この作品もその1つと言えるでのしょう。

秦昊(チン・ハオ)[江(ジャン)]/陳思成(チェン・スーチェン)[羅(ルオ)]
チン・ハオさんとチェン・スーチョン.jpg 個人的には、江(ジャン)が〈ゲイ仲間のスター〉と言われるほどに魅力的にも見えないもかかわらず、探偵役だったはずの羅(ルオ)が、あっさり彼に魅入られてしまうのが、ややついて行けなかったでしょうか。江はラストでも〈男〉には困っていないんだなあ。待っていた男が女装したけれど、江にも女装嗜好があってややこしい(江は"男役"kか)。まあ、そんなことはともかく、そんなにモテるならそれなりにイケメン俳優でああって欲しかった気がします(映画って、そんなところで引っ掛かったりする)。まあ、これは好みの問題で、見る人が見れば江も羅もイケメンなのかもしれませんが。

ジャンを演じたチン・ハオ.jpgルオ役のチェン・スーチョン.jpg「スプリング・フィーバー」●原題:春風沉醉的晚上(英:Spring Fever)●制作年:2009年●制作国:香港・中国・フランス●監督:婁燁(ロウ・イエ)●製作:耐安(ナイ・アン)/シルヴァン・ブリュシュテイン●脚本:梅峰(メイ・フォン))●撮影:曹剣(ツアン・チアン)●音楽:ペイマン・ヤズダニアン●時間:115分●出演:秦昊(チン・ハオ)/陳思成(チェン・スーチェン)/譚卓(タン・チュオ)/呉偉(ウー・ウェイ)/江佳奇(ジャン・ジャーチー)/張頌文(チャン・ソンウェン)●日本公開:2010/11●配給:アップリンク●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(20-03-11)(評価:★★★☆)

        


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和田泰明

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