【2904】 ◎ A・J・フィン (池田真紀子:訳) 『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ (上・下)』 (2018/09 早川書房) ★★★★☆ (○ アルフレッド・ヒッチコック(原作:ウィリアム・アイリッシュ) 「裏窓」 (54年/米) (1955/01 パラマウント映画) ★★★★)

「●海外サスペンス・読み物」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【678】 ダン・ブラウン 『ダ・ヴィンチ・コード 
「○海外サスペンス・読み物 【発表・刊行順】」の インデックッスへ 「●アルフレッド・ヒッチコック監督作品」の インデックッスへ Prev 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

面白かった。ミステリと言うよりサスペンス、サスペンスと言うよりホラー。
ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ 上.jpg ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ下.jpg  ヒッチコック「裏窓」1954.jpg 裏窓o2.jpg
ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ 上』『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ 下』 アルフレッド・ヒッチコック「裏窓」

ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ.jpg 神分析医のアナ・フォックスは、夫と娘と生活を別にして、ニューヨークの高級住宅街の屋敷に10カ月も一人こもって暮らしていた。広場恐怖症のせいで、そこから一歩たりとも出られないのだ。彼女の慰めは古い映画とアルコール、そして隣近所を覗き見ること。ある時、アナは新しく越してきた隣家で女が刺される現場を目撃する。だが彼女の言葉を信じるものはいない。事件は本当に起こったのか―。

 家の扉を閉ざし、社会から疎外された人間として生き、その慰めはワインとニコンD5500を使った覗き行為。不動産譲渡証書をネットで漁り、近所に越してきた新しい住人たちの出自をネットで調べる、言わば遠隔ストーカーである主人公。こんな主人公に感情移入できるかなと最初は思いましたが、巧みな筆致であるため、しっかりハマりました。

 解説によれば、作者自身もアナのように広場恐怖症とうつ病に長い間苦しめられ、2015年にはうつ病が再発し、家から出ることさえも出来なかったそうで、そんな辛い時期に思いついたのが本書のアイデアであったとのこと。編集者としての仕事を続けながら書き上げ、2018年1月に発表されたこの作者のデビュー長編は、ニューヨーク・タイムズ・ベストセラーリスト初登場1位の快挙を成し遂げ、その後も29週にわたりランクインしたそうです。やはり、切迫感のある描写は、それだけの苦労の賜物なのかもしれません。

ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ eiga.jpg 最後の畳み掛けるような、且つ意外な展開も良く、素直に「面白かった」と言える作品でした。ミステリと言うよりサスペンス、サスペンスと言うよりホラーでした。

 2019年に映画化され(2020年公開予定)、主人公アナを演じたのは「ザ・ファイター」('10年)や「アメリカン・ハッスル」('13年)の女優エイミー・アダムス。ゲイリー・オールドマンやジュリアン・ムーアなども出演しているようです。

Amy Adams in "The Woman in the Window"
  
ヒッチコック「裏窓」ド.jpg 主人公が古い映画を観るのが趣味で、多くの映画作品が作中に登場するのが、また楽しいです。とりわけアルフレッド・ヒッチコック作品が多く、この作品そのものがヒッチコック作品へのオマージュともとれますが、やっぱりストレートに「あれ、これってあの映画と同じかも」と言えるのが、ヒッチコック「裏窓」('54年/米)ではないかと思います。
Uramado (1954)
裏窓01.jpg 「裏窓」も、実際に殺人事件はあったのだろうかということがプロセスにおいて大きな謎になっていて、映画の中で実際には殺人が起こっていないのではないか、という仮説をもとにして論証を試みた、加藤幹郎著『ヒッチコック「裏窓」ミステリの映画学』('05年/みすず書房)という本もあったりします(加藤幹郎氏の主眼は「裏窓」そのものの読解ではなく、そこから見えてくるヒッチコック映画の計算された刷新性を見抜くことにあるかと思われるが、「裏窓」における事件が無かったとすることについては無理があるように思う)。

映画術 フランソワ トリュフォー.jpg ヒッチコックは、『映画術―ヒッチコック・トリュフォー』('81年/晶文社)でのインタビューの中で、「わたしにとっては、ミステリーはサスペンスであることはめったにない。たとえば、謎解きにはサスペンスなどはまったくない。一種の知的なパズル・ゲームにすぎない。謎解きはある種の好奇心を強く誘発するが、そこにはエモーションが欠けている」と述べており(p60)、「観客はつねに、危険にされされた人物の方に同化しておそれをいだくものなんだよ。もちろん、その人物が好ましく魅力的な人物ならば、観客のエモーションはいっそう大きくなる。「裏窓」のグレース・ケーリーがその例だ」と述べています。

ヒッチコック「裏窓」4.jpg 「裏窓」は公開当時、ジェームズ・ステュアート演じる主人公の〈のぞき〉の悪趣味ぶりを攻撃されましたが、「これこそが映画じゃないか。のぞきがいかに悪趣味だって言われようと、そんな道徳観念よりもわたしの映画への愛のほうがずっと強いんだよ」(同書P20)と答えています。ある批評家が、「『裏窓』はおぞましい映画だ、のぞき専門の男の話だ」と「吐き捨てるように書いた」のに対しても、「そんなにおぞましいものかね。たしかに、『裏窓』の主人公はのぞき屋(スヌーパー)だ。しかし、人間である以上、わたしたちはみんなのぞき屋ではないだろうか」と述べています(同署p218-219)。

 この『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』で言えば、先に書いたように(さらにヒッチコック流に言えば)、単なるサスペンスではなく、エモーショナルな部分が加わって(ホラー小説としても)成功しているように思いました。この成功のベースには、読者が主人公のアナにどれだけ感情移入できるかということにあるかと思いますが、元々作者にそうした闘病経験があったうえに、(ヒッチコックの示唆に則れば)主人公をのぞき屋(スヌーパー)にしたことで、すでに半分は成功が約束されていたのかもしれないと思った次第です。

「裏窓」DVD/Blu-ray
裏窓 dvd.jpg裏窓 br.jpg「裏窓」●原題:REAR WINDOW●制作年:1954年●制作国:アメリカ●監督・製作:アルフレッド・ヒッチコック●脚本:ジョン・マイケル・ヘイズ●撮影:ロバート・バークス●音楽:フランツ・ワックスマン●原作:ウィリアム・アイリッシュ「裏窓」●時間:112分●出演:ジェームズ・スチュアート/グレース・ケリー/レイモンド・バー/セルマ・リッター/ウェンデル・コーリイ●日本公開:1955/01●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:新宿文化シネマ2(84-02-19)(評価:★★★★)

         [Prime Video]




ブログランキング・にほんブログ村へ banner_04.gif e_03.gif



和田泰明

About this Entry

Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1