【2900】 ○ 辻 惟雄 『若冲 (2015/10 講談社学術文庫) ★★★★ (○ 澁澤 龍彦 他 『若冲 (2016/11 河出術文庫) ★★★☆)

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1,500円という価格はお得感がある講談社学術文庫版。参考書的にも使える。
若冲  講談社学術文庫.png 辻 惟雄.jpg  若冲  河出文庫.jpg 「ライジング若冲 天才 かく覚醒せり」.jpg
若冲 (講談社学術文庫)』['15年]辻 惟雄 氏/『若冲 (河出文庫)』['16年] NHKドラマ「ライジング若冲 天才 かく覚醒せり」中村七之助(伊藤若冲)/永山瑛太(大典顕常)['21年]
I若冲.jpg 伊藤若冲(いとう・じゃくちゅう、1917-1800)研究の第一人者で、日本美術史への多大な貢献により2016年度「朝日賞」を受賞している辻 惟雄(のぶお)氏による講談社学術文庫版『若冲』は、1974(昭和49)年に美術出版社から発売された『若冲』の文庫版で、原本は若冲の《動植綵絵》全30幅を原色版で最初に載せた大型本でしたが、若冲を知る人がまだ少なかった当時、出版は時期尚早で、発行部数も僅かであったところ、普及版として講談社学術文庫版より刊行され、40年以上を経て再び陽の目を見ることとなったものです。

 原本はカラー図版57図、モノクロ31図を載せた後、Ⅰ伝記と画歴、Ⅱ若冲画小論、Ⅲ印譜解説、Ⅳ若冲流について、の4章から成る本文が続き、それに図版解説、史料、文献、年譜が付いていますが、この文庫版でも、カラー図版、モノクロ図版ともにほとんど原本通りに採録されているとのことなので、原本の迫力には及ばないものの(原本は現在入手困難な稀覯本となっている)、文庫本としては豪華であり、1,500円という価格はお得感があります。

 《動植綵絵》全30幅をはじめ有名作品を網羅した図版数は150点以上となり、しかも文庫本で新たに増補されたものもあったりして、その代表格が、巻頭の口絵《動植綵絵》全30幅の前にある《象と鯨図屏風》で、何とこれがゾウとクジラが互いの大きさを誇示し合っているような画です。これが三つ折りの見開きで6ページ分使っていて、文庫の制約を超えんばかりの迫力です(若冲ってニワトリばかり描いていたわけではないのだ)。
象と鯨図屏風1.jpg 象と鯨図屏風2.jpg

Equncm4UYAAaKzV.jpg おおよそ全350ページのうち、青物問屋の若旦那から転じて画家になった若冲の生涯を画歴と併せて辿った第Ⅰ部までが本書の半分170ページ分を占め、第Ⅳ部まで230ページ、あとの100ページは収録図版の解説となっていますが、個人的な読みどころはやはり第Ⅰ部で、相国寺の僧・大典顕常が若冲の才覚を理解し庇護したことということが強く印象に残りました。

 図録としては、文庫サイズなのでやや迫力を欠きますが、《動植綵絵》全30幅をオールカラーで載せているだけでも貴重と言えます。稀覯本の文庫化だからこそとも言え、最初から文庫だったらこうはならなかったかもしれません。

河出文庫版『若冲』.jpg 河出文庫版『若冲』の方は、伊藤若冲の生誕300年を記念して出版されたもので、若冲について様々な分野の人が書いた文章が17編(16人)収められており、最初の辻惟雄氏のものなど2編は、"若冲専門家"による水先案内のような役割を果たしていまうsが、あとは、哲学者の梅原猛、フランス文学者の澁澤龍彦、作家の安岡章太郎、比較文学者の芳賀徹...etc.その分野は多岐にわたります。

 一人につき、長いもので20ページ弱、短いものだと3ページとコンパクトで、作家の安岡章太郎が若冲について書かれたものはもともと非常に少ないらしいとして代表的な研究者の論考を挙げていますが、本書では、研究者に限定しないものの、よくこれだけ若冲について書かれたものを探し当てたなあという気もします。

安岡 章太郎.jpg その安岡章太郎の文章「物について―日本的美の再発見」も13ページとこれらの中でも長い方ですが、坂崎乙郎の「伊藤若冲」は18ページほどあり、若冲をシュルレアリストと位置付けているのが興味深かったです。結局みんな自分の得意分野に引き付けて論考しているということなのかもしれませんが、それはそれでいいのではないでしょうか。

 安岡章太郎は、《動植綵絵》などは時代を超えて屹立し続ける傑作としながらも、展覧会では「虎図」に目を奪われたとし(これ、講談社学術文庫版の表紙になっている)、また、若冲の膨大な作品の中では晩年の「蝦蟇・鉄拐図」に最も感銘を受けたとしています。

 このように、どの人がどの作品をどう評価しているか、どう気に入っているかというのも本書を読む上で興味深い点になりますが、この河出文庫版は図録が無いので、それが難点。そこで、講談社学術文庫版『若冲』を手元に置いて読むといいかなとも思います。

 「虎図」はともかく、「蝦蟇・鉄拐図」あたりになるとフツーの若冲の画集本には載っていなかったりしますが、講談社学術文庫版『若冲』にはしっかり掲載されています。講談社学術文庫版は、参考書的使い方もできるということかもしれません。

《読書MEMO》
●2021年NHKでドラマ化(全1話「ライジング若冲 天才 かく覚醒せり」)。
ライジング若冲 天才 かく覚醒せり3.jpg伊藤若冲の実像を、その才能を目覚めさせた僧侶・大典顕常をはじめとする若冲を取り巻く芸術意識の高い京の人々との交流、代表作《動植綵絵》の誕生秘話を交えてドラマ。時代考証担当は大石学氏だが、辻惟雄氏の本と符合する部分が多かった。中村七之助(伊藤若冲)と永山瑛太(大典顕常)のダブル主演で、そのほかに、中川大志(円山応挙)、池大雅(池大雅)、門脇麦(池玉瀾)、 石橋蓮司(売茶翁)。大典顕常が伊藤若冲を支援し続けたのは史実。売茶翁が81歳の時に売茶業を廃業し、愛用ライジング若冲1.jpgの茶道具を「私の死後、世間の俗物の手に渡り辱められたら、お前たちは私を恨むだろう。だから火葬にしてやろう」と焼却したのも事実のようだ。伊藤若冲、円山応挙、池大雅は在京都同時代の画家でライジング若冲2.jpgあるには違いないが、ドラマでは同世代のライバルのように描かれている。実際には、伊藤若冲は1716生まれ、池大雅は1723年生まれ、円山応挙は1733年生まれで、少しずつ年齢が離れている。これに対し、大典顕常は1719年生まれで実年齢で若冲に近い(ドラマでは若い二人の関係がボーイズラブを示唆するような描かれ方になっていた。BWブームに便乗したか)。池大雅の妻・玉蘭も画家だったことを今回初めて知った。

「ライジング若冲 天才 かく覚醒せり」●作・演出:源孝志●出演:中村七之助/永山瑛太/中川大志/大東駿介/門脇麦/渡辺大/市川猿弥/木村祐一/加藤虎ノ介/永島敏行/石橋蓮司●放映:2021/1/2(全1回)●放送局:NHK

中村七之助(伊藤若冲(1716-1800)/84歳没)/永山瑛太(大典顕常(1719-1801/82歳没))
ライジング若冲 若冲・大典.jpg
中川大志(円山応挙(1733-1795/62歳没))/大東駿介(池大雅(1723-1776/52歳没))
ライジング若冲 応挙・大雅.jpg
石橋蓮司(売茶翁[若冲:画](1675-1763/88歳没))/門脇麦(池玉瀾(1727-1784/57歳没))
ライジング若冲 売茶翁・玉蘭.jpg

   若冲 (1974年).jpg  



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