【2884】 ○ 岩田 一男 『英語に強くなる本―教室では学べない秘法の公開』 (1961/08 カッパ・ブックス)《(2014/12 ちくま文庫)》 ★★★★ (○ 『英単語クロスワード―綴りと意味を、正確に覚える本』 (1968/06 カッパ・ブックス) ★★★☆)

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教養書と実用書の両方の要素を備えている『英語に強くなる本』。

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英語に強くなる本―教室では学べない秘法の公開 (カッパ・ブックス)』['61年](カバーデザイン:田中一光/表紙・本文イラスト:真鍋 博)/『英単語クロスワード―綴りと意味を、正確に覚える本 (カッパ・ブックス)』['68年](カバーデザイン:田中一光/推薦文:城山三郎)/岩田 一男(1910-1977)
英語に強くなる本68.JPG 『英語に強くなる本』は1961年刊行で、発売時わずか3カ月で100万部を突破し、最終的に147万部を売り上げ、その年のベストセラーで第1位となっています。個人的には本書に関しては"遅れてきた世代"であったため、改訂新版で読みましたが、手元にあるものは、昭和45年刊行時点で初版から数えて305版となっています。

 まず第1章で、日本人はなぜ英語ができないのかという問題提起をしており、日本人に共通の誤りとして、①基礎的英語の不足、②むずかしいことを言おうとする、③日本語で英語を考える、④やさしい英語を使いこなせない、⑤日英の発想法の違いがのみこめていない、の5つを挙げ、生きた英語を使えるようになるためのポンインを示しています。基本ルールは、英語で考えるようになるのが理想的で、やさしい英語をとにかく使ってみること、直訳を避けることであるとしています。

英語に強くなる本66.JPG 以下、第2章から第10章にかけて、日本人はなぜ発音に弱いのか、単語はどう覚えるのが科学的か、やさしい言葉で話すにはどうすればよいか、生きている英語・死んでいる英語とは何か、学校で教えてくれない英語のルール、英語を話すコツ、英語を読む秘訣、英語の底に流れるもの、そして最後に、外国に行く法と続きます。

 日本人が陥りがちな暗記や直訳など小手先のテクニックにとらわれることなく、英語という言語の本質に迫りながら多彩な例文を多数用いて分かりやすく解説しており、教養書と実用書の両方の要素を備えているように思いました。受験生というより、ある程度のレベルの英語の学習経験・習得があり、また、英語を使う必要に迫られているビジネスパーソン向けという感じでしょうか。

 高度経済成長期の、東京でのアジア初のオリンピック開催の3年前に刊行されて、日本人ビジネスマンもこれからは英語が話せ、海外で活躍できるようにならなければならないという気運の中での刊行であったことがベストセラーになった要因としてあるかもしれませんが(最終章が「外国に行く方法」となっていることに時代を感じる)、内容的には結構学術的な面もあって、それを著者の技量でかみ砕いて書いているわけで、当時のビジネスパーソンって勉強熱心だったのだろうとも思います。

 章の内容の流れから分かるようように、基本的に「会話」から入っていきます。サブタイトルに「教室では学べない」とありますが、学校教育でも応用可能と思われる部分はあります。但し、現実の学校の英語教育カリキュラムが「会話」ではなく「文法」重視でずっときているし、結局、その流れは、本書刊行後半世紀の間、部分的には変わっても(自分のいた高校は英語に強いのがウリで「LL教室」があったが)、全体としてはどれほど文法偏重から抜け出たか疑問です。ここに来て、大学入試センター試験が来年度[2021年1月]から大学入学共通テストに移行し、英語でリスニングの配点比率が現行の2.5倍になるとのことですが、(個人的には英語教育の改革を追っかけているわけではないが)グローバル化の流れの中で、今までの「文法」重視のツケである実用面での遅れを、慌てて取り戻そうとしている印象も受けます。

 そうした意味では、本書は今読んでも(ある意味皮肉なことかもしれないが)十分に示唆的であり、教養書と実用書の両方の要素を兼ね備えたその性質は、取り上げているトピック面でところどころ昭和の懐かしさを感じる部分はあるものの、読者に伝えるべく内容という面ではそれほど経年劣化していないように思います(実際、2014年にちくま文庫で文庫化されている)。

英単語クロスワード7.JPG読書術 加藤周一.jpg 本書では、「発音」の次に「単語」を取り上げていますが、外国語の習得において「単語」の知識が重要なのは、先に取り上げた加藤周一の『読書術』('62年/カッパ・ブックス)にもありました。その意味で、同じ著者による『英単語クロスワード』は、楽しみながら英単語を覚えられるスグレモノです。

 英単語クロスワードは、80年代終わり頃にブームがあり、近年また、"脳トレ"の流れで"ナンクロ"風のものなどが出てきてブームが復活するのかどうかといったところですが、最初のブームのさらに20年前に『英単語クロスワード』という本を出しているというのは、ある意味スゴイことかもしれません(しかも、今でも十分楽しみながら使える)。著者は一橋大学の教授であったため、同大学で著者の英語の授業を受けた作家の城山三郎が、裏表紙の推薦文を書いています。

英語に強くなる本 ちくま文庫.jpg岩田 一男 『英単語記憶術5.JPG

英語に強くなる本: 教室では学べない秘法の公開 (ちくま文庫)』['14年]


『英語に強くなる本』...【2014年文庫化[ちくま文庫]】

【読書MEMO】
●1961年(昭和36年)ベストセラー
1.英語に強くなる本』岩田一男(●光文社カッパ・ブックス)
2.『記憶術』南 博(●光文社カッパ・ブックス)
3.『性生活の知恵』謝 国権(池田書店)
4.『頭のよくなる本』林 髞(●光文社カッパ・ブックス)
5.『砂の器』松本清張(■光文社カッパ・ノベルズ)
6.『影の地帯』松本清張(●光文社カッパ・ノベルズ)
7.『何でも見てやろう』小田 実(河出書房新社)
8.『日本経済入門』長洲一二(●光文社カッパ・ブックス)
9.『日本の会社』坂本藤良(●光文社カッパ・ブックス)
10.『虚名の鎖』水上 勉(■光文社カッパ・ノベルズ)

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