【2880】 ◎ 草下 英明 『仮説宇宙人99の謎―宇宙は生命にあふれている』 (1978/04 サンポウ・ブックス) ★★★★☆

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科学的見地から地球外生命の可能性を考察。先人たちが宇宙人についてどう考えたかが詳しい。
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仮説宇宙人99の謎―宇宙は生命にあふれている (1978年) (サンポウ・ブックス)』 草下 英明 in「四つの目」)

仮説宇宙人99の謎_5443.JPG 本書の著者・草下英明(1924-1991)は誠文堂新光社など出版社勤務を経て独立した科学解説者、科学ジャーナリストで、「現代教養文庫」の宇宙科学関係のラインアップに、『星座の楽しみ』('67年)、『星座手帖』('69年、写真:藤井旭)、『星の百科』('71年)、『星の神話伝説集』('82年)などこの人の著書が多くありました( 保育社の「カラーブックス」の中にもあった)。その中でも、『星座の楽しみ』『星座手帖』『星の神話伝説集』は2000年に再版され、版元の社会思想社の倒産後は、2004年に文元社から「教養ワイドコレクション」としてオン・デマンド出版されています(版元が倒産しても本が出るのは内容がしっかりしているからということか)。

四つの目1.jpg また、「四つの目」という、NHKで1966(昭和41)年から1972(昭和47)年まで放送された小学生向けの科学をテーマにした番組の解説も務めていたので"視覚的"にも馴染みのある人です。「四つの目」とは、通常の撮影による「肉眼の目」、高速・微速度撮影による「時間の目」、顕微鏡・望遠鏡などによる「拡大の目」ウルトラアイ NHK.jpgガッテン!.jpg、Ⅹ線撮影による「透視の目」を意味し、物事を様々な「目」で科学的に分析するというもので、この番組スタイルは、後番組の「レンズはさぐる」('72年~'78年)を経て(草下英明はこの番組にも出ていた)、より生活に密着したテーマを扱う「ウルトラアイ」('78年~'86年)、「トライ&トライ」('86年~'91年)へと受け継がれ(共に司会は局アナの山川静夫)、「ためしてガッテン」('95年~'16年)や現在の「ガッテン!」('16年~)はその系譜になります。

 ということで、本書はトンデモ科学本などではなく、極めて真面目に、宇宙人の可能性について解説した本です。まえがきでUFOの存在をはっきり否定し、自身が遭遇したUFOと間違えそうな4つの経験を挙げ、すべてその正体を明かすなどして、UFO=宇宙人という考えの非科学性を説いています。その上で、科学的見地から地球外生命の可能性を考察しています。ただし、著者はSFにも詳しこともあり、地球外生命について先人たちはどのように考え、イメージを膨らませてきたかなどについても紹介していて、そのため堅苦しささは無く、楽しく読めるものとなっています。

 本書は全8章から成り、その章立ては、
  第1章「想像の宇宙人―人類はなにを夢見たか」、
  第2章「宇宙と生命―なにが宇宙人なのか」、
  第3章「地球と生命―環境はなにを決定するか」、
  第4章「惑星と生命―太陽系内生命の可能性を推理する」、
  第5章「恒星と生命―きらめく星の彼方になにがあるか」、
  第6章「宇宙人逮捕―宇宙人とどう交信するか」、
  第7章「宇宙と文明―ホモ・サピエンスはどこまで進化するか」、
  第8章「夢の宇宙人―どこまで宇宙人にせまれるか」、
 となっていて、その中に99の問いが設けられていますが、1つの章の中で各問いに連続性があるため、読みやすく、また理解しやすいです。

 特に先人たちが宇宙人についてどう考えたかが詳しく、第1章では、シラノ・ド・ベルジュラックの『月両世界旅行記』(1649)、ジュール・ベルヌの『地球から月へ』(1865)、H・G・ウェルズの『月世界の最初の人間』、コンスタンチン・ツィオルコフスキーの『月の上で』などにおいて作者が生み出した宇宙人が紹介されており(ツィオルコフスキーは「宇宙飛行の父」と呼ばれる学者であるともにSF作家でもある)、第8章では、ロバート・ハインラインの『人形使い』('51年発表)やハル・クレメントの『重力の使命』('54年発表)、アイザック・アシモフの『もの言う石』、ジヤック・フィニイの『盗まれた街』などに出てくる宇宙人が紹介されていて、更には、フレッド・ホイルの『暗黒星雲』にあらわれる星雲生命やClose Encounters.jpg、アルフレッド・E・バン・ボクトの『宇宙船ビーグル号の航海(航海)』('50年発表)の超生命なども紹介されています。また最後の〈問99〉「未知の宇宙人との遭遇は、どうなされるか」では、著者が本書を書き終えようとしていた頃に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の「未知との遭遇」('77年)にも言及しています(高く評価している)。
「未知との遭遇」('77年)

 尤も、本論は第2章から第7章の間にあるわけで、宇宙人とは何かという定義から始まって、太陽系内の惑星を1つずつ生命が住めるか検証し、さらにそれを恒星宇宙に広げていき、さらに宇宙人との交信方法や人類の未来について考察していますが、その中においても、先人たちはどう考えたのが随所に紹介されていて、興味を持って読めます。地球外生命論については、立花隆、佐藤勝彦ほか著の『地球外生命 9の論点―存在可能性を最新研究から考える』('12年/講談社ブルーバックス)などもありますが、本書が"経年劣化"しているとはまだ言えず、単著で纏まりがあるという点で、本書は自分の好みです。

 因みに、〈問1〉「世界で最初に宇宙人を想像したのはだれか」によると、世界で一番古い宇宙旅行小説(SFの元祖)は、紀元前二世紀頃にギリシャのルキアノスが "イカロスの翼"伝説に触発されてメニッポスという実在の哲学者を主人公にして書いた『イカロメニッポス』というものだそうで、そのあらすじがまた面白かったです。

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This page contains a single entry by wada published on 2020年4月29日 23:39.

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